魂を響かせろ!舞台準備アジア・オセアニア

種類 ショート
担当 うのじ
芸能 1Lv以上
獣人 1Lv以上
難度 普通
報酬 1万円
参加人数 8人
サポート 0人
期間 11/14〜11/18

●本文

 会議室のテーブルの上に置かれた一枚の企画書。
 そこには「魂を響かせろ! バトル・ザ・ロック」と書いてある。

「だからですね、新しいロックミュージシャンを発掘する番組をやりたいんです!」
 ドンっと、机の上に手を置いた若い男。
 彼は、そのまま企画の説明をはじめた。
「テーマを決めてですね、それについて、熱い思いを歌にしてもらうんですよ。参加したグループのなかから、その回のチャンピオンを決める。そして、定期的に番組になれば、その回のチャンピオンが前回のチャンピオンに挑戦して、真のチャンピオンを決めるわけです」
 一息でそう言うと、手元にある水の入ったペットボトルを一口飲む。
「第一回目のテーマが、コンビニで、チャンピオンになったAがいるとしますよね? 2回目のテーマは焼き肉だとします。すると、2回目のテーマである焼き肉のチャンピオンの歌と、Aが焼き肉をテーマにした歌を勝負させて‥‥といった具合です」
「それで、2回目にAが参加しなかったらどうするんだ?」
「‥‥えっ? ‥‥それは、その時考えます」
 さっきまで自信満々だった彼だが、たった一つの質問で自信なさげになってしまった。
 それを見た、他の会議スタッフの反応はというと
「うーん、ツメが甘いんじゃないかな?」
「でも、深夜枠でしょ? ならさ、なんとかなるんじゃない?」
「グループでも、ソロでも参加が出来るなら‥‥」

 出た結論はこうだ。
「予算はあまりでないが、やるだけやってみるか?」
 その言葉に、彼は大きく頭を下げる。
「はい! がんばります!」
「まず、必要なのは、舞台セットだな。あと、司会者の衣装とかもある。あてはあるのか?」
「はい! がんばります!」
「おい、だいじょうぶか? 初仕事だからって、緊張しすぎてないか? 気を楽にしろよ?」
「はい! がんばります! ‥‥あ」
 本当にだいじょうぶかなぁ、という視線を向けるスタッフ達であった。

●今回の参加者

 fa0311 木場修(34歳・♂・虎)
 fa0388 有珠・円(34歳・♂・牛)
 fa0431 ヘヴィ・ヴァレン(29歳・♂・竜)
 fa0476 月舘 茨(25歳・♀・虎)
 fa0521 紺屋明後日(31歳・♂・アライグマ)
 fa0629 トシハキク(18歳・♂・熊)
 fa0833 黒澤鉄平(38歳・♂・トカゲ)
 fa1501 束佐・李(22歳・♀・牛)

