パラダイムシフト・零アジア・オセアニア

種類 ショート
担当 冬斗
芸能 2Lv以上
獣人 2Lv以上
難度 難しい
報酬 3.9万円
参加人数 7人
サポート 0人
期間 10/12〜10/16

●本文

「オゼとアネモネを消せ。
 これは決定事項。あの娘はもはや身内ではない」
 冷たく歯車を回し続ける裏社会は言う。

「尾瀬を保護しなきゃな。
 一緒にいるならその嬢ちゃんもだ。
 組織への足掛かりになるかもしれねえ」
 背後なくして、なお悪を追う狩人達は動く。

「アレは新しい私の芸術品だ。
 モノの価値のわからぬ連中に壊させるな。
 我々の手で作り上げる。
 方法は簡単だ。
 愛する者の命を摘ませるだけ。
 自らの指は殺戮しか生み出さぬことを、今、教えてやるのだ!」
 手段の為に目的を選ばぬ歪んだ芸術家は叫ぶ。

 戦いは終局に。
 今、花が散り、
 新たな芽は吹くや否や――。

○舞台演劇
「パラダイムシフト・零」

 第四回、最終回一歩手前です。
 朋哉とアネモネの逃走劇。
 二人を助ける者に狙う者。
 少女の想いは散るのか、それとも――。

 尾瀬朋哉‥‥アメリカ帰りの刑事。腕は優秀で頭も切れるが、強すぎる正義感で上層部と衝突が多い(というか、上層部の意向を勝手に無視するだけだが)
 ある海外マフィア(舞台上では『組織』と表現)とはアメリカにいた頃からの因縁で、日本に来てからは日本の拠点から中枢を掴もうと追跡中。
 現在、自らを狙う少女、アネモネと姿をくらませた。

 アネモネ‥‥組織の暗殺者(『使い手』と呼称)の一人。腕利き。
 半年前、組織主催のパーティで内通者に制裁を下す。その時に朋哉と偶然接触。
 一月ほど前、朋哉の抹殺を命じられるが、失敗(故意に見逃した)。
 現在、朋哉に恋心を抱きながらも、自分でそれとは気付かぬまま、彼と姿をくらませる。

 『父親』(パテル)‥‥本名不明。アネモネをはじめ、組織の『使い手』達の育ての親。

 二人が姿を消した詳細な理由、行き先は不明。

●今回の参加者

 fa0531 緋河 来栖(15歳・♀・猫)
 fa2807 天城 静真(23歳・♂・一角獣)
 fa3678 片倉 神無(37歳・♂・鷹)
 fa3846 Rickey(20歳・♂・犬)
 fa4421 工口本屋(30歳・♂・パンダ)
 fa5486 天羽遥(20歳・♀・鷹)
 fa5778 双葉 敏明(27歳・♂・一角獣)

●リプレイ本文

●前夜
「何!? アネモネ役の娘がスケジュールが空かない?」
 慌てる監督。
 予定がズレたのは彼女ではなく、この公演の方なので自業自得の出来事ではあるのだが‥‥。
「参ったな‥‥ん? 何? クルスちゃん、キミやってくれるのか!」
「はいっ! 頑張りますっ!
 元気一杯つとめさせてもら‥‥っちゃまずいよね」
「いやいや、キミのアネモネが最終回に向けてのアクセントを加える事だってある。
 キミはキミだけのアネモネを‥‥ね」
 花は咲いたその時から自分だけの色を魅せるもの。
 がんばれ、アネモネ。
 最終回は目前だ。

●CAST
 尾瀬朋哉‥‥双葉敏明(fa5778)
 アネモネ‥‥緋河来栖(fa0531)
 天城静真‥‥天城静真(fa2807)
 山野桜‥‥天羽遥(fa5486)
 霧島十梧‥‥片倉神無(fa3678)
 J・B‥‥Rickey(fa3846)
 『父親』‥‥工口本屋(fa4421)

●『父親』
 組織にいるのは望むままに研究が出来るから。
 組織にとって、男が研究の産物として作り出す麻薬などが利益となった。

 男は遺伝子操作、薬物投与、異種細胞移植、諸々の倫理など存在しないかのような実験を繰り返して来た。
 全て、己の理想の為。

 アネモネはそんな実験で生まれたのではなく、全くの偶然で見つけた逸材だった。
 彼女を最高の作品にすると決め、彼女の記憶を消し、鍛えた。

 その彼女が、あと一息で完成しようとしている。
 何とも気分が高揚してくるではないか‥‥!

