バレンタインドラマSPアジア・オセアニア

種類 ショート
担当 うのじ
芸能 1Lv以上
獣人 1Lv以上
難度 普通
報酬 1万円
参加人数 8人
サポート 0人
期間 02/15〜02/19

●本文

 ここは、最近評判のお菓子屋さん。
 遠くの公園から子供達の笑い声が聞こえてくるような、静かで暖かな、山小屋風のお店。
 普段はショーケースの中のお菓子達だが、今日は、可愛らしい木製のテーブルの上に並べられている。
 テーブルは椅子とセットになっており、普段はお客さんがゆったりとくつろぐためのものだが、今日はお菓子達がゆったりくつろいでるようにも見える。 
 今日は定休日、そのためお客さんはおらず、雑誌の取材をうけているのだ。
 取材にきたのは二人、バレンタインの記事を書くためらしい。

「あ、チョコレートプリン。陶器の入れ物がかわいいかも」
「これは綺麗なチョコレートケーキですね」
 大手新聞社だと納得するようなきちっとした見なりの女性。
 彼女はお菓子ひとつひとつに丁寧に感心し写真を撮っていた。
 彼女が質問し店長が答える、その全てを録音し、後で記事に起こすらしい。

「‥‥ふーん‥‥」
 こちらは、着崩したスーツにぼさぼさの頭、だらしなさの権化のような男性。
 本当に新聞社の人間だろうかと疑いたくなる。
 その男が、取材用に用意したお菓子を一口、口にした。
「‥‥‥これは、本物のバレンタインチョコじゃないよ」
「!!」
 よけいなことを言いだした同僚に思わず絶句する新聞社の女性。
 お店の店長は意味を把握しかね、尋ねる。
「どういう意味ですか?」
「どういう意味も、なにも、本物じゃない、ただそう言うことさ」
 目を鋭くし、斬って捨てる男。
 その言葉に店長は困り果てる。
「‥‥うーん‥‥わかりました。一週間後、もういちど、取材に来て下さい」

●今回の参加者

 fa0117 日下部・彩(17歳・♀・狐)
 fa0155 美角あすか(20歳・♀・牛)
 fa0201 藤川 静十郎(20歳・♂・一角獣)
 fa0672 エリーセ・アシュレアル(23歳・♀・竜)
 fa1032 羽曳野ハツ子(26歳・♀・パンダ)
 fa1202 高岑 轡水(27歳・♂・蛇)
 fa2132 あずさ&お兄さん(14歳・♂・ハムスター)
 fa2791 サクラ・ヤヴァ(12歳・♀・リス)

●リプレイ本文

●NGは少し美味しい
 日下部・彩(fa0117)は、公園のベンチに腰をかけ、一人チョコレートプリンを食べていた。
 一人、といっても、現在は撮影中。
 周りには大勢のスタッフがいる。
「こんなに美味しいのになぁ」
 首を捻りながら食べている彩の後ろから、羨ましそうな声があがる。
「あー、これ、Bijouのチョコレートプリン。美味しいんだよね、いいなー」
 声の主は、常連役のサクラ・ヤヴァ(fa2791)だ。
「え?」
 突然の声に驚き、後ろを向くと、一人の知らない少女がいる。
 驚いている彩に、今度は前から人が走って来た。
 前から来たのは、あずさ&お兄さん(fa2132)の、あずさだけ。
「居た居た。お姉ちゃんのお店で、酷いこと言った人だ。ねぇ、どうしてあんな酷いこと言うの?」
「ひどいこと?」
 サクラが尋ねる。
「うん、あそこのお菓子は偽物だって、言ったんだって」
「えー、偽物じゃないよ。だって美味しいもの」
 あずさの説明に、同調するサクラ。
「ううん、そうじゃないのっ。本当に美味しいのよ。だってこのプリンだって、本当に」
 そう言いながら、プリンをすくう彩。
 前後から責め立てられ慌てる演技のためか、手が震えてしまい、振動でスプーンからぷるりと地面に落ちていくプリン。

「カーーーーット」
 プリンが落ちてしまいNGだ。
「すいません〜」
 平謝りする彩に声をかけるスタッフ。
「プリンが服に落ちなくてよかったよー。次、気をつけてね。‥‥‥じゃあ、このカットの頭、『こんなに美味しいのになぁ』から、行きます。消え物のプリン、もう一個用意して」
「もう一個? ‥‥今のチョコレートプリン、また食べれるのね」
 ぼそりと、嬉しそうに呟く彩。
 その声を聞き逃さなかったあずさとサクラは、同時に言った。
「ずるーい」
 スタッフが笑う。
「安心して。撮影が終われば、あるお菓子は全部食べ放題だから」
 スタッフの言葉に、あずさ、サクラ、そして、彩の三人が歓声をあげた。


