剣の舞アジア・オセアニア

種類 ショート
担当 冬斗
芸能 2Lv以上
獣人 2Lv以上
難度 やや難
報酬 2.6万円
参加人数 8人
サポート 0人
期間 10/23〜10/25

●本文

 天下泰平の世、
 侍達は乱世を生き抜く為の剣を捨て、治世を治める為、書を読み、法を学ぶ。
 剣に優れているだけでは生きられぬ社会。
 しかし、だからこそ剣士達は懸命に生きようとする。
 己が存在を知らしめるように。
 天に弓引くかのように愚かしくも美しく剣を磨く。

 御前試合。
 剣を極める者達が我こそはと最強を示す泰平の世の戦場(いくさば)。
 だが、その真実は欲と虚栄の満ちる政(まつりごと)の場。
 将軍の御前にて自らの流派の力を示す。
 その謀は表のみならず、裏にまで伸び、剣を交えるよりも遥かに早く戦いは始まる。
 全ては天下をその剣にて手にする為。
 敵を斬ろうと光の掴めぬ剣士達は、こうやって生き抜く術を磨いていた。
 それは力ない一介の剣士達も同じこと。
 彼らは彼らで仕官の為にその腕を振るう。
 政に剣を使う者達と志において大差ない。
 だが、そうでない者達もいる。
 己が剣に矜持を持ち、政ではなく、目には見えないなにかに『天下』を見出す者らも。

 いずれにせよ、
 強者達は集まった。
 権謀術数渦巻く御前試合。
 光を手にするのは果たしてどの者か――。


○舞台演劇『剣の舞』
 キャスト募集/
 殺陣の出来る剣士役。
 その他、配役次第では殺陣(格闘)は必要ありません。
 剣士役他、性別年齢は問いません。

●今回の参加者

 fa0225 烈飛龍(38歳・♂・虎)
 fa0826 雨堂 零慈(20歳・♂・竜)
 fa1414 伊達 斎(30歳・♂・獅子)
 fa1790 タケシ本郷(40歳・♂・虎)
 fa2850 琥竜(26歳・♂・トカゲ)
 fa3090 辰巳 空(18歳・♂・竜)
 fa3411 渡会 飛鳥(17歳・♀・兎)
 fa3928 大空 小次郎(18歳・♂・犬)

●リプレイ本文

●CAST
 柳生兵庫利兼‥‥烈飛龍(fa0225)
 宮本庵定次‥‥雨堂零慈(fa0826)
 柳生宗法‥‥伊達斎(fa1414)
 本郷裕喜‥‥タケシ本郷(fa1790)
 草壁佐久新‥‥辰巳空(fa3090)
 雪‥‥渡会飛鳥(fa3411)
 柳生石舟斎‥‥大空小次郎(fa3928)

※この演目はフィクションである為、実在の人物名とは一致しない事があります。
 一致する人物も含め、あくまで架空の人物としてお楽しみください。

●陰謀の予感
 雪がそれを耳にしたのは偶然だった。
 偶然、いつもより早く目覚めた彼女は、偶然、父に挨拶をしようと、
 それは『虫の知らせ』というものだったのかもしれない。
「引き受けて貰えますな」
 相手の声には拒絶を許さぬ重さがあった。
「あの声は確か‥‥」
 聞き覚えのある声だ。
「もしやまた、御前試合の件で父様に頼み事を‥‥?」
 御前試合は二日後。
 男が父の元に訪れるのは大抵がこのような時だった。
 ならば用件も容易に想像がつく。
「心中お察し致します。
 しかし、貴殿が協力して戴けぬのであれば、我等の手だけで事を進めねばなりませぬ」
 それが何を意味するのか。
「貴殿の協力さえあれば無用な犠牲は避けられましょう。医師として、やってはもらえませぬか?」
 とんだ詭弁である。
 要は父の医術を御前試合にて陰謀と利用する事。
 毒を盛る。負傷を理由に失格を命ずる。方法はいくらでもある。
「医の道は人を生かす道。人に害をなすものであってはいけないはずなのに‥‥」
 男の口振りからして、相手を死に至らしめる事はないようだが。
 もっとも、そうでないとしても父が断る事が出来るのかは疑問である。
 男の力は大きい。父は家を守る為、頷かざるを得ないだろう。
「良い返事を期待しております」
 答えはわかりきっているというのに。男は襖を開け、退室する。
 廊下の曲がり角で雪と鉢合わせた。
 雪に会釈だけを交わし、男は去っていく。
 聞いていた事に気付かれたか。だとしてもなんということもない話なのだろう。少なくとも彼にとっては。
 自分のような小娘が口出すべきことではないのだ。
 そう決めた雪は何も聞く事無く、父の部屋で提言した。
「どうか父様。雪の事は構わず、己の信ずる道を歩んでくださいまし」

