singing the weddingアジア・オセアニア

種類 ショート
担当 うのじ
芸能 1Lv以上
獣人 1Lv以上
難度 難しい
報酬 1.3万円
参加人数 8人
サポート 0人
期間 06/16〜06/20

●本文

 番組プロデューサーの望月は、休憩室の椅子に腰を掛ける。
 ブラックの缶コーヒーの蓋を開け、ごくりと飲んだあと、手にした本を開く。
 本から飛び出してくるのは、白、紅、黒、白、と言った派手な原色達。
 手にしている本は、ブライダルの貸衣装のカタログなのだ。

「おや? 望月さん。ついに結婚ですか?」
 まじまじとカタログを観ていると、スタッフが声を掛けてきた。
「‥‥わかってて言ってるでしょ?」
 顔も上げずに言う望月。
「‥‥ばれました?」
「ばれるっていうか、当然というか。‥‥いちおう言うと、今度の番組テーマが『花嫁』だから、スポットスポンサーになってもらったところのカタログ。観る?」
「そういう予定はないんですけど、観ます」
 こうして、男二人で、結婚式衣装のカタログを観るという、ある種奇妙な空間ができあがった。

「観てくださいよ、これ。真っ白の巻きスカートみたいなドレス」
「ひっぱったら、独楽ができそう」

「白無垢もあるんだね。教会には合わないかな?」
「意外に、和洋折衷かもしれませんよ?」

「白スーツ、これ着るの勇気がいるよね」
「いりますね。俺、着れないですよ」
「‥‥白スーツと言えばさ」
「‥‥‥着てましたね、司会者が」
 こうして、二人の意識は、現実に戻ってきた。
「‥‥さ、仕事しましょうか」
「‥‥だね。じゃあ、このカタログ、出演者の人にも貸して上げて。演出で着るならどうぞって」
 望月は先ほどまで観ていたカタログを含めた数冊を、スタッフに渡す。
「ところで、今回のテーマは、『花嫁』でいいんですか? ウェディングって実は結婚式のことですけど」
「んー、まぁ、そこらへんはイメージの問題だから。『花嫁』でいいよ。そして、次回は、マネー!『お金』。実はこの『お金』のテーマの曲考えたんだけど聞いてくれる?」
「いえ、仕事がありますんで。しつれいしまーす」
「逃げられたーー。‥‥さ、仕事しよう」


 画面の真ん中にあるギターと剣のシンボル。
 シンボルに被さるように、番組タイトルである「魂を響かせろ! Battle the Rock」の文字が踊る。
 続いて「the sound of wedding」と今回のテーマ。
 ここに、アーティストの新たなるバトルが、始まった。

●今回の参加者

 fa0124 早河恭司(21歳・♂・狼)
 fa0475 LUCIFEL(21歳・♂・狼)
 fa1362 緋桜 美影(25歳・♀・竜)
 fa2228 当摩 晶(19歳・♀・狼)
 fa2521 明星静香(21歳・♀・蝙蝠)
 fa2778 豊城 胡都(18歳・♂・蝙蝠)
 fa3596 Tyrantess(14歳・♀・竜)
 fa3608 黒羽 上総(23歳・♂・蝙蝠)

●リプレイ本文

●オープニング
 ヘリから飛び降りた白いスーツの男。
 リムジンから降りる黒いスーツの男。
 二人は赤いカーペットの上を歩き、ビルの中へ入っていく。
 先ほどまではアニメーションだったが、今度は、本物の人間が二人、先ほどのキャラクターと同じ衣装で舞台の上に登場した。
「‥‥‥コンクリートジャングルの中で始まるミュージシャンたちのサバイバル」
「今回のテーマは、『花嫁』! すべての新郎新婦たちは自らへの祝福の歌の響きを聞け!」
「今日、登場してくれるミュージシャンはこの4組!」

 最初に登場したのは3人。
 白いタキシード姿の早河恭司(fa0124)と同じく白いウェディングドレスの当摩 晶(fa2228)。
 そして、最後に登場したのがドレスの裾を持ってあげている豊城 胡都(fa2778)。
「今、ノリに乗っている『蜜月』。病弱なリーダーに変わって3人で登場だ」
 恭司が手を差し出すと、アキラは手をそっと上に添える。
 そのまま舞台へ。

