Monsters,VILL南北アメリカ

種類 ショート
担当 津田茜
芸能 3Lv以上
獣人 フリー
難度 普通
報酬 7.9万円
参加人数 8人
サポート 0人
期間 04/16〜04/20

●本文

 10歳のポーリーは、母方の遠縁だというポルケピック氏に引き取られ、バーモント州のとある田舎町にやってくる。
 気さくで陽気な住人たちに囲まれて新しい生活をスタートさせたポーリーの周りで次々起こる摩訶不思議なハプニング。
 なんと、この町に住む人々の正体は人間ではなく、魔界の住人‥‥モンスターだったのだ。

■□

 女の子と魔界の住人たちが繰り広げる奇想天外なドタバタホラー《Monsters,VILL》は、特殊メイクとCG、SFXなどを駆使したクリアな影像もさることながら、モンスターと聞いて想像するおどろおどろしい展開とはどこか一線を画したアットホームな物語が、子供を中心に話題を呼んでいるとか、いないとか。

 さて、
 キリスト教文化圏における最も重大な祭日のひとつ、復活祭が近づいたある日。
 出演者たちに手渡された台本は――

■□

 復活祭――
 偉大な聖人がまさに奇蹟の片鱗を顕したこの日は、魔界の住人たちには最も忌むべき日だったりして。
 様々な不調を訴える村人たちの為に、ポーリーは町外れの森の奥に建つたったひとつの教会へ《魔界の特効薬》を貰いにいきます。
 魔物たちにはイマイチ元気の出ない日ですが、森には魔に属する者以外にも危険がいっぱい。
 残された住人たちは意を決して、後を追うが――


=ドラマで使われる専門用語=
(ポーリー/NPC)
 物語の主人公、村でただひとりの人間の女の子です。
 とても前向きな性格で、住民たちがモンスターだと知ってちょっと驚きましたが今ではすっかり仲良くなりました。

(ポルケピック氏/NPC)
 村の顔役。みなさまのまとめ役―クラス委員?―のような人だと思ってください。

(たったひとつの教会)
 世界にたったひとつ魔界の住人の為に立てられた教会ですが、教会なので村人たちは中に入ることができません。

●今回の参加者

 fa0065 北沢晶(21歳・♂・狼)
 fa0352 相麻 了(17歳・♂・猫)
 fa0413 フェリシア・蕗紗(22歳・♀・狐)
 fa1077 桐沢カナ(18歳・♀・狐)
 fa2029 ウィン・フレシェット(11歳・♂・一角獣)
 fa2153 真紅(19歳・♀・獅子)
 fa2726 悠奈(18歳・♀・竜)
 fa3124 弥生 飛鳥(30歳・♀・ハムスター)

●リプレイ本文

 春分後、最初に月の満ちた日から数えて最初の日曜日。
 十字架に掛けられた神の子が復活したとされる聖なるその日を含む1週間は、《ホーリー・ウィーク》と呼ばれ、世界各地で奇蹟にちなんだお祭りやイベントが開催される。
 日本でいうところの《盆休み》のようなもので、学校や会社の休みを利用して行楽に出かける者も多い。――季節はちょうど春の盛り。永らく寒い季節に閉じ込められていた人々の心も、暖かくすごしやすい陽気に誘われて羽のように軽くなる。
 風光明媚な田園風景の広がるバーモント州にも、開拓時代の古き善きアメリカを偲ぶ観光客が大挙して訪れる‥‥待ちかねた春の祭りに俄かに賑やかさを増した世間とは対照的に、隠々滅々と沈む村がひとつ‥‥


●聖なる枷−くびき−
「‥‥ええ、お止めしたのですけどねぇ‥」
 何しろ言い出したら聞かない性格で。
 《本日休診》の札が下げられた診療所の待合室で、ポルケピック氏は盛大にため息をついて肩を落とした。――腫れた親知らずが痛むのか、しきりに顎を撫でている。
「やっぱり《血》なんですかねぇ」
「いやいや、《若さ》のせいかもしれません。‥‥ああ、いえ。決してクリスタさんがお年だなんて言っているワケではないですよ。相変わらず美人で、嬉しいなぁ」
 しみじみ語るポルケピック氏の隣で、アキラ=北沢晶(fa0065)=はいつになく鮮明に見える透明人間の素顔に朗らかな視線を向けた。――こちらも、獣人の毛皮に埋れた人間の顔が奇妙なことになっている。