●お化粧は少しあぶない
 藤川 静十郎(fa0201)は、撮影の為に化粧をしていた。
 もっとも、実際の化粧を施しているのは、高岑 轡水(fa1202)だが。
 化粧をされている間、静は、じっと動かずに、轡水を見ている。
 轡水が静の顎をクイッと持ち上げると、静は素直に従い目を閉じた。
 静の唇に紅があてられ、化粧が完成する。
「‥‥戒、もう目を開けていいぞ」
「え?」
 轡水の言葉に、少し物足りなさそうな声と共に目を開ける静。
「これから舞台だからな、よけいなことをしている暇はない」
 そう言いながら化粧中ははずしていたリングをはめ、立ち上がる轡水。
 轡水は、まだ座っている静の耳元まで屈むと、小さく呟いた。
「え‥‥あ、わっ」
 その呟かれた言葉に反応したのか、顔を真っ赤にする静に、背を向け出ていこうとする轡水。
 まだ動かない静に、轡水が、いや『綾瀬翡翠』が背中越しに言う。
「‥どうした? いくぞ、『静』」
「え? ‥‥はい、あなた。いま、行きます」


●撮影後は少し糖分補給
「冗談じゃないわ! 私のチョコレートのどこがダメだって言うの!!」
 初子役の羽曳野ハツ子(fa1032)が、ドンっとボウルを流し台に投げるように置く。
 お怒りの初子に、あわわわわと、おどおどするのが、新人パティシエ役の美角あすか(fa0155)だ。
「私はね! ここに出してるお菓子は、全て、ヨーロッパで得た物全ての技術を使いこなして、完璧な物を出しているのよ? 一体何が気に入らないのかしら。ただのやっかみじゃないの? 明日香、わかる?」
「え? ‥‥そ、そうですね。やっぱり、どうしても本物のバレンタインとなると気‥‥」
「ま、聞いても分かるわけないわよね。いいわ、そこまで言うなら採算度外視した最高級の物、作ってやろうじゃない!!」
 明日香の言葉を遮り、宣言をする初子。
 そこに、店の裏口から、静が登場する。
「あの、主人は?」
「あ、静さん、今、店長は居ないんですよ。そこにいるのもなんですから、中に入って下さい」
 明日香が静を中に入れると、あからさまに嫌な顔をする初子。

「カット! OKです」
「あー、怒鳴って疲れちゃったわ」
 カチンコが鳴らされ、OKがでると、はっちーはその場に座り込んだ。
「おつかれさまでした。私も、初子さんが怖くて、疲れました」
 アスカも、笑いながら、その場に座る。
 するとスタッフが、皆を呼んだ。
「おつかれさまです。少し休憩しましょう。今、お菓子が届いたので、お茶の時間です」
 テーブルの上に並べられる、数々のお菓子たち。
 このドラマに協力してくれているお菓子屋さんたちからのお届け物だ。
「アスカさん、私たちも行きましょう。まだ続く撮影のために糖分を補給しないと」
「はい、そうですね。あ、静十郎さんもどうですか?」
 撮影の合間のひとときの休憩。
 お茶とお菓子で疲れを癒やし、次の撮影まで頑張る、一同であった。


●完成したドラマを少しだけ
 一連のバレンタインドラマSP。
 その最後に放送されたのが最近評判のお菓子屋さん『Bijou』の物語だった。

 取材中に「これは、本物のバレンタインチョコじゃない」と言われた『Bijou』。
 『Bijou』のパティシエたちはその言葉に対して答えを見つけるべく奮闘していた。

「こんなに美味しいのになぁ」
 首を傾げながら呟いたのは、取材した側の一人の女性。
 そこに、二人の女の子が登場し、暴言について、前後から責め立てる。
「あそこのお菓子は偽物だって、言ったんだって」
「えー、偽物じゃないよ。だって美味しいもの」
 困った女性は、自分も美味しいと思っていることをつげ、一週間後、もっと美味しい物が食べれると思うと、言う。
 その言葉に納得したような、納得しないような、子供二人。
 一週間後に、共に審査することで合意し別れる女性と子供たち。

