魂を響かせろ!印象転換アジア・オセアニア

種類 ショート
担当 うのじ
芸能 2Lv以上
獣人 1Lv以上
難度 難しい
報酬 3.9万円
参加人数 8人
サポート 0人
期間 05/13〜05/17

●本文

 『Battle the Rock』という番組の責任者である望月は、マイクを持って舞台に立っていた。
 普段はこのステージに立つ時は、作業の時だけ。
 マイクを持って舞台に立つのはアーティストだけだからだ。
 しかし、今日は特別だった。
 マイクの音量を最大に上げて、音が割れんばかりの大声で言った。
「ステージセットたち、ありがとう!!!」
 無機物で生きてはいないはずの存在に向かって、頭を下げる望月。
 声の反響が終わるまで、頭を上げることはなかった。


 『Battle the Rock』の製作会議が開かれた
「そろそろ、舞台の改造の時期なんだけど、今度は、どうだろう? ビルで行くのは?」
「ビル? と言うと、オフィス?」
「うん、仕事時間が終わった後の閑散としたオフィスみたいなイメージで、さ」
「オフィスかぁ。俺は、ビルって聞いて、屋上かと思ったよ。たまに、屋上からライブってやるじゃん? 寒そうだけど」
「ああ、なるほど。まぁ、舞台イメージだから、屋上にしたとしても寒くはないだろうけど、それもいいね。どっちにしようか? 迷うね」
「迷うといえば、司会者の衣装。こっちも変更したいけど、ビルで行くなら、スーツかな?」
「ギャング風スーツ? それともビジネスマン風?」
「どっちでも面白いと思うけど」
 数多く出る疑問、質問、難問。
 それらを聞いていた、望月が結論を出した。
「‥‥うーん、とりあえず、そこら辺も含めて、現場の意見を聞いてみたいよね。それに、番組で毎回指定する音楽テーマ。改装後は、『元気』か『パワー』みたいなモノにするつもりだけど、その後は、6月に『花嫁』か『結婚』かな? ありきたり過ぎるかな? 見てみたいテーマとかやってみたいテーマとかも聞いてみたいな」
 うんうん、と疑問文だらけの台詞に自分が頷く望月。
 結局何も決まってないような気もするが、現場の意見を聞くという方向で、その場が決まった。
 その結果、舞台改造を頼み、そして、意見も出してもらおうと、緊急のスタッフを募集するのだった。

●今回の参加者

 fa0388 有珠・円(34歳・♂・牛)
 fa0431 ヘヴィ・ヴァレン(29歳・♂・竜)
 fa0476 月舘 茨(25歳・♀・虎)
 fa0521 紺屋明後日(31歳・♂・アライグマ)
 fa0629 トシハキク(18歳・♂・熊)
 fa0751 (23歳・♂・蝙蝠)
 fa1769 新月ルイ(29歳・♂・トカゲ)
 fa3211 スモーキー巻(24歳・♂・亀)

●リプレイ本文

●思い出を胸に
 カシャ、カシャ、カシャ、カシャ。
 シャッターを切る音が響く。
 デジタルカメラ全盛の時代になっても、このシャッターを切る音の良さは失われていない。
 一通り舞台の写真を撮り終えると、有珠・円(fa0388)は、ようやくカメラを下ろした。
「おはようございます」
 撮影中は静かにしていたのだろう、スモーキー巻(fa3211)が、ちょうどのタイミングで挨拶をした。
「ああ、おはようございます」
 アリスもそれに答える。
「記念撮影ですか?」
「今の舞台も全力で作ったからね。何か残してあげたくって」
 スモーキーの質問に答えるアリス。
 アリスの答えに、大きく頷くスモーキー。
「分かります、その気持ち。僕も一度、ここのステージに立たせて貰いましたけど、本当に、よくできていましたから」
 スモーキーの優しい同意にアリスも笑顔で答える。
「キャー、おはようございまーす」
 なぜか黄色い声を上げつつ新月ルイ(fa1769)が入ってくる。
「おはようございます」
 スモーキーとアリスが応じるも、ルイの目はアリスのカメラに向けられる。
「もしかして、記念撮影?」
「そうだよ。今の舞台も残してあげたくって」
 先ほどのスモーキーと同じ質問だったが、律儀に答えるアリス。
「そうなの。儚いわよね、ステージセットって。最後に一花咲かせてあげたい、その気持ち。わかるわぁ」
 うんうんと頷くルイは、何か思いついたようで、ステージの上に登る。
「どうかしら? ステージにはやっぱり人がいたほうがいいと思うの。ほらほら、今がシャッターチャンスよ」
 ステージに置いてあるスタンドマイクを手に、歌う真似をするルイ。
「ほら、あんたもっ。楽器できるんでしょ? あたし、知ってるんだから」
 その光景を横で見ていたスモーキーも巻き込まれ始める。
 どうやら写真を撮らないといけないと理解したアリスは、苦笑しながらカメラを構えた。


