企画者ノ彼女アジア・オセアニア

種類 ショート
担当 冬斗
芸能 1Lv以上
獣人 1Lv以上
難度 難しい
報酬 1.3万円
参加人数 8人
サポート 0人
期間 09/07〜09/11

●本文

「正義の味方はいるんだもん!」
 それが彼女の口癖だった。


「申し訳ない。完全な私のミスです‥‥!」
 眼鏡の青年はコスチューム専門店『コスメイト』広報主任天爪竜斗(あまつめ・りゅうと)。
 だが、今はWEAの一員として、いや、それも違う。今回の依頼はその両方の立場からのものだった。
「ウチの企画担当を助けていただきたいのです」
 コスメイト企画担当ゆうか。
 コスプレアイドルとして人気を馳せた彼女は天爪に引き抜かれ、コスメイトの企画・衣装製作を担当しながら広報活動にも勤しんでいる。
「業務の都合で関西の方へ出張が忙しかったのですが、東京の本社からゆうかが消えたと連絡が入りまして。
 PCを調べてみたところ、札幌行きのチケットを購入していることが‥‥」
 札幌にはゆうかの友人がいる。
 獣人で天爪とも交流のある相手。
 連絡を取ろうと問い合わせたが、行方は掴めない。
「ゆうかはNWの事を探っている節があります。巻き込まれた可能性が高い」
 ゆうかは人間である。
 これまでも何度かこの友人と共にNWの事件に巻き込まれたらしい。それで今回も何か感じ取ったのだろう。
 天爪は遠ざけようと必死だったようだが。
 
 捜索を依頼する天爪の顔には仕事では見せない苦悩があった。
 仕事仲間としてだけではない、真摯に彼女の身を案じる想いが。
「どうか――彼女を無事に」

●今回の参加者

 fa0378 九条・運(17歳・♂・竜)
 fa3306 武越ゆか(16歳・♀・兎)
 fa3596 Tyrantess(14歳・♀・竜)
 fa3635 甲斐・大地(19歳・♀・一角獣)
 fa4135 高遠・聖(28歳・♂・鷹)
 fa5082 鷹飼・源八朗(19歳・♂・鷹)
 fa5302 七瀬紫音(22歳・♀・リス)
 fa5968 磐灘潤樹(20歳・♂・狼)

●リプレイ本文

●情報検索
 武越ゆか(fa3306)と七瀬紫音(fa5302)はゆうかの仕事用PCをチェックしていた。
「6日13時、札幌行きね。思ってたよりは時間差はないみたい」
 シオがチェックしている間、ゆか――武越はデータをコピー、PC持参のメンツに配布する。
 早々に天爪の許可を貰えた事が幸いした。
 本来、仕事用とはいえ、勝手にPCをいじる権利は天爪にもないのだが、
『やってください。責任は私が取りますので』
 どうやら事態は深刻のようだ。
「友人ってなにをされている方? レイヤーとかイベンターってところかしら‥‥」
「レイヤーです。住所はここに。ですが連絡がとれません」
 とはいうものの、連絡が取れなくなってまだ24時間経っていない。
 事件性を示すにはあまりに状況が不充分だ。
 だからWEAの力も本格的には頼れず、勘でしか危機を感じていない天爪は彼らに『個人的に』依頼をしている。
 武越にコピーは任せてシオはPCに残った現地への情報を片っ端から調べていた。
「――にしても、北海道の住所だけでも多すぎるわね。旅館とかも調べているわ」
 失踪ではないのだから痕跡は残っている。
 残っているだけなのだが。
「めんどくさいから片っ端からあたってみたらどーだ?」
「何日かかると思ってるの。最悪もう巻き込まれてる可能性だって――あ、ごめんなさい」
 心配をしている天爪の前で言うことではなかったと慌てるシオ。
「別に気にしちゃいねーって。最悪の事態ばっか考えててもしょーがねーじゃん」
「タイさんに言ってません! ああもう、ヘンなこと話しかけないでください!」
 タイことTyrantess(fa3596)にからかわれながらも事態が事態だけにかわす余裕もない。
 NW絡みだとするならば、こうしている間にも彼女に危険が迫っている事になる。
「――この住所、データの中にあるか?」
 高遠聖(fa4135)が見せる紙切れには鉛筆で擦った跡に白い筆圧で札幌の住所が書かれていた。
「必要な住所だけメモをとった可能性が高いと思ってな」
 メモの住所に照らした紫音が該当をつける。
「札幌の友人さんの家ね。泊めてもらうつもりなのかしら。まっすぐに向かっているのは間違いなさそう」
「友人さんの最近の行動とかわかる?」
 甲斐大地(fa3635)の質問に天爪はわかる限りの日程を知らせ、
「コスのイベント多いなあ。仕事関係で何かあったのかな?」
 女性の行方を追うのに、やはり同じ女性は頼もしい。
 ともあれ、目的地はわかり、データもコピーを取り終えた。
 断片的な情報を頼りに一同は札幌へと向かう。