●リプレイ本文

●戦場の前の静けさ
「この番組の責任者の望月です。このたびは、よろしくお願いします」
 設営の初日の朝の集会の結びの挨拶。
 望月と名乗った男は、並んだスタッフたちにぺこりと頭を下げた。
 そして解散になる集会。
 望月は緊張しているのか、スタッフ一人一人に丁寧にお辞儀をしている。
 見かねたトシハキク(fa0629)が近づき声をかけた。
「トシハキクという。よろしくな。一応は大道具がメインだが、体力仕事はなんでもやるから、こき使ってほしい」
「お、力仕事なら、俺もできるぜ。計画だてて行動しような」
 ヘヴィ・ヴァレン(fa0431)も声をかける。
「あ、はい。こちらこそよろしくおねがいします」
 多少落ち着いたものの、まだそわそわしてる彼に近づいてきたのは紺屋明後日(fa0521)だ。
「担当さん、初仕事かい?」 
「はい、そうなんですよ。緊張しちゃってだめですね」
「ま、しゃあない。そういうもんやな。出来るだけサポートしますさかい」
「よろしくおねがいします」
「‥‥ほな、頑張ってええもんつくろか。さっそく資材集めやな。あんたらも手伝ってや」
 そう言うと、その場にいた数人を引き連れて、さっそく仕事に取りかかった。
 入れ替わるように近づいてきたのは、チームワークがとれていそうな3人組だった。
「新番組の舞台準備を引き受けさせて貰ったTeam『極』の黒澤だ。今回は宜しく」
 黒澤鉄平(fa0833)は堂々とそう言うと、望月の手を取りがっちり握手をする。
「こちらこそよろしくおねがいします」
 だいぶ慣れてきたものの、黒澤と比べると弱々しく思えてしまう望月。
「まかせときなって」
 そういうと後ろを振り返る。
 そこには、『極』の文字をまとった二人の頼もしい仲間、有珠・円(fa0388)と月舘茨(fa0476)がいた。
「おーし、有珠、月舘! とっとと仕事に取り掛かるぞー!」
 黒澤は、バッと上着を脱ぐと、おなじく、『極』の文字がデザインされた黒Tシャツ姿になる。
「頼もしいなぁ」
 姿に見とれている望月に、横から束佐・李(fa1501) が声をかける。
「あの、私は司会の方の衣装の方を担当させてもらいますね。さっそくですけど、‥‥えーと、望月君、司会者の方の性別を‥‥」
 仕事がはじまればそこは戦場、のんびりしてる時間はないのだ。
「ふーん」
「どうしたの、茨?」
「いや、望月くんか、いいね。彼の呼び名。さん、よりもくんの方が似合ってるよ」
 たしかに、と苦笑するマドカ。
「おい、有珠、月舘! はやくしろー!」
 戦場の中でも、黒澤の声は響きわたる。
 早速仕事がはじまった。


●アーティストのこだわり
「だからさ、全体的にストリート風にしてさ、『コンクリートジャングルの中、金網で区切られた一角で音による熱いバトル』がいいと思うわけよ」
 自らのコンテやパソコンの画面を見せながら、マドカが望月に説明する。
「登場シーンは、上下に開く形にして‥‥」
「チャンピオンの決め方なんだけど、せっかくだから観客を使うのはどう?」
 これは、茨。
「コインなんだが、用意したゴミ箱にコインを投げ入れて、そのコインの重さを量るのはどうかな? コインをはずしたら、無効票になってしまうが、このほうがノリがいいと思うんだ」
 と、これはトシハキクだ。
 ほぼ完成とも思えるぐらい丁寧に練りこまれた具体的な形をみせられ、ただ感心するばかりの望月。
「‥‥わかりました。それでいきましょう」
 そして出たGOサイン。
 それをうけ、茨とトシハキクは、早速作業チームに伝えるためにもどっていった。
「ところで、相談なんだけど」
 しかし、残ったマドカが言う。
「はい、なんでしょう?」
「チャンピオンなんだけどさ、週一曲作成は辛いんじゃないかな。いっそ、特番みたいな感じで、チャンピオンマッチができたらいいとおもうんだけど、どう?」
「チャンピオンマッチですか‥‥‥わかりました。すこし、考えてみます」
 すると、扉が開き、二人の人物が入ってきた。
「た、ただいま」
 買い物から帰ってきたのはツカサとヘヴィだ。
 ヘヴィの両手には荷物がぎっしりと乗せられていた。
 ツカサが買って来たものは、男性用の黒革ジャケットやTシャツ、ジーンズなどなど。
 大型良品店で簡単に売っているようなものばかりだ。
「ヘヴィ君ありがとう。ここからは私の仕事だから、置いておいて」
「そうか。じゃあ、おれはあっちを手伝ってくるぜ」
 そう言い出ていくヘヴィ。
 そしてツカサは、さっそく、買ってきた衣装に傷を付けたりしてアレンジしていく。
 ダメージジーンズを作るにはちょっとしたコツがいるものだ。
 もちろんカラーコーディネートもしっかりしている。
 銀色のアクセサリーをくすませて、銀に見えるようにもしている。
 完成していく衣装は、司会者の男性二人にサイズも色合いもぴったりとしたものになっていった。


