竹盗物語アジア・オセアニア
種類 |
ショート
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担当 |
冬斗
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芸能 |
1Lv以上
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獣人 |
フリー
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難度 |
普通
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報酬 |
1万円
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参加人数 |
8人
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サポート |
0人
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期間 |
06/22〜06/26
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●本文
―――私は月へと帰らなければなりません。
なよ竹のかぐや姫と呼ばれた絶世の美女はそう言い残し、地上を去っていった。
別れを惜しむ老夫婦。
悲嘆にくれる求婚者。
それが、「彼女」には我慢ならなかった。
「姫は月の王と婚姻を結びます」
刀を帯び、男のような姿をした女は朔夜と名乗った。
「姫、貴方々がかぐやと呼ぶあの御方は月の正統なる後継者です。
月にて争いが起きた為に地上にと出されました。
ですが、今、月は新たな王の手によって統治されました。
王は月を治める為の証として姫の血統を必要としております」
姫が月へと旅立って後日、朔夜は五人の姫の求婚者達の前にそれぞれ現れ、こう伝えた。
「姫はそれを望んでいるのか?
初めから我々の愛を受け入れる気はなかった、と」
僅かに彼女の瞳の色が揺れるのに気付くものはいない。
「王を拒み、地上に留まれば、王は姫を奪いにやってきます。
王の力は地上の人々を傷つけることとなるでしょう」
淡々と事実のみを伝える朔夜の表情は、ただ冷たかった。
自身の感情が混じってもいなければ、相手の感情も関係はない、と言う様に。
「‥‥では姫は‥‥!」
「それは私の知るところではありません」
答えを求める男達を、言葉で拒絶する。
「ですが、姫が戻らなければ、貴方々も姫を育てられた御夫婦もただでは済みませんでした」
「‥‥‥‥‥」
彼女の口調には感情が感じられないものの、言葉そのものには叱責が込められているようだった。
少なくとも男達にはそう聞き取れた。
彼女は一つだけ嘘をついていた。
姫は求婚者達を想っていた。
そのひたむきな情熱に、五人の内の誰かと決めることが出来ないほどに苦しんでいた。
だからこそ地上を去った。
大切な両親と愛する男達を傷つけないために。
今まで男達の何十倍もの月日を悩み、彼らの流した何百倍もの涙を隠していたというのに――。
「明日の晩、私は地上と貴方々の無事という姫と王との約束を確認し、月へ戻ります。
私の力では月までいけるのは数人――そう、五人くらいがせいぜいでしょうが、問題ないでしょう。
今、地上にいる月の者は私だけなのですから」
だからこれは親切でもなければ忠告でもない。
挑戦だ。
『姫を手に入れる勇気はあるか?
共もなく、力も及ばぬ異界へと赴き』
「そうだ、貴方々の手に入れた秘宝、月の力の宿りし神器ではあるのですが――お好きにお使いください。
回収は命令に入ってはいませんから」
朔夜は男達に憤りを覚えていたが、同時に期待をしていた。
触れるものなきと言われていた月の秘宝。
それを手に入れたのは彼らの力でもなければ知恵でもない。
そう、信じたくなっていたから――。
・キャスト
かぐや姫
石作皇子(いしづくりのみこ)仏の御石の鉢
車持皇子(くらもちのみこ)蓬莱の玉の枝
右大臣阿倍御主人(あべのみうし)火鼠の裘
大納言大伴御行(おおとものみゆき)龍の首の珠
中納言石上麻呂(いそのかみまろたり)燕の子安貝
朔夜
月の王
○
舞台演劇。
竹取物語の後日譚‥‥というより完全なアナザーストーリー。
五人の求婚者達はヘタレでもなければきちんと秘宝を持ち帰っています。
(希望があるなら一人や二人ヘタレにしてもかまいませんが)
そういう意味ではかぐや姫は約束を破ってしまった訳ですが‥‥そこはこういう事情で。
朔夜はかぐやの護衛役ですが、『立場上は』二人の婚姻を見守らねばなりません。
月の王には名前はありません。(呼ぶ時は「王」または「月の王」と)
名前に提案がある場合は付けてしまっても構いませんが、その時も呼称(「王」)は変わりません。(作中には出るかもしれません)
五つの秘宝にはそれぞれ能力が宿っていて、持ち主はそれを理解し、使うことが出来ます。
能力の詳細は設定可能です。(なければこちらで決定します)
役柄の口調(特に一人称、二人称)や性別などは出来るだけ申告してください。
なければこちらで用意することになります。(恋愛物ですので性別は役柄どおりになるとは思いますが)
●リプレイ本文
●CAST
「なよ竹のかぐや姫」‥‥小塚さえ(fa1715)
石作皇子(いしづくりのみこ)‥‥克稀(fa5812)
車持皇子(くらもちのみこ)‥‥茜屋朱鷺人(fa2712)
右大臣阿倍御主人‥‥双葉 敏明(fa5778)
大納言大伴御行(おおとものみゆき)‥‥佐渡川ススム(fa3134)
中納言石上麻呂(いそのかみまろたり)‥‥椎名 硝子(fa4563)
朔夜‥‥芳稀(fa5810)
月の王‥‥水沢 鷹弘(fa3831)
●月(ルナ)へ‥‥
その晩、大納言大伴御行は一人、約束の場所へ姿を現した。
「朔夜」
その顔には決意と覚悟を見せ。
「我を姫の元へ連れて行ってくれ。一人だろうと構わん!」
そこに朔夜は何を見たのか、表情では何も語らず、
「いいでしょう」
歓迎も拒絶もせずに、
「では‥‥五人共月に来られる――よろしいのですね?」
ただ、想いを受け止めた。
「五人‥‥?