●新舞台製作作業スタート
「それでは皆さん、よろしくおねがいします」
 番組のプロデューサーの望月が、ペコリと頭を下げ、舞台製作が開始された。
 最初は、今までのセットの撤去からだ。
「よぉ、望月、頑張ってるじゃねえか」
 ヘヴィ・ヴァレン(fa0431)が声をかけた。
「ヴァレンさん、はい、おかげさまで。今回は宜しくお願いしますね」
 迫力のあるヘヴィにも笑顔で応える望月。
「おう、まかせておけ。とりあえず買い物に行こうと思ってるんだが、まず必要な物なにかないか? 量が多いなら、スタッフを数人借りるが」
「なるほど。そうですね。じゃあ、お願いしたいものが‥‥」
 ひそひそと望月の願いを聞いたヘヴィは苦笑しながらも、了解の返事を出した。
「なるほど。たしかに必要だな。多少重くなりそうだが、それなら一人で大丈夫だな。じゃあ行ってくる」
「ありがとうございまーす」
 すぐにでていくヘヴィを頼もしく見ながら、見送る望月。
 頭を下げているため無防備な頭に、バンっと魂のこもった一撃が入った。
 望月は、悶えながらも後ろを振り返ると、月舘 茨(fa0476)が、満面の笑みを浮かべて立っている。
「おはよう。忙しそうでなによりだね。はい、これ、差し入れ」
 頭にヒットしたままのお弁当箱を、ありがとうございますと頭に載せたまま受け取る望月。
「月舘さん、おはようございます。あ、それ着てくれているんですね」
 そう言われたばらの出で立ちは、『極』の印がはいったツナギの上に、番組が作った革のジャケットというものだった。
「まぁね。どう? 似合う?」
「はい。お似合いです。‥‥でも、暑そうです。大丈夫ですか?」
「ははは、まぁ、暑くなったら脱ぐさ。大丈夫、大丈夫。それよりさ、今回、ハードになりそうだから獣化したいんだけど、大丈夫かね?」
 ばらの確認に少し驚く望月だったが、しばらく考えた後、OKのサインをだした。
「‥‥わかりました。ステージ周辺だけでも、大丈夫のようにしておきます」
「ありがと。じゃあ、今回も気合入れて行くよ」
「はい、お願いします」


●新ステージ案打ち合わせ
 10人ほどが円卓になれる会議室。
 正面には大きめのホワイトボード。
 そこには何度も消された後があり、話し合いがなかなかまとまらない様子がうかがえた。
 今、ホワイトボードの前にいるのは紺屋明後日(fa0521)。
「せやから、こないな感じで、空を飛ぶバトザロのシンボルマークの描かれた飛行機から飛び出す二人の人影をCGでうつし、その後、司会の二人が上から飛び降りてくる手な感じでどないやろ?」
 キュッキュッとボードに絵が描かれていく。
「飛行機ですか。僕は、いっそ、全てCGにしてしまって、ヘリもいいかなとおもっていたんですが」
 似てますね、とスモーキーが控えめに意見する。
「俺はリムジンで登場もいいと思った。たしかにCGは有りかもね、どう?」
 アリスが望月に意見を求める。
「うーん、たしかに、毎週ヘリ、飛行機、リムジンを借りるのは予算的に厳しいかもしれないですね。CGでいけるならそのほうが‥‥。有珠さんはCGに強いんでしたっけ?」
「強い、というほどでもないけどね。じゃあ、オープニングはフルCGだね」
 アリスの言葉を受け、今まで黙ってメモを取っていたトシハキク(fa0629)も頷く。
「乗り物は後で決めるのは? 全部使ってもいいだろうし」
 一同が頷くのをみると、ジスは言葉を続ける。
「じゃあ、次は出演者の登場と、優勝者の登場だな。俺はビル風が表現できればいいと思っている」
「ビル風は欲しいね。非常階段風にして、自力で登ってくるのはどう? あと優勝者はエレベーターがいいと思うんだよね。現在階表示アップでカウントダウン。扉が開いたらレッドカーペットを黒服が広げ、そこ通って演奏エリアへ、という感じで」
 ジスとばらの意見を聞いていた望月は、頷きながら言う。
「エレベーターはいいかもしれないですね。ビル風と階段に関しては、アーティストの衣装次第でしょうか? ビル風で髪型が乱れたり、スカートがめくれたりしたら困るでしょうし。階段も同じように衣装が切れてしまったりすると問題になるかもしれません」
 その可能性があったか、と納得する一同。
 その横で、難しい顔をしている人が一人。ルイだ。
 ジスが心配をして声をかけた。
「どうした? ルイさん、だいじょうぶか?」
「んー、難しい話して分からなくて」
 テヘっと舌を出すルイに、心配して損したと苦笑いするジス。
 そんなとき、会議室の扉が開いた。
「おい、望月、持ってきたぜ。レトルトパウチとか水とかな。大量にあるから運ぶの手伝ってくれや」
 扉を開けたのはヘヴィだった。
 彼は両手に荷物を抱えながら、器用に扉を開けたのだ。
「食料?」
「はい、皆さん、必要になるかなと思ってお願いしておきました」
 誰かに尋ねられ、望月が笑顔で応えた。
 それを聞いたコンが笑う。
「こりゃ、今回も寝袋持ってきておいて、正解やな」