 既に因果は含めておいた、後は仕上げにかかるのみ‥‥!

 
「オゼとアネモネが行方をくらませたですって‥‥!? 見張りは付けていた筈なのに、一体何をしていたのです?」
 氷の仮面の下から僅かな苛立ちを覗かせるJ・B。
「捜して下さい。持てるだけの人数を貸し出しましょう。‥‥二人の生死は問いません」
 彼の焦燥の原因は朋哉とアネモネの二人だけではなく、
「とにかく一刻も早く、警察やあの男――『父親』(パテル)よりも先に――」
 J・Bの直観が告げていた。
 『父親』。
 アレは危険だ、と。
「――二人を確保するのです。但し、足跡は残さない様に」
 アレは混沌。
 善にも悪にも属さない、周り全てを喰い尽くす悪意、

 闇だ。

●山野桜
 そしてここにも二人の行方を追う者達が。
「霧島さん何とかなりませんか‥‥このままじゃ尾瀬さん間違いなく連中に殺られちまいますよ」
「ならまずは二人を見つけることだな。上を動かせても肝心の当人達がいなきゃ話にならんぜ」
 焦る天城静真、宥める霧島十梧。
 いや、内心は霧島も静真と同じ。
 だから、
「こっちは任せな。
 事態が動けば連絡するさね」

 そう含められ、山野桜と共に捜索を進める。
 現在、この件で動いているのは三人だけ。
 その静真達とて、職務として捜索を許されているわけではない。
 結果、捜索が進むはずもなく、徒労が重なる。
「探さない方がいいんじゃないですか‥‥」
 そんな中、弱音が出るのも無理はないことで。
「桜さん!?」
「私達が無理に見つけ出すことで、二人が危険に晒される事だってあるんじゃないですか‥‥
 このままそっとしておけば‥‥」
「何いってんすか!? そんなわけないでしょう!
 俺らはともかく組織の追っ手が見つけられないわけがない、だから‥‥」
 そんな事、桜にもわかっていた。
 だからこれは弱音などではなく、
(何やってるんだろう、私‥‥
 何がしたいんだろう‥‥
 ‥‥あの二人‥‥
 どうしてるんだろう‥‥)
 思考を止める。
 逃避。
 何からか、は桜自身わからない。
 胸に刺さる、小さな刺。

●アネモネ
 大通りを歩く体格のいい眼鏡のサラリーマン。
 目立つことといえば、少しばかり年の離れた美少女を連れているくらい。
 それすら、街中では別段浮いてしまうほどの珍しさでもない。
「まるでどこかの女子高生に声をかけて連れ歩いているサラリーマンだが、いつもの服装だと少し目立つからな」
 底抜けに明るい声で傍らの少女に話し掛ける。
 彼を案ずる同僚達が聞けば、どう思うだろうか。
「似合うだろ?」
 柔らかい笑顔で問う朋哉に、
「変」
 にべもない。
 本気で似合っていないと思ったわけではない。
 初めて会った時はもっとフォーマルなスーツを着ていた。
 戸惑い、困惑、怖れ、
 それらの感情が少女の心をささくれ立てる。
 そして、だからこそ朋哉はそんな少女の不安を吹き飛ばそうと、
「状況的には最悪、しかもアレだな。見た目は美少女、中身は戦士って‥‥どこのアニメのキャラなんだろうか?
 そういえば署にそういう萌え系とかいうのにこだわったやついたよなー」
 だが、その気遣いがより少女を追い詰める。
 彼女は弾かれたように、
「わかってるの? 私はあなたを殺しに来たのよ! 敵なのよ!」
 流石にこれは拙い。
 慌てて少女の口を塞ぎ、抱えて人ごみを駆け抜ける。
 路地裏に避難し、少女を下ろそうとした時、
 白刃が朋哉の喉に当てられる。
「――――」
 街中で掏り取ったナイフで対象の命を握る。
 元々彼は抹消すべき標的だ。
 だが、
「なぜ助けるの? なぜ殺さないの?」
 標的と会話を交わすこと自体が間違っている。
 わかっていても問いかけは止まない。
「なぜ‥‥?」
 震える手からナイフは零れ、
 潤んだ瞳から涙が零れ、
「‥‥私はなぜあなたが殺せないの‥‥!」
 少女にはわからない。
 アネモネにはわからない。