な!? お前ら!」
夜闇には既に四人の人影、月光に迎えられるかのように照らされて。
「やれやれ、お前もか。抜け駆けは完全に失敗だな? 石作皇子よ」
と車持皇子に振られ
「そんなつもりはない。‥確かに全員揃うとは思ってなかったが‥‥」
と石作皇子。どうやら最初に来たらしい。
「格好悪いな‥結局悩んだのは我一人か?」
そんなことはない。朔夜は内心驚いていた。
「では月に向かいますが‥‥私の役目は『月に帰る』ことです。貴方々をお連れすることではありません。
それはつまり――」
そう、戻ってこられる保障はないということ。
いや、むしろ戻っては来られまい。
一晩で出せる答えではない筈だ。
それでも婚姻までには姫の下に戻らねばならない朔夜には選択肢はなかった。
だから――半分八つ当たりすら入っていたのだ。
『どうせ貴方達には来られぬだろう』と。
それを――
「地の果て天竺まで行くも月へ参るも、姫絡みなら大差ない」
こうもあっさりと。
自分は間違ってはいなかった。この若者達なら――
「姫は私達を助ける為にその身を犠牲にしたと言うのか」
嘆くのは中納言石上麻呂。
「よもやその様な事情があったとは‥‥姫に怒りすら感じてしまっていた自分が恥ずかしい!」
それを石作皇子が、
「姫の真意に気付き地上に引きとめるべきだった――と今更悔やんでも仕方ない。
今から出来る事を…それだけだ」
「考えてみれば、いままで我々は姫をめぐる競争相手――無論、今もそれは変わってはいないが――こうやって五人で協力するなどとは初めてかもしれぬな」
右大臣阿倍御主人の言葉に車持皇子は頷く。
「月だろうが、どこだろうが俺は姫に会いに行く。お前らと一緒にな」
この若者達なら――
●月の姫と王
「選べなかった‥‥選ばなかった。伝えずに消えてしまえば、いつかわたくしのことは忘れてしまうはず‥‥」
彼女は深く沈んでいた。地上での別れのときより深く。
「‥‥いいえ、そんなのは嘘。そんなことは無いと知っているのに。あの方々の真摯な思いは、わかっているのに‥‥」
『終わらせたはず、自分の意志で選んだ筈』
自分と愛しい殿方、両親を傷つけて民の安寧を選んだ。
今でもそれは間違っているとは思わない。
ならばこうして心が痛いのは、きっと自分への罰。
自分さえ苦しんでいれば、愛する民は苦しまずに済む。
だけど――、
「婚姻前の花嫁の振る舞いとは思えぬな。相手が私でなければ離縁ものだぞ?」
月の王は一人苦しむ彼女に声をかける。
少し意外だ。
自分の態度に厭味を言うことが、ではない。
他人を思う気遣いがこの男にもあったことが。
「約束は、守っていただけますね?」
「明日まで大人しくしているならばな」
彼女の非難めいた視線もものともせずに尊大な王は答える。
「力でここまで月を押さえたのに、最後はわたくしの血統を頼らなければならない。ご自分が人の心を集めている自信がないのですか?」
「必要ない。王には王、姫には姫の役割があろう? お前こそ自らの役目から逃げる気か?」
王や姫に名はない。
捨てるのだ。
月に王は一人、姫も一人、ならば他に名など必要ない。
彼らは己がそれになった瞬間、それまでの名を捨てる。
『なよ竹のかぐや』も地上の人間がつけた名に過ぎない。
『姫』には『姫』以外の役割は認められない。
「この世界を統治して行くには、お前の血統と私の力が必要なのだ」
それまでの王達がそうしたように。
「貴方はわたくしを手に入れてこの月を支配する。そしてわたくしは真摯に思ってくださった方々から逃げ出し、想いの無い婚姻と言う代償を払うのです」
それまでの姫達がそうしたように。
いや、地上で暮らした姫など自分くらいか。
ならばいっそ地上になど――、
「そうだ。お前は逃げた。ならば選択肢はあるまい?」
王の言葉にはっとする。
叱りつけられる訳ではないが、事実のみを告げる王の言葉は彼女の胸に突き刺さる。
そうだ。結局自分のことばかり。
