Cafe de DULCINEA南北アメリカ
種類 |
ショート
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担当 |
津田茜
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芸能 |
フリー
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獣人 |
フリー
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難度 |
易しい
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報酬 |
なし
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参加人数 |
8人
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サポート |
0人
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期間 |
10/24〜10/28
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●本文
やあ、いらっしゃい。
おや、初めて見る顔だ。ようこそ、Cafe−DULCINEA−へ。この街は初めてかい? ――え、どうしてそんなことが判るのかって?
そりゃあ、ここに店を開いて長いからね。
ああ、ほら。そんなところに立ってないで、こっちにおいで。
カウンター席にお座りよ。そう、荷物は隣に置いて。‥‥気にしなくてもいい、ランチ・タイムにはまだ早いから。
カフェ・ラ・テでいいかい?
紅茶もあるよ。
ケーキはどうだい?
アップルパイも、サンドイッチもあるからね。
この街には慣れたかい?
賑やかな街だろう。
お洒落で、華やかで‥‥夢のような街だって?
そりゃあ、ここは夢を紡ぐ場所だもの。――判ってる。キミも夢を叶える為に、この街へ来たんだろ?
どうしてそんなことが判るのかって?
だから、ここは夢へとつながる場所なんだよ。
ほら、あっちの壁を見てご覧。
たくさんのポラロイド写真が貼ってあるのが見えるかい?
見た事のある顔があるって?
ああ。彼女はお茶の間で一番の人気者だからね。
そっちの彼も、去年、助演した映画が大当たりしたんだ。今年は主演賞を獲るって張り切ってる。
他にもドラマや映画で見かける顔ばかりだろ。
でもね、初めはみんなキミといっしょさ。
綺羅星になる夢だけを胸に、身ひとつでこの街へやってきたんだ。
そして、ここできらめく夢を語ってくれる。‥‥そう。みんな、ここ−Cafe・DULCINEA−から、最初の一歩を踏み出したのさ。
どうだい?
キミの写真もそこへ並べてみたくなったろ?
もちろん構わないよ。‥‥ただし、ひとつだけルールがあるんだ。
なぁに、簡単なことだよ。
最初に書くのは、写真の裏‥に、だ。
キミの名前と年齢。それから、実現したい夢をね。
夢が叶ったら、もういちどこの店へ戻っておいで。――今度は、写真の表にキミの名前を書くために。
●リプレイ本文
ドゥルシネーア姫を知っている?
そう。セルバンテスの小説『Don Quixote de la Mancha』の主人公、ドン・キホーテが慕うお姫様の名前だよ。
でもね、彼女はどこにも存在しない。
見果てぬ夢にさまよう男が心に想い描いた幻想のお姫様なんだ。
幻の想い姫の名前を冠した場所で、理想を語る。――ちょっとシュールだなんて思ったかい?
そうかもしれない。でも、大丈夫。
キミ達は、理想を現実に変える力をちゃんと持っているんだからね。
●道の始まり
この街に来たのなら、あの店へ行っておいで。
先人たちに背中を押されて瀟洒なカフェを訪れた桜美鈴(fa0807)が注文したのは、紅茶とアップルパイ。
「こんにちは、初めまして」
美鈴は、Beautiful Bell。桜は、BlossomではなくCherry。
そう自己紹介した美鈴に、マスターはにこりとやわらかな笑みでその穏やかな表情を飾った。
この街には、もうなれたかい?
そう聞かれて、美鈴は記憶を反芻するように小首をかしげる。
賑やかで、華やかで。夢の溢れるような街。
映画やドラマで繰り広げられる数々の名作、名シーンの向こう‥‥一度は訪れてみたいと憧れるお洒落でスタイリッシュな街がそのまま現実に。
あの物語はもしかして本当にあったコトなのも。なんて、錯覚さえ覚えそうなほど。
美鈴が想い描いた夢への道も、いつか物語のように語り紡がれていくのだろう。
「あ、写真は持ってきたんですよ」
これが夢への扉を開いてくれた最初の1枚だから。
「ふふ。綺麗に撮れているでしょう?」
撮ってくださった方の腕?
それとも、モデルがいいから?
