交通ルールを守ろうアジア・オセアニア

種類 ショート
担当 九十九陽炎
芸能 1Lv以上
獣人 フリー
難度 やや難
報酬 1.3万円
参加人数 8人
サポート 0人
期間 10/22〜10/28

●本文

 日本、とある町の町内会。年々交通事故が問題となるその地域では、とある劇団に依頼して、交通ルールについて教唆する内容の芝居を演じて貰う事が既に決定していた。舞台も予約し、チケットの売り上げも上々。順風満帆に思われた。だが、一通の電話が状態を一気に変える。
「何だって!」
 電話を取った実行委員は叫んだ。電話の相手は劇団マネージャー。内容は、事情により公演を行う事が出来ない、と言う内容であった。至急、実行委員達が町内会の会談場に集められた。
「そういう事情なのだが、どうする?」
「チケットはもう売ってしまってる。会場も押さえてある。今更中止、なんて事が出来ると思うか?」
 混乱に恐慌の成分を混ぜた物を顔に浮かべ始める実行委員達。だが、其処で一人の男が一つの案を思いつく。
「少々、気になったんだが‥‥」
「何が?」
「チケットには劇団名は載せていたか?」
「いや、イベント名だけしか載ってなかったな」
「だったら一つ、方法がある」
 男はその案を語り始めた。渋る他の実行委員達。だが、その男の強い一押しでその案に纏った。
「そうと決まれば電話を掛けまくれ!」
 男の出した提案とは、方々から人を調達し、一週間で何とか見せられる舞台を作って貰う、という物であった。

●今回の参加者

 fa0051 高邑静流(21歳・♂・小鳥)
 fa0290 高槻 ことり(15歳・♀・蝙蝠)
 fa0833 黒澤鉄平(38歳・♂・トカゲ)
 fa1047 芹沢 紋(45歳・♂・獅子)
 fa1267 もりゅー・べじたぶる(27歳・♂・パンダ)
 fa1329 多幾創一(23歳・♂・トカゲ)
 fa1521 美森翡翠(11歳・♀・ハムスター)
 fa1610 七瀬・聖夜(19歳・♂・猫)

●リプレイ本文

●序幕、戦いは開幕前から始まっている

「客入れは終ったぞ」
 黒澤鉄平(fa0833)がチケットの半券の束を手に、舞台袖に入ってくる。彼は美術スタッフなのだが、同時に受付も兼任していた。
「お疲れ様です、大道具さん、其方はどうですか?」
 ヘッドセットを付けて、彼方此方に指示を飛ばしているのは脚本を担当した高邑静流(fa0051) である。今回は舞台監督、演出も兼任している。
「こっちも電信柱を立てて終了‥‥と、こんな感じで良いかい?」
「ええ、OKです」
 美術スタッフの片割れ、多幾創一(fa1329)が高邑に問う。テキパキと返し、上手の方に視線を振る高邑。
「黒澤さん、ちょっとこっち見てくんねぇか?」
「おう、今行く」
 舞台袖で黒澤を呼ぶのは、もりゅー・べじたぶる(fa1267) である。彼は大掛かりな小道具を使うので、直前に点検をして置きたかったらしい。
「本番10分前、準備は良いですか!」
 時計を片手に高槻ことり(fa0290)が叫ぶ。本来キツメな性格らしいが、彼女より年配が多いこのチームの中では、敬語を中心に使っている。ちなみに、彼女の出番は遅いため、最初のタイムキーパーも兼ねている。
「はい、準備OKですの!」
 美森翡翠(fa1521)が元気良く返事をする。
「それでは、皆さん持ち場について下さい」
 高邑の言葉と共に、皆は舞台袖に下がる。そして、開演のブザーと共に、客席の照明が落とされた。
「さて、いよいよだな‥‥じゃ、初っ鼻ですんで、たのんますよ」 
 七瀬・聖夜(fa1610) の言葉に芹沢紋(fa1047) はゆっくりと頷くと、しっかりとした足取りで舞台に歩み出た。