●着せ替え人形な悪夢
「コンちゃん、そこで、ターンしてみて。そう」
 ステージの改装が進む中、司会者の新しい衣装の検討も進んでいた。
 主に指揮を執っているのはルイだ。
 それに付き合わされているのはコン。
 着せ替え人形になっているコンの不幸の理由は、司会者の一人と身長が同じぐらいという理由からだった。
「そう言えば、前にもこんな事があったような気ぃするわ」
 コンのぼやきにも、お疲れモードの響きがする。
 それに気がつかないのか、気がついても無視しているのか、ハイテンションのルイは、一つ一つメモを取りながら、次はこれ、その次はこれ、と見繕っている。
「うーん、同じ色でも、微妙に色合いが違うのよね。あと光沢具合も‥‥。本当はスポットライトにあたってもらったほうがいいんだけど‥‥」
「‥‥堪忍やで、ほんま」
 コンは大きくため息をついた。

「紺屋さん、大道具さんがもっと欲しいって、呼んでましたよ」
 扉が開く。
 それは天国への誘い。
「おおっ、まってた。今行くわ、すぐ」
 急に元気になったコンに、不満の声を上げるルイ。
 しかし、無情にもコンはすぐにスーツを脱いでしまい、ステージ作業の方へ行ってしまった。
「もう、だめじゃない、よけいな事をしちゃ」
 怒りの矛先は、扉を開いたスモーキーに向かう。
「すいません。じゃあ、僕もこれで」
 頭を下げ、部屋を出ようとするスモーキーを、ルイが引き留める。
「まって!」
「はい?」
「よく見たら、巻ちゃんって、コンちゃんと同じぐらいの背丈よね」
 ルイの不吉な言葉。
「‥‥‥じゃあ、僕はこれで」
 逃げだそうとするスモーキー。
 この勝負の勝者は‥‥ルイだった。
「はい、じゃあ、これ、着てみて。あとこの帽子も」
「‥‥‥」


●新たなる思い出を胸に
 夜のビル群の中をアニメチックな飛行機が器用に飛んでいる。
 そして、飛行機から飛び出したパラシュートが一つ。
 パラシュートはゆらゆら、ゆらゆらと地面に降り立つと、そこは赤い絨毯の上。
 白のスーツの男は、パラシュートを肩から外すと、その横に、超ロングのリムジンが止まる。
 リムジンの扉は自動的に開き、中から、黒のスーツの男が登場する。
 薄暗かったその場所に上空の複数のヘリから、多くのライトが当てられる。
 二人の男は、そのまま赤い絨毯の上を歩いて、建物の中へ。
 二人を照らしていたライトのうち一つが動きだし建物を映し出す。
 照らされた建物の壁に描かれているのは、剣とギターのマーク。
 そして画面がアニメから実写のステージに切り替わった。

 一同から拍手が漏れる。
「おつかれさまでした」
「今回も何とかなったね。毎度ながら、難易度の高いご要望だったけど」
「ビルっていうのは難しかったね、たしかに」
 オープニングムービーの試写が終了し、ほっとした一同。
 拍手の中に、程良い疲れからくるバッドハイ状態も加わり、楽しげだが、多少の恨み節も混ざりながらの談笑。
「まぁ、終わったことだ、いいじゃねえか」
 ヘヴィは、笑いながらそう言うと、客席の隅に置いてある一式を片づけるために足を止めない。
 横柄に見えるが、そんな細かい気配りを示す彼に、望月が感謝を伝える。
「まぁ、いいってことよ。これが仕事だからな。望月もお疲れさん。最初の頃とは見違えたぜ」
 ヘヴィの言葉に、ちょうど横にいたコンも頷く。
「ほんま、『コンビニ』とか『焼き肉』言うてた時はどないなもんになるか心配やったけど、今は安心やわ」
 コンにも礼を言いながら、望月は、でも、と言う。
「でも、いつか、『コンビニ』とか『焼き肉』とか、そういったコミックソングはやってみたいんですよ?」
「へ? ああ、まったく、冗談もうまくなったわ、望月はん」
 ははは、と一人きり笑いながら、雰囲気で解散になった三人。
 先に輪から離れた望月をみながら、ヘヴィがコンに言う。
「ありゃ、目がマジだったな。いつかやるぞ、『コンビニ』」
「‥‥はぁ。安心できへんわ、当分」

「はい、記念写真撮るから、みんな集まって」
 ばらが声をかけ、一同がステージに集合する。
「? あれ? 円ちゃんは?」
 キョロキョロするルイ。
「ああ、望月さんもいないな。さっきまで居たのに」
 記念撮影のために撮っておきの革ジャンに着替えたジスも辺りを見回す。
「ごめん、遅れたー」
「すいませんー」
 と、後から登場したアリスと望月。
 そんな望月の手には、ミニチュアの野外ライブ用のトラックがあった。

 こうして完成した新たなステージ。
 ここから、また、新しい音楽が生まれていく。