TRICK×TRICKアジア・オセアニア

種類 ショート
担当 冬斗
芸能 2Lv以上
獣人 2Lv以上
難度 難しい
報酬 3.9万円
参加人数 8人
サポート 0人
期間 10/24〜10/28

●本文

「ハロウィンって知ってるかね?」
 劇団内で『馬鹿団長』と陰口を叩かれる男。
 頭は冴えてて、行動力もあるが、その才能を碌な事に使わないと劇団はおろか、所属するWEAですら言われている劇団瞳倶羅(どぐら)団長・鹿斗(しかと)。
 まあ、今回の思いつきも案の定碌でもなかったわけで。

「ハロウィンといいますと、子供達がカボチャのランタンを持って近所を回る――」
 と佐渡団員。
 ちなみに元々は蕪を使うとか。
「そう、
 カボチャ爆弾と血の滴る包丁を手に御近所を一軒一軒練り歩き、強奪した菓子の量が最も多かった子供がその年の『神に選ばれし聖人』と認められる、というアレだ」
「――――」
「――――」
 佐渡(さど)団員も小鈴(こりん)団員も固まっている中、
「‥‥あ〜、団長、もうツッコムのも面倒なので流させていただきますが、
 つまりは何がしたいので?」
「聞き上手だね、樺太(からふと)君。
 つまりはアレだ。
 そろそろ世界が終わりに近づいている中、我が劇団瞳倶羅の知名度はあまりに低い。
 先日のコスプレ戦隊も我々は裏出資だしな」
 世界が終わりに近づいているとか言ってるイミがわかりません。楽屋オチ自重。
 まあ、要するに、
「いわゆるチンドン屋というやつですね。劇団の宣伝行脚を、と」
「呑みこみが早いね、佐渡君。
 そういうこと。
 せっかくハロウィンが近いんだから、ハロウィンパーティとして派手にいこうじゃあないか」
「了解しました。ではメンバー募集をかけておきます」
(待て、佐渡)
 小声で呼び止める副団長・樺太。
(依頼内容に含めておけ、『団長の奇行を止められる者・優遇』と)
 この時点で彼は甘い。
 優遇ではなく必須条件にすべきだったのではなかろうか。


○ハロウィンパーティスタッフ募集/
 派手なパフォーマンスを披露しながら街を歩き、劇団の宣伝をする一行。(昔なつかしチンドン屋です)
 宣伝するのは劇団瞳倶羅自体となります。
 と、いっても役者も公演作品も少ない劇団です。
 とりあえずはお客達の目を引き、名前を覚えてもらえるならよし、でしょう。
 ハロウィンの衣装で盛り上げてください。
(ハロウィン自体は10月31日ですが、クリスマスもイヴイヴ(イヴの前日)とか通っちゃっている昨今問題はないでしょう(え)

●今回の参加者

 fa0361 白鳥沢 優雅(18歳・♂・小鳥)
 fa1463 姫乃 唯(15歳・♀・小鳥)
 fa3066 エミリオ・カルマ(18歳・♂・トカゲ)
 fa3225 森ヶ岡 樹(21歳・♂・兎)
 fa5331 倉瀬 凛(14歳・♂・猫)
 fa5471 加波保利美(21歳・♀・蝙蝠)
 fa5669 藤緒(39歳・♀・狼)
 fa5775 メル(16歳・♂・竜)