 いや、本当はわかっている。
 ただそれを理解したくはないだけ。

●尾瀬朋哉
「尾瀬さん‥‥!」
 見つけた静真自身驚いていた。
 まさかこんな場所にいたなんて。
「静真‥‥山野‥‥!」
 見つけたのは桜だった。
 女の勘、などという言葉で括れるものか。
 そこは港町の高級ホテル。
 ホールはパーティ会場に使われることもしばしばで、
 つい半年程前にもここで、ちょっと大きな事件と人知られぬ戦いとちっぽけな誰も知らない出逢いが――。
「やっと‥‥尾瀬さん見つけました」

「急にいなくなるから心配しましたよ」
 傍らの暗殺者の少女に対し警戒を払いつつも、感極まったのか、静真は朋哉に詰め寄る。
「どうしたんですか!? 留守電チェックしてないんですか!? あとメールも!」
 もちろん知っている。
 だから返さなかった。
 二人の心配は純粋に嬉しい。
 だが、世の中には個人の力では動かせないどうしようもない事態があって。
 それは朋哉が一番よく理解していた。
「尾瀬さん‥‥相手はこんな子供だったんですか?」
 間近で見たのは初めてで、
 桜の声音は非難を含んでいた。
「このまま逃げていても仕方ないでしょう? こんな幼い子を連れて一生逃げてるつもりなんですか!?」
 しかしそれは非難ではなく、むしろ、
 懇願。
『そうはしないで欲しい』と訴える。
 だが、その真意は朋哉にも桜自身にも届くことはなく。

「マジですか!? ‥‥ええ‥‥ええ‥‥わかりました!
 やりましたね、霧島さん! それじゃ早速」
 霧島からの報告を受ける静真。
 結果は綻んだ表情が物語っている。
「上が動きました! 霧島さんのおかげですよ!」
「馬鹿な‥‥!」
 静真よりも驚いたのは朋哉。
 動くはずはない。
 それを身を持って知っているのは他ならぬ自分自身で――。
 だが、なら何故朋哉は今回、いや、アメリカの頃から独りであがきつづけてきたのか。
 そこで気付く。
 結局、信頼していなかったのだ。
 孤立を重ねる朋哉にとって、独りは当たり前のことで、
 頼れる仲間というものを彼は知らなさすぎた。
「行きましょう、尾瀬さん」
 静真はそんな朋哉をわかっていた。
 だからこそ、少しでも力になりたいと、自分の出来る事をして――。
「頼ってくださいよ。俺達を」
 朋哉は思い出す。
 そういえば、アメリカでも同じ事を言った女刑事がいた。
 この間は彼女に助けられた。
「一応聞いておくけど――」
 迷いは晴れた。
 頼ろう、この仲間達に。
「私の容疑とかどうなっている? まさか未成年略取誘拐とか青少年育成条例違反とかいわないよな?」