●剣の道はいずこ
 御前試合前日。
 明日の為、宿のとれる者は既に会場に足を運んでいる。
 宮本庵定次(みやもといおりさだつぐ)もその一人だった。
(師も酷いものだ‥‥師自身が出ればこの様な試合、楽に片付きそうなのに‥‥)
 天下無双と賞された稀代の剣豪の唯一の弟子。
 その肩書きは庵にとって誇らしくもあり、同時に面映くもあった。
(‥‥まぁ、拙者も他の流派と剣を交える事が出来るからいいけどな‥‥)
 自分はまだ師には遠く及ばない。
 そう考える彼にとって、この御前試合は格好の修練の場である。
 師もそのつもりで自分を代理と出したのであろう。
 師の気遣いが愚痴りつつも嬉しくあり、そして、
(負けられん‥‥拙者は師の代理‥‥拙者が負ければ師が負けたと思われよう‥‥)
 かかる重圧を、だが試合にて示すのみと、内なる炎を灯す。

「あれが宮本庵か‥‥師と違って遅れては来ぬのだな‥‥」
 離れの屋敷から庵を見て軽口を叩く柳生宗法(やぎゅうむねのり)。
「聞いておられるのか、叔父上?」
 無論聞こえている。だからこそ話をはぐらかせたのだ。
「剣を政の道具とするとは、開祖が聞いたら何と思うのやら‥‥」
 柳生兵庫利兼。尾張藩剣術指南役にして、柳生新陰流宗家。
 宗法らの『江戸柳生』に対して、『尾張柳生』と呼ばれているそれは互いに大きく方向を異ならせていた。
「それは剣術家の意見だ‥‥今の世の中それだけではやっていけぬ」
 武の『尾張柳生』と政の『江戸柳生』。
 意見が噛み合わぬのは当然である。
 それを悟ったか、利兼もそれ以上は追及せず、
「御前試合には私と御祖父様が参加致します。尾張柳生として」
「そうか」
 あくまで『江戸柳生』とは違う立場を強調する。
 その上で、
「御前での立ち会いでは勝ち目がないと知った流派の者が、裏で何か仕掛けてくるやも知れません。
 万が一そのような事が起きれば、幕府兵法指南役としての体面に傷が付きましょう。
 そのような事が無きよう、手配をお願い出来ますでしょうか?」
 痛烈な皮肉である。
 この場合の『勝ち目がないと知った流派』とは言うまでもなく、江戸柳生。
 利兼は宗法に『小細工を弄するな』と釘を刺しているのだ。
「‥‥いいだろう。この屋敷にいる限り、お前達には傷一つつけさせぬよう命じておく」
 それを全面的に信用した訳ではない。
 だが、牽制にはなるだろう。
「‥‥新陰流の一門としての活躍、期待している」
 それは利兼の皮肉に皮肉をもって返したのか、部屋を去る利兼の背に宗法はそう告げる。
 一人残された宗法は呟く。
「剣術家の意見、か‥‥まるで自分が剣術家でない‥‥政治家だと認めたかのような言葉だな、宗法‥‥」

●雄、並び立つ
「それまで! 勝者、柳生兵庫利兼!」
 新陰流宗家は隙を見せぬ剣腕を以ってその威光を見せつける。
「貴殿は良く戦われた。ただ、相手がこの利兼であった事が不運だったのだな」

「上様、あれが柳生の剣にございます。
 その強さは尾張においても何ら損じる事はありませぬ」
 利兼の主張とは裏腹に、宗法はあくまで彼の剣を『同じ柳生』と同列に置く。
 いや、むしろそれを逆手にとってさえいた。
 『尾張の柳生も江戸には負けてはいない』と。
 そう聞けば、知らぬ者は誰しも利兼以上の強さを宗法達に見るであろう。

