Gatekeeper南北アメリカ

種類 ショート
担当 津田茜
芸能 3Lv以上
獣人 フリー
難度 普通
報酬 7.9万円
参加人数 8人
サポート 0人
期間 04/06〜04/10

●本文

 《象牙の塔》に囚われた《常春の君》を救い出し、《溶けない冬》に閉ざされた世界を救うため選ばれた8人の勇者。
 《幽世の道》と名づけられた塔への道に立ち塞がるのは、8つの門とその扉を守る8人の門番。――《魔王》とその忠実なる下僕たち。
 世界の為に。
 愛と友情。そして、自らの信念を賭けて‥‥
 険しき道を踏み出した勇者は、課せられた試練と向き合う。
 果たして勇者は《魔王》の巡らせた罠を打ち破り、世界に希望の光を取り戻すことができるのだろうか?

■□

「‥‥息子のハマってるゲームなんだけど、これが意外に面白くてさ‥」
 そう話す男の眸は、心なしかウキウキしている。
「こーゆーのも稀にはいいかなぁ、なんて思ったり」
 ハマっているのは息子さんではなくて、貴方なのでは‥‥?
 そう問い返したいのを飲み込んで、キャスティング・マネージャーは提出された企画書の端をトントンと揃えてファイルに挟んだ。
 多少、泥臭い気がしないでもないけれど――。

●今回の参加者

 fa0352 相麻 了(17歳・♂・猫)
 fa1180 鬼頭虎次郎(54歳・♂・虎)
 fa2153 真紅(19歳・♀・獅子)
 fa2266 カリン・マーブル(20歳・♀・牛)
 fa2446 カイン・フォルネウス(25歳・♂・蝙蝠)
 fa2766 劉 葵(27歳・♂・獅子)
 fa3124 弥生 飛鳥(30歳・♀・ハムスター)
 fa3157 ジェイリー・ニューマン(32歳・♂・蝙蝠)

●リプレイ本文

●合鏡
 《世界で最も凶悪な生き物》。
 題さたれた箱の中には、鏡がひとつ。
 ふわり、と。他愛もなく空に浮いた身体は次の瞬間、重力に従ってコジロー=鬼頭虎次郎(fa1180)=の体は地面に叩きつけられた。
 走り抜けた痛みに顔が歪む。でも、本当に痛いのは心かもしれない。
 冷ややかに彼を見つめる敵―Gと名乗る若い男だ―に、仕掛ける技をことごとく模倣して返されるのだ。――まるで、鏡に映したかのように。
 長い修行と鍛錬によって習得した技が、いとも簡単に‥‥
 形勢は、圧倒的に不利。
 美形の悪役に上から呷られるのは、微妙にムカつく。――TVの前の子供達は、ハラハラドキドキ。
 どこかに‥‥
 きっと、どこかに勝機はあるはず。
 そう。この呷られ構図がポイントなのだ。地面に転がったコジローの目に飛び込んでくるのはGの足。悪役らしく黒を基調にしたブーツなんて格好の良いものを履いている。――対するコジローは洗いざらした袴だ。
 袴とブーツ。
 そして、閃く。――袴に隠された足捌きは、模倣できない。
「所詮はコピー‥‥本物にはかなわないという事を見せ付けてあげるよ」
 格好良く宣言したら、さあ反撃だ。


