ホワイトデードラマSPアジア・オセアニア
種類 |
ショート
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担当 |
うのじ
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芸能 |
2Lv以上
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獣人 |
1Lv以上
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難度 |
難しい
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報酬 |
3.9万円
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参加人数 |
8人
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サポート |
0人
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期間 |
03/15〜03/19
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●本文
「この記事を書いた記者は誰だ?」
二月も終わりに近づいたある日、一人の初老の男性が、乗り込んできた。
初老の男性が手にしていたのは、とある雑誌。
開いたページはバレンタイン特集だった。
そのページは、とあるお菓子屋さんの紹介のページで、思わずお腹が空くような素晴らしいお菓子が写真入りで紹介されており、その隅の方に、お菓子屋さんの仲の良い夫婦の写真と、妻が作った少し不格好なチョコ、そして、温かい心について書いて有った。
「この夫婦の心が、本当のバレンタインというのは、まぁ良い。しかし、実際に記者が、物事の『本質』を見抜いているとは、到底言えんな」
記事を切って捨てる初老の男性。
急の来客に、慌てて対応している一人が、はぁ、そうですか、と気のない返事をする。
その態度にますます腹を立てる男性。
「わしはこのようなモノ、観るに耐えん。このたびは仕方なしに協力という形になってしまったが、わしが、ホワイトデーの『本質』に迫る記事に協力をする以上、おまえたちの『本物』と、こちらの『本質』。どちらが支持をうけるか、楽しみにするがよいわっ」
言いたいことを言うだけ言って、去っていく、男性。
「‥‥なんなの、今の人?!」
男性が去った後、嵐が去った後のようにあっけにとられる編集部。
当然だろう、いきなり訳の分からないことを言って、まくし立て、去って言ったのだ。
しかし、今まで席を外していた編集長が帰ってくると、事態ははっきりした。
「なるほど、そう言うことがあったのか。じつはね、とあるライバル雑誌から、ホワイトデーに関して、うちと協力したい、という申し出があった。『本物』に迫る我が雑誌と、『本質』に迫る相手側の雑誌がタッグを組み、一つの記事にしていこうという申し出だ。上層部が検討の上に、了承したが、どうやら、これが、今回の一件の背景にあるらしい。相手は、この世界では著名な風俗研究家に協力を求めているらしいから‥‥。上からプレッシャーをかけられたよ。相手側に負けない、いや、打ち負かすようないい記事を書けってね」
そう、つまり、ホワイトデーの『本物』と『本質』が、ぶつかりあう事態になったのだ。
●リプレイ本文
●食欲もがんばる
「うわぁ」
日下部・彩(fa0117)が感嘆の声を上げた。
目の前にあるのは、撮影用のお菓子の数々。
クッキー、マシュマロ、キャンディーは当然、高級チョコや、ミニケーキなどなど、机の上には、色とりどり、様々なお菓子が並んでいた。
彩の顔と声に、苦笑する槇島色(fa0868)。
「嬉しそうな顔してるわねー」
色の言葉に彩が頷く。
「わかります? 普段、和菓子が多いので、こういった機会は嬉しいんですよ」
「そう。たしかに、こうも並べられると圧巻ね」
そこに通り過ぎるスタッフ。
「おはようございます」
「あ、おはようございます〜」
「おはようございます」
スタッフは何か気が付いたように、言う。
「あ、それ食べちゃダメだよ」
「そうなんですか?」
「うん、それ蝋細工だから」
「え?」
目の前にあるお菓子は精巧な作りものだったのだ。
そして、スタッフは、本物はこっち、と、慎重に運んでいる荷物を指さす。
「彩さん、今度は、チョコだけじゃないよ。チーズケーキ、バームクーヘン、タルトだけで、それぞれ何種類もある。頑張って食べてね」
