青空古典音楽コンクールアジア・オセアニア

種類 ショート
担当 九十九陽炎
芸能 1Lv以上
獣人 フリー
難度 普通
報酬 不明
参加人数 8人
サポート 0人
期間 11/26〜11/29

●本文

「青空クラシックコンサート、ねぇ‥‥」
 とある街の市民会館。その掲示板に張られた一つの催し物の告知。それが、一部特定層の人々の目に止まる。一部特定層、つまりは音楽業界、器楽演奏者の類だ。彼等は、己が所属する団体、或は友人に声を掛け、そしてその声を掛けられた者がまた新たな人に声を掛ける。
「そして、あの無用と呼ばれた野外音楽堂は満員御礼に‥‥」
「なに妄想垂れ流してるっすか、主任!」
 上の空でトんでる男。そして、その男を主任と呼んだ、部下と思われる男が話し込んでいる。
「‥‥やるぞ‥‥」
「はぁっ?」
「やるって言ったんだよ! 但し、これは只のコンサートじゃない。優秀者には賞金、或は商品を出そうじゃないか! まだ芽が出てない、将来のトップミュージシャンになる奴等が参加するかもしれない! そんな奴等が、このイベントが切欠です、何て事になったら、ひいてはこの都市の将来の為にもなる。これは我ながら良い企画だぞ!」
「‥‥‥」
 思わずこめかみを押さえる部下。無理も無い。主任の急で、かつ理不尽な夢物語に無理矢理つき合わされるのだ。部下の悲哀と言うものだ。
「お前はあっちこっちのプロダクション、勿論、場所は日本中、或は伝手さえあれば別に日本に限ったわけでもない。とにかく、プロダクションに話を振りまくれ!」
「‥‥‥」
 ハイテンションでまくし立てる主任と、こめかみのみならず、思わず胃も押さえ始める部下。その原因が自分にあるとは全く思いも寄らない主任は、能天気にも、部下に対してこんな事を口走る。
「どうした? 食中毒か? 秋だからって、怪しい茸でも喰ったんじゃないだろうな?」
 あんたのせいだよ、とは口が裂けても言えない部下。代わりに、皮肉を込めて更にあさっての方向に言葉の返球をする。
「コンサートと言うより、コンクール、としたほうが良さそうですよ‥‥順位をつけて評価するんですから‥‥」
「そうか、そうだな。うん、ナイスアイディアだ。どうせなら、全国、と頭につけてさらに大仰に見せてみるか!」
 既に暴走特急と化している主任の思考。最早何も言えず、部下は自分に振られた仕事を全うするだけだった。そして、様々なマイナー紙面、ネット上などの媒体に、このような告知が掲載され始める。

『全国クラシックミュージックコンクール、参加者募集。参加資格、クラシカルミュージックに分類される曲を演奏、若しくは歌うことが出来る事。団体、個人参加形式は自由。但し、一人で複数の所属で参加する事は禁止。詳しくは以下連絡先まで(以下略) 優秀者、若しくは団体には賞金、楽器授与。以上、ふるって参加されたし』

●今回の参加者

 fa0424 カイル・セレモニー(28歳・♀・鷹)
 fa0509 水鏡・シメイ(20歳・♂・猫)
 fa0672 エリーセ・アシュレアル(23歳・♀・竜)
 fa0856 実夏(24歳・♂・ハムスター)
 fa0964 Laura(18歳・♀・小鳥)
 fa1362 緋桜 美影(25歳・♀・竜)
 fa1514 嶺雅(20歳・♂・蝙蝠)
 fa1796 セーヴァ・アレクセイ(20歳・♂・小鳥)

●リプレイ本文

●取材者

 話は、このコンクールが行われる数日前に遡る。
「あら? 何これ」
 何気なく新聞を開いていたカイル・セレモニー(fa0424) は、広告面で手を止めた。視線の先には件の古典音楽コンクールの告知が掲載されている。
「最近は結構クラシックも人気あるのよね。記事になるかもしれないし、行ってみようかしら」
 そうと決まれば彼女の行動は早かった。編集長を説き伏せて経費を捻出し、下準備はOK。後は企画責任者への取材のアポ取りであった。
「はい、もしもし‥‥‥」
「此度のコンクールの取材許可を頂きたいのですが‥‥‥、あ、申し遅れました。私‥‥‥」
「テレビか? 新聞か? それとも雑誌か? いいともいいとも。何処のどちらさんか知らんが、記事になるってんなら大歓迎だ。しっかりと書いてくれ。当日こっちに話をつけてくれりゃ其れでいいから。じゃ、待ってるぜ」
 この、大事な所を何一つ聞かずに一も二も無くOKを出したガテン系人物こそ、コンクール企画主任であった。こんな対応でよくもまあ首にならないものである。しかも、十分な確認も行わないまま切れてしまった。唖然と取り残されるカイルであった。