●札幌
「乗れよ。急ぐぜ!」
 空港に着いた直後、レンタカーを出す九条運(fa0378)。
 『ワガシィW GT−B』、悪路対応型のワゴン車でカーナビ付き。
 費用は自腹を覚悟していたが必要経費として天爪が処理してくれたようだ。
「あのオッサンには世話になったし、イベント成功の為にもゆうかは無事連れ戻さなきゃな!」
 4日後のイベントの事までは運達は依頼されてはいない。
 だが、やれることであるならやっておきたい。
 それに運は彼女を届けて終わりにするつもりはなかった。

「やっぱりいないな‥‥」
 覚悟していた事とはいえ、鷹飼源八朗(fa5082)は肩を落とす。
 住所のアパートを尋ねた一行だが、部屋は留守、新聞受けには二日分、7、8日の朝刊が入っていた。
「6日の朝にはここにいた。ゆうかが6日の午前中には出かけている事からして、彼女に連絡をしてからは戻ってきていないという事か‥‥」
 部屋の中に入るのは流石に拙いか――そう考える源に隣近所に聞き込みをした聖が戻ってきた。
「6日の夜、ゆうかがここを尋ねたらしい。写真を見せたから間違いない」
「一日半の遅れね‥‥間に合えばいいのだけれど――」
 心配げに武越は呟く。

●6日夜
 迂闊だった。
 一人で首を突っ込むには危険すぎた。
 だけれど、大切な友達だったから。
 心配で、後を追って――、
「――――っ!!」
 こんな人気のない場所にまで、のこのこと。

●真夜中の機転
 ワゴン車の中でプリントアウトしたデータを調べながら、ゆうかと友人の足取りを追う。
「もう9日になっちまうな‥‥」
 暗くはないものの、タイの表情からも飛行機に乗ってたまでのおちゃらけた雰囲気は消えていた。
「急がないと――!」
 手がかりはないかデータを調べるシオ。
 だが、夜中の人探しはやれる事は限られてくる。
 昼間わかった事といえば、友人の方は二日間仕事に顔を出していないという事。
 聖は考える。
 言い方は悪いが、アイドルのプライペートを追いかけるなら彼はプロだ。
「6日は通常通り仕事をしていた。だがゆうかに連絡を取ったのは6日‥‥いや、5日か――」
 でないと飛行機の手配は出来ない。
 つまり異常を知ったとしてそのまま仕事へ行き、帰って来なかった事になる。
 悩みを抱えたまま、仕事に行った――しっかり者とはいえるだろうが――。
「だいち、仕事関係で何かあったというのは当たりかもしれないぞ」
「まさか、6日の出先で――?」
 出先で襲われたのなら連絡はとれない。
 だが、わかっていて飛び込んだのだとしたら、その前に連絡をしていたという事も。
「でもこの時間じゃ、連絡取れませんよ‥‥!」
 と、シオ。
 TV局であるまいし、芸能関係とはいえ夜は連絡のとりようがない。
「!
 ちょっと待って! それなら――」
 武越が携帯をかける。相手は、
「もしもし、天爪さん? もう一度ペンデュラムを!
 場所は――」
 ゆうか捜索の為、サーチペンデュラムは天爪に預けていた。
 範囲が絞り込めるなら精度も上がる。
「わかりました!
 運君! ここに向かって! 廃工場があるらしいから!」
 運転席の運に地図を見せる。
「了解!」
 カーナビに目的地を映す。
「待った!」
 口を開いたのは源だった。