そう言った後、親指をびっと立てて、ウィンクすると、笑って去っていくスタッフ。
「‥‥どうしましょう。困りましたね。いっぱいあるんですって」
スタッフを見送ったあとの彩の言葉。
言葉とは裏腹に困ってないような表情をみて、苦笑する色。
「まったく、うれしそうに。‥‥でも、わかったことがあるわ」
「わかったこと?」
「このロケ、確実に太るわね」
「‥‥たしかに」
色の顔と、そして、今度は彩の顔も、困り顔になった。
●撮影もがんばる
編集会議、というなの、お互いのぶつかり合い。
物語の山場であるこのシーンの、撮影が、今、始まった。
相麻 了(fa0352)が登場し頭を下げる。
そして、続いてエリア・スチール(fa0494)が、ケーキを一人一人の前に並べる。
テーブルの上には桜色のパウンドケーキ。
「‥‥これはドイツのケーキというには反則かもしれない。でも、俺はお菓子にはもっと無限の可能性を込めることが可能だと思っている。しかし、伝統に背を向けるなんて大それた事は、一人じゃ出来ない。‥‥でもエリア、俺の最高の相棒かつ最愛の妻がいれば、どんな事にも立ち向かえるんだ。だから、ホワイトデーのお菓子として、俺の決意と妻への感謝のこもった、この一品を出したいと思う」
長台詞は終わったが、芝居はまだ続いている。
了はそのまま、優しい視線をエリアに向けた。
その視線をうけたエリアは、照れたように微笑むと軽く頭を下げた。
そして、そのシーンをきっかけにして、彩が立ち上がる。
「‥‥バレンタインの時は、お菓子の美味しさよりも贈る人の心が大事でした。きっとホワイトデーも贈る人の思いが大切なのだと思います。男の人が普段言えない、御礼や感謝の気持ち‥‥それを形にしたのがホワイトデーの贈り物なのです!」
「かーーーーっと!! ブラボー。オーケー、ナイスー。完璧だったね」
NGが無いとべた褒めするスタッフの陽気な声とは対照的に、重要な場面を取り終えた安堵か、ふぅーっと一同が息をついた。
「じゃあ、休憩の後に、『本質』側に行こう。マリスさん、サクラさん、準備はいい?」
「おっけ〜♪」
マリアーノ・ファリアス(fa2539)は、大丈夫だよと手を振った。
「はい、大丈夫です!」
そして、桜庭・夢路(fa3205)は、元気な返事の後に、掛けた丸い眼鏡をクイッと持ち上げ、キャリアウーマンに変身する。
しばらくして、カチンコが鳴らされ、撮影が再開される。
「君たちの記事は『本物』だ、それは認める。‥‥‥でも、残念ながらボクたちはさらにその一歩上を行っている」
そう言って、立ち上がるマリス。
それを合図に、サクラが豪華な箱を一同に配り始める。
その箱のあまりの豪華さに、感嘆の声があがった。
それをみて、すこし悔しそうな表情をする、色。
「さぁ、どうぞ」
マリスに促され、箱を開けてみると中身は空。
一斉に起きるどよめき。
「どういうことだ?」
カメラマン役のジェイリー・ニューマン(fa3157)が呟く。
サササっと、マリスに回される紙。
寸分の狂いのないタイミングの完璧キャリアウーマン、サクラの行動だ。
それをすっと見るだけで、すらすらと、様々な物語を語っていくマリス。
曰く、ディナーをリザーブしておいた彼の話。そこで起きた一つの奇跡。
曰く、必死に時間を取り分けた、わずかな時間に用意した、小さなプレゼント。
曰く、多忙な青年が全ての予定を断って用意した一緒にいられる一日の心温まるエピソード。
それらが幾つか続いたあと、最後にまとめた。
「‥‥つまり、この箱の中身は、一つじゃない。自分たちらしい『何か』を入れればいい。ホワイトデーは特別な日であって特別な日じゃない。ホワイトデーだからああしなきゃ、こうしなきゃ‥‥そう難しく考える必要なんてないんだ。つまり、お菓子の必要は無い。いや、皆無なんだ」
その説明に、きっと唇を噛む彩。
それを見たマリスが微笑む。
「‥‥決まったみたいだね。そろそろ飛行機の時間だ。ボクも大切な人を待たせてるんでね」
そして立ち去ろうとするマリス。
色が引き留めようとするが、世捨て人役のたまた(fa3162)がそれを静かに引き留める。
「なっ」
引き留めたたまに向けられた、色のわずかな非難の声に、たまはゆっくり顔を振った。
●最後までがんばる
対決が終わり、『本物』側のスタッフが別れるシーン。
撮影のスケジュールは、珍しく、最後のシーンを本当に最後に撮ることになっていた。
公園の向こう側では、世捨て人のたまが、珍しい正装のまま、しかし、相変わらず美味しそうに酒を飲みながら、バイオリンを弾いている。
たまのバイオリンを聞きながら、ジェイルが言う。