●リプレイ本文

●世界の始まりの日
 全てはここから始まったのかもしれない。
「あの、瞳倶羅って何て読むんですかー?
 ‥‥へぇ〜、これで「どぐら」って読むんだぁ。
 『どうぐら』かと思ってた!」
 姫乃唯(fa1463)は無邪気に感想をもらした。
 そう、無邪気に。あくまで悪気なく。
「読み辛いお名前だからなかなか覚えて貰えないんじゃ‥‥あ、な、何でもないですー!」
 鹿斗が何か言おうとしたのを察し、慌てて誤魔化すユイ。
 だがそのチャンスを見逃す『団長キラー』藤緒(fa5669)ではなかった。
「そう、そもそも『劇団瞳倶羅』なぞいう名が問題だ。
 ぶっちゃけ読めん!」
 藤こと藤緒は樺太副団長に団長を抑える秘密兵器的に採用されたとか。
(「人生、山あり谷ありだから愉快なんだ。
  今現在を人生の谷だと思え、樺太君」)
 果たして彼女自身にその気があるのかどうかはわからない。
 ただ面白いものを弄ってみたかったのかもしれない。
 いや、多分そうだろう。
「可愛く『劇団どぐら』と平仮名にしてみるとか、
 似たようなところで『土偶』にするとかどうだ?
 『埴輪』でも可」
 最早ドグラ関係ない。
(‥‥そういうの頼んだ訳ではないのだが‥‥)
 心で突っ込みつつも表情は笑っている樺太氏。
 おそらく単純に目の上のタンコブがいじめられているのが爽快なだけであろう。
「ついでなので鹿斗君は、劇団瞳倶羅の命名理由を、原稿用紙五枚以上十枚以下で‥‥」
 時間終わっちゃいますよ、藤さん。
「‥‥うむ、わかった」
 神妙な面持ちで鹿斗は答える。
「ではみんな、用意してくれ!
 明日からは劇団『埴輪』のパレードだ!!」
 いや、そうじゃないだろう。
 なんでそっちにいっちゃうかなあ。
「す、凄いです! 鹿斗団長さん!
 凄く型にはまらない方だと聞いてましたが想像以上でした! なんていうか斜め上!
 くー、やっぱり演技の道にはそういう自由な発想っていうのが大事ですよね!」
 りみちゃんこと加波保利美(fa5471)は一人感銘を受けている。
 いや、アナタの反応が斜め上です。
 みんな呆れてますから。

●劇団埴輪、よろしく!
 アルゼンチン出身のエミリオ・カルマ(fa3066)は日本人と同じくハロウィンの経験自体はほとんどなかったが、街頭パレードの経験自体には光るものがあった。
 何よりやる気があった。
 衣装は全身を黒マントで覆い、頭にはジャック・オ・ランタンの被り物。
 頭の重さを克服すべく、前夜必死に練習した。
 彼は真面目だった。マジメにハロウィンに備えた。
 だから彼は何も悪くはない。
(「マジメに宣伝やりたいなら、お菓子と一緒にチラシを配れば宣伝効果はあるんじゃないかと思うけど」)
 リーオの提案に団長は大真面目に答えた。
(「ふむ、いいな。チラシ。確か以前の公演の原本があった筈だ。手を加えれば間に合うだろう。
  ‥‥ところで、お菓子ってなんだい?」)
「Trick or Trick!!(イタズラさせなきゃイタズラするぞ!!)」
 もおかけ声からして間違っている。
 どこでこうなってしまったのか。
 やはりこの男の仕業と言わざるを得ない。

 リンこと倉瀬凛(fa5331)も頑張って止めた。
(「え、カボチャ爆弾と包丁を持って歩くの!?
  ちょっとナマハゲっぽい‥‥って、そうじゃなくて!
  駄目ですよっ、銃刀法違反で捕まっちゃいますっ!」)
(「そうだな、許可はとっておかなければ」)
(「そうじゃなくって!!」)
「ほら、子供が恐がってますよ〜。
 ハロウィンとしては問題ないのかもしれないけど、劇団の宣伝としては良くないんじゃ‥‥。
 いや、名前は覚えて貰えるかもしれませんけど。
 悪い方に覚えられてどうするんですか!」
「変だな。せっかく名前も可愛らしく変えたのに」
「‥‥『劇団埴輪』って可愛らしいですか?」
 まあ、以前より毒々しさは抜けたかもしれないが。
 何を言っても無駄だと悟ったリンはパレードに集中する事にした。
 役者経験も少なくない割には仮装に羞恥心の拭えないリンだったが、クラリネットを吹けばそれも消し飛んだ。
 衣装は黒猫。といっても黒ずくめの服装に猫耳カチューシャと尻尾をつけただけのものだが。
「半獣化すればよかったのに」
 恐ろしい事をさらりという団長。この人は隠す気があるのだろうか。
 まさかその狐の尻尾、本物じゃあるまいな。