●愚かしくも純粋な
「はぁ――っ――!!」
 やっぱり一人じゃどうにもならない。
 私はこの化け物に食べられてしまう。
 でも、『来るんじゃなかった』とは思わなかった。
 大切な友達だったから。
 だから悔いがあるとすれば、自分が役には立てなかった事で――。
 彼女が自身の死を覚悟した時、
 助けはやってきた。

「このぉぉぉぉッッ!!!」

 背後から異形の怪物にぶつかる。
 激しい破裂音と焦げた匂い。
 そして彼女の元に現れたのは――、

「ゆうかちゃん!?」
「助けに来ちゃった、ちはるさん!」
 出張中の天爪に連絡を頼んだ相手、ゆうか。
 まさか、獣人の自分が一般人の少女に助けられるとは。
「竜斗の持たせてくれたスタンガン凄いね‥‥、
 『リミッター外したら絶対に人には向けるな』って言われてたけど、まさかこんな時の為? ‥‥まさかよね」
 彼女――ちはるはそこで呆けから覚める。
 天爪が持たせたスタンガン。
 間違いなくこんな時の為なのだろうが、
 下級とはいえ、NWがスタンガンだけで倒せるはずがない――!
「逃げるわよ!!」
 ゆうかの手を引き、一目散に駆け出す。
「え? ちょっ、きゃっ!?」
 死を覚悟していた身体に力が戻る。
 友人を一人失った。
 でも、せめてこっちの友人だけは、
 自分の為にスタンガン一本で未知の怪物に立ち塞がったこの少女だけは――。

●憧れを信じて
 そうして、都合丸二日半、ゆうかが来てから丸一日。
 餌場だとでもいうのか、やたらに広く、電波も届かないこの場所で、二人はとうとう追い詰められた。
 ちはるは悔しさに唇を噛む。
 せめてこの少女だけでも逃がしたかった。
 正体も知らないものに殺されてはあまりに浮かばれまい。
 逃がそうとしたが、相手はこちらが少女を見捨てない事をわかっているのか、一般人の少女を見逃さない。
 結果、相手に隙を晒す事となり、今に至る。
「せっかく助けに来てくれたのに、ごめんね」
 詫びるちはるに、
「諦めちゃ駄目――」
 この状況下、それでも何かを信じ、
「正義の味方は――いるんだもん」
 NWが身を乗り出す。
 ゆうかも恐怖に身を竦ませる。

 そして――『正義の味方』は現れた。

 激しい破裂音に再び焼かれるNW。
 もちろんゆうかのスタンガンなどではない。
 ゆうか達を庇うように立っているのは、背から鷹のような羽を雄々しく生やす男で。

(「高速飛行で先に行く! 最低でも二人の安全を確保する!」)
 そして源は間に合った。
「あ、あの‥‥」
 返事はせずに目だけで後ろを確認する。
 二人とも満身創痍だ。ここで戦うのは危険だと判断。
「きゃっ!?」
 二人を抱え、空を翔ける。
 追いすがるNWを蹴り飛ばした。

●涙
「源さん、こっち!」
 車から武越が三人を迎える。
 そして、
「やっと俺の出番だぜ! 後は任せなっ!!」
 入れ替わりにタイがNWに躍り出る。
 続けて運と聖も飛び出した。
「見せてやるぜ! 俺の本気をっ!」
「‥‥それ、ゲームのセリフか?」

