事件のはじまり南北アメリカ
種類 |
ショート
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担当 |
津田茜
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芸能 |
1Lv以上
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獣人 |
1Lv以上
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難度 |
普通
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報酬 |
1万円
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参加人数 |
8人
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サポート |
0人
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期間 |
12/01〜12/05
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●本文
彩づいた公園は、朝靄に包まれて――
乳白色の天蓋を透かして見上げる空も、未だぼんやりと冴えない蒼白。
賑やかな街が目覚める直前の真新しい静謐。
大半の人が暖かな寝床の中で、最後の夢にまどろんでいる。――何処にでもある日常。
平凡で、退屈な‥‥
でも。何ものにも変え難い平和な世界。
落ち葉の上に、投げ出された腕。
無造作に、無機的に。
ゆるやかに波打うつやわらかなブロンドと出会った朝靄に滲む細い光は、きらきらと淡く揺らめきながらその沈黙を見つめる。
髪と同じ色の睫毛に縁取られた青灰色の眸は、大きく少し歪に見開らかれたまま――
晩秋の公園を彩る赤と黄金。
煩いほどに鮮やかな。だが、過ぎ行く季節のどこか冷たい静寂を讃えた秋の彩り。
どこまでも却らぬ沈黙に包まれた色。
ただひとつ。
生命を抽象する、いまひとつの赤だけが‥‥未だ止まらず、じくじくと乾いた大地に這い出していた。
■□
「‥‥なんつーか、ねぇ‥」
指の間に挟んだ煙草をひらひらと器用に躍らせながら、彼は疑問符を唇に乗せる。
「イマイチ?」
ちらりと問いたげな視線を投げられたADは、くるりと目を動かして大仰に肩をすくめた。
そんなこと、訊かれても‥‥。
あさっての方向に視線を向けるどこかすかした表情がそう言っている。――全ての決定権を握っているのは、問いを投げた彼なのだから。
巧妙なトリックに、目の離せないストーリー展開。本格的な推理サスペンス仕立であるにもかかわらず、アクションあり、お色気ありの奇妙にらしからぬ明るく軽やかな切り口が、毎回、高視聴率をかっさらう人気ドラマ『38番街の事件簿』。
その、製作現場にて。ドラマの総指揮を勤めるウィリアム・スペリエルは何やら倦怠感を漂わせながら煙草をふかす。
ゆらゆらとたち昇り天井付近で渦をまく紫煙が、その冴えない気分を代弁するかのようだ。
「‥‥だから、さぁ‥」
煮え切らなさを伝える声は、奇妙に区切られ、間延びする。
「なぁんか。キまらないんだよ」
「‥‥そんな事言ったって、シナリオは良い出来だって言ってたじゃないですか。キャストだって‥‥」
そんなにこだわるシーンじゃないと思いますけど。そう切り替えされて、スペリエルはやはり不満げに首を振った。
「だけど、さあ。けっこう重要だよぉ?‥‥いよいよ事件が始まった‥て、気分も盛り上がるだろ?」
言いたいことは、理解らないでもないけれど。
「マンネリってゆーか、ワンパターンってゆーか‥‥やっぱり飽きてくるってば‥」
「でも。いきなり死体を見つけちゃった時の第一発見者のリアクションって、そんなにバリエーションのあるモンじゃないと思いますけど‥‥」
彼の悩み事は、事件が事件として初めて光が当たるその瞬間。――衝撃的なシーンではあるが、主人公との絡みもないし、重要なシーンかと問われると疑問符が飛ぶ。
「う〜ん。でも、さあ。‥‥なぁんか、気になるんだよ‥」
撮り直したい。
暗にそれを告げるスペリエルの言に、ADは肩をすくめた。1度、言い出したら妥協はしない。――彼はそういう種類の人間である。
「せっかくだから、役者も変えてさぁ‥‥」
いくつか試してみようよ。
そう付け加えた男にはいはいと手を振って、キャスティング・マネージャーは黒皮の手帳を広げたのだった。
●リプレイ本文
北沢晶(fa0065)はゴキゲンだった。
グラビア・アイドルに、モデルに女優――芸能界には美人が多い。その自説が証明された今、残すはビックにのし上がり心置きなくセクハラし放題のパラダイスな環境をこの手に‥‥ぽかっ(教育的指導)。
●これだけはハズせないもの
偶然、死体を見つけてしまったとき。
通りすがりの好青年(?)にとって重要なのは、死体役が美人かどうか――
美人だったら、触る場所を工夫したいな〜とか。脈を取ったり、人工呼吸や心臓マッサージで蘇生を図ると見せかけて、いろんな場所を触ることが出来るのも役得。
第一発見者、万歳!
びば、殺人事件!!
