再月物語アジア・オセアニア

種類 ショート
担当 冬斗
芸能 2Lv以上
獣人 2Lv以上
難度 やや難
報酬 2.6万円
参加人数 8人
サポート 0人
期間 10/18〜10/20

●本文

「どこへいくのだ?」
 貴族の屋敷、牛車にも乗らず、供もつけず、一人外に向かう青年を呼び止める。
 青年は屋敷の嫡子であった。
 供も連れず、日も落ちよう時間に外に出ることなど論外。
 ましてや――、
「またあの女のところか」
 良く思う筈もない。
 息子が姿をくらませてから一年、
 女と共に帰ってきたのが一年前、
 女の仕業であることは一目瞭然だった。
 仮に自らの意思だとしても、その理由が女にあるのならば何の違いもない。
 さらに言うなら、
「ものにならん女に熱を上げるのはいい加減にしたらどうなのだ?」
 女の元には五人の男が顔を見せていることは誰もが知っている。
 一人の女に振り回される哀れな道化達呼ばわりするものさえいるという。
 だが、そのような周りの雑音など、彼にとっては雨の夜の蛙の鳴き声ほども気にはならなかった。
「愛しております故」
 彼女を愛している。
 理由はそれだけで充分だ。


 愛しの女のところにはまたしても先客。
 皆、時間が出来ればここに来る。
 なので、来る順番は大体決まってしまう。
 遅れてきた者は若干の焦りを抱きつつも、恋敵にすら親しみを覚え、飯を食い、酒を交わす。
 女は初めは男達に申し訳ないと思いつつも、彼らの幸せそうな振る舞いに心満たされることを感じていた。
 そして、

 来客。
 男達は揃っている。
 ならば迎えのものだろうか。
 呼んだ覚えはない。
 そうして扉の向こうから現れたのは、あの時に別れ、二度と会うことはないであろうと思っていた女性。
「朔夜――」

 もう一度、
 月夜の晩に奇跡の幕が上がる――。


○舞台演劇「再月物語」(たけとりものがたり)
 王の治める月にて戦乱がおきました。
 王は奮闘するも状況は劣勢のようです。
 敵は月に眠っていた古代の種族。
 一年前の古代の月道の覚醒により眠りから醒めたとか。
 (イメージ的にはエイリアンに近いような感じだと判断下さい)
 王を助ける為、朔夜はもう一度五人に助勢を請いました。
 本来、姫達をそっとしておきたいのは彼女としても同じだったでしょう。

キャスト /
 かぐや姫
 石作皇子(いしづくりのみこ)仏の御石の鉢
 車持皇子(くらもちのみこ)蓬莱の玉の枝
 右大臣阿倍御主人(あべのみうし)火鼠の裘
 大納言大伴御行(おおとものみゆき)龍の首の珠
 中納言石上麻呂(いそのかみまろたり)燕の子安貝
 朔夜
 月の王

 前回までの登場人物です。彼らの使った秘宝も挙げておきます。
 配役はこの中から選んでもいいし、新しい配役でも構いません。
 古代種族は基本的には人外のイメージですが、そうでないものもいても構いません。詳細変更は御自由に。

 前回までの話は舞台『竹盗物語』、『地帰物語』参照です。

●今回の参加者

 fa1463 姫乃 唯(15歳・♀・小鳥)
 fa2495 椿(20歳・♂・小鳥)
 fa3831 水沢 鷹弘(35歳・♂・獅子)
 fa4263 千架(18歳・♂・猫)
 fa4559 (24歳・♂・豹)
 fa4563 椎名 硝子(26歳・♀・豹)
 fa5775 メル(16歳・♂・竜)
 fa5810 芳稀(18歳・♀・猫)

●リプレイ本文

●CAST
「なよ竹のかぐや姫」‥‥姫乃唯(fa1463)
 石作皇子(いしづくりのみこ)‥‥千架(fa4263)
 車持皇子(くらもちのみこ)‥‥椿(fa2495)
 大納言大伴御行(おおとものみゆき)‥‥笙(fa4559)
 中納言石上麻呂(いそのかみまろたり)‥‥椎名硝子(fa4563)
 朔夜‥‥芳稀(fa5810)
 月の王‥‥水沢鷹弘(fa3831)
 古代種族‥‥メル(fa5775)