 黒猫のリンとペアになっているのが魔法使いのユイだった。
 とんがり帽子にスリップドレス、ロングブーツにマント、もちろんすべて黒一色。
 箒を持って黒猫を引き連れ、完璧なハロウィンの魔女の出来上がり。
「儂は劇団埴輪の魔法使いじゃ。覚えておくがいい。
 忘れてしまう悪い子には、悪戯するぞぇ」
「わあ、綺麗な魔法使いのお姉ちゃん!」
 物怖じしない子供達である。最近の子供は皆こうなのだろうか。
「ちゃんと覚えたかぇ? よし、覚えてくれた良い子にはコレをやろう」
 老婆の口調の全く似合わない透き通った声で子供達をあやしながら飴玉と劇団のパンフレットを渡す。
 『劇団埴輪』と。
 本気で変える気なのか。ていうか、どうでもいいなら初めからそんなめんどい名前にすなよ。
「こら、ユイ君」
「は、はい? 私、何かしましたか?」
 飴玉が拙かったのだろうか、最近は色々厳しいようだし。
 予想は半分だけ正解だった。
「何、お菓子とかあげてるんだ。これはハロウィンだぞ。意味わからん」
 え〜?
 アンタが意味わからんわ、団長。

「そうだよ、真面目にやりなよ」
 と、団長の味方の金髪少年、メル(fa5775)。
 明らかな言いがかりでユイちゃん可哀想。
「今日のパレードを劇団瞳倶羅改め劇団埴輪は世界征服の第一歩とするんだよ!」
 またなにか言い出しました。団長すら驚いていますよ。
 あ、違うや。なにか面白そうな事になったと期待している顔ですね。
 メルの仮装は天使の格好。
 歌の得意でない彼は自慢の軽業で人目を惹きつける。
 いまいちクラシックな格好には似合うものではないが、
 まあ、天使って飛ぶものだし。
「殺陣を見せてもいいんだけど、許可がないと駄目かなー?」
 そんなメルに団長は天使に似合いそうな細剣を渡し、
「許可は申請してある。使いたまえ。
 樺太君、相手を」
「何故私が!?」
「仕方なかろう。唯一殺陣の可能なスタッフが欠席なのだから」
「勝負だよっ、樺太さん!」
「ちょっ、待っ‥‥!」
 メルの瞳には本気の殺意があったようななかったような‥‥。
「こうして少しずつ知名度を上げて、いつか劇団埴輪が世界を制する日が来るように、頑張ろー!」
 冗談に聞こえないから怖い‥‥。

(クラ‥‥樺太さんも大変だよねぇ‥‥)
 クラって何?
 列の最後尾、こっそりとダンボール箱の中から様子を窺うのはイッチーこと森ヶ岡樹(fa3225)。
 せっかくのホワイトラビットの仮装もダンボールに入っていては台無しだった。
 いや、そもそも黒いのだからホワイトではないのだが、『ブラックラビット』というキャラクターもあまり聞いたことはない。聞いたことがないだけかもしれないが。
 ともあれ、彼は安全圏に一人避難していた。
 先程まではリンと一緒にサックスを吹いていたのだが。
(えと、無理です。
 僕にどうにかできるとは思わないからごめんなさい)
 団長がメルに危険なモノを渡した時点で緊急避難。潜入工作員よろしくダンボールから外を覗き、追いかける事となった。
(それにしても、生活費を稼ぐためにいろいろやってきたけど、楽しかったなぁ、音楽も、お芝居とかも)
 プロである他のスタッフと違い、イッチーはアルバイトの音大生。
 音楽と学費の為にやってきたアルバイトだったが、
(もっときちんとお芝居とかやってみたいな)
 いつの間にか音楽以外のものにも興味が湧いてきていたようだ。
(これが終わったら僕も埴輪に入れてくださいってお願いしてみよう)
 一つの決心を胸に秘めた夜だった。
 彼が音楽家になるのか、役者として花咲く事になるのかはまた別のお話。
 とりあえず今は、
 そこから出て皆の公演に加わりましょう。