自分は逃げたのだ。
あんなに思ってくれていた方々から。
地上になんていかなければ、なんてそれこそ言い訳だ。
「‥‥お守りが帰ってきたぞ。私の役目もここまでだな」
「朔夜?」
姫の唯一気を許せた近衛兵にして友達。
朔夜が帰ってきたということは、地上は無事だったということ。
わかっていたことではある。
いままで地上に関心を持った王がいなかったわけではないが、彼は違う。
野心大きく見えるこの男は、月の統治にしか関心はない。
それでも、彼女の帰還という保障に姫は胸を撫で下ろす。
「明日の準備をしておけ。といってもお前は民の前に辛気臭い顔を見せなければ良いだけだがな」
憎まれ口とは裏腹に朔夜がくるまでしっかりと姫の相手をしていた王は、朔夜とすれ違いざまに
(お前のしたことは死体を五つ増やしただけだ。後悔しないことだな)
「‥‥ッ!?」
朔夜にだけ聞こえるように、そう呟いた。
「朔夜‥?」
友人の様子を案じて姫が声をかける。
「只今戻りました。ご安心を、地上は無事です。王は約束を違えませんでした」
改めて息をつく姫。
「‥‥そう、よかった‥‥」
それならば自分の犠牲には意味がある。そうだ、王の言うとおり辛気臭い顔は見せないようにしなければ。
「五人の方々もお元気です‥‥地の果て迄の秘宝探しに飽き足らず、月まで来られる程に」
「――――!!」
●同じ女を愛したから男だから――
「急がなければな‥‥夜が明ければ婚式が始まってしまう‥‥」
月には夜も昼もない。
だが『一日』は存在し、そうすれば婚式が始まり警備はより厳重になるだろう。
無論、前夜も警戒は薄くはないが、民が集まり完全に警戒されてしまうよりは遥かにましだ。
――全ては朔夜の言葉である。
(「私に出来るのはここまでです。
貴方々を月へお連れするとは言いましたが、手助けする約束はしていません。
後は貴方々自身の力でお進みなさい。私は先に戻ります」)
そう言いながらも彼女は教えてくれた。
教えたとは言っても
(「今晩は重々警戒せねばなりません。明日になればもはや賊は手出しを出来ないでしょう。
賊が入るなら今晩ですから」)
と、ずいぶんと回りくどいものではあったが。
「全く、冷たいんだか親切なんだか‥‥」
大伴御行は龍の首の珠を手に、皆を導く。
龍とは雷神、天を見下ろすもの。
その珠はいかなるものをも見通すことが可能だ。
多少の警備など物の数ではない。
「‥‥凄いな、これは‥秘宝というだけのことはある‥‥」
戦場で使えば大抵の戦には勝てるだろう。
「大伴‥‥不埒な事には使うなよ?」
「使うか! ん‥いや、悪くないかもしれぬ‥‥」
車持皇子の茶々に何故か真剣に悩む大伴御行。
悪い気分ではなかった。
結局のところ自分達は恋敵。姫を助けたところで姫が選ぶのはこの中の誰か一人。
だが、
それでもこうやって笑いあえたのは無駄なことではないと。
(「姫に愛情も持っていない月の王の元に縛り付けられ、姫が幸せな筈はない。私は覚悟は出来ている、優しい姫を月の王から解放したい」)
別れ際に石上麻呂は朔夜にそう言った。
想いは皆同じ。
姫がこの中の誰を選ぼうが――自分が選ばれまいが、悔やむことこそすれ、恨むことはないだろうと、
素直にそう思えた。
「待て! ここから先は‥‥」
阿倍御主人が制する。
いかに周りが見えていようと抜けられぬ警備はある。
姫の御殿に隙はなく、ここから先は実力行使もやむを得まい。
「けれど、まだ姫の寝所には程遠いな。ここで騒ぎを起こすと後がきついぞ」
「お前が『寝所』というといやらしいぞ」
一言余計な車持皇子。
「ならここは俺の出番だな。阿倍、車持、後を頼む」
そう言って石作皇子が使うのは仏の御石の鉢。
彼が念じるや鉢からは強烈な閃光が迸り、警備の目を焼く。
『――!!!』
月は地上より光が乏しい。
昼より眩しき光に焼かれた警備の者達は声を上げることもままならず、
「火鼠の裘!!」
