Jeweler’s南北アメリカ
種類 |
ショート
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担当 |
津田茜
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芸能 |
2Lv以上
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獣人 |
フリー
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難度 |
普通
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報酬 |
3万円
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参加人数 |
8人
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サポート |
0人
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期間 |
02/14〜02/18
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●本文
St.Valentine’s Day――
恋人たちの幸せ記念日。
あちらこちらでわくわく、そわそわ。
クリスマスや感謝祭のように全ての人が無条件に楽しめる祝日ではないけれど。――幸せなカップルには、やっぱり待ち遠しい一大イベント。
目指すは幸せ、ホットでピーチフルな人間関係。
太平洋の向こうでは、女の子が意中の彼にチョコレートを渡す日なんだって!
なんて聞いたら、アメリカの女の子は少しびっくりするかもしれない。
だって、
St.Valentine’s Dayは、ダーリンにジュエリーを買ってもらう日!!なんだから。
お国事情はやっぱり様々。
羨ましいと吐息を落とすか、そんなのツマンナイと膨れるかは、きっと意見の分かれるところ。
今年もSt.Valentine’s Dayを巡って、恋人たちの甘い恋の駆け引きが繰り広げられる。
愛情はお金じゃ買えないと言うけれど。
――お金は幸せになるお手伝いもてしてくれるのだ。
セレクトショップで販売員を務める主人公の目を通して、店を訪れる客の人間模様を描いたホームドラマ【Jeweler’s】でも。
この日のメインテーマは、もちろん、コレで―――
●リプレイ本文
St.Valentine’s Day――
愛し合うふたりが互いの愛を確かめ合うメモリアルデイ。
日頃から人前で愛を語らうことに抵抗の少ないアメリカにおいても、この日は特別。ピーチフルに染まった世界にどっぷり浸ったふたりがやけに目に付く。
Happy Valentine♪と、故事をもたらした聖人に感謝を奉げるか、きりりと奥歯を噛み締めつつコンチクショウと呪詛を吐くかは、当事者の甲斐性次第。
そう。全国民的な祭日となる感謝祭やクリスマスとは違い、この祝日には参加制限なんてものが付いているのだ。
●受け継がれるもの
年相応なんて言葉もあるけれど。
綺麗なモノを愛する心に年齢なんて関係ない。
「何見てるんだ?」
足を止め熱心にショウケースを覗きこむエリア・スチール(fa0494)に何気なく声を掛けた時点で、相麻了(fa0352)は既に彼女の仕掛けた罠に捕まっていたりする。
「この指輪、いいなぁ」 うるうると濡れて妖艶さ2割り増しの(と、エリアは思っている)瞳が訴えるのは、もちろん“買って欲しいな”のブロックサイン。どれどれとエリアの心を射止めたアクセサリーを目で追って、さり気なく値札をチェック。
手ごろなお値段だったら、プレゼントしてもいいかなぁ。なんて、お祭りムードに盛り上がる淡い恋心にざっくり突き刺さる現実‥‥想定外の値を刻む値札に相麻はげっと目を剥いた。
「マジかよっ!!」
思わずゼロの数をかぞえてみたり。
無理。絶っ対、無理‥つーか、ありえないからっ!!
財布どころか、預金通帳を空にしたって、こんな大金は出てこない。――だって、健全な高校生なんだもの。
お嬢様な彼女を持つと苦労する。
駆け引きどころか、思いきり素で返された脈なしの反応に、エリアはむぅと唇を尖らせた。そして、作戦を切り替える。
「欲しい、欲しい、欲しい。買って、買って、買って〜」
お色気作戦(?)がダメなら、駄々っ子作戦。――騒いで注目を集め、居た堪れなくなった相麻は仕方なく‥‥というか、エリアだって十分恥ずかしい。ちょっと捨て身の作戦だ。
「て、店員さんオススメってのがあるらしいんだけど‥‥見てみない?」
苦しいのは判っているけど。
どうにかエリアの気をそらせ、運ばれて来たのはシンプルなダイヤリング。――小粒だし、カッティングパターンも些か古い。
「母さんが俺にくれたものなんだけど‥‥」
貴方に大事な人が出来たときに渡しなさいって。
軽薄そうないつもとは違う真摯な表情に、口を出かかった不満は消える。
「古いモノだし、エリアの好みには合わないかもしれないけど‥‥指輪がどうしてもキミの薬指に行きたいってさ」
え、やだ。もしかして、プロポーズ!!?