●第一幕、横断歩道の渡り方

 下手、客席から見て右側から現れた芹沢は袖幕に被るあたりで歩みを止め、くるりと正面を向く。それと同時にスポットライトが当たる。一瞬溜めを作ってから語り始めた。
「これから始まる劇は、この町と非常によく似た、とある町の不幸な物語。少し気をつける事で避けられたはずの物語。一体何が悪かったのでしょうか」
 芹沢が台詞を言い終わると同時に、芹沢に当たっていたライトが消え、同時に緞帳が上がり始める。舞台には道路標識や信号機に見せかけたセットが置かれている。しかも、信号機は目立たないようにコードが引かれ、点灯をコントロールできるようにしてある。ちなみに、今は歩行者信号は赤だ。床は、黒く塗られたリノリウムが敷かれ、その上に斜めに横断歩道や中央分離線が描かれている。上からの目線でも不自然が無いようにだ。この辺、黒澤と多幾の拘りが感じられる。緞帳が上がりきると、上手より美森が登場する。そして、芹沢は舞台上の横断歩道を丁度渡りきった所に立ち位置を変える。。
「あ、おとーさーん!」
 横断歩道の向こうに芹沢を認めると、即座に駆け出す美森。同時に、自動車‥‥の模型を付けた自転車に乗ったもりゅーが突っ込んでくる。自動車の暴走音の効果音を引き連れて。
「うお、アブねェ!」
 台詞と共に、急ブレーキを掛けるもりゅー。迫真の演技‥‥と言いたいが、素でマジっぽい。多機の手によってハンドルが改造されて、ステアリング状になっていたのも一因だろうか、余裕は全く無い。実際にぶつかったら大事だから当然と言ったら当然なのだが。‥‥操作性を損なう改造はやめましょう。
「危なーーーーい!」
 大声で叫ぶ芹沢。衝突の効果音。跳ねられ、倒れる美森。舞台は真っ赤に染まり、舞台の一切が止まる。その中を、救急隊員に扮した黒澤と多機が、担架に美森を乗せて上手に去ってゆく。ちなみに、美森は自分で後ろに跳んでいたのでご心配なく。
「さて、少女は何がいけなかったのか、解るかな?」
 台詞と共に上手より現れる七瀬。彼にはピンスポットが当たっており、真っ赤な舞台の中で彼の周りだけ白く見える。
「それじゃ、もう一度さっきの事故を見て考えてみよう」
 彼の台詞と共に、もりゅーも一旦退場し、舞台照明は通常の色に戻される。そして、再び美森が上手より登場する。そして、再び駆け出そうとする。
「はい、ストップ!」
 七瀬の言葉と共に足を止める美森。
「まず、信号が青になっている事を確認しよう」
 七瀬の言葉と共に、歩行者用信号機の光が赤から青に切り替わる。操作しているのは多機である。
「そして、車が来て居ないかどうかちゃんと確認しよう。車が来てたら、絶対に止まるのを待とう」
 再びもりゅーが自動車の模型に乗って現れるが、今度は慣れたもので、しっかりと停止線の手前で止まる。
「車が止まった事をしっかり確認してから、手を上げて渡ろうね」
「うん!」
 七瀬の言葉に元気良く返事を返し、横断歩道を渡り始める美森。そして、芹沢と合流すると、そのまま下手側に退場する。そして、七瀬もまた上手側に退場する。

