Find me,if you can南北アメリカ
種類 |
ショート
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担当 |
津田茜
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芸能 |
2Lv以上
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獣人 |
フリー
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難度 |
やや難
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報酬 |
4.9万円
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参加人数 |
8人
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サポート |
0人
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期間 |
01/26〜02/01
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●本文
見つけてごらん――
誕生日の朝。
主人公のポストに投函されていた1通の手紙。
バースディ・カードには少し古めかしさを感じる硬い筆致で綴られていた短い羅列。
見つけてごらん。
(あなたに、それができるなら‥)
■□
「こんな手紙が届いたら、君ならどうする?」
問いかけられて、キャスティング・マネージャーは首をかしげた。
文面に従って、送り主を探すとか。
こんな事を企みそうな友人の顔を思い浮かべて、問いただしてみるのもいい。
性質の悪い悪戯だとゴミ箱に投げ込んでさっさと忘れてしまうのも、もちろんアリだ。
「‥‥いや、それじゃドラマにはならないんだけどさ‥」
そう。
主人公に必要なのは、物語に飛び込んでいく行動力――
「都会の真ん中で小さな孤独を抱いた主人公が、手紙の送り主探し通して自分を再発見する‥‥て、形になるのが理想かな」
ちょっぴり夢見がちなプロデューサーの言葉に、キャスティング・マネージャーは笑って肩をすくめた。
●リプレイ本文
Find me,if you can ―見つけてごらん―
誕生日の朝。
郵便受けに舞いこんだカードの走り書き。
差出人は不明。
消印もなし。
「どうしたんですかー?」
挑戦状(?)にも思えるそれをためつすつがめつする彼に気づいて、居合わせた友人が声を掛けてくる。
どん、と。やや強めに背中を小突いたのは、北沢晶(fa0065)が演じる同級生だ。気さくなスポーツマンといった居出立ちが、なかなか様になっている。
「何をやらかしたんですかー?」
不幸の手紙?
それとも風紀委員会からの呼び出し状?――アイビーリーグのスタンドで、チアのスカートの中をのぞいていたのがバレたんでしょう。さらりと口から飛び出すアドリブは誰の願望だろう‥‥
「おや、これは?」
便乗してポストを覗き込んだ北沢は何か気づいた風に顎を引き、ポストに手を突っ込んだ。
取り出されたのは、小さな鍵。カード共々、目立って凝ったものではない。むしろ、どこにでもあるごくありふれたもの。
「ん〜、コインロッカーの鍵ですかねぇ‥‥」
受け取った鍵を胸ポケットに滑り込ませた彼の後姿を見送って、北沢は何やら意味ありげな笑みを浮かべた。
●約束の場所
地下鉄のコインロッカーの中には、アメフトチームのマスコットとロゴをプリントしたペナント・マフラーとポラロイドの写真が1枚。
「――カフェテリア、ですかね」
ぼそり、と。後ろから言葉を落とされ驚いて振り返ると、見慣れた(見飽きたとも言う)悪友の顔。――ラルス(fa2627)が皮肉っぽい笑みを浮かべて立っている。
「おや。なんだとはご挨拶ですね」
貴方と私の仲じゃないですか、なんて。台詞回しが多少説明っぽくなるのは、単発ドラマならではの気配りだ。
