spring viewingアジア・オセアニア

種類 ショート
担当 うのじ
芸能 1Lv以上
獣人 1Lv以上
難度 難しい
報酬 1.3万円
参加人数 8人
サポート 1人
期間 04/07〜04/11

●本文

「はい?」
 語尾が上がる『はい』。
 これは、肯定の合図ではない。
 どちらかというと否定的要素を含む返事だ。
「‥‥つまり、今から、お花見の準備をしろと?」
 スタッフの、ありえないと言わんばかりの言葉に、番組プロデューサーの望月は、たじろぐことなく大きく頷いた。
「やっぱりさ、お花見の時期だし。そもそも、今回のテーマは『お花見』だったけど『春』に変更したわけでしょ。それに、せっかく、野外ライブ用のトラックが来たわけで、使いたいでしょ?!」
 ビルの窓から見える駐車場に止まっている、今来たばかりのトラックを見ながら目を輝かせる望月。
 その特注のトラックは、番組のロゴとマークが大きく描かれており、少し前に作ることになった、野外ステージが荷台になっているトラックなのだ。
「‥‥それはわかりますが、なにも花見じゃなくても‥‥‥、だって、桜のお花見ができるところで、しかも、野外ライブロックコンサートが開けて、その上、今の時期になっていきなりって‥‥‥無理もほどがありますよ」
 困り果てるスタッフ。
「たしかに、そうなんだけど、ね。だから、いちおう、お花の専門家に場所の相談をしたんだけど、散々ねちっと文句言われた後、協力してくれるって」
 場所の確保が出来ている、と聞いてほっとするスタッフ一同。
「ただし、スポットスポンサーとして協力するという形になったけどね。と、言うわけで、詳しいことを聞きに行ってもらえる? 花エンジェルの工藤さんのところに」
 宜しく、とお願いされたスタッフは、驚く。
「何で、私なんですかっ?!」
「いやー、僕、次回のスペシャルの準備で急がしくって。それに工藤さん、たまに精神攻撃してくるんだもん」
「精神攻撃って‥‥‥」
 驚いているスタッフの横で、別のスタッフがため息をつきながら言う。
「‥‥じゃあ、本当に、野外ライブwith花見、やるんですね?」
「うん、おねがいします」
 ゆっくり、そして深々と頭を下げる望月。
 だが、次の質問には素早く反応した。
「‥‥わかりました。えーと、野外ライブをするとして、警備は」
「普通で!!!」
 

 桜舞う公園に、一台のトラックが停車する。
 トラックの荷台が開くと、そこにあるのは見慣れたステージ。
 そこに書かれているのは「魂を響かせろ! Battle the Rock」という番組名であり、今回の主題である「the sound of spring」、そして隅には、花のエンジェル。
 春爛漫を舞台にして、ロックの宴がはじまる。

●今回の参加者

 fa0034 紅 勇花(17歳・♀・兎)
 fa1376 ラシア・エルミナール(17歳・♀・蝙蝠)
 fa1514 嶺雅(20歳・♂・蝙蝠)
 fa2837 明石 丹(26歳・♂・狼)
 fa2847 柊ラキア(25歳・♂・鴉)
 fa2899 文月 舵(26歳・♀・狸)
 fa2925 陽守 由良(24歳・♂・蝙蝠)
 fa3211 スモーキー巻(24歳・♂・亀)

●リプレイ本文

●撮影前閑話
 野外ライブ兼撮影が始まる前の様々な機材の搬入。
 そして、今回は、特別に花関係の納品もあった。
 公園内にはもちろん桜が咲いているわけだが、それだけでは寂しいだろうという、スポンサーからの計らいのためだ。
「んー、工藤さん、おらんかなぁ?」
 文月 舵(fa2899)は、キョロキョロと辺りを見回す。
 自分たちが乗ってきた車の横に、見慣れたお花のマークの車があったからだ。
「偉い人は、あんまり現場には来いひんのかもしれへんなぁ」
 半ば諦め掛けていた時に、同じバンドメンバーの陽守 由良(fa2925)に遭遇した。
 ユラは、番組プロデューサーと話しをし終えたところだったようだ。
「ん、じゃあな。今日は、俺たちが熱いライブをするけど、火傷はしないように気をつけてくれ。ほんと、この前はすまなかったな」
「ははは。はい、気をつけます。陽守さんもがんばってくださいね」
 ユラの言葉に、笑いながら頭を下げるプロデューサー。
 それに応えて、ユラも軽く頭を下げた後、振り返ると、ちょうど舵が後ろにいた。
「どうした?」
「んー、見つからへんねん」
 少し寂しそうに言う舵。
「‥‥‥ああ、それか。それなら、さっき向こうのほうで、鉢植えの木を運んでたぜ?」
 ユラの言葉に目を輝かせる舵。
「ほんまっ?! 向こうってどっち?」
「あっち」
 ユラの指を指すほうに、駆け出す舵。
「あ、由良ちゃん、おおきにー」
 振り向いて礼を言う舵に、笑いながら手を振るユラ。
「さて、俺は戻るかな。そろそろ時間だしな」