●第二幕、道路に潜む危険

 七瀬と入れ替わりに入ってきたのは、やはり婦警の格好をした高槻。同時に、また照明が消され、高槻にスポットライトが当たる。
「さっきの事故以外にも、道路には様々な危険があります。具体的にどの様な物か、見てみましょう」
 高槻の台詞が終ると、また舞台に照明が戻る。先程とは違い、数枚の塀に見立てたパネルが置かれている。暗くなっている間に黒澤が設置して居たのだ。夜目が効く人なら、闇の中を塀が歩いていると言うコミカルなシーンが見れただろう。
「まずは、飛び出しです」
 高槻の台詞のあと、自動車もりゅーが道路に沿って走って来る。そして、塀の付近に差し掛かった瞬間、塀の陰より美森が飛び出す。美森絶叫。寸でのところ止まるもりゅー。効果音は勿論急ブレーキだ。
「このように、塀があるところでは、車は見えない事があります。十分に注意しましょう」
 台詞の間に退場するもりゅーと美森。
「また、音楽を聴きながらだと、車が近付いてくる音に気付かない事もあります。これも非常に危険です」
 高槻の台詞と共に現れたのは普通の若者の格好に着替えた七瀬。客席から見やすいように大きめのヘッドホンを着けている。そして、クラクションと走行音を伴って自動車もりゅーが七瀬の後ろから近付き‥‥跳ねた。再び救急車のサイレンが鳴り響き、今度は高邑と芹沢が七瀬を担架に乗せて去ってゆく。
「と、このように、大変危険ですので絶対にやめましょう」
 何事もなかったかのように淡々と進める高槻。それがかえってシビア感を演出して、客席に真剣な空気を作る。
「そして、自転車に乗って居る時にも勿論危険はあります。例えば、急に方向転換をしようとしたり‥‥」
 高槻の台詞と共に、今度は自転車に乗ってくる七瀬。廃自転車を安く譲り受け、黒澤と多機が修理した物だ。先のもりゅー専用自動車もその内の一台である。七瀬は舞台の真ん中位まで来ると、無理矢理90度方向を変える。当然自転車は後輪から滑り、転倒する。自転車はそのまま数メートルほど滑って行く。
「スピードを出しすぎたりすると‥‥」
 今度はもりゅーが普通の自転車に乗って走って来る。そして、先の七瀬の自転車にぶつかり、こんどはもりゅーが飛んだ。舞台袖まで。幸い、彼は受身に秀でていた事と、舞台袖が広い事等があり、殆ど被害はなかったが。ちなみに、ぶつかる際に前輪のブレーキだけをていと掛け、前のめりに飛ぶようにして受身を取りやすいよう工夫していたのだ。救急隊員に扮した芹沢と高邑が七瀬を、黒澤と多機が自転車を其々回収する。
「‥‥このように非常に危険です、絶対に無茶な運転はしないように気をつけましょう」
 流石の高槻も内心焦りを浮かべたようだが、もりゅーがピンピンしているので、平静を取り繕って場を締め、退場する。

●終幕、最後に保護者の皆様も

 七瀬が退場すると、再び芹沢が語りに入る。
「さて皆様、今までは歩行者の立場から様々な事故の原因を見てまいりましたが、最後に、自動車運転手が原因となるケースを御覧下さい」
 芹沢の台詞が終ると、またもや自動車もりゅーが登場する。その手には今となっては時代遅れの大型携帯電話が握られている。
「え? 無理無理。幾ら俺が野菜好きだからって桜島大根の一気食いなんて出来ないってば‥‥」
 などと脈絡の無いことを話しているもりゅー。そして、意味ありげに美森が反対方向より歩いてくる。そして、ほんの数メートルまで差し掛かったときに、警笛が鳴り響き、その音で漸く気付く。
「きゃあぁっ!」
「アブねェ!」
 短く叫ぶ美森ともりゅー。そして、ギリギリで止まるもりゅーの自動車。そして、警笛を吹いた高槻がつかつかと歩いてくる。
「このように、気付くのが遅れて非常に危険です。そして‥‥」
 台詞と共に、もりゅーを引き摺り下ろし、手錠を掛ける高槻。そして、その手を掲げて正面を向く。
「運転中、手に持って携帯電話を使用するのは犯罪ですので絶対に止めましょう」
「ごめんなさ〜い」
 もりゅーが情けない声で謝る。その滑稽さに客席はどっと沸いた。そして、お辞儀をしてまた退場する。最後の最後に受けが取れてほくそ笑んでいたのは、本人だけの秘密である。
「それでは、皆様、交通ルールを守り、健康で楽しい生活を送って下さい‥‥それでは」
 格好をつけてお辞儀をし、舞台を締める芹沢。万雷の拍手と共に舞台照明は消され、緞帳がゆっくり下りていった。

 その後、スタッフ達は廊下に並び、帰ってゆく客に挨拶で送る。もりゅーは何故か、子供が作ったような、ダンボール製の車の玩具のような物を腰からぶら下げていた。結果、子供達の弄りの対象になったり、体を張った受け狙いから、地元学生から妙に暑苦しいファンが産まれたようである。