 二組目は、LUCIFEL(fa0475)。
 白いタキシードを着こなし、口元には白い薔薇。
「愛を謳いロックを歌う、ココロの調律者、LUCIFEL!」
 ルシフは舞台に恭司を見つけるとニヤリと笑い、手袋を恭司に向かって投げる。
 投げられた恭司も笑いながら、それを拾う。
 おおーとどよめく観客席。
 ここに音楽による決闘が決定した。

 次に登場したのは、ボクサー風のパーカーを頭からかぶっている一人の女性。
「ロックを歌う最強の紅! 緋桜美影」
 紹介された緋桜 美影(fa1362)は、カメラがアップになっていることを確認すると、ぱっとパーカーを脱ぐ。
 中には美影‥‥ではなく、悪魔の面。
 相手が驚いたことを確認すると満足したように面を取り、今度こそ美影が登場した。

 最後にコールされたのは、明星静香(fa2521)、Tyrantess(fa3596)、黒羽 上総(fa3608)の三人組だった。
 タイとシズカ、二人の花嫁に囲まれているのはクロ。
 クロは、率先して二人の前に立ち、エスコートする。
「祝福するは6月の女神。『Juno』!」
 名前が呼ばれ、手を振るシズカ。
 少し緊張気味のタイを観て、クロが安心させるように、シズカと同じように手を振る。
 タイもそれに気がつき、カメラに向かって手を振った。

 4組の紹介が終わり、カメラを司会の二人に戻す。
 白と黒の司会者は、番組の開始を宣言する。
「それでは、『Battle the Rock』。スタート!」


●蜜月
 すっと腕を恭司の腕に絡ませるアキラ。
「‥‥キョン、演出のためとはいえ、少しは喜びなさいよ」
「え? あ、ああ」
 どこか気の抜けた返事をする恭司の答えに、すこし頬をふくらませるアキラ。
 それを観ていた胡都がこっそり笑う。
 とはいえ、ばれているらしくアキラに睨まれてしまう胡都。
「‥‥ほかの三人はちゃんと観てくれてますかね?」
 慌てて話題をそらす胡都。
「いや、これ、収録だからさ」
 しかし、意図に気がつかなかった恭司の返事によって、話題をそらすことに失敗してしまった。
「‥‥‥」
 どうやら、名前が呼ばれるまでの数分の間、花嫁の機嫌は斜めのままのようだ。


「蜜月。『Manua』」
 胡都の激しいドラムから曲が始まった。
 それに続くベースの恭司。
 少し眺めのイントロの後、アキラの歌声が響く。

左手の薬指に輝く小さなダイヤ
書かなくちゃいけない書類
こんな薄い約束の証しに何か意味はあるの?
難解な疑問に立ち向かう 不機嫌なlady

出会うべくして出会った二人
ここまで来るのに間違いはないでしょう?なんて
誰がそんな薄っぺらい言葉信じるのかしら
そんなこと思いながら歩く virginroad

壊れそうになるカケラ
必死に守って 次々現れる敵に宣戦布告
新たな敵は姑、なんてお約束
ちょっとはフォロー please!

 合間合間にドレスで動き回るアキラ。
 ふわりとドレスが舞う。
 そして、ヒートアップしていた曲は、ここに来てゆったりとしたペースになっていく。

戦って戦って戦って戦って‥‥

‥‥疲れたらちょっとアナタの側で休んでいいかな?

色々言ったって 色々考えたって
結局最後は アナタの元に
これからの道は御一緒しない?