●オープニング
 普段とは違い、ステージ会場には本物のトラック。
 荷台には、二振りの剣とギターのマーク。
 そして、荷台が上に開かれると、中にはすでに、司会者の二人と、今回参加するアーティストが並んでいた。
 二人組の司会者はマイクを持ち、口上を述べる。
「‥‥‥ミュージシャンたちのサバイバルが新たなる戦いの場」
「今回のテーマは、『春』。‥‥桜舞うこの舞台に、今日、集ったのは、この4組!」

 最初に紹介されたのはスモーキー巻(fa3211)。
 春に合うスーツにネクタイという スモーキーの服装。
 スモーキーの派手すぎず地味すぎないそれは、計算を感じさせない計算がされた、いわば本物、のそれだった。
「スモーキー巻! 音楽界の新たなる仕掛け人の彼が、今日、自らをプロデュース!」
 一歩前に出て、胸に軽く手を当てて、お辞儀をするスモーキー。

 すでにステージに並んでいるため、あまり派手なカメラワークはない。
 カメラが横に動くと、紅 勇花(fa0034)の姿が映る。
「ギタリスト、紅勇花! その男気に勝るとも劣らない激しいライブに期待」
 勇花は、一歩前にでながら、すこしぶっきらぼうに、軽く手を挙げる。

「どこまでも広がるこの野外でも、二人の強力な歌声は響きわたる。flicker」
 勇花の横にいるのは、ラシア・エルミナール(fa1376)と嶺雅(fa1514)の二人。
 コールされると、二人は一歩踏み出しながら、レイは右手で、ラシアは左手で、観客に向かって手を振る。
 残された片方の手は、しっかりとお互い握られていた。

 カメラが横に動かされ、4人の姿を映し出す。
 カメラに向かって、今にも飛び跳ねる勢いで大きく手を振る柊ラキア(fa2847)と、軽く片目をつぶる舵、二人を苦笑してみているユラ。
 最後に、優しい笑顔で三人を暖かく見守っている明石 丹(fa2837)。
「強烈なライブでその存在感を示してきた、ライブ界、ロック界の新星。アドリバティレイア」

 全紹介が終わると、司会者が開始を宣言した。
「それでは、『Battle the Rock』。スタート!」


●スモーキー巻
 野外ステージのため楽屋という楽屋があるわけでもなく、それぞれにボックスタイプの車が楽屋として用意されていた。
 そんな簡易の楽屋で、スモーキーは、一枚の写真を見ていた。
 スモーキーが少し懐かしげに見つめる写真。
 スモーキー本人とその友人だろう、仲のよさそうなグループが写っていた。
「いってくるね」
 一番手ということで、のんびりしている時間はなかった。
 手にした写真を胸のポケットにしまいながら、大きく息を吸い、立ち上がるスモーキー。
 その、小さな写真から、大きな力を得て、彼はステージに向かった。

「スモーキー巻、『Next Chance』」
 名前が呼ばれる。
 ステージがわりのトラックの荷台。
 観客の声援を受けながら、横につけられた階段を上る。
 スモーキーは胸に軽く手を当てて、2秒動きを止めた。
 それから、ギターを手に取り、静かにゆっくりと弦をはじいた。