「これは、お守りなんです」
世界的なファッションショーのラストを飾るブライダルのモデルを任せてもらえるようなトップモデルになれるよう。
夢への第一歩となったこの写真。
この店をスタートの場所にするのなら、ここに貼るのはこの写真‥‥
『桜美鈴、22歳。――世界に通用するトップモデルになります』
●自分らしく輝くために‥
いかに自分らしさを表現するか。
頭ではちゃんと理解っているのだけれど。
カウンター席の隅に腰を落ち着けて琴瀬かのん(fa1260)は、こっそりと溜めていた息を吐く。――初めての街、初めての場所、初めて会う人。
自分が実は人見知りする性格であることを改めて思い出した。
喫茶店の店員を相手に緊張しているようでは、前途はまだまだ険しく長い。――すぃ、と。慣れた手つきで運ばれた茶器を、そっと両の手で包む。
ふうわりと優しく薫る紅茶の水色に映るのは、飾らない自分。
琴瀬かのん、23歳。
職業、モデル。――綺麗な服やアクセサリーを身につけて、ただ立っているだけならマネキンでもできる。
魅せるのは、個性。
輝く自分。雑誌、あるいはTVの前の名も知らぬ人々に“カノン”の存在を知らせる為には、まずクライアントの心を掴まなければ。
待っているだけでは、なにも起こらない。
この街は、成功を夢みる星の卵で溢れているのだ。アクティブに動かなければ、夢はいつまでも夢のまま。
――だから、ここから始める。
どこか緊張のとけない笑みを浮かべる写真の裏に、名前を書いて‥‥
『琴瀬かのん、23歳。――私らしさを失わずに輝く人になりたい』
私にしかできないコト。
それは、まだ見つかっていないのだけれど。
「私、きっとまた此処に戻ってきますね」
いつか、かならず。
―――誰よりも輝く星になって‥
●歌の翼に
歌うコトが好きだった。
そう答えるのはルリアス・レクシア(fa0313)だけでなく、黒峰燐(fa1300)、そして百瀬愛理(fa1266)もこの道を選んだ理由の1番に挙げるだろう。
未来の選択肢のひとつに歌があったのは、きっとそう。
歌うコトが好きだから。
楽しい時、嬉しい時‥‥内側から湧き立つ魂の昂揚は、旋律となってルリアスと共に心を躍らせた。突然の別離や壁にぶつかり苦悩する黒峰を慰め、勇気付け、時に悲しみを癒したのもまた歌だった。
生涯の友と呼べるその位置に、気が付けば歌があったから。
「精一杯、歌った後はなんともいえない気持ちよさがあるんですよ」
そう言って、ルリアスは微笑む。
思いの丈を‥‥
自らの魂(ソウル)を旋律に乗せて開放する快感。
「スターになりたいなんて思っていない」
有名になること。あるいは、成功して大金を稼ぐ。それは目的ではなく、結果についてくるものだから。
でも、ちゃんと理解している。
歌うことが好き。
でも、ただ歌ってさえいられればそれで幸せだとも思っていない。
「‥‥僕の歌を聞いてもらいたいんだ」
ひとりでも多くの人に。
そして、その歌が‥‥言葉が、誰かの魂に届いてくれれば、最高だと思う。
「今はまだ、発展途上だけどね」
ジントニックのかわりに頼んだコーヒーに口をつけ、黒峰は照れを隠して顔をしかめた。
発展途上。
無理、じゃない。
この街に溢れるソウル。――様々な人種、異なる言語、千差万別の感受性。全てを放り込んだサラダボウルのようなこの国は、きっと新しい糧をくれるだろう。
技術も心も、もっともっと上を目指して。
『ルリアス・レクシア、16歳。――聞いてくれた方々を元気づけてあげられるような。心優しい歌の歌える人になりたい』
『黒峰燐、21歳。――聞いてくれる人の心に何かを届けられるような歌を歌えるように』
●なんて生きがいのある人生
世界で1番の有名人になりたい!
なぜかって?
そりゃあ、もちろん。――美人と仲良くなれるからっ!!!