「蓬莱の玉の枝よ!!」
阿倍御主人の紅蓮の拳に砕かれ、
車持皇子の振るった枝から飛び出す金銀の玉に打ち据えられた。
「お前達に恨みはないが‥邪魔はさせん」
●全ては愛のため
はたして王はそこにいた。
『来るのはわかっていた』と、
その上で兵をつけず、ただ一人で待ち受けた。
それは障害を排除する行為ではなく、
対等な男として地上から来た若者達に問う、不器用なまでの迎え。
「ここは姫の寝所、地上の民が迷い込むことすら許されぬ場所へ何用か?」
気圧される。
姫の試練に打ち勝った若者達ですら王の存在に圧される。
それほどまでに王は強大だった。
それを、自身の力ではなく、他人への、ただ純粋なまでの想いをもって、五人は受け応えた。
「月の王、かぐや姫を解放せよ。
姫に愛情もなく、月を治める為の証として利用する為だけに婚姻を結ぶ様な王に、この世界を長く治めていけるとは到底思えぬ!」
石上麻呂に大伴御行も続く。
「姫は我と妻となる約束を交わしておる。たとえ月の王といえどそれを違えさせる事はさせぬ!」
「愛する者を奪いに来ただと? その為に命を賭けると。これはいい! 甘い幻想だな」
鼻で笑う王、だが違う。彼は本気で『否定』している。五人を。姫を。
「愛などと言う甘ったるいものだけでは、世界を治めて行く事など出来はしないのだ! 姫を渡す気はない。お引き取り願おう」
「月の王よ。血統に頼り国を統治するなど、愚の骨頂。恥を知れ」
阿倍御主人が再び火鼠の裘を身に纏う。
「我がもつ宝物の力は我が怒りの拳に炎を纏わせ、その一撃は鉄槌のそれへと変えゆく」
それに続くは車持皇子。
「月の力をその身で受けよ───来い、蓬莱の玉の枝!」
大伴御行、石上麻呂の秘宝は戦闘向きではない。
だが、だからなんだというのだ。
それを無謀というのなら月まで報われるかもわからない旅に来てはいない。
いや、そもそも秘宝を集める旅そのものが無謀であった。
それでも、死ぬ思いまでして、その上地上から去られても――
(私はもう姫を裏切らない、姫を信じて戦い続ける)
石上麻呂は振り帰らぬ想いで戦いに望んだ。
石作皇子は仏の御石の鉢にて結界を作る。
「阿倍!」
「ああ、皆で姫を助けようぞ!」
戦う意志を決めた五人。
「私を倒せばこの世界は再び争いが起こり、混乱の渦に巻き込まれるだろう。それを分かっての事か?」
王は試すように問いかけ、それに石作皇子は、
「王なら王で‥力で王になったのなら最後まで貫け。‥自信ないか?」
「ほざけ!!」
「どうして? 地上にいれば王の力からは約束で守られるのに‥‥朔夜、あなたのしたことなの?」
戦いを見つめるのは姫と従者。
(「姫‥‥これを‥‥」)
そう言って部屋で朔夜が渡したのは姫宛の和歌。
『射千玉(ぬばたま)の 月夜を越えて 降りし来は なよ竹姫へ 焦がれしがため』
(「‥‥これは‥‥」)
(「大伴御行様からの贈り物にございます」)
そうして、彼女は朔夜に頼みここまできた。
ありえない。
なぜそうまでして自分などを構うのか。
自分は裏切ったのに、
皆の思いを捨てて月の民を選んだのに。
「『もし姫が私を選んでくれたなら、この世界をより良いものにする為に、一生この身を捧げよう。それだけの覚悟は出来ている!』」
「――!」
「石上麻呂様からのお言葉です」
嬉しくないはずはない。
今もこうして悩んでいる。
だが、それでも応えられない。
否、自分にそんな資格があるはずはない。
「見返りなど期待してはいませんよ、あの方々は」
相変わらずの無表情、だが声は優しげに。
思えば彼女が五人に優しさを向けるのは初めてではなかろうか。
いや、表に出さなかっただけで、前からずっとこうだったのかもしれない。
「応える必要はないんです。それは義務ではありません」
やはり自分は間違ってはいなかった。
この若者達なら――
「朔夜、私――」
この宿命に縛られた大切な友人を――。
「姫の想いのままに」