●脚を得た人魚が得たモノ
「違う! 違うっ!! 違ぁぁぁうっ!!!」
 だん、と。足を踏み鳴らし、少女は堪えかねた風に癇癪を破裂させる。刹那、
 何かが破裂するような効果音が響き、答えを違えた仲間は驚愕の表情を貼り付けたまま固く冷たい石の像へと変じた。――道を塞いで聳え立つ巨大な門の前に、林立する無数の像と同じように。
 獅子の身体に幼い少女の顔を持った扉の守護者は、勝ち誇ったように新たに増えたコレクションを眺めやり、ゆっくりと最後のひとり‥‥オルト=真紅(fa2153)=へと顔を向けた。
「さあ。コレで最後だ! ――我が問いに答えよ!! 人に非ず、さりとて魚にも非ず。愚かにして頑な、故に水沫と消えるモノは?」
 白い光が画面からあふれ出し、息を呑んでTVに見入っていた子供達は眩しさに目をそむけた。子供向けの商品を扱ったCMが物語を遮る間、彼らはスフィンクスが投げた《謎掛け》を想う。――そして、オルトの勝利を確信する。何故なら、それはオルトにしか解けない答えなのだから。
「‥‥それじゃあ、今度は私からの質問ね」
 危機を乗り越え仲間を救い出した後、オルトはにっこりと綺麗な笑みを浮かべて不満げな魔物に向かって指を立てた。
「足を得た人魚が代わりに失ったものは?」
 ‥‥声‥?
 違う、そんなものじゃない。
 答えはねぇ――
 伸ばされた腕が耳を掴む。そして、
「平穏な! 退屈な!! 平和な生活だよっっ!!!」
 びりびりと大気を鳴らして響き渡った超音波の直撃を受けて魔物の身体は崩れ去り、門はゆっくりと道を開いた。


●素顔は見せない
 実力伯仲の激しい戦いは、時に敵と味方であるはずのふたりの間に奇妙な友情を育んだりもする。
 流れるような攻守の交代。互いに相手の間接を狙う低い姿勢で掴み合う。ぶつかり合う身体に飛び散る汗。――大量のアドレナリンがカリン=カリン・マーブル(fa2266)=を高揚させ、恍惚にも似た悦びが心に満ちた。
「‥‥楽しいね」
 お互いの立場を忘れて。
 死力を尽くす相手に出会えたコトに感謝さえ感じ始める頃。――永遠に続くかと思われたふたりの死闘にも終止符が打たれる。
 カリン必殺のジャーマンスープレックスが全てを決めた。祭りの後に来るモノは‥‥勝者に課せられる非常の掟。でも――
「‥‥貴方とはまた戦いたい‥」
 何も奪わず、ただ先を急ぐ清々しさも正義の使者のセールスポイント。

●引裂かれし影
 孤高の黒騎士カレイジャス=カイン・フォルネウス(fa2446)=の前に現れたのは、邪悪なる半身ディスペア。
「ようこそ邪の門へ」
 先を塗りつぶすかのような漆黒に閉ざされた門の正面に立った男は、酷薄な笑みを浮かべて背後を示す。
「突破のルールは簡単。このオレを倒す事だ。――数多の勇者が挑んだが‥」
 未だ成し遂げた者はいない。
 さあ、と。促されるまま踏み出した仲間を制し、カレイジャスは門の前へと進み出た。
「‥‥俺が行く。‥‥行かねば成らない」
 それが与えられし宿命だから。もとはひとつであったもの。互いに惹かれ、ぶつかりあうも理なのかもしれない。 進み出た男を見止め、ディスペアもまた狂気のような笑声を薄暗い空に響かせた。
「‥‥くく‥‥貴様か‥、貴様が勇者の仲間とは‥‥」
 世界でも救うつもりか?
 ヒステリックにも聞こえるその問いに、カレイジャスは否と答える。
「貴様を倒す。――それが私の存在意義だっ!」
 一際、高い戦いの宣言。
 鳴り物が響き渡るような衝撃と、めまぐるしく点滅する光の中から二振りの剣を構えてカレイジャスは宿敵に切りかかった。
 白光を帯びた刃がスローモーションでディスペアを斬り裂く寸前、闇の裡より引き抜かれた大剣が黒光を発してそれを阻止する。
 大胆且つ破壊的な衝動と、トリッキーでいて華麗な太刀筋。
 せめぎ合う光と闇。
 永遠に続く善と悪を象徴するかのように、果てしなく。――見守る物はただ、見守るしかない。
 必ず光が勝つのだと、心に言い聞かせ祈りながら。

●皿上の豆
 身体を動かすばかりが戦いではない。
 謎の中国人アオイ=劉葵(fa2766)=の相手は、己の身長よりも長い一膳の箸を華麗に使いこなす和服美人。
 ジャパニーズなのか、チャイニーズなのか。東洋人が見れば思わずツッコミのひとつも入れたくなるシチュエーションも、出るところへ出れば成り立ってしまうのがショウビジネスの不思議。
 緊張の糸をほぐす不思議楽しいワールドでは、与えられる《試練》もやっぱり不思議。