「それまで! 勝者、宮本庵定次!」
 剣聖の弟子も負けじと豪剣を披露する。
「御主、拙者に脇差を使わせたのは流石だが‥‥それまでだ‥‥」
 だが、これには宗法、
「‥‥確かに強い‥‥ですが褒められる強さではございませぬな‥‥。
 侍の心ともいうべき本差しを囮にするなど‥‥
 『勝てれば良い』という思想はこの治世の武士には相応しいとは言いかねます‥‥」
 庵には聞こえてはいなかったが、仮に聞こえていたとしてもなんら気にすることはなかったであろう。
 型にとらわれぬ自由な剣が師の信条。
 誇りこそすれ、恥じる事はなんらない。

「それまで! 勝者、本郷裕喜(ほんごうゆうき)!」
 名も知られぬ浪人の剣技に喝采があがる。
 武骨な男だった。まるで野生の虎のような。
「――あちらはいささか古臭過ぎますな」
 宗法、これにも難色を示す。
「戦国の世の介者剣法。江戸の世には野蛮過ぎます」
 偽りを言ったつもりはない。
 だが、新しければ『心がない』と眉をひそめ、古ければ『野蛮』と蔑む。
 ――もしかすると、宗法の批判自体、彼らの剣に対する羨望と嫉妬があったのかもしれない。

「それまで! 勝者、柳生石舟斎!」
 そして利兼の祖父であり、宗法の父、石舟斎も孫同様、
 洗練された剣技と威圧感を以って『柳生新陰流』開祖の実力を見せしめる。
 弱肉強食の戦において、この内の誰かが数刻後敗れることになるのは確かな事であった。

●柳生敗れる
「西、本郷裕喜、前へ!」
 本郷の二試合目が始まる。
 相手は柳生の門下。宗法率いる江戸柳生の代表である。
(勝てる‥‥か‥‥?)
 宗法の目から見ても本郷の優位は明らかだった。
 だが、将軍家に披露する御前試合において、指南役の柳生が名も知れぬ浪人に負けるなど在り得ない。在ってはならない。
 宗法の憂慮をよそに試合は始まる。

「‥‥っ! おのれ‥‥!」
 試合は予想を覆し、本郷の劣勢となった。
 いや、そもそも剣技の優劣など余程の達人でもなければ剣を交えるまではわからぬ。
 そういう意味では大方の予想通りの結果なのであろう。
 事実、違和感に気付くものなど数える程しかいない。
(叔父上‥‥まさか‥‥!)
 利兼の視線の先、宗法は表情を崩さず。心の内は読み取れず。
 だが、その実、動揺は宗法にもあった。
(空‥‥!)
 視線は動かさず、宗法の意識は参加者の一人に向いていた。
 草壁佐久新。
 本郷同様、仕官目的で御前試合に名乗り出た無名の剣客。
 しかし、その正体は公儀の隠密。『空』と呼ばれている。
 つまりは宗法の子飼い。
 おそらくは本郷に何かしたのだろう。
 勝手な振る舞いであったが、咎める気はなかった。
 柳生が敗れて困るのは彼らとて同じ。
 忍に『主を守るな』というのは『死』を命ずるも同義。
 いや、それすらも詭弁だろう。
 空の動向に宗法は薄々も感づいていた。
 彼がいなければ、
(私とて‥‥いや、言うまい)

 違和感に気付いたのは利兼らだけではなかった。
 医学に長け、試合の動向を危ぶんでいた雪もまた――。
(あれは‥‥父様の‥‥!)
 一試合目が終わった後、昼飯を振舞った。
 おそらくはそこに――。
 目に見えて症状が出るようでは疑いが出る。
 だから、ごく微量、体調が優れぬと本人すら気付かぬように。

「おおおおっ!!」
 雄叫びと共に本郷の剛剣が柳生の代表を襲う。
 だが、その剣に午前中の勢いはない。
 先の先を仕掛ける本郷の剣に、後の先で相対する柳生の剣は元々相性が良かった。
 返しの刃を受けそうになる本郷。
 木剣とてまともに喰らえば戦いを続けるのは容易ではない。
 それ以前におそらく続行不能と止めが入るだろう。
(悪く思うな‥‥これも柳生の為‥‥)
 佐久新が柳生の勝ちを確信する。
 しかし、
「嘗めるなぁ!!」
(なにっ!?)
 勝負は八割方、柳生の優勢だった。
 しかし、そこから返したのは偏に気力のなせる業。