期待と野望に胸を躍らせて、いざ、死体とご対面――
‥‥‥!!(←ガーン)
残念。
無精ひげに強面のむくつけきオッサンだった模様。
甘くない現実を前に、テンションは急降下。
がっかり。背中のあたりに暗雲を漂わせ、とりあえず驚いては見るものの。なんだか、なおざり。――撮影現場の隅っこで膝を抱えてのの字を書いている好青年(?)に、撮影スタッフは顔を見合わせた。
●‥‥新居やすかず(fa0245)の場合
朝の公園といえば、犬の散歩もお約束。
ジョギングと双璧を張る健康な朝のシチュエーションだ。
犬と一緒に。あるいは、犬に引きずられて。秋深まる公園に到着した新居やすかず(fa0245)は、いつもどおり愛犬のリードを外してやる。――ドラマでなければ他にも同じように犬を連れた愛犬家がいそうなものだが、今回はそれがメインではないので新井ひとりだ。
外周をひとまわりして、少し休憩といったところか。
首に掛けたタオルでのんびりと汗を拭う新井の視線の先で白い息を吐いていた犬は、ふと何かを見つけて走り出す。
「わっ、どこ行くんだジョン?!」
後を追いかけ、そして、大地に倒れ臥した人を見つける。
教えられたとおりの演技を終えて、犬はきらきらと期待に満ちた目で新井とドッグトレーナーを見つめるが、新井の見せ場はここからだ。
まさか、死者だとは思わないから‥‥
「だ、大丈夫ですかっ?」
慌てて駆け寄り、倒れた人を抱き起こす。
かくり、と。
力なく落ちた頭に、疑問が浮かんだ。
大きく見開かれた瞳に光はなく。ただ、蒼く晴れた虚空を映して――
「うぁ、うわぁ〜〜〜っっ!!!!」
思わず死体を放り出し、悲鳴が朝の静寂を裂いた。
そして。
どさり。
地に臥した死体と、新井。
次の指示を待ちながら、ちょこんと座った犬が不思議そうに小首をかしげた。
●事件の導入に不可欠なもの
それは、絹を裂くような美女の悲鳴。
――ブリキを引き裂くオヤジの悲鳴では萌えられませんからねっ(北沢晶:談)。
お気に入りの純白のセーターに、晩秋に相応しいシックなスカート。
朝の公園を優雅に散歩するお嬢様‥‥霧島愛理(fa0269)の顔には笑顔があった。普段はクールビューティを印象付ける少しばかり知性の勝った容貌も、何か良いことがあったのだろうかいつもよりやわらかい。
今日は何かいいことがありそう♪−な、ルンルン気分でのんびりと足を運んでいるところへ、はい、お約束。
何かに足を取られて‥‥もちろん、転―ぶ!
何かって、何?
そりゃあ、アナタ。この番組は、本格推理サスペンス・ドラマなんです。
決まってるじゃないですか、死体ですよ、し・た・い。――そんな大きい物に蹴躓くまで気づかなかったんかい?! なんて、ツッコんじゃいけません。お約束なんですから。
「あら、いやですわ。私ったらハシタナイ‥‥」
お嬢様は、まだ、相手が死体だとは気づいていない模様。
押し倒したと勘違いした相手に、大慌てで弁解なさっています。――そろそろ、時間がおしてきました。捲くれと手を振るADの合図に頷いて、愛理お嬢様は頬を濡らしたぬるりと冷たい液体に何気なく手を触れ‥‥そして、気づきます。
その頃には、純白のセーターにも真っ赤な血の染みが――
「え、うそ‥‥いやぁぁぁっ!!」
嗚呼、流血に染まったお嬢様の運命やいかに‥‥(合掌)。
●(注)コメディではありません
「し、死んでやがるぜ‥‥」
倒れ臥した死体を前に、相麻了(fa0352)はそう呟いて深刻な驚きに顔を歪める。そして、大きなりアクションで飛び退いた。刹那、
チュドーンッ!!
轟音と共に背後で大爆発が起こり、相麻の体は派手に吹き飛ぶ。
爆発は1回ではない。
ドカァーン!!!
ドォォーン!!!
立て続けに、都合3回。
大気を引き裂いて爆音が轟く。
爆風巻き上げられた砂塵が世界を包み、相麻の体は波間を漂う小船のように宙を舞った。――心理描写なのか、新たな事件の発生なのか。
撮影現場は、もはや殺人事件に巻き込まれた被害者の発見現場というよりは、ガス爆発か、テロ事件の発生現場。
敵(誰?)は、相麻ごと証拠の隠滅を図るつもりかもしれない。
相麻の役回りは第一発見者ではなく、第二の死体に見えてきた‥ような、気がする。
●大和撫子は公園で
冬晴れの空を思わせる藤色の和服姿で監督とスタッフに挨拶をしたキャンベル・公星(fa0914)は、開始の合図に背筋を伸ばす。
草履、巾着に和柄のバレッタ。
香水は使わずに梅の香の匂い袋と小物にもしっかり気を配り。冬枯れの進む公園に故郷の秋を偲びつつ、しゃなりしゃなりと歩を進める。
特に急ぐ風もなく、時折、舞い落ちる枯れ葉に手を差し伸べながら‥‥
そのしっとりとどこか寂しさを感じさせる情景に、打ち捨てられた悪夢の残骸が重なる。
夭折を弔うように降り注ぐ紅葉に彩られた若い娘は、狂った芸術家が残した忌まわしい作品のようにも見えた。
「‥‥‥‥」
悲鳴は上げない。
ただ、力無く。くずおれるようにその場に膝を付き、傷ましい名残を見つめる。
‥‥‥5秒‥‥10秒‥‥
凍りついた時の針を再び動かすのは。
どさり。
枯れ葉の毛布が公星の体をやわらかく受け止めた。
わらわらと周囲の人々が集まるロングトーン。――そして、暗転。
そこだけがひとつのドラマであるかのように見えるよう。
●発見者は、モデル歩きで
ダイエット、若しくは健康のために歩く人が増えている。
そんなワケで、朝の公園にジャージ姿の歩行者がいても不思議はない。――不思議はないが、胸を張り、強く後ろに腕を振り上げるモデル歩きで颯爽と歩く通行人はちょっと珍しいような気がする。
‥‥ぅん‥?