 最後には、花嫁のアキラが恭司に寄り添うようにもたれかかり、それを祝福するかのようにドラムの音が鳴り響いた。


●LUCIFEL
「LUCIFEL。『Mebius Love』」
 コールされたルシフは、黄色い声援を受けながら、舞台中央に向かう。
 手にしている白い薔薇をマイクに絡ませた後、カメラに向かって斜めに構え、歌い始まる。

愛されるコトに怯え 愛するコトを怖れていた 

あの日出逢ったときから いつも翻弄されていたね
だけどイヤだと思いはしなかった
理解不能な感情 心に積み重なっていく
貴女の一言で気付かされたんだ

自分の強すぎる気持ちを怖れ 逃げ惑うよ
戻れもせず進めもせず ただ立ち尽くすしか出来なかった‥‥けれど 
好きで好きだから好きなんだと 深く抱きしめる
貴女はとても強くて弱くて とても可愛い

 多少の音程のミスも気にさせない美しい歌声が、切ない歌詞を、心地よく響かせる。
 ルシフはマイクを握り直し、佳境へ入っていく歌への準備をした。

狂しくて クルシクテ
切なくて セツナクテ

貴女を失ってしまうことに怯え 壊れてしまうよ
こんな想いを知るのなら 出逢わなければよかったのかな‥‥けれど
好きで好きだから好きなんだと 深く抱きしめる
貴女はとても魅力的で とても美しい

「私を捕まえる決心がついたの?」
指輪を渡そうとした俺に 貴女はそっと手を差し出した
最初で最後の恋 endless love Symphony
もう あの日には奪われていたのかな


●緋桜美影
 控え室にいる美影は先ほどとは別人のようだった。
 衣装もパーカーではなく、赤いビスチェ風レザーの上から白いウェディングドレス。
 角と翼を生やし、さながら悪魔の花嫁の様。
「ふふふふふ」
 鏡に映る自分を観ながら、この姿で登場したときの観客の反応を想像すると、自然を笑みが漏れた。
「さて、がんばってきますかね」
 美影は、紅のブーケを手にし、舞台へ向かった。


「緋桜美影。『紅の契』」
 真っ暗な舞台に一条の光が指す。
 暗闇の中動く赤い何かは、その光に向かって暗闇の中を進んでいるようだった。
 結婚式によくかかるようなイメージのイントロにあわせてゆっくり進んでいく紅い影。
 光の中に浮かび上がる悪魔のような姿に紅の扇情的なウェディングドレス姿の美影に、観客がどよめく。
 そして激しいテンポの曲に変わり、美影がマイクを握った。

紅い空の下 契約の刻
貴方が娶るのは 貞淑な百合
嫁ぐ私は 奈落の薔薇

純潔の白に滾る欲望を忍ばせて 真紅の道を歩む
子犬のような笑顔を浮かべて 私を待つ愛し 君
所有するのは貴方? それとも‥‥私。
限りなき愛に背を向けて 禁断の果実に口をつけましょう

紅い空の下 契約の刻
貴方が望むのは 永遠の愛
私がもたらすは 背徳の果実

さぁ交わしましょう 契の誓約を 
貴方の唇で この紅い クチビルへ

 歌の終わりととともに、美影の口づけをうけた紅のブーケが観客席に投げ込まれる。
 照明が全体を真っ赤に染め、ブーケは吸い込まれるように消えていった。


●Juno
「さっきはありがとうな」
 タイがクロに向かって頭を下げた。
「気にしなくてもいい。それよりももう大丈夫か?」
 黒野言葉にタイが頷く。
「ああ、たぶん大丈夫だ。こんなの着たことねぇからよくわかんねぇんだけど‥‥おかしくねぇか?」
 鏡を見ながらのタイ。
 タイと同じく白いウェディングドレスに身を包んでいるシズカが言う。
「おかしくないわよ? 大丈夫!」
 シズカは、にっこりと笑った。
「そうか? もうちょっとこう、胸元を開けた方が‥‥」
 鏡を見ながらうなるタイ。
 シズカも釣られて鏡を見る。
「似合ってるとおもうけどな。私はどう?」
「静香さんは似合っていると思うぞ? 花嫁みたいだ」
 タイの言葉に、礼を言うシズカ。
「ありがとう。そうね、いつか本当に着れるといいな」


「Juno。『ヴァージンロード』」
 中央に座するドラムのクロは、まるで新郎新婦の仲をとりもつ神父のようだった。
 もっとも、左右にいるのは、どちらもウェディングドレスを着た新婦だったが。
 コールされ、