TVの前の視聴者は、肩を並べて広いキャンパスを歩くふたりの会話を通して主人公の生い立ちや境遇、現在の状況を理解する。そして、これからの展開を予測しながら、紡がれる物語の見届け人となってくれるのだ。
昼には少し早い時間のカフェテリアは、人もまばらで。
齧りかけのベーグルサンドを傍らにレポートを映す人、日当りの良いベンチに座って本を読む者。ポータブルのMDプレイヤーに繋がれたヘッドフォンが囁く軽快なリズムに乗って小刻みに身体を揺らしている者‥‥皆、思い思いに時間を潰している。
ホールを見回す視線を思わせるカメラワークの片隅で、その人は静かに本を閉じて立ち上がった。――白鳥沢優雅(fa0361)、“美形青年”なんて職業があることを知る人は、世間にはまだ少ない。
深めに巻かれたマフラーの柄がコインロッカーに入っていたモノと同じだと気づいた人なら、彼が次のナビゲーターだと判るはず。
何気ない様子で主人公に近づいた白鳥沢の手には、1枚の写真。角の撚れ具合から少しばかり時間が経過しているようだ。
「さあ‥‥思い出してみて?」
フレームの中で仲良く遊ぶ子供の姿をチラリと映し、カメラはすれ違いざま囀るように囁いてカフェテリアを後にする白鳥沢の背中を追う。
「おや、これはこれは‥‥ずいぶん懐かしい写真ですね」
思わせぶりなラルスの言葉にはもちろん、隠された意味がある。――事件の発端。手紙の送り手は、主人公の過去に関わる者であることへの示唆。
過去からのメッセージを前に、胸の奥に支えるモノはあるのだけれど。
何かを思い出しそうで、思い出せない。そんな消化不良の面持ちで首を傾げる主人公と視聴者の耳に、突然、切り替わったBGMはノスタルジーを駆り立てる短調から流行のヒップホップへ。
大音量のヘッドフォンを外したのは、脚の長さを引き立てるスリムジーンズに淡色のパーカーを羽織った彼女。――指先で角度をつけたサングラスの下から挑発的な視線を送る真紅(fa2153)もまた、この謎掛けのメッセンジャーだ。
少し傍迷惑に撒き散らされるリズムに向けられる周囲からの非難の秋波を意に介さず、真紅が扮した女子大生はキャンバス地のトートから取り出したMDケースを開く。新しいMDを取り出して‥‥
途端、鳴りだす携帯電話の着信音。
行き場を失ったMDは、所在無くテーブルの上へ。
「ああ、うん。大丈夫よ、今からそっちへ行くわ。‥‥しかしまぁ、地味な人ねぇ」
もっといい男もいるでしょうに。
誰の批評をしているのやら。ヘッドフォンから携帯へ。お喋りに心を奪われた彼女はそのままベンチから立ち上がり、主人公の脇をすり抜けてカメラの外へ。
机の上には、MDが1枚。
●追想はアナタの講義を聴きながら‥
残されたMDのデータは、校歌と授業中らしい誰かの講義――
もちろん彼女の趣味ではなくて、次への手がかり。
壇上で弁を振るうのは、弥栄三十朗(fa1323)が演じるプロフェッサー・ゴトー。弥栄自身、受講する立場なら睡魔に襲われていたかもしれない専門用語の波のまにまに。悩み(?)を抱える主人公が講義中に想うのは、過去への回想。間違っても空間の中を回転しながら上昇する関数の方程式であってはいけない。
「本気でお前なんかどうでもいいと思ったら、そもそも手紙も出しませんよ。放っておきます。ええ」
別れ際にさらりと落とされたラルスの言葉もリフレインする。
「考えてみるんですね。天涯孤独を気取る前に。周りに、誰かいなかったか。一人で育ちましたなんて顔をするのは、100万年早いですよ」
100万年、立ち止まって振り返った時、過去はどんな風に見えるのか?
見渡せば、余所見をしている生徒は他にもいるのに。何故か教授の目に留まってしまう運の悪さは主人公の特権。――いつの間にか教壇から降りたプロフェッサーが目の前に。そうでなくても威厳のある弥栄にあおられて、回想は中断。
首をすくめた主人公の手元に、ひらりとメモの切片が落とされた。
見上げれば、何食わぬ顔で教本を手に教壇へと戻っていくプロフェッサー。――この人しかいないのだけど‥‥ああ、でも‥ホントに?