無情に吹きつける春の嵐
儚くも美しく咲いた僕らの夢は
現実の冷たい雨と風に
さらされてあっけなく散っていきました

Something’s over
僕たちの夢は
Dream’s over
終わってしまったけど
Are we over?
僕たちの未来は

まだまだ続いていくのだから
散った夢の花びら一枚
ポケットに忍ばせ歩き続けましょう

次の夢が咲く日を信じて
We aren’t over yet


●紅 勇花
「桜かぁ、桜を見ると黒いネタしか思いつかないんだよなぁ、僕」
 楽屋として用意された車の中でぼやく勇花。
「でも、桜はいいよね、みんなに見てもらえるし。桜の養分だって浮かばれるよね‥‥」
 意味深なセリフを言った後、ため息をつき、目を閉じる。
 目を開けたとき、いつもの勇花にもどっていた。
 颯爽と立ち上がり、コートを羽織り、ステージに向かう。

 登場した勇花は、黒のスーツに黒のコートと、黒尽くめの姿だった。
「紅勇花、『櫻花』」
 ステージの上で、意味ありげに、にやりと笑う勇花。
 真っ赤なギターを、いつもハード系の音楽よりも軽めに、ギャルーンと奏でながら、低めの歌声を響かせる。

待ち合わせはいつも桜の木、私の家から歩いて五分
花咲く季節は待ち合わせてそのままお花見したりして
別れる場所も桜の木、丁度二人の別れ道
舞い散る桜の吹雪の向こう、消える背中を見送って‥‥

「ずっと‥‥‥‥ずっと一緒にいたいのに‥‥‥‥」

 早めのテンポの曲に負けないようにはっきりと歌詞を歌う。
 キレイなリズムに、秘密の思いを込めるために。
 軽やかで美しい曲と歌声に隠された狂気を伝えるために。

どこかよそよそしい彼の態度、不安にかき乱される想い
三度目の春が近づき、口を突いた我侭が「引き金」‥‥

離れたくない、止まらないの‥‥もう二度と離さない‥‥!
貫き‥‥‥‥散らし‥‥‥‥滴らす‥‥‥‥桜の木の下で‥‥‥‥

ああ、今年も綺麗に咲きましたね‥‥薄紅色、鮮やかに‥‥
あなたも、ほら嬉しいでしょう?あなたの花なんだもの‥‥
二人で、開いた花見上げ花見酒飲みましょうか?
ああ、でも‥‥あなたは今は飲めないんでしたっけ‥‥。


花、咲き果て散り逝くとも、年を巡ればまた逢える‥‥
巡り巡る、限りなく永遠に近い時の中
私もいつか、あなたの下に向かいましょう‥‥
二人だけの桜の花、終わりのない愛の証‥‥

「アレだよ、『桜の花は、その下に埋まった死体の養分を吸って咲く』」


●flicker
「ん?」
 出番間近、レイの携帯が震えた。
「メールみたい。トシキからだ。がんばって、だってサ」
 トシキのメールをレイから聞いたラシアは、二度三度、軽く頷く。
「そっか。いい報告が出来るようにがんばらなきゃね」
「今回はトシキの強力サポートのおかげで勝てたヨって?」
「それもそうだけど、トシキの歌の反応かな。楽しみにしてるんじゃない?」
「そうだね、また三人で参加出来ればいいんだけどなー」
「うん。‥‥そろそろ行こうか」
 立ち上がるラシアだが、座ったままのレイに、首を傾げる。
「? どうしたの?」
 そのラシアを、抱き寄せ、瞬間、力強く抱きしめるレイ。
「っっ」
「うん。これで大丈夫。俺たちは別れない。うん」
 うんうん、と頷くレイに、苦笑するラシア。
「‥‥まったく、何を言ってるんだか。ほら、レイ、立って。そろそろ行くよ」
 
「flicker、『春』」
 ステージに立った二人は、お互いに手を繋ぎ合いながら、ただ普通にスタンドマイクに手をかける。
 ゆったりとした曲と使われる音が、昭和歌謡風のチープさを醸し出す。
 最初は合唱、その後はソロ、メリハリを聞かせながら歌が始まった。

