5月の花南北アメリカ
種類 |
ショート
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担当 |
津田茜
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芸能 |
3Lv以上
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獣人 |
フリー
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難度 |
普通
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報酬 |
7.9万円
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参加人数 |
8人
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サポート |
0人
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期間 |
05/03〜05/07
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●本文
早起きして森へ行こう
朝露に輝く花を探しに
5月の花を町中に飾って
訪れた春を祝おう
メイ・ポールを囲んで踊ろう
色とりどりのリボンを持って
■□
広場に立てられるメイ・ポール(MayPole)は、春を祝う祭の象徴。
そのメイ・ポールの周囲で踊る花の妖精は、年頃の女の子なら1度はやってみたい憧れの晴れ舞台。
卒業を目前に、お祭り好きの大学生たちが企画した《花祭》、
学外からも寄せられた公募の名から花祭り主役の座を射止めたのは、くじ引きの手違いか、パソコンの暴走か‥‥イマイチ、パッとしない女の子。
協賛、スポンサー企業のストライキ、
呼び物のひとつ、出演予定の人気ロック・バンドは、まさかのダブルブッキング、
確約のはずの《妖精》に選ばれなかったチアリーディングの《女王様》も、ああ、やっぱりのおかんむり――
次々に起こる予想外のハプニングを乗り越えて、
彼らは学生生活最後の《お祭り》を成功に導くことが出来るのか?
●リプレイ本文
何やら前途多難の予感がする。
製作スタッフに伴われ、ロケ地に選ばれたボストン郊外の私立大学を訪れた藤野リラ(fa0073)と藤野羽月(fa0079)は顔を見合わせた。
アメリカ8番目の都市とされるマサチューセッツ州の州都は、そのいたるところに17世紀・イギリスから海を越えてやってきた清教徒たちが残したレンガ造りの古い街並みの残る叙情豊かな町である。
また、その周辺にハーバード大学やマサチューセッツ工科大学など、あわせて60もの大学が置かれ、そこで培われる知識をベースにしたハイテクノロジーやバイオテクノロジー、医療技術の開発などを手がける企業が集まる最先端の文化都市でもあった。――音楽の分野で活動するふたりにとっては、やはりボストン・シンフォニーとボストン・ポップスのふたつのオーケストラの拠点というイメージが強い。
「大都市のイメージが強いのに意外に狭い街なんですね‥」
配された役の関係上、大学の構内よりも都心部での撮影が多くなりそうなChizuru(fa1737)は駅前のスタンドで求めた周辺地図を眺め、そんな感想を宮尾千夏(fa1861)に洩らす。つられて地図を覗き込んだ千夏も、Chizuruの感想が誇大ではないことを確かめた。
「ホント。これなら歩いて回れそう」
大学生のファッション・ライフを体感するには、繁華な街を歩いて見るのが1番だ。
間違いでヒロインに選ばれてしまった女の子を、本物のヒロインに変身させる。――このドラマの見所のひとつでもあるのだから、千夏の責任は重大だ。
「流石に特殊メイクというわけにはいかないけど。でも、ちょっとしたメイクの技術で女の子は変わるものだってことを教えて差し上げるわ☆」
そのメイクをいっそう引き立てるためにも、衣装とアクセサリーの選択は手を抜けない。お洒落に敏感な若者たちで賑わうこの街は、千夏の要求に応え得る素養があった。
「‥‥でも。折角、ヒロインに選ばれたのに、愛歌さん‥」
植物園やビーコンヒル・ガーデンクラブなどドラマを飾る花の手に入りそうなスポットを確認し、ひとまず安堵の息を落としたステラ・ディスティニー(fa2443)は忘れかけていた気がかりに、いつもはおっとりした表情を浮かべる顔を曇らせる。
ダース・リィコ(fa3330)の演じるイベント実行委員の少年の密かな、そして、ささやかな企みによって、華やかな春の祭典の真ん中に立たされてしまったヒロイン‥‥ヒルダを演じるはずの仙道愛歌(fa2772)が、思いがけない大スランプに陥ってしまったのだとか‥‥
ダースと組んでヒルダをヒロインに仕立てるドラマの骨子を進めていくはずの十六夜勇加理(fa3426)も、何やら心ここにあらずの風情。
アメリカ人好みのスーパーマンではないけれど。精一杯、自分にできるベストを尽くして見る人に勇気と希望を与えられるドラマにしたいと気概を抱くダースとはあまりにも対照的で。――リラや羽月でなくても、先行きに不安を感じずにはいられない舞台裏だった。
「‥‥筋書きを変えて見せ場を変更した方が無難だろうな‥」
ディレクターの提案に、監督、そして、シナリオライターも同意を下ろし、限りある時間の中での修羅場とドラマがまたひとつ紡ぎ出される。
●
バークリー音楽大学で学ぶ学生の約半数は、日本人だとか。
楽器屋や楽譜屋が並ぶ通りを羽月とふたり並んで歩きながら、リラは自らの歩んだ道を振り返ってみる。