●100年の奇跡
アインシュタイン奇跡の年より100と1年。
数々の記念行事は終わったけれど、プロフェッサーの頭の中ではブームは未だ進行中。――ヒントではなく、余所見の罰の宿題だったのか‥‥。
メモに記された暗号のような数式と理論に、ちらりと不安を感じたりして。
このまま手がかりは潰えてしまうの?
どきどきしながら成り行きを見守るお茶の間の祈りが天に届いたのかどうかはともかく、メモを片手に大学図書館へと足を踏み入れた主人公をちゃんと待っている人がいた。――地上13階、地下2階なんてべらぼうな広さの建物で巡り合えたのは、あるいは運命のお導き‥?
同じゼミの先輩で大学院生のハリーを演じるのは、壬タクト(fa2121)。ああ、なるほど。履修科目が同じなら、探す本の分類は同じかも。
面倒見の良い先輩は、もちろん件の書籍を探すのだって手伝ってくれる。取り留めのない話から始まって、話題はいつしか遥か昔の思い出に‥‥
「君は好きな子はいないの?」
――なんて、水を向けられれば、固く心を閉ざしたままの記憶も少しずつ綻び始める。
そして、見つけた本の間に挟まっていたモノは‥‥
●閑話休題−只今、CM中−
ヒロイン(女性主人公)はヒロインだから‥‥キーパーソンとは呼びません‥‥
プロデューサーがうっかり固まりかけたのは、スタッフだけの秘密。
●幸せの足音
最後のCMの後にやってくるもの。
「上手くいくかなぁ。ねぇ、シンディ?」
部屋を飾りつけながらリュシィ‥‥こと、深月沙奈(fa1155)は楽しげに友人へと声をかける。
シンディと呼ばれた娘は、友達ほど気楽にはなれない様子。どこか落ち着きなく、作業する手も滞りがち。佳奈歌・ソーヴィニオン(fa2378)演じるシンディは、お金持ちのお嬢様。若干我儘でいたずらっ子なところもあるが、根は純粋で優しい娘であるらしい。――本人の申告と周囲の見解が、多少、食い違って居るような気もするが‥‥数年ぶりに再会した幼馴染に自分の素性を言い出せずに悩む可愛らしい一面も持っているはずだ(きっと、たぶん‥‥そうだと、いいなぁ)。
『大きくなったら、結婚しようね』
幼少の一時期を共に施設で過ごした男の子と誓い合った幼くも美しい思い出を胸に成長した彼女がようやく再会した彼は、あろうことか彼女を覚えていなかった。
落胆する彼女の力になろうと立ち上がったのが親しい友達。友人の友人。友人の友人の友人‥‥大学教授まで巻き込んでの一大企画(ただ再会するだけじゃツマンナイなんて理由じゃ許さないから)。
果たして、彼は思いだしてくれるのだろうか――
「どうかしらねぇ」
「大丈夫。ああ見えて根っこはまっすぐなんです」
誕生日パーティを兼ねたお祝いだから。
思いでなんて、そんなもの。真紅のクールな意見に、大量の食料やクラッカーを買い込んできた北沢はのんびりと応える。ここでコケられては、彼名義の領収書の行き先が無い。――セクシーなドレス用意したのだ。
「ああ。きっと、大丈夫だ」
場所の提供者であるプロフェッサーも、確信を持って頷く
彼はこんな良い友達に恵まれているのだから。――彼がここに表れたなら、そう言葉をかけてやろうと決めていた。
メールの着信を告げる軽やかな音に、タクトが取り出した携帯電話を確認する。そして、満足げな笑みを浮かべた。
「‥‥壬さんからです。こちらに向かっているそうですよ」
わぁ、と。
歓声があがり、笑顔が広がる。
ガッツポーズに、ハイタッチ、仕掛けの成功を大いに喜んだ後は、もちろん――
きっと駆けてくるだろう彼にかける言葉を思い描く。
『おめでとう』
『なかなかやるじゃん』
『気づくのが遅いんですよ』
そして、
―― 君なら遣れると信じていたよ ――