そして、祝福が舞い降りた。 ――Happy Valentine♪――
●スキンシップだって大切
今日は何の日?
思い出して欲しいけど、言い出せないのも乙女心。
プレゼントは愛を計るものじゃないのも理解っているけど‥‥世間の盛り上がりを前にすれば、やっぱり、ねぇ?
誰がどう見ても恋人だと判るほど、しっかりと寄り添った北沢晶(fa0065)の腕の中で、佐々峰菜月(fa2370)は何度目かの吐息を落とした。
こういうことには鈍い人だと知っているけど。
ちらりと意中のアクセサリーと(演技ではなく)僥倖を噛み締めている北沢の顔を見比べて、菜月は唇を尖らせる。
ここまですっきり忘れられると、何だか口惜しい。
だって、惚れた方が負けだって言うじゃない? ――意地でも買ってもらいたくなってきた。負けないからねっ。
攻略のポイントはお色気にあり(公私共、きっぱりはっきりスケベだもん)。
17歳の魅力炸裂vで、これってちょっとチャンスよね。
「あ、北沢クン。髪にゴミついてる‥よ‥‥」
精一杯、背伸びして。長身の彼の髪に手を触れる。
お色気に弱い彼の視線が何処に行くか‥は、計算の上。
ああ、いい眺めだなぁ。誰かさんの心の声が聞こえてきそうなアングルは、もちろんTVの前の視聴者にもサービスカットだ。
「きゃあ、倒れこんじゃダメ!!!」
ここぞとばかりにイチャイチャ、ラブラブ見せ付けて。
「あ、あのね。今日はバレンタインだって気づいてた?」
上目遣いにうるうるされれば、鋼鉄の魂だってくらくらきそう。
「気づかなくてごめんよ、菜月」
お詫びの言葉は、熱い抱擁と一緒に囁く。
「キミへの思いは、モノなんかじゃとても表せない」
今日は、心行くまでふたりで過ごそう。
ボクの時間をまるごと上げるよ。
恋人との甘い時間は、お手軽だけれどとっても貴重なプレゼント。
「ホント? 嬉しいv」(←騙されてるョ)
‥‥こ、この、馬鹿っぷる‥
独り者の視聴者に、砂よりも甘い砂糖を吐かせることができれば大成功。
●男嫌いの宝石たち
恋人の定義は、必ずしも男と女であるとは限らない。
州によっては同性同士の結婚だって許されちゃうお国柄。
メイヤー・E・霧島(fa2557)が演じるデザイナーのメイヤー・エドワーズの恋人、宮内・ミリー(fa1784)が目をつけたのは、ショーケースの中でもひときわ輝きを放つ大粒のダイヤモンド。
「ねぇ〜これ、とってもイイカンジじゃない?」
鼻にかかった猫撫で声にメイヤーは、もっとスタイリッシュでシンプルなものを差す。
「君にはコッチの方が似合うよ」
もちろん、安物の方が似合うという意味でなく、こちらの方が付けていく場所を選ばない、というニュアンスで。
でも、ショッピングは出会い頭のインスピレーション。当然、ミリーは納得しない。
「これがいいのー。だって、凄い素敵なんだも〜ん」
ねぇ、いいでしょー。密着させたメイヤーの身体に胸を押し付けたり、キスしたり。少しづつ大胆になる様は、甘えん坊な猫のようだ。
「だってー、この子も私につけて貰いたいってーいってるはずよーん」
目と目が逢って恋に落ちる。
私を愛してないの?なんて、瞳で見つめられたらくらっと来てしまうかも。――でも、メイヤーにだって拘りがあるのだ。
「知ってる? 大きなダイヤには呪いがつきものだってコト」
呪われたダイヤの筆頭はスミソニアン博物館に眠るホープ。世にも美しいこのブルー・ダイヤは “oldmaid(ババ抜き)”の“Joker”のように所有者を次々に破滅へと追いやった。