 からん♪

 と、賑やかに響いた呼び鈴にアキラの獣耳を引っ張っていた看護士兼薬剤師のクリスタ=真紅(fa2153)=は、普段は包帯の下に隠された綺麗な顔をきゅっとしかめた。
 扉に掲げられた札のとおり、今日はお休み。にもかかわらず、普段は閑古鳥の鳴く診療所に、何故か客足が途切れない。
 クリスタの視線に合わせて大きく振られた画面に、ふたり分の人影が飛び込んでくる。パッと明るくなったように感じるのは、ふたりが若くて綺麗な女性だったからだろうか。
「ええ〜?! ルシールは熱があって困ってるのに‥‥」
 頭に氷嚢を乗せて大仰に不調を訴えるルシール=桐沢カナ(fa1077)=とは対照的に、大量のトマトジュースを詰め込んだ紙袋を抱えるフェリシア=フェリシア・蕗紗(fa0413)=は、やっぱりねぇと諦観モードだ。――季節を逆行するかのようなコートにブーツに長手袋。つば広の帽子、サングラス、トドメにマスクで完全武装に、事情を知る視聴者は納得しつつも思わずにやりと笑こぼす。
「‥‥あまり期待はしてなかったけど。今年も《薬》は間に合わず‥な、ワケね‥」
「そーゆーこと」
 村人たちが不調を訴える理由はひとつ。

 今日が、復活祭だから――

 世間では聖なる祝日も、魔界の住人たちにとっては苦行の日、だ。
 熱があっても病気ではないから、身体の不調が治るまで大人しくしているほかない。――唯一の解決策が《たったひとつの教会》で精製された《薬》を飲むことなのだが、ここ数年はワケあって品薄だ。
 そんなあ、と。手近な椅子にへたり込んだルシールに吐息をひとつ。クリスタは言葉を選びながらその事実を告げる。
「今、ポーリーが《教会》に向かっているわ。‥‥だから‥」
「「えええええっ?!」」
 不調を忘れて飛び上がった勢いに、ルシールの頭に乗った氷嚢がずり落ちた。それさえも気づかぬ様子で、ふたりは顔を見合わせる。
「‥‥《教会》って、あの《教会》よね‥‥?」
 口にするのも恐ろしい。帽子とサングラスの奥でフェリシアの顔も緊張に強張った。
 深い森の奥に建つ古い石造りの教会は、世界にたったひとつだけの魔物たちのために建てられた教会である。――魔界の住人である村人たちにとっては近寄りがたく恐ろしい場所なのだが、彼らを救ってくれるただひとつの教会なのだ。
「‥‥なんでまた‥ポーリーが‥」
「復活祭のご馳走を持ってきてくれたのよ」
 楽しいはずの復活祭。
 にもかかわらず、何故だか元気のない村人たち。――漠然と感じていた疑問が、不調で透明になれないクリスタの姿を見て、気が付いた。
「それで、《薬》の話をしちゃったわけ」
 悪びれないクリスタの言に、ルシールとフェリシアは納得半分、釈然としない色を浮かべて顔を見合わせる。
 人間であるポーリーなら、たしかに《教会》には入れるけれど‥‥
 でも、
 冬眠から覚めたばかりの《森》はとても危険で――
「「追いかけないと!!!」」
 慌ただしく診療所を飛び出していくふたりを見送ってポルケピック氏は、やれやれと吐息を落とした。
「‥‥これで何人目ですかねぇ‥」
「ええと、6人‥かしら? ――あら、アキラさん?」
 ゆるゆると身体の調子を確かめるように立ち上がった狼男は、相変わらず飄々とつかみ所のない笑みを浮かべた。
「そりゃあ、もちろん」
 美人をしっかり守るのが、男の甲斐性ですから。