「いい曲だな。こういうのを聞いていると、これで良かったんだと思うぜ。‥‥‥識者は本質や本物という言葉で物の数を二倍にも三倍にもしてしまった。しかし、いまそこへ本当にあるものは、いつもただ一つである」
「すごいですね。今のは誰の言葉です?」
「ん? いや、こいつは俺の言葉だ。愚見だがね」
彩の言葉に、やれやれと首を振りながらジェイルが言った。
そんな彩とジェイルの肩に手が置かれる。
「さて、難しいこと言ってないで、頭を休ませましょう。こういう時は糖分が必須よね。シュークリームと行きたい所だけど、しばらくは洋菓子は喉を通りそうもないし、これから甘味処で団子でも食べましょうか」
色の言葉に、元気良く、はいと答える彩。
ジェイルは、まだ食べるのか、と苦笑いをする。
公園を先に進む二人の女性が振り返り、こちらに向かってはやくはやくと急かす姿にジェイルは思わずシャッターをきった。
●ホワイトデードラマSP−本物vs本質−
雑誌や資料、そしてお菓子に埋もれた机。
それを見ながら、口をへのじにし、悩んでいるのは、新人編集者の日下部彩。
へのじの口にキャンディーをいれてあげるのは同僚の同じく新人の豊田瀬梨華。
豊田は、キャンディーの甘さで日下部のへのじの口が笑顔戻るのを見ると、ため息を付きながら、手持ちのノートパソコンに目を戻す。
この二人が今回の『本物』の記事を担当することになったのだ。
悩みに悩んだ二人は息抜きに、公園でお昼を食べる。
そこで、バイオリンを弾く風変わりのホームレスの男性と、彼を写真に収めている一人のカメラマンに出会う。
彼らの助けを借りながら、模索していく二人。
そして、老舗の洋菓子店『橘洋菓堂』で、すばらしい夫婦にであった。
新婚のリョウとエリアが作る、この店のお菓子は、味だけではなく、雰囲気が美味しかった。
趣旨を説明すると、奥さんのエリアは微笑む。
「どうぞ、ゆっくり取材していってくださいね」
その言葉に甘えて、取材を進めていくと、夫のリョウの、奥さんに対する感謝の気持ちを知ることができた二人。
そして、二人は、リョウとエリアに協力を求めた。
対決の日が来た。
先に出されたのは、『本物』の記事と、その資料。
豊田の論理的な話や、由来から始まり、リョウとエリアの桜色のパウンドケーキが出される。
そこで語られるリョウの思いと、この記事の核心部分である日下部のまとめ。
対する『本質』が出してきたのは、豪華だが中身が空の箱。
中身にこだわる必要のない思いを主張し、『本質』側の助っ人は去っていった。
そして、審判は下されようとしていた。
「‥‥これは、『本質』側の勝ちですかな?」
誰かの言葉に空気が重くなった。
しかし、その場を切り裂くような一言。
「‥‥しかし、『本物』側も、贈る人の気持ちをないがしろにしていたわけではないようだが」
「たしかに」
旗色が変わる。
それを感じ取り、豊田が、自らを引き留めた、横の男性を見る。
彼は静かに頷く。
そう、勝負は決まったわけではなかった。
結果がでた。
「この勝負。引き分けとします」
広がるざわめき。
「たしかに、『本質』側の言うとおり、お菓子にこだわる必要はなかった。『本質』側の紹介してくれたエピソードはすばらしいものでもあった」
「しかし、気持ちに重点を置いていたのは、『本物』側も同じだったように思える」
「そう、しかも、『本物』側のプレゼントをもらったわしらは、綺麗な桜色のケーキを見て、そして食べて、幸せな気持ちになれた」
「気持ちに重点をおくときに、今、目の前にいるわたしたちを楽しませ、ハッピーにしてくれたのは『本物』側のほうだった」
「つまり、『本質』側は形のない物にこだわり、今、目の前にいるわたしたちの気持ちを汲み上げることができなかった。一方、『本物』側は、お菓子という具体例を示すことができたものの、具体例がお菓子だけであった。‥‥つまり、どちらも、お互いを補完しあって、こそ、完成ということです」
審査員の言葉がおわり、会場に小さな拍手がわき起こった。
その場には、『本物』『本質』ともに、お互いに対する敬意が込められていた。
その光景に、眼鏡を軽く持ち上げ、目頭を押さえる『本質』側の記者。
その彼女に近づく、日下部と豊田。
三人はお互いに握手をし、健闘をたたえた。
こうして、『本物』と『本質』の戦いは終わった。
『本物』も、『本質』も、言葉を作ることではなく、その場にあるものを大切にすることの重要さを言うカメラマン。
彼の目に映る、目の前の二人の編集者、遠くから聞こえるバイオリンの音色、そういった、あるもの全てを受け入れ、心を感じる努力をすることが、本当に重要なものなのかも知れない。