●闇の中
「そうだな‥‥未成年略取の嫌疑で、嬢ちゃんは重要参考人とかどうだ?
 ‥‥冗談だが。どうした? そこまで嫌な顔をすることもないだろう」
 盗聴器でも仕掛けられていたのではないかと半ば本気で疑ってしまう。
「尤もお前さん見る限りどうも強ち冗談でもないようだがな‥‥ま、触れるは野暮かね」
 軽口を叩く霧島にはやや緊張を強める。
 彼は静真や桜とは違う。
 自分への善意だけで行動しているわけではない。
 アネモネを見せながらも、庇うように、
「この子がアネモネ。組織でもトップクラスの暗殺者です。
 もっとも彼女の様子からしてそう育てられた。いわゆる第三世界における少年兵とか言うのと――」
「――わかってる。みなまで言うなや」
 安心しろ、と、年配の刑事は煙草を口に笑みを見せる。

 上層部からの正式な通達を待ちながら、霧島が持ちかけるのは『司法取引』。
「少なくとも組織を潰してしまわにゃ嬢ちゃんも‥‥それからお前も危険なのは分かるだろう」
 身を固くするのは朋哉ではなく、アネモネ。
 組織の意向に反していることを再認識させられる。
 組織に反する者はどうなるか。
 死。
 だが、アネモネの恐怖はそれではなかった。
 そんな生易しいものではなかった。
 考えたことがないのだ。
 自分が組織に反したら、などと想像した事などない。
 何故なら自分はそんな事は『しない』から。
 人が最も怖れるものは『未知』。
 アネモネの現在の感情を伝えられる言葉などない。
 言葉などないが、あえて言葉にするのなら、
『私‥‥これからどうなるの‥‥?』
 想像もつかない。
 考えさせられないよう、育てられてきたから。
 怯えるアネモネの肩を抱く。
 取調室で行うべき行為ではなかったが、それでも朋哉はそうしていた。
「条件としては私と彼女の保護。それが条件です。
 それができなければ、どこかの映画の主人公みたいに暴れて脱走することになりますけど?」
 先程のやりとりは霧島への警戒。
 だが今度は違う。
 霧島を信頼し、任せたのだ。
『尾瀬がそう言っていた』、そう上層部にも伝えてくれ、と。
 霧島にもわかっている。
 当然、会話は録音されている。
「‥‥ま、何処まで司法取引が通るか‥‥そもそも握り潰されるかもまだ分からんが、悪いようにはせんさね」
「‥‥信頼していますよ」
 握り潰されるのなら、最悪、先程の冗談を形にせねばならない。
 躊躇いはない。アネモネの為にも。
 だが、出来れば力を尽くしてくれた霧島達を裏切りたくもない。
「なに、一先ず警察にいる限りは安全さね‥‥」
 そう言える確信も霧島にはあった。
 組織も警察と事を構えたくはなかったからこその今の状況だ。
 あとは上の決断を待つばかり。

●J・B
(やはりアネモネを泳がせるべきではなかった‥‥)
 部下の報告に心中舌打ちをする。
 だが、上の指示に糾弾も意見も許されない。
 J・Bはありのまま、上司に報告する。
「事態は良くない方向へと転がっている様です。オゼとアネモネは警察に保護されました。警察内部の上の方にも、オゼに協力する者が出て来ている模様。
 まだ上層部を動かすには至っていない様子ですが‥‥」
 これ以上口にしてはいけない。
 『駒』としていようとする自制心も、だが、有能故の危機意識が彼に傍観を許さない。
「厄介な事になる前にご決断を。そろそろこの辺りで本格的に動かざるを得ないでしょう」
 出過ぎた真似であることは承知の上だ。
 だが、自分も乗った船である以上、共に沈むのはまっぴらだ。
 サングラスの奥の瞳が底光りする。
「‥‥ご命令を」

 最後の指令が下される。

●最後の闇へ
「‥‥そうか、警察に保護されたか、あの娘が! 殺人にしか動かない人形が!」
 自らの手を離れていく花を、男は全く心配すらしていない。
 むしろ、それでこそだと狂喜する。
 問題はない。
 どうあっても娘は『父親』からは逃れられぬのだから――。

 霧島
 山野
 尾瀬
 J・B
 アネモネ

「全て美しき死神を作る為にあるのだ‥‥! 」