 そして、当日。彼女は開場時間一時間前くらいに現場入りする。責任者にインタビューする為だ。お揃いのデザインのジャンバーを羽織ったスタッフが右往左往する中、色違いのジャンバーを羽織った男に声を掛ける。
「すみません、MVPのカイルと申しますけども‥‥」
「お、やっぱりアンタか。こないだ電話くれたの、アンタだろ?」
「ええ、まあ、お電話差し上げましたけど‥‥」
「そうだと思ったんだよ。声から想像した通りだ。いやー、まさかこうまで想像通りだったとはなぁ」
 一方的にまくし立てる男。それよりカイルはどんな想像だと突っ込みたかったようだが。やがて、男と同じ色のジャンバーを羽織った、別の男がやってくる。此方の方が若干若い。
「主任! そんな一方的に喋っちゃ、あちらさんが困ってしまいますよ」
「お、そうか? そうだな。少し興奮しちまったみたいだな」
 主任と呼ばれた男はポリポリと頭を掻く。苦笑しつつ、本題を持って来るカイル。
「早速ですが、色々とお話を伺いたいのですが」
「流石にこの寒い中、外で話すのも気が引けるなぁ‥‥おい、俺が居なくてもやれるな?」
「はい、いってらっしゃいっす」
 主任は、部下に確認すると、カイルを別所に案内するのであった。

●見所は‥‥

 今回のコンクールは認知度が少なかった為か、6組7名のみの参加であった。
「エントリーナンバー1、バイオリン、水鏡・シメイ(fa0509)の入場です、拍手でお出迎え下さい」
 和装でバイオリンと言う一風変わったいでたちの水鏡。観客達もざわめく。彼は、中央まで歩み寄ると、ぺこりと一礼する。
「バイオリニストの水鏡・シメイです。私が演奏する曲はジョージ・フリデリック・ヘンデル作曲の『私を泣かせて下さい』という曲です。皆さんの心に残るような演奏をしたいと思っていますので、よろしくお願いします」
 挨拶の後、観客が静かになったのを見計らい、弓を動かし始めた。その名のような、水の鏡を思わせる澱みの無い演奏。正に自然と言う言葉の似合う旋律に、観客は言葉無く聞き入っていた。やがて、演奏が終了し、再び一礼すると、観客の方から拍手が起こり始める。拍手に見送られ、水鏡が退場すると、次のアナウンスが流れる。

「続きまして、エントリーナンバー2、歌唱、エリーセ・アシュレアル(fa0672)入場‥‥」
 お決まりのアナウンスの後、エリーセが入場する。
「この曲は、この日の為に私が作曲した曲です。聞き慣れないかも知れませんが、どうぞ、ごゆっくりお楽しみ下さい」
 一礼すると、スピーカーからとある曲が流れ始める。彼女は、自慢の歌声でその曲に合わせ始める。誰も聞いた事無い、だが、不思議と懐かしさを感じる曲であった。そして、歌い終わり、伴奏も終了すると、彼女は一礼。そして、拍手で送られる。
 
 続いて、お決まりのアナウンス、次は実夏(fa0856) の番である。彼もまた、歌唱であった。スーツに決め込み、天使の羽飾りをつけたマイクを手に、入場する実夏。
「クラシックやのにマイクなんて、て言う人もおるかも知れねんけど、俺は自分の声、沢山の人に聞いてもらいたいんや。曲目はサティの、お前が欲しい、日本語版で歌います。皆さんの心に、ダイレクトに響くように」
 一頻の語りを終え、バリトンのハスキーボイスで歌い上げる実夏。実力から見れば、エリーセに比べて荒さがあったが、そこには、彼の、音楽に対する情熱が込められていた。其れが客にも伝わった事は、終了後の拍手によって明らかであった。

 参加者は折り返しで、次はLaura(fa0964)の番である。彼女は元々クラシックの歌手らしいのだが、別方向での方が有名らしい。花嫁衣裳のようなベールに天子の羽をつけた大仰な衣装。オペラの一幕をイメージしたものであろうか。
「私にも目標があります。ロック等の仕事で遠回りしていましたが、私の歌手としての幅を広げるものでは有りますが‥‥‥。このコンクールに参加することで、少しでも前に進めることを願います」
 そして、朗々と歌い始めるLaura。野外歌唱活動を常にしているので、声量には自信があったようだが、前のエリーセ、ついでマイクの実夏には若干見劣りしてしまう。だが、モーツァルトの、聖処女の冠よ。スッペの、恋はやさし野辺の花よ。続いて歌劇、トスカより歌に生き、恋に生き。最後に同じく歌劇、蝶々婦人より、ある晴れた日に。と、手堅い所を次々と歌う。それは、典型的なクラシックの客には好印象を与えたようであった。