●友達だもの
「‥‥俺はアジア出身だから平気だと思ってたのに‥」
 太い大樹の根元に身体を投げ出すように腰を下ろして、ジョーカー=相麻了(fa0352)=は梢に遮られた天を仰いだ。
 いつもなら、軽〜く飛び越せる小川が今日に限って大河の如く雄大で。ポーリーを追いかけて、途中で力尽き、空から降ってきたユーナ=悠奈(fa2726)=を受け止め切れずに子供とはいえ車庫ほどはあるドラゴンの下敷きになったのは――風に乗れないアスカ=弥生飛鳥(fa3124)=を背負っていたせいかもしれないし、あるいは、他に事情があったのかも‥‥
 そう、神様は(こんなところだけ律儀に)平等だった。
「何だかどんどん道を外れているような気が‥」
 高い梢の向こうに聳える石の塔を眺めて、ユーナは心細げにようやく出会えた女の子に身を摺り寄せる。――見た目は10歳のポーリーよりずっと大人びて見えるけれども、中身は妹分なのだ。
「大丈夫、ポーリー?」
 いつにもまして儚げなウィル=ウィン・フレシェット(fa2029)=に、金髪に青い目の女の子はニコリと笑んだ。屈託のない笑顔をむけられ、青白い半透明のウィルの頬にほんのりと朱がさした。
「わたしは、大丈夫だけど‥‥」
 みんなの方が大変そう。
 普段だって近づきたくない《教会》を目指して、それでも前に進むのは、大切な友達を守るため。
 そして、その友達もまた、彼らのために《教会》を目指す。
「‥‥でも、なんだか同じところをぐるぐる回ってるカンジ?」 
 アスカの言葉に、5人は不安げに顔を見合わせた。
 教会の塔はちゃんと、そこに見えているのだけれど。
「‥‥近づけない魔法が掛かっているとか?」
 魔法とか、呪いとか。すっかりそんな単語に耐性のついてきた今日この頃。愛らしく首をかしげたポーリーに、ジョーカーは首を振る。
「や、そんな話は聞いたことがない」
 そう、敵は魔法でも呪いでもなく。
 無意識に苦手を避けようとする本能と、この幼く脆弱な人間の友人を守らなければ‥と気負う義務感。
 いつもならアスカの呼びかけに答えてくれる風も、今日だけは素知らぬ顔で‥‥
「あ、でも、こっちの方に――」
 少しでも役に立ちたくて。
 えいやと飛び出したその先は、子供をつれた母熊の‥‥何よりも大事な小熊の目の前だったり。

「「きゃあああああああっ!!!!」」

 熊も驚き、こちらもびっくり。
「ごめんなさーい、ワザとじゃないのよぉー」
 なんて言っても、無論、通じるワケはなく。
 調子が良いときなら熊の1匹や2匹‥‥て、猫で熊を倒せるのかどうかは知らないけれど‥‥どってことない、ジョーカーも。今日だけは、力が湧いてこない。
「に、逃げよう!!!」
 いつもは遠いあの子の手を引っ張って、暗い森を走る。――その思いがけない勇気に気づいて、ウィルがドキドキするのはもうちょっと先のコト。
「もうダメ〜、走れないよう〜」
 脚がもつれて。
「あっ?!!」
 空中に投げ出された拍子に、うっかりドラゴンに獣化してしまったユーナが飛び込んだ先は、誰かが掘った落とし穴
「は、早く助けなきゃ‥」
 でも、喩え小さな子供でも、瑠璃色のドラゴンは10歳になったばかりの女の子と、幽霊の男の子。そして、風より軽い妖精と、東洋の化け猫が引っ張ったくらいでは、びくともしません。
 後ろからは、お腹をすかせたオオカミと‥‥

 ああ、絶対絶命の大ピンチ――

 息を呑んだその瞬間、
 パチンと乾いた音を立てて、オオカミの鼻先で火花が散った。
 花火にもならない小さな炎は、それでも、頭に血の登ったオオカミを驚かせるには十分で。
「あ、やっと見つけたよ。こらあ、子供達、勝手に《森》に入っちゃいけないんだから」
 頭に氷嚢を乗せふらふらと低空飛行で漂う小悪魔の姿は、あまり迫力はないけれど。それでも、追いかけてきた吸血鬼(フェリシア)と狼男(アキラ)の登場で形勢逆転。
 持ち前の怪力でユーナを助け出したフェリシアが、力を使い果たしてヘタレてトマトジュースを一気飲みするのもお約束だ。
 そして、気が付けば目の前に《教会》への路が開けているのも――

「あと少しだから」

 みんながいれば恐くない?
 ――信じて待っていてくれる人もいるから。

 卵を探したり、転がしたりするのも楽しいけれど。
 思いがけない大冒険で《絆》を再確認するのも、きっとたぶん幸せだよね。