 車内では武越、シオ、だいちと女性三人がゆうかとちはるの手当てにあたる。
「怪我もそうだけれど、とりあえず安心して――」
 だいちは平心霊光で二人、特にゆうかの心を落ち着ける。
「あ‥‥あなたたちは‥‥」
「天爪さんに頼まれてね。あなたを探してたの」
 ゆうかは聖が貰っていた天爪からの手紙を見せる。
「竜斗が‥‥」
「大丈夫だった? お友達が心配だったのはわかるけれど、無茶しちゃ駄目よ」
 シオが諭すと、とたんにゆうかの緩んだ涙腺から安堵の雫がこぼれ、
「怖かったよ‥‥!」
「あらあら‥‥」
「大丈夫だよ、もう大丈夫だからね――」
 だいちはゆうかを抱きしめながら、その掌で彼女を癒していた。

●三匹が斬る
「ふっ――!!」
 聖の飛羽針撃がNWを襲う。
 致命傷には至らない。
 だがそれで充分。
 もとよりそれは牽制で――、
 生まれた隙にタイが自慢の角を叩き込む。
「ちっ! コアを逸れたか――!!」
「いや、充分だ」
 金剛力増を使った運がライトバスターを構える。
「幕を引くぜ! 最終奥義!」
 NWを渾身の剣撃で叩き斬る。
 さらには炎の柱をエフェクトにつけた。
 ――やや小さいが。
「やりすぎだ」
 聖が顔をしかめる。
 何故か今の運の戦いは無駄が多い。
 これでは戦闘というより、殺陣だ。
「これは遊びじゃないぞ」
「そんなんじゃねえって、ゆうかちゃんの為だよ」
「?」
 運の心算はわからぬものの、無駄ではあるが威力はこもっていた斬撃。
「――まだだ! コアは破壊されていない!」
 警戒する二人に、
「よっしゃ、どけ! 二人とも! ここなら完全獣化も問題ねえだろ!!」
 黒竜の姿へと変貌したタイが大きく息を吸い込む。
「ばっ!!」
「やめ――!!」
 慌てて二人がNWから離れた直後、
 タイの波光神息がNWを吹き飛ばした。

●いざ、日本橋へ
「次からはもっと気をつけなきゃ駄目よ」
 大阪行きの便で、シオは落ち着いたゆうかに言って聞かせる。
「天爪氏は友人の俺らを必死になって頼ってくれた。彼の気持ちを忘れないでくれ」
「はぁい‥‥」
 大人しく反省するゆうか。
 流石にあんな事があって懲りたのか。
 だが、気のせいか、彼らを見つめるゆうかの瞳に恩義以外の感情がある気が――。

「と、ともかく! ちはるさんを襲ったストーカーは逮捕されたから、もう大丈夫!」
「‥‥でも、顔とか身体とか‥‥」
「マスクに決まってるじゃない! ちはるちゃんの怯える顔が見たかったんだって、全くこれだからヘンタイってのは‥‥」
 力技で誤魔化す武越。
 当のゆうかも極度の緊張化だった為、ハッキリ言い切られるとどうにも自信はない。
 ただ、これだけは言える。

 この人達はヒーローだった、と。

「さて! 向こうに着いたらコスプレライヴね! 大丈夫? 天爪さんも無理はしなくていいって言ってるけれど」
「いいの! あたしだってプロなんだから! 竜斗は幼馴染だからって心配しすぎ!」
 どうやら上手い具合に話を逸らせたようだ。
「向こうではよろしくな! 俺もライヴに出るからよ!」
 運が待ってましたと割って入る。
 ゆうかは先程の神妙さもどこへやら、『わあ』と瞳を輝かせ、
「ホント!? ひょっとして紅葉君!? ストーカー退治してる時凄かった〜! あれって応龍よね? どうやったの?」
 あの状況下でしっかりと見ていたらしい。
 一行は完全にはしゃいでいる彼女に、

『こりゃ、懲りないな』

 天爪の気持ちがわかる気がした。