 コンクールは残す所二組、次は緋桜美影(fa1362)である。一見素行が悪そうな印象を受けるが、練習はしっかり積んであるらしく、地力はありそうである。
「緋桜美影、曲目はアベ・マリア。聞いてるお客さんが楽しめるように、ンでもって、俺自身が楽しめるように、んじゃ、行きます!」
 この曲は、歌う人によって、大きく印象が変る曲である。歌い手の特徴を映す鏡ともいえる。そして、彼女の歌い方は、竜人ならではの、男声のような力強さと、女性特有の澄んだ調子を合わせ持つ、と言うものであった。そして、丁寧に歌い上げ、やがて終える。人前で存分に歌った満足感溢れる表情を浮かべる緋桜。そして、感覚を共有したかのような、温かみ溢れる拍手。無名ながらもレベルの高い演奏、或は歌唱を聴けたことに対する満足感。それが、彼女と観客が共有した満足感と一体となって現れたのであろう。

 そして、いよいよ最終組。今回唯一のコンビである、ボーカリストの嶺雅(fa1514) とチェリストのセーヴァ・アレクセイ(fa1796) である。
「ハジメマシテ、嶺雅デスヨ。皆の前で歌えるのが楽しみデスヨ。どうぞヨロシクネ」
 おどけた、妙な調子の嶺雅。
「セーヴァ・アレクセイ。曲目はシューベルトのセレナーデ。よろしくお願いします」
 淡々とした口調のセーヴァ。そして、二人が挨拶を終えると、嶺雅が歌い始める。それは、挨拶の時の口調からは想像できない、しっかりとした訓練の裏打ちのある、情熱と、愛しさと言う感情がしっかりと込められたテノール。そして、セーヴァがその歌声を立てるようにチェロを併せてゆく。そして、曲はクライマックスに差し掛かるにつれ、次第に激情の荒ぶるままの激しいチェロのを、フォローするようなしっかりとした骨のある歌声。そして、終る。
 終了後、会場は暫しの沈黙に包まれた。そして、観客の一人が立ち上がって拍手を送る。それに習うように、他の観客も同じように立ち上がって拍手を送る。スタンディングオペレーションであった。

●総括

「さて、評価も出たようだし、私も記事に纏めないとね‥‥。先ずは参加者の総評から」
 音響編集室で聞いていたカイルは、踵を返して審査員達に取材を取り始めた。そして、評価を次のように纏める。参加者からの一言も添えて。
 優勝者、嶺雅、セーヴァ組。観客のスタンディングオペレーションを見ても明らか。嶺雅の実力も歌唱者随一であったのに加え、セーヴァも後述の水鏡に劣るものではなかった。また、二人の息が合っていた事も優勝を揺るぎ無い物にした一因であろう。
「優勝? 嬉しいネ。でも、俺は歌いたかっただけサ。その上で優勝したんだからそれだけで言う事無しサ」
「評価はともかく、自分の弾きたい様に弾け、それが巧く合わせられたと言う事が嬉しいですね」
 準優勝、緋桜美影。男声的な力強さと女声的な透明感を両立させた素晴らしい歌声。後は精進あるのみ。
「まあ、順位はともかくとして、人前で歌う機会が出来たってのが一番嬉しいかな。正直、順位はどうでも良かったし。って、こんな事言ったら悪いかな」
 三位、水鏡・シメイ。実力面では文句無し。最初の演奏だった事と、ヴァイオリンに着物の取り合わせの違和感が不利に働いたか?
「順位はともかくとして、楽しく演奏できたのでそれで十分ですね。お客さんも楽しんで頂けたようですし、それだけで私も嬉しいですよ」
 以下奨励賞。
 エリーセ・アシュレアル。歌唱力、作曲センスは良し。だが、自作曲を持って来ると言う事が、クラシックとは古い名曲をどれだけ巧くカバーできるか、と言う古い考え方に捕えられた審査員には受け入れられ辛かったか。
「結果は結果、仕方ありませんわ。私には及ばない所があるのでしょうし、其処は努力するしかありませんわね」
 実夏。歌に対する心意気は良し。後は、荒削りである歌唱力に磨きを掛ければ大化けするかもしれない。
「順位はしょうがありませんわ。俺もまだまだ未熟やってことなんやろうし。ただ、自分がこの業界入った切欠いいますか、原点を思い出させてもろうて感謝してます」
 Laura。手堅い所を突いた選曲は審査員には好評だったが、声量と声質の両立が今後の課題。
「不安は感じてなかったのですが‥‥自分の欠点を見つめなおす事が出来ました。この事で、さらに前に進めると思います」
 尚、参加者には順位に見合った賞金が授与されるそうである。
「こんな所ね‥‥。後は、主催者に話を聞いておこうかしら?」
 再び主任の下に向かうカイル。
「今回のコンクールの感想? そうさなぁ、俺は楽器がメインになると思ってたんだが、歌が中心になるとはなぁ。改めてクラシックの奥深さって奴を思い知ったぜ。にしても‥‥」
 以下、実りのある言葉を聞き終えるまでに主任は脱線しまくりで、何とか取材が完了したのは日付変更間際だったそうである。