 そんな頃、ある意味復讐に燃える初子の横で、店長の妻である静が新人パティシエ明日香の指導を受けながら、チョコレートを作っていた。
「はぁ、こういうすぐ固まる物ってスピードが命だから、もたもたしてたらダメなのよね」
 自分の芸術的とも言える作業の横で行われている、静の手つきを見ながら、大げさにため息をつく初子。
 そんな様子にも気がつかないほど一生懸命な静を見て、自然と笑みがこぼれてくる明日香。
「気持ちがこもってるのが、やっぱり一番の甘味ですよね」
 そう言い笑う明日香に、照れる静。

 審査当日。
 店主である翡翠は、絶対の自信と大きな不安両方を持ち合わせていた。
 天才パティシエが作ったチョコは、間違いなく最高級のチョコだ。
 それは間違いなかった。
 しかし、何かが違う様な気がしていたのだ。
 こんな大事な時期に、妻がそわそわ動いていることも、気がかりだった。
 手作りチョコでもくれるというのだろうか? その想いだけで充分なプレゼントだと言うのに。
 その時、一つの考えが頭によぎった。
「‥‥ああ、そうか。『本物のチョコ』もそういったことなのだろうか?」

 テーブルの上に並べられたチョコを使ったお菓子たちは、ため息が出るほど素晴らしかった。
 その場にいる全員の感嘆のどよめきに初子の顔が誇らしげに輝く。
 そして、始まる試食。
 遊びに来ていた常連のさくらちゃんが、一言、気になる台詞を言った。
「美味しいけど‥‥なんか冷たい感じがする」
「え?」
 子供の素直な言葉に、初子の顔が曇った。
「ま、静さんが作ったチョコほど、甘々じゃないよね」
「あずさっ。」
 妹のあずさをとっさに叱る明日香。
「だって、もらう方だって、チョコをもらえることも嬉しいと思うけど、それよりも、そこまで自分のことを想ってくれた、その気持ちのほうが嬉しいんじゃないかなっ。だから、店長さんにとっては、静さんのチョコが一番甘いの」
 あずさの言葉に、後ろの方で見ていた静が、顔を赤らめて下を向いてしまっていた。
「静、俺に渡すものがあるのか?」
「‥‥はい」
 翡翠の言葉に頷き、奥から包みを持ってくる静。
 包みを開けると、不格好なチョコレートケーキがあった。
 その不格好なチョコレートケーキを見た初子が声をあげた。
「‥‥あ」
「そう、つまりこう言うことだよ」
 今まで何もしゃべらなかった男性の記者が口を開いた。

「ものを作るということは、作業じゃないんだ。心を込めたものじゃないなら、砂糖を食べたって、板チョコだって、その実、何も変わりはしない。そこに込められた魂が、想いがあるなら、見ただけで気持ちが伝わってくるものなのさ。それがバレンタインなんていう特別な日のチョコレートなら尚更だよ」
 そう言う男性の顔を、初子はキッと睨み付け、その後、目を閉じた。
 そして、苦笑する初子。
「‥‥悔しいけど、あなたの言った通りみたいね。あーあ、修行のやり直しかあ」
 そう言った初子の顔はどこか晴れ晴れしいものだった。
 その初子の言葉に、皆が笑顔になった。
 やったね、と軽くウィンクする明日香に、静も、嬉しそうに微笑みながら、明日香に丁寧に頭を下げた。
 その時、女性記者が、思いついたように提案をする。
「そうだ、お二人、並んで下さい。お二人とこのバレンタインチョコ、『想いを込めた、本物のバレンタインチョコ』という題名で、記事の隅に載せますから。コメントは、『奥さんから店長へ、愛のこもった贈り物』でいいですか?」
「え? あ、そんな。こまります」
 困る静とはうらはらに、チョコレートケーキをもった翡翠が並ぶ。
「こんな感じでいいかな?」
「はい、大丈夫です。撮りますよー? ハイ、チーズ」
 シャッターをきるとき、翡翠が静をぐっと引き寄せたため、思わず妬ける程のショットになった。
 それを見たあずさが言う。
「あーあ、私もどこかにいい人いないかなぁー」
 まだ14歳の子供から思わず出た言葉に、一同が笑った。

 笑いの後、音楽と共に流れるエンディングテロップ。
 バレンタインドラマSPはこうして幕を閉じた。