●今一度の出逢い
 夜にのみその姿を金色に輝かせる地。
 地上からはただ美しいだけのかの地にて今、激しい争いが広げられていた。
「はーっはっはっは! 随分と力が戻って来たぞ! 勝手に月の民を名乗る者どもめ、目に物見せてくれるわ!」
 金色の竜が猛る。
 外見に違わぬ圧倒的な武力に人の群れが圧される。
「朔夜? 朔夜はおらんのか!」
 男が叫ぶ。
 威風堂々とした佇まいは獅子の如く。
 が、その声にわずかながらの苛立ちが含まれているのは呼びかける相手の不在故か。
 傍らに在る筈の美しき腹心は、そこには居らず。
「こんな時に、一体何処へ行っているのだ‥‥」


「どうか‥‥皆様の御力をお貸し下さい」
 もう二度と来ぬものと思っていた地。
 もう二度と会わぬものと思っていた相手。
 ありえない筈の邂逅に青い瞳の美女はただ深く頭を垂れていた。
「朔夜? 何故貴女がここに?」
 石上麻呂の問いにはただ疑問だけがあった。

●月へ�U
 ――月に古の民が甦り、月の民を襲ってきた――。
 それが朔夜の話す現状だった。
「何と、その様な事が‥‥」
 石上麻呂に続き、かぐやも憂いを見せる。
「私が月道を開いたばかりに‥‥」
 それに根拠はない。
 だが、時期は一致していた。
 むしろ他に原因がないというのが事実であろう。
「月の秘宝と言いながら、皮肉な事にその力‥‥月の民には使いこなす者がいません。
 貴方々を巻き込むのは本意ではありません。
 ‥‥ですが‥‥この侭では王が‥‥」
 悲痛に、ただただ申し訳なさそうに朔夜は懇願する。
 都合のいい願いとは思っている。
 仮に月道が原因だとしてもその事が彼女等の責任などとは考えた事もないし、逆に彼女等に責任を押し付けてしまう手段だとさえ感じている。
「私が断る訳がないだろう」
 始めに口を開いたのは石上麻呂。
「朔夜や王には色々と助けて貰った恩義がある。今こそ、その恩を返そう」
(恩義があるだけではない。私はきっと、不器用で優しい月の民の事を、好きになってしまったのだろう‥‥)
 車持皇子がそれに続く。
「俺達が地上へ帰る為に開いた道だ。
 その為に戦が起こったのなら、行かない訳がないだろ」
「お前らが行くのに俺が行かないわけにはいかないよな!」
 言いつつも石作皇子は既に腹をくくっていた。
 彼らにとって月の民はもはや他人ではない。
 無論、それは大伴御行とて同じだった。
 だが、考え方が違っていただけ。
 巻き込みたくないと考えている王の想い。
 皆の中で最も王に近い思考を持つ大伴御行にはそれが痛いほどわかる。
 今、助けに向かう事は彼を侮辱する行為になるのではないか――。
 が、
「私も、皆様と一緒に月へと参ります」
 かぐやのその言葉に彼もそれどころではなくなった。

「反対! 絶対反対!」
 叫んだのは石作皇子だが、気持ちは皆同じだった。
「傍に居たい‥‥とは思うが、それで姫を危険な目に合わせては意味がない。
 此処で帰りを待ってはくれないか?」
 車持皇子もそれに続く。
 が、かぐやの意志は固かった。
「朔夜は私の大切な友人なのです。
 その友人や月の民が、私の所為で苦しんでいると言うのに、
 皆様が危険な場所へ行こうと言うのに、
 私だけ安全な場所で、ただ待っている事など出来ません。王族の血を引く私に、何か出来る事がある筈です」
「石上、お前からも何か言ってやってくれよ」
 石作皇子が助けを求める。
 石上麻呂は、
「出来る事なら貴女を戦いには巻き込みたくない」
 と助けを差し伸べたかにも見えたが、
「しかし、姫が決めた事なら、私は止めはしない。貴方の事は全力でお守りしよう」
 彼女を危険に晒す事も不安だが、地上に残していくのもまた心配。
 いや、王の心中を察したのが大伴御行なら、石上麻呂はかぐやの想いに共感したのかもしれない。
「ありがとう。石上麻呂様。
 それに、例え危険な場所であろうとも。皆様と離れるよりはずっと良い
 ‥‥私が、皆様と共にありたいのです!
 お許し願えますか?」
 この一言がとどめとなった。
 愛する者にそう言われては反対できるものなどいない。
「嗚呼、いと美しきかな友情。
 朔夜と姫は良い友を持ち果報者だな。
 ‥‥おっと、俺達もそうだっけ?」
 言いつつ、車持皇子は大伴御行の方に視線を向ける。
(言いくるめられた格好になってしまったか)
 大伴御行は嘆息し、
「やれやれ、我が愛しの姫には勝てぬな」
 一同、心は固まり、いざ月へ。