こと芸術には天賦の才が欠かせないと言われるが、だからと言って、努力を怠って良いというワケではもちろんない。
指は毎日動かさなければすぐに回らなくなってしまうし、観客の気分や呼吸を感じ取って臨機応変に対応できるかどうかは経験次第。――羽月とのユニット「aeien」だって、大切に時間をかけて作り上げてきたものだ。
大学生とさほど年齢の違わないふたりではあるが、もう立派にプロとして活動している。
「へぇ、音大生のパフォーマンスが見られるんだ」
楽器店のショウウィンドウに張り出されたポスターに目を止めて、羽月は赤レンガの街並みに溶け込んだ一幅の絵のような連合いを夢の世界から呼び返した。
プロのバンドにお願いするのもいいけれど。
どうせ手作りするお祭りなら、学内や、あるいは地元のライブハウスを拠点に活動しているグループに声を掛けるのもいいかもしれない。
楽器店の店長や、音大の事務局にお願いして、出演者募集のチラシを置かせてもらえば可能性はもっと広がるはずだ。――自らの腕を試したい。誰かに自分の奏でるメロディを届けたい。そう思っている者は、こんなに沢山いるのだから。
「‥‥私たちも舞台に立ちたいな‥‥」
イベント成功の鍵を握る金の卵たちの存在に気づき、立ち塞がる問題の解決策を胸に花のようにほころんだリラの科白は、役を越えた本音でもあった。
●
プレデンシャル・センター・スカイウォーク――
ショッピングモールにレストラン、パブ、銀行、アイススケート場まで入った52階建ての高層ビルが、千夏もとChizuruの撮影現場となった。
「‥‥メーデーですし。ストライキという非常事態なのも判っておりますが。学生たちも卒業を間近に控え、最後の良き思い出となるよう今回の企画に真剣に取り組んでおります‥‥」
協賛を取り下げた企業の役員と、その会社の労働組合の責任者。
ふたりを訪ねて頭を下げる。
いかにも高級そうな役員室は、実はドラマのための作り物。ボストンの街を一望できる最上階のレストランの個室を借りてのセッティングだ。
大きな企業だけでなく、個人経営の商店や、地域に根ざした営業をキャッチコピーに展開するチェーン店にも足を運んで、開催を報せるポスターの掲示を依頼したり、ビラを配ったり。
アメリカでは珍しいウォーキングシティならでは‥の、歩いて愉しむ観光スポットを織り交ぜて――さり気なくボストン市内を紹介するのがChizuruなら、千夏はヒロインであるヒルダを伴って若者向けのブティックやセレクトショップを回る。
「要は『いかに併せるか』だから、値段云々は関係ないのよね〜」
印象なんて、アクセサリーひとつでずいぶん変わるし。
注釈をつけながら、何パターンかのコーディネートを映像付きで。――これも、ドラマのヒロインの為というよりは、実はTVを見ている女の子へのメッセージ。
●
男子生徒の人気No1がアイビーリーグの花形なら、女子生徒のNo1はチアリーディングの女王様だ。
美人で、明るくて、活発で。――たとえ、それが見せかけだけ(?)の偶像で、弟にとっては我儘で傲慢で鼻持ちならない性格だったとしても‥‥
「どうして、彼女が主役じゃないの??」
‥‥‥ソレハネ‥‥
あるいは、造反なのかもしれない。
長年、光り輝く彼女の影に隠され続けた弟の。
それは、淡い恋心だったり、イマイチ輝けないでいるヒルダに自分の姿を投影してのささやかな報復にも似た悦びと紙一重の優越感。
そんな自分に対する、後ろめたさなんてものも相まって、男心は複雑なのだ。
「姉さんだったら、何時だってチャンスはあるよ」
今回はダメでもさ。
不透明な選出のせいか、心なし強い学内の風当たりから身を挺してヒルダを守る。
もちろん、日を追って殺人的になるイベント関連の仕事を処理し、間近に迫った卒業に向けてのラストスパートだって待ってはくれない。
‥‥‥モシカシテ、ハヤマッタカモ‥‥?
ふいに心に飛び込んでくる不安と焦りに立ち竦み。
それでも、また懸命に前に進もうと努力する。その姿を見てほしい。心に感じるモノがあったなら、きっと何かの糧になるから。
1歩を踏み出す勇気を貴方に。
――ありったけの想いを込めて――
●
Lay the roses in front of your home
You may be my baby
If you take it
Lay the roses in front of your home
You may be my love
If you reach me
あなたにバラを 家の前に
受け入れてくれるなら あなたは私の恋し人
あなたにバラを 家の前に
見つめかえしてくれるなら あなたは私の供人 ―『May Pole』(作詞:リラ/作曲:羽月)―
ストリングスとキーボードの旋律に導かれ、ふたつの歌声が軽やかに5月の空に響きあう。
会場を飾る色とりどりの花は、ステラの提案と奔走でビーコンヒルを初めとする各家庭のプライベートガーデンから借り受けてきたものだ。――朝早くから、近くの森へ出かけて摘んできた花もある。
会場の真ん中に建てられたメイポールに結ばれた色とりどりのリボンが五月の風に揺れる様もまた穏やかで。
集まった人々の顔に浮かんだ表情は、これまでの苦労と努力が報われるには十分だった。
「‥ありがとうございました! 素敵な歌を聞かせてくれた『aeien』のふたりにもう1度、大きな拍手を!! ‥‥続いては‥」
十六夜の司会に誘われるまま、祭りはまだまだ盛り上っていく。
千夏の腕で変身を遂げたヒルダが登場する瞬間が最高潮になりますように。――そうして全てが終わったら‥‥
この想いを伝えられる気がする。
5月の花を町中に飾って、
訪れた春を祝おう