リージェント、オルロフ、マクシミリアン。そして、コ・イ・ヌール――英国皇太后の王冠に配されている巨大なダイヤも血塗られた遍歴を持っている。ただし、対象は男性限定という逸話は、黙っておいた方が良さそうだ。
神妙に、かつおどろおどろしく恋人の執着をダイヤから逸らせ、メイヤーはミリーを夕食に誘う。
セッティングしたレストランにて花束を渡し、ありったけの気持ちを伝える予定だ。――ダイヤは花束の中へこっそり忍ばせておくつもり。
大きさ? ――それは、もちろんv
●“Love is all”って、言ったじゃない
貴方さえいれば、それで満足
もちろん、偽りのない本心だけど。――だからといって、放置するのは問題外。
ショーケースの前で突然、動かなくなった藍川・紗弓(fa2767)の固い決意に、劉葵(fa2766)は大いに慌てる。
とりあえず、所が悪いとその場を離れようとするのだけれど。
押しても、引いても‥‥擽っても効果がない。――これは相当重症だ。
己は、瞬間接着剤か! おもわず拳を握り締めた劉の前で。色づいたやわらかな朱唇がぽそりと静かに、でも針よりも鋭い言葉を紡ぐ。
「‥‥去年。私の誕生日にも何もなかったよね」
クーの誕生日には、ちゃんとプレゼントあげたのに。
絶妙のタイミングに、思わず絶句。
愛があっただろう、愛が!!
声を大に叫びたいけれど。男子たるものこんなところで(内容もだけど)注目を集めたくはない。
「とりあえず、形でいいんだから」
(「‥‥普通は、気持ちでいいんだから‥て、言うところだろ、そこ」)
内心で冷や汗をかく目になった劉のじと目をさらりといなした紗弓が指差したのは、ショーケースの一角、赤い宝石をあしらった蝶のブローチ。
「これ、わたしの誕生石なの」
「誕生石?‥‥」
つられて覗き込み、またまた絶句。
どこからどう見ても、立派なルビーだ(品札にも書いてある)。
「‥‥だめ?」
可愛らしく小首をかしげる恋人の肩をがっしと掴み、劉は真摯に紗弓の赤い瞳を見つめた。
「こんな赤い石よりも、君の瞳の方がずっと美しいよ‥‥」
ああ、言ってしまった。こんな歯の浮くような科白を口にする日が来ようとは。
決死の殺し文句だったが、紗弓だって譲れない。
「クーからの贈り物というのが重要なの。もし、無理なら、もうひと回り小さい方でもかまわないから」
去年のバレンタイン・デーも、誕生日も、クリスマスだって我慢したのだ。――そりゃあ、一緒に居られたら良いって言ったけど。ホントに何もないんだから、ああ言うしかないじゃない。
ちょっと俯き加減に肩を震わせ、不貞腐れる顔も可愛いいなぁ‥‥じゃなくて‥‥
町工場のしがない工員は薄給なんだよ。
悪いのはオレじゃなくて、薄っぺらな財布なんだ。
助けを求めて値札を眺めても、ゼロが減るわけもなし。――と、その隣にも同じようなアクセサリーが、これならなんとかなるかもしれない。
「でも、ピジョンブラッドじゃないし」
何ソレ? 色が薄い?
「てぇ、ルビーはルビーじゃん。石もいっぱいついてて見た目も豪華でお得感があるぞ。誕生日も兼ねて買ってやるからさ。‥‥そのかわり、給料三ヶ月分の方はもうちょい待ってくれよな」
微妙に焦点のずれたセールストークだったけど、最後の言葉は効いたみたい。
グレードダウンに不満げだった紗弓の表情が、ぱっと華やぐ。――どこかでウェディング・ベルが鳴り響いた。