●淡い恋
「朔夜! 一体何処へ‥‥」
 朔夜が再び王の前に参じた時、彼女の傍には永遠の別れを告げた筈の男女の姿が。
「朔夜。何故この者達を連れて来た!
 お前達も何をしに来たのだ。地球の者の助けなどいらん、とっとと帰れ!」
「別に貴方の為に来た訳ではない。姫の為に、私達が勝手にしているだけの事」
 石上麻呂が返す言葉にも王は納得せず。
 王が怒るのも当然。
 月の問題に地上の人間を呼ぶ事は筋違い。
 だが、朔夜の行動もまた当然。
 主の身を案じる事に何の問題があろうか。
(王の事が‥‥心配なのね。
 貴女にとっては月の事よりも‥‥何よりも‥‥)
 かぐやの言葉により、朔夜の胸中は揺れていた。
(私が‥‥王の事、を‥‥?)
 その想いはまだ小さすぎて形にすら出来ない。
「勝手を申し訳ありません。
 ‥‥お叱りは事が済んだ後にお願いします」
 今、言うべき言葉は一つ。
「命に代えましても、姫様はお護りします」
 自らの責務を全うするだけだ。
 小太刀二刀を抜き、敵に備える。
「朔夜、秘宝は何処ですか。私の祈りを込めましょう」
「‥‥秘宝は武器庫にある。あんな物は我等には必要ない、勝手に持って行け」
 かぐやに答えるのは王。
「変わらないな‥‥良い事だ、多分」
 石作皇子がはにかむ。
 変わらぬ不器用な気遣いに懐かしさを覚えて。
「‥‥お前達がどうなろうと、私の知った事ではない。勝手にするが良い」
「ああ、勝手にやってるから気にしなきゃいいさ♪」
 車持皇子だけではない、他の者達も気持ちは同じだ。
 朔夜が、王が、彼らの身を案じるように、彼らも月の――いや、二人の友人の身を案じている。
 かぐやが祈りを込めた秘宝を男達に手渡す。
「皆様の御無事を、心よりお祈り致しております‥‥」
「朔夜、かぐやを頼むぞ」
 秘宝を受け取り、石作皇子が。
 続き、他の男達も駆け出す。
 自分達を心より案じた二人の危機を救う為。

●伝承閉幕
 輝く刀剣が一閃する。
「お、なかなかやるねー俺」
 蓬莱の玉の枝を武器に竜人達を薙ぎ払い、なおも軽口を叩く車持皇子。
「皆も押されてるなよ‥‥っと!」
 その刀技は王のそれと比べても見劣りしない。
 石作皇子は光術により後方支援。
 大伴御行は龍の首の珠を使い、的確に戦況を分析、ある意味最も戦を有利に進めていた。
 そして、石上麻呂。
 彼の持つ燕の子安貝はあくまで月道を開くだけのもの。
 戦闘する為の力は持っていない。
 だが、秘宝ではない、ただの刀を精一杯振りかざし、
「月は私にとっても第二の故郷の様なもの。このまま蹂躙されるのを黙って見ている訳には行かない!」
 その必死さは共に戦う者達にはなによりの力となったであろう。