●アーティストの戦場
 コンこと紺屋明後日は、他の番組で使ったがもういらないものをきっちりと集めてきていた。
「ぎょうさん、あつまったわ。これでなんとかなるやろ」
 舞台はストリートの雰囲気を出すために、コンクリート風の壁の所々にレンガをつけ、その上に落書きをする。
 そして、黒澤が用意した小さめのスクリーンをいくつか、センス良く埋め込んでいく。
「ふぅ。完成だな」
 黒澤のほうは、タイトルの看板が完成したようだ。
「魂を響かせろ! Battle the Rock」と書かれた看板は、ストリートアート風の炎に包まれた舞台をイメージしたもので、よくできた絵や文字とバックに使われている廃材が絶妙な対比を醸し出していた。
「コン、そっちはどうだ?」
 額の汗を拭きながら、紺屋に尋ねる黒澤。
 一息ついた黒澤の前に絶妙のタイミングでトシハキクが水を差し出した。
 感謝を言いながら、ごくごくと飲み干す黒澤。
「こっちは、あとはオプションだけですわ。投票用のゴミ箱とかが残ってますわ」
「そうか、じゃあ俺も手伝おうか」
 腰を上げる黒澤。
「わざと錆びっぽくして、それっぽく見せるのたのめます?」
「おお! まかせとけ! うまくやっとくからよ。 おい、月舘も手伝え」
「まったく、黒鉄の大将は人使いが荒いね」
 苦笑しながらも、月舘も手伝う。

 しばらくして、ヘヴィが買い物から帰ってきた。
「‥‥なにやってるんだ?」
 ドラム缶などを鉄パイプで叩いている一同をみて、不思議そうに尋ねるヘヴィ。
「ストレス発散。‥‥‥嘘。こういう風にしておくと、それっぽくみえるだろ?」
「ああ、なるほど。そう言うことなら俺も手伝うよ。その鉄パイプ貸してみな」
「あ、まった」
「ん?」
「本気で壊しちゃだめだぞ」
 念を押されたヘヴィは、苦笑しながら、わかってると返事をし、鉄パイプを振り上げた。


●新たなる戦場へ
 矢のようにすぎた製作期間。
 しかし、スタッフの段取りがよかったためだろう、順調に完成した。
 舞台は、ストリート風にまとめられ、開閉式のステージも設けられた。
 舞台を暗めでセッティングしてあるため、多少のごまかしがしてあるものの、見た目以上にしっかりとした作りだ。
 ミュージシャンだけでなく、観客も多少暴れても大丈夫なようになっている。
 観客席も観やすいように考慮されながらも、カメラの邪魔にもならず、警備もしやすい作りで、アドバイザーの意見を生かした作りだ。

 後は番組が始まるのを待つばかりのステージに、今、スタッフ一同が立っていた。
 もちろん演奏がこれから始まるわけでも、今終わったわけではない。
 マドカの提案で、記念撮影をすることになったのだ。
「んー、いいねー。みんなから今までの苦労の疲れ以上に完成した喜びが感じられるよー。あ、コンとツカサ、折角衣装来てるんだから、もっと真ん中で堂々としてよ」
 二人が来ている衣装は実は司会者のものだ。
 二人組の男性が司会者なのだが、体型的に着ることができたのがこの二人だった。
 ツカサは、男性ものだからと、紺屋はキャラちゃうからと、それぞれ遠慮したのだが、マドカに似合うから大丈夫、と言われ続け、渋々衣装を身につけたのだ。
 もっとも、最初は渋々でも、徐々に乗り気になっていったのだが。
「じゃあ、とるね。みんな、こっちみてー、目をつぶってー、はい、あけてー」
 カシャと音が鳴るデジタルではない写真。
 これもまた、この舞台にぴったりのものだった。

「さて、みんな。お疲れさまってことで、俺と、望月くんと、ジスで、お茶とお菓子を用意したから、軽くやってくれよ」
 ヘヴィとトシハキクは、簡易テーブルにお菓子や飲み物などを準備し、みなにふるまう。
 番組の準備が完成したのは、職人達だけの力ではない。
 職人たちが縁の下の力もちならば、それを支える彼らのような存在もまた必要なのだ。
 舞台準備がおわり、この場は戦場から一転して、憩いの場になった。
 つかの間の休息の時間を皆でくつろぐ。

 そして、この休息が終わった時、ここはミュージシャンたちの戦場となるのだった。