●やっぱり劇団瞳倶羅よろしく!
 二日目を迎えてのことだった。
 口を開いたのは藤。
「やはり埴輪はどうかと思うよ」
 『自分で言っておいて』
 団員他、スタッフははじめて団長以外に突っ込んだ。
(昨日のメルといい‥‥こいつら、トラブルの元かもしれん‥‥)
 樺太正解。
「自ら名付けた劇団名を部外者の意見でコロコロと変えるのが団長の方針か!?
 今までの公演もあったろう! それを観に来たお客さんはどうなる!?」
 『なら言うなよ』
 誰もが思った。
「むう‥‥尤もだ。
 樺太、佐渡、小鈴」
 嫌な予感がした。
「ビラとパンフを刷り直せ!
 あと衣装のプリントと刺繍もだ!」
 こいつら失敗だった。苦労が三倍になった。
 嘆かずにはおれない団員達だった。

「瞳はどーぐーうーのード
 倶はグレイのグー♪」
 煌びやかな衣装で歌う藤。
 本人曰く『魔女』らしい。
 ユイのそれとは似ても似つかないが。
 背中から生えてる白金色のモノは翼にも背景にもみえる。大きさ的に。年末とかに出そうな。
(「魔女が黒衣装だと誰が決めた?
  ひっそりこっそり闇に生きるばかりが魔女ではなかろう
  ちゃっかり王城にお呼ばれする魔女だっているからな!
  自己主張こそ宣伝の原点‥‥そうだろう?」)
 この屁理屈‥‥こいつら似てる。樺太達は思ったそうな。
「羅はラーストのーラー♪」
(というか、単にこれが歌いたかっただけなんじゃないだろうか‥‥)

「どーぐーら♪ どーぐーら♪」
 バックコーラスのように歌うのはりみちゃん。
 衣装は頭からシーツを被ったシンプルな外国の「おばけ」。「ゴースト」といってもいい。
 怖さより可愛らしさが前面に出た仮装は声優のりみの声も相まって子供受けにはピッタリだ。
 魔女のユイと一緒にお菓子を配る。
 今度は『劇団瞳倶羅』として。
 『昨日の営業はなんだったんだ』と微塵も思わないのが健気である。
「だから何故お菓子なんだ。意味わからん」
 この団長まさか本気で言ってるんじゃあるまいな。

 結局、樺太達の心配は杞憂に終わり、団長が一般市民に迷惑をかけるようなことはなかった。
 藤やメルが違う方向に暴走し、団長を満足させた結果かもしれない。
 その分、樺太達の苦労は増えた訳だが。

「団長さん! 踊ろ! ね、ね!」
 強引にダンスに引き込んだリーオの必殺イナバウアーで一撃昏倒させたのもその原因の一つだろう。
 もちろん本人はわざとではない。たまたま大きすぎる被り物が凶器になっただけのこと。
 ただ、リーオの給料袋には何故か多めのボーナスが入っていたことは会計佐渡だけの秘密である。

「とりあえず宣伝は行ったが、自己修練も怠らぬように
 観てガッカリでは――宣伝した私達の立場がない!」
 檄を飛ばす藤。確かに宣伝効果は抜群だった。
 来たる年末、劇団瞳倶羅に客が来るかは後は彼ら次第。
 ユイは格別の笑顔でパンフを配る。
「劇団瞳倶羅でーす。宜しかったらこれ、御覧になって下さい。宜しくお願いしまーす。ハッピーハロウィン!」