窓の向こう 揺れるサクラ達

震える指先 ダイヤル回す
間違い電話 慌てて切った
高鳴る鼓動が まだ止まらない

窓の向こう 揺れるサクラ達
開いたままの LPジャケット
聴こうとしても 手を伸ばせない

 そして、さらに少しの合唱の後、二人は交互に歌い出した。

「レトロ過ぎる」と言われたインテリア
一番新しいのは アナタと二人の写真
その微笑みは 
決して幻じゃない

変わらず巡る 春の黄昏 
物憂げなツバメの声にも 気付かない

不意の風 なびく髪抑えて
舞い上がる記憶 ただ見送った

窓の向こう 揺れるサクラ達
不意の強い風 舞い踊る花びら

 交互に歌い続けた後、最初と同じように、二人の重なった声で歌が締められた。

窓の向こう 
揺れるサクラ達
窓の向こう 揺れるサクラ達


●アドリバティレイア
「今日は晴れて良かったね。お願いが効いたのかな」
 車のバックミラーに結んである小さなてるてる坊主を指で軽く触れるマコト。
「まぁ、もし雨が降ったって、雨を吹き飛ばしちゃうけどね」
 ラキがそう言って笑う。
 ラキに釣られて、4人全員が笑った。
「だって、今日は4人だからね。元気400倍だよ」
「ははは、そうだね。うん。じゃあ、皆で一緒に頑張ろう。僕達らしく楽しんでこよう」

「アドリバティレイア、『咲く−SAKURA−』」
 紹介を受けたあと、ユラがマイクを握った。
「今日の歌は、桜の咲く中でライブいうことで、春とか、桜とか、あとは春の芽吹きのパワー。そういったイメージの歌です。聞いて下さい」
 ユラの台詞の後、しばらく無音が続いた後、スティックの音が鳴る。
 そして、スティックに合わせて、ドラムと、ギター、べース、キーボード、全ての音が同時に鳴った。
 同時になった音はそのままリズミカルな曲に繋がっていく。
 徐々に、激しさを増していく曲に混ざってマコトの声が響く。

歩いて来たこの道も確信に変わる
雨のつぶてを けぶる緑が笑う
足の下 ほら、背筋をのぼって 頭上、腕を伸ばす!

 所狭しと動き回るラキに、ユラが合わせる。
 そして、舵がシンバルのリズムで、アップテンションの雰囲気を高める。

これがリアル
坂の上からなら少しは見える
それは「今ならわかる」という言葉にも似ている

 そして、最後に、四人が、声をそろえた。

花も盛り
熱をはらむ 空を仰ぐ 何でもできる
世界ごと花開く 全身で咲くよ

 自然にそれぞれの手が結ばれ、そして、四人は頭をさげた。
 楽しいひとときをありがとう、と。


●エンディング
 4組の演奏が終わり、再び、登場した司会者の二人組。
「それでは、『judge』。スタート!」
 司会者の言葉で、投票が始まる。
 各ミュージシャンの箱の中へ、観客からコインが投げ込まれ、はらりはらりと舞う桜とは対照的に、勢いよく落ちてくる。
 野外ステージのせいで、舞台に遠いためか、箱にうまく入らなかったコインはいつもより多めだ。
 しかし、それでも、多くのコインがそれぞれの箱の中に集められた。

 楽屋代わりの車の中で、ユラが、舵に尋ねた。
「そういえば、見つかったのか? 工藤さん」
「ん、ちゃんと挨拶はできたんやけど、桜に琴が合う言われたわ」
 苦笑いする舵。
「そうなんだ。それは少し残念だね」
 マコトの慰めの言葉に、首を傾げるラキ。
「そうかな? 残念じゃなくて、良いことでしょ?」
「良いこと?」
 今度はマコトが首を傾げた。
「うん。これを機に、桜にロックが合うって分かってもらうチャンスだ」
「なるほど」
 納得するマコト。
「うちもそう思って、期待してて下さいって言うたんよ」
「それは、感想を聞いてみないと、だな」
「後で、スタッフさんたちが、みんなで軽くお花見をするって言ってたから、その時に聞けたらいいね」
「あー、楽しみやわー。どう思ったんやろ」
 ハラハラしている舵に、ラキが笑う。
「大丈夫でしょ。だって、ほら、みんなは気に入ってくれたみたいだし」
 ラキが、ほら、と指した先には、一人のスタッフがいた。
 スタッフは、コンコンとドアを叩いた後、あることを伝えた。
 その言葉を聞いた四人は、もう一度立ち上がった。

 最後に再び登場したのは、『アドリバティレイア』だった。
 彼らの『咲く−SAKURA−』がもう一度歌われる。
 画面では、バックにエンディングテロップが流れることだろう。
 しかし、今は、今が盛りの全身で咲き乱れる桜の花びらが、はらはらと舞っていた。