プロレスラー・北沢晶(fa0065)が思い浮かべる成功の図式は簡単。
マスコミにも取り上げられる有名人になれば、交友範囲が広がる。
広いようで意外に狭いこの世界。例えば、TV局なら女子アナ、女優。雑誌なら美人モデルに、レースクィーン。――美人とお友達になる機会が断然増えること間違いなし。
多少の我儘は許されるのが大物の大物たる所以。
人気者なら、仕事場でのセクハラなんてものも、きっと冗談で許されるはず(←注:良い子はやっちゃダメ‥)。
壮大なんだか、不純なんだかちょっぴり(?)偏った北沢の野望。――いわゆる、漢のマロン‥‥じゃなくて、ロマン。
キッパリはっきり言い切っちゃえば、けっこう大物(一部の男性たちから、勇者だと後世まで語り伝えられるだろう)。
――でも‥。
証拠物件を残すのは、後々、アレなナニでえらい事になるのも目に見えている。
だから、万感込めて漢らしくたったひと言。
『北沢晶、21歳。――ビッグになるぜっ!』
●ふたつの未来
捨てる神あれば、拾う神あり。
そんなことを考えたのは、少し疲れていたせいかもしれない。
エスプレッソとサンドイッチで遅い朝食を摂りながら、水上つばき(fa0130)は壁に貼られた無数の写真を眺める。
プロダクションの営業回りで、はるばる太平洋を越えてきた。――飛行機で十数時間は遠いのか近いのか。
頭を下げるだけの挨拶回りを済ませて、ようやく一服。
たまたま足を向けたのが、夢の出発点。
これはどういう縁なのだろうと、取り出した煙草をくわえて天井を見上げる。
つばさが見据える夢の先にあるのは、つばさだけの夢ではない。――アイドルとしての成功はもちろん、彼女の手腕に夢を託してついてきてくれる者たちがいる。
その大切な金の卵を、立派に世界に羽ばたかせること。
それも、つばさの夢のひとつ。
大きな夢がひとつ、ふたつ。ゆらゆらと細く揺れながら天井へと昇っていく紫煙を見つめて、思う。
今はまだ、ひとりで抱えていられるけれど。――成功という名の現実に近づくほどに、夢は大きく重くなる。
いずれ、どちらかを手放さなければいけなくなる時がくるかもしれない。
どちらを選ぶ?
今はどちらも手の届かない夢のお話。だから、結末は考えない。――心の奥ではもう決めているのだけれど。
どちらも、まだ始まったばかりの夢。
●夢の内容は秘密です♪
歌うことが好き。
でも、歌うだけじゃ物足りない。
百瀬愛理が目指しているのは、ミュージカル・スター。――歌って、踊って、それから演じて。
華やかなショウ・ビジネスの世界。
夜毎、幕を上げ、人々にきらめく夢を見せる劇場の裏舞台は、実は熾烈な競争社会だ。
実力はもちろん。実力があっても機会を掴めず消えていく星の卵は、数え切れない。――愛理もそんな夢追人のひとりであった。
夢は諦めたらそれでおしまい。
まだ、手放したくない。
葛藤を抱えてため息を付く稽古場で、噂を聞いた。――夢を叶えてくれる場所?
「夢を語ることで気持ちを新たにできるんじゃないかな、と思って」
絶望するには、未だ早い。
欲しいのは、もう1度、夢に向かって走り出す力。背中を押してくれる場所。
「一曲、歌わせていただけます?」
お気に入りのあの曲を。輝く未来の自分のために。
『アイリーン・K・百瀬、21歳。――ミュージカル女優として世界のトップに!』
●色のある風景画
写真の笑顔は、偽りではないけれど。
映っているのは伊奈汐人(fa1691)ではなく、売り出し中のモデル・汐人。
敢えて、仕事用の表情で撮ってもらった。
ここに戻ってきたときに、この頃の意気込みを思い出せるよう。――“ああ、まだまだだな”と笑えるように。
写真の裏には、名前と夢。
オトナになりたい。――そう思うのは、まだまだ自分が子供であるから?
実際、子供なのだと思う。
いろんな意味で。
でも、それに甘えているワケじゃない。
ちゃんと自分を知って、今だからできること。今しかできないことを見極めて、全てを糧に成長できればいいと思う。
そうやって、いずれは世界に通じる仕事がしたい。
それが、漠然と思い描く今の夢。まだ、ちゃんとした形にはなっていない。
昨日、空港で買ったばかりのスケッチブックと同じ真っ白な夢。――このスケッチブックを夢の足跡にしようと思う。
絵を描くのは、趣味のひとつ。
仕事で訪れた国の風景。心に残った景色を真っ白な紙に写し取る。――まずは、この1冊を埋めること。
これは、夢へと続く小さな目標。
ひとつひとつ思い出と一緒にページを埋めて。時々、道筋を思いかえして、距離を測るのも楽しみのひとつになった。
『伊奈汐人、15歳。――自立。スケッチブック1冊分の世界を、自分の目で見る』
小さなガーベラの蕾をそっと描き添える。
花言葉は、『希望』そして『常に前進』。
――いつか、ここに戻ってきた時、美しく開いた花を描くことを胸に誓って‥‥。