と、思わず首を傾げる視聴者がいたら、竜之介(fa1136)の目論みはとりあえず成功だ。
先ずは誰かの目に留まること。
ともかく小豆色(これも微妙に人の目を牽く)のジャージに身を包み、日課のウォーキングを続けていた竜之介は、色づいた落ち葉を散り敷いた地面に不審なものを見つけ、やや大袈裟に眉根を寄せる。
べったり、と。
不吉にどす黒い朱は、誰の目にも明らかな流血の色。
「んん?」
予感のようなものを感じて、周囲を見回す。
その視線の先には‥‥見紛うことなき、正真正銘の立派な死体!
‥‥ッ‥!!(←竜之介、ショック)
皆が固唾を呑んで見守る中、182cmの長身がぐらりと揺れる。
優雅に。できるだけ顔が長く映るよう、美しく、スローモーションを意識して‥‥第1発見者、崩れ落ちるように失神。
――そして、沈黙が舞い降りた。
●非日常を見つけたら
アメリカのドクター養成課程は長い。
大学を卒業後、メディカルスクール、研修過程、レジデント過程といった具合にじっくりと技術と経験を積んでいく。
そんなわけで大曽根カノン(fa1431)演じる医学生は、分厚い医学書を手に大学病院に向かって早足で公園を横切っていた。――の、だが。この辺の細かいディティールは彼が登場するこの段階では、残念ながら、まだそれほど生きてはこない。
視聴者がこの公園で死体が発見されることの意味に気づくのは、多分もう少し後になってから。年季の入ったサスペンス・マニアは、キャストのロール、BGMの変化などで真犯人を割り出すなんて噂もあるが。
真偽はともかく、ざかざかと落ち葉を踏みしめて闊歩していたカノンは、ふと顔をあげ‥‥視聴者の目には建物と自分の距離を測る無意識の行動に見えただろう‥‥公園の奥まった場所、木立ちの翳になった場所に無造作に置かれた見慣れない異物に目を留める。
人形?
‥‥マネキンの残骸かなぁ‥
なんて、のんびりと眺めていた表情がゆっくりと強張って――
突きつけられた現実(フィクションだけど)に愕然と。
急いで、急いで。
焦る心とは裏腹に震える指先は胸ポケットの携帯電話を取り出すのにも苦労する。――警察に通報し、市民の義務を果たす頃には緊張もピーク。
がくがく震えながらその場にへたり込んだところで、監督から「OK」の声が飛ぶ。
「ありがとうございました!」
途端、しゃっきり立ち上がれるのもドラマならでは。
本当に死体を見つけちゃったら、取り乱して大声で叫ぶか、今みたいに腰を抜かすかのどちらかだよね?
●お嬢様は死体を見つけた(その2)
はらはらと金色の片鱗を舞い散らす大樹を見上げて、芳乃なくる(fa1728)は手を伸ばす。
少し地味目のワンピースドレス‥‥スカートはもちろんゆったりと布地を使ったひらひらのふりふりで‥‥目指すところは霧島愛理と同様、優雅なお嬢様らしい。
うっとりを最後の秋を見上げていたせいか、足元への注意がおろそかになっていたようだ。何かに躓いて、前のめりにすっ転ぶ。
ふわりとスカートがひるがえり、白いショーツが眩しくちらりv――もちろん、カメラアングルは後ろから、だ。
視聴者サービスは、まだまだ続く。
なくるが躓いたのは、もちろん死体。
ここではボケをかますことなく反射的に身を引こうとして足がもつれ、今度は見事な尻餅‥‥死体と平行のローアングルの正面は、スカートの中が見えそうで見えない。――ちょっと開いた脚にめくれたスカートがひっかかり。
画面の前でなんとかスカートの中を見ようと悶える男たちの顔が想像できてしまうのは、最前列でライバル(?)のチェックをしていた北沢のおかげだろうか。
「生きてて良かった。神様ありがとう!」
撮影終了後、うっかりライバルに快哉を送る姿が目撃されたとか、なんとか。
●ビリー(監督)は笑う
お疲れ様。
皆、なかなか楽しい演技だったよ。――誰の影像が選ばれたのか? それは是非、番組を見て確認してくれたまえ。