(これが江戸柳生の脆さです。叔父上、精進なされよ‥‥)
 心中で宗法を嗜めるも在野にもまだ見ぬ剣豪がいる事に対して心震える利兼だった。

●心乱れて
「次! 東、草壁佐久新、前へ!」
 薬の量を加減したのは甘かったかもしれない。
 見切りの甘さを悔いる佐久新。
 所詮、この場は柳生の庭同然。
 多少無茶をしてもごまかしが利くのだから、もう少し強引な手段でも良かったと。
「西、宮本庵定次、前へ!」
 ならばこそ、この相手だけは確実に倒さねばならない。
 庵が勝てば、次の相手は石舟斎。
 宗家の実力は信頼している。
 しかし、先程の本郷の一戦もある。
 万に一つも間違いがあってはならない。


 ――時は少しだけ遡り。
「庵殿は仕官がお目当てか?」
 昼食時に佐久新に誘われた庵は人目のつかぬところで話をしていた。
 庵がついて来たのは、わかるものにはわかる手練の気配に興味を持ったが故。
「興味はない。拙者は師の元で剣を磨きつづけるのみだ」
 剣豪同士の会話を期待していた庵は少なからず落胆を覚える。
「そうか、それを聞いて安心した」
 わかるように醜く顔を歪めた佐久新は庵に小判を見せつける。
「私はどうしても城勤めにならなくてはいけなくてな。
 お主とて、この試合に勝ち、褒美を貰うにしてもこの先あと何人も達人を倒さねばならぬ。
 これだけの額、一試合で受け取るには充分な量だろう?」
「貴様‥‥!」

(若い‥‥な)
 佐久新は今度こそ勝利を確信する。
 彼は初めから庵を金で買収できるとは思ってはいない。
 その心を曇らせる事が出来るなら充分だ。
 『怒り』という名の曇りを。
 さらに、

「なっ!?」
『あれは‥‥!?』
 姿を見せた佐久新に会場中が言葉を失う。
 一試合目は腕は立つが、それ以外は目立つ事のない剣士だった。
 だが、今は、
 二刀。
 それも船の櫂と小太刀を構えるその姿は素人目にも噂の剣聖を想像させる。
「どうした? これが私の流派『円明流』。
 まさか二刀が貴方だけのものとお思いか?」
 それ自体に嘘はない。
 これが彼の本気。だからこそ庵を相手に渡り合える自信もある。
 しかし、その手の中の獲物は明らかな挑発。
 そしてその構えも、
 見る者が見れば違いは明らかだが、多くの人間は二刀に、なにより船の櫂を使った木剣に惑わされる。
「師を‥‥愚弄する気か!!」
 怒りに目の曇った庵と沈着冷静の佐久新。
 達人同士の勝負であれば、結果は明らかだった。

●剣の舞
 負けた。
 卑劣な策に踊らされ。
 いや、そうではない。
 心乱した自分が未熟だったのだ。
「‥‥申し訳‥‥ありません‥‥師よ‥‥!」
 ただただ自分の至らなさが悔しい。
 人知れず会場を後にする庵に
「待て」
 声をかける男がいた。


 佐久新最後の試合。
 これに敗れ、『草壁佐久新』の役目は終える。
 が、その相手は未だ姿を見せず。
「父上、父上はどうした!?」
「――手紙を預かっております」
 宗法にそれを渡す利兼。
 そこには――。
「東、柳生石舟斎殿! 居られぬのか!?」


「身内が失礼をした」
「石舟斎‥‥殿‥‥!」
 いるはずのない人物に呼び止められ、驚愕する。
「もし、許されるのであれば、私の剣を以って非礼をお詫びしよう」
 在り得ない。何故彼が?
 だが、柳生宗主との果し合いならば、
 それは望むところ。
「感謝する。石舟斎殿――!」


「で、では予定を繰り上げ、柳生兵庫利兼殿と草壁佐久新の試合を――」
「待て」
 止めたのは開催役の一人。江戸柳生の当主。
「父の不始末は私が拭いましょう。佐久新殿、よろしいか?」
 驚くのは佐久新だけではない。
「叔父上‥‥何故‥‥?」
「柳生同士の戦い、上様に献上するには相応しかろう?」
 柳生同士なら敗れても名誉が損なわれる事はない。そういう簡単な問題でもない。
 当主であり、将軍家の剣術指南役である宗法の敗北は相手が身内とはいえ許されるものではない。
 なのに、
「私とて、剣士には違いなかったという事かもな――」
 その言葉に利兼はこれ以上語る無粋さを知る。

「手加減はしませぬぞ、当主殿」
「応、来るがいい、若造!」