《制限時間60秒で50粒の大豆を、右の皿から左の皿へ》

 失敗すれば、箸使いのお仕置きを受けてしまうのだ。
 あの巨大な箸で殴られれば、やっぱり少しは痛いはず‥‥共有者の少ない痛みは、心にも滲みそうで。
 一見、地味に見える勝負だが、やり始めるとかなり大変。
 箸を使い慣れない人には‥‥そして、自他共に認める大の酒好き。しかも、戦いの前に景気付けにぐぃっと一杯やってしまったアオイには、結構な試練となった。
 和服美人を打ち倒し、必殺の《美禄拳(←拳と書くが実は棍棒でど突き倒す酔拳の一種?)》が華麗に炸裂する瞬間は‥‥くるのだろうか?


●師の壁を越えよ
 現れた門番に、ジョーカー=相麻了(fa0352)=とアスカ=弥生飛鳥(fa3124)=は息を呑む。
 かつて、《師匠》と呼んだ人。――《黒獅子衆》と呼ばれる最強の忍者軍団の頭目にして、隊長10mはあろうかという大蝦蟇を操る最恐の蝦蟇使いマスター・ヤヨイその人だった。
 弟子は師匠を越えられるのか。
 魔王に心を支配されたヤヨイの目を覚まし、仲良く修行を積んだあの山に帰ることは‥‥
 最強のNINJA大戦、ここに始まる――
 動揺する心に付けこまれ、なかなか思うように戦えないふたり。ひとりなら、勝てなかったかもしれない。
 だが、彼らはひとりではない。
 信頼できるパートナー。そして、ここまで一緒に旅してきた仲間が、折れそうになる心を支え光を導く。
「やってやるぜ!!」
「うん」
 隙を作ってワザと飲み込まれた大蝦蟇の腹の中で、ジョーカーは必殺の《微塵隠れ》を炸裂させる。弾け飛んだ蝦蟇に気を取られたヤヨイの懐に飛び込んだ、アスカもまた気合を込めて技を放った。
「師匠! 貴女はきっと助けて見せる!!」
 手を携えて故郷に帰る。
 一途な想い。それだけを拳に込めて‥‥


●溶けない心を溶かすもの
 塔へと至る幽世の道。
 その途上に置かれた七つの門を破れば、残るはひとつ。――すなわち、《象牙の塔》の閉ざされし門。
 辿りつくまであとわずか。
 だが今、その道は途切れ、分厚い氷に覆われた氷原に閉ざされていた。
 無関心。嫉み、嫉妬、憎悪。冷え切った人の心が生み出した冬‥‥溶けることのない永遠の冬。
 それが、魔王の正体。
 吹きすさぶ吹雪に白く塗りつぶされた闇の彼方にかすかに灯った小さな光を見つめて、ジェイリー=ジェイリー・ニューマン(fa3157)=はこれまでの道を振り返る。
 決して、平坦ではなかった道。
 頼れる仲間がいなければ。あるいは、彼を信じて送り出してくれた温かな人々がいなければ、たどり着けなかっただろう。
 あと少し。
 そう、長い長い試練の旅はもうすぐ終わる。
 試練を乗り越え再び集った仲間たちと共に、力をあわせ、技で、力で、知恵で。魔王の君臨する氷原を越えるのだ。
 握り締めた手の中で、細い矢は、ほのかな温もりと確かな存在を彼に伝える。
 《氷解の矢》――凍てついた扉の鍵を砕くただ奇蹟の力。
 この一矢に全てを賭ける。
 心の目で得物を捉え、扉を開くことさえできれば《常春の君》の慈しみは魔王の凍てた心をも溶かしてくれるはずだ。どんなに厳しい寒さの下にも、必ず春が芽吹くのだから。
 雪嵐の彼方に揺れる灯火を見据え、ジェイリーは静かな動作で弓を構えしっかりと弦を引き絞った。