「お前が月の王を名乗っている者か? 小賢しい」
 金色の竜は嘲笑うような表情で言う。
 人ならざる月の古の民、その長たる竜。
「この世界は元はと言えば俺達のものだった。それをお前達が侵略した」
 嘲りはやがて怒りの表情へと変わり、憎々しげに吐き捨てる。
「御託はそれだけか?」
 王は竜の言葉を意に介さず、
「元はどうだったかなど、私には関係のない事だ」
 それを挑発と受け取り、竜は激昂する。
「俺達はここに住む正統な権利がある。それをお前達は‥‥侵略者は皆倒されるといい!」
 閃光の息吹が王を焼く。
 桁違いの古代種の力に心は折れずとも身体が屈しかける。
 だが、
「!? 何だ、それは‥‥」
 竜の驚愕は王にではなく、その背後、王を助けんと駆けつけた若者達の手の中。
「何故そのような物がここに!? いや、奴等があれを使いこなせる訳がない!」
「王よ、助太刀に参じた。皆の力であれを倒そうぞ!」
 大伴御行が皆に指示を出す。
 車持皇子が竜の息吹を斬り払い、石上麻呂が金色の鱗を斬りつけ、
 そして石作皇子は、
「使える方法で使うのは当然!」
 背後から竜の頭に御石の鉢を叩きつける。
 それが案外効いたのか、息吹が途切れたところへ王と車持皇子がとどめを刺す。
「まさか、秘宝と使い手がまだこの世界に存在していたとは‥‥抜かった‥‥な‥‥」
 古より伝えられし月の秘宝。
 それを扱いし地上の若者達により、月の戦乱は幕を下ろされた。

●祝福
「この位、私の力だけで何とかなった。が、一応礼は言っておく」
「ボロボロで言う台詞じゃないな」
 からかいの言葉にも自然に親しみがこもり。
「では姫、石上麻呂様、月道の準備を」
 朔夜が促す。
 敵を倒した以上、彼らがここに留まる意味はない。
 彼らの住むべきは青き地上なのだ。
 迷う者もいた。
 かぐやはやはり月にこそいるべきではと、
 地上に彼女の安息はあるのだろうか。
 だが、かぐやは案じてはいなかった。
「‥‥戻って、お話したい事があります。聞いてくれますね?
 朔夜、王、本当にお世話になりました」
 その決心に彼らも迷いを振り払った。
「一緒じゃなきゃ意味ないから」

 今度こそ本当の別れ。
 二度と古代種が甦らないよう、月道には封印を施す。
 それに未練がないとは言える筈もなく。
 それでも、ありったけの祝福を込めて、
「有難う御座いました、皆様。‥‥どうぞお元気で」
 三度目はない、最後の別れを告げる。
「朔夜。私達の力が必要になった時は、いつでも来ると良い。貴方達は大切な友人なのだから」
 石上麻呂も、いや、皆わかっている。
 それでもさよならは言わなかった。言えなかった。
 だから、彼らもとっておきの祝福を。
「朔夜! かぐやには負けるが、いい女なんだから頑張れ!」
 自分達と同じ、淡い想いを抱く女に向かい。


「此度はお前に助けられた。礼を言う」
 姫と若者達が去った後、聞こえた言葉に朔夜の方が驚いた。
 王が他者に礼を言うところなど、彼女が聞いたのは初めてだったから。
「それから朔夜。お前は私の右腕だ。勝手にいなくなる事は許さん」
 だが、王はやはり王で、
 その不器用な優しさに心が暖まるのを感じ、
 そして、はっきりと形になった己の想いを胸に、
「貴方が無事で良かった‥‥」


 帰ってきた地上ではかぐやが最後の決心を。
「このままずっと、皆で楽しく暮らして行ければ良いと思っていました。でもそれは、私の我が儘なのですね」
 待つだけは辛い。
「一人を選ぶ事が出来ずにいた、私の弱さを。これからたった一人を選ぼうとする身勝手を。どうかお赦し下さい」
 だから彼女は選ぶ。
 それが彼女の出した皆への答え。

「石作皇子様」

 彼女の想いは小柄な少年に向けられる。
「貴方は時に優しく時に厳しく、本当に純粋に私の事だけを考えて下さいました。私は、貴方のお傍に居とうございます」
 彼が他の者達に比べ、優れていたところがあるわけではない。
 劣っていたわけでもない。
 好きだったから。
 他に理由はいらない。
 他の者達は悔しさと寂しさ、そして精一杯の優しさで二人を見守る。

 空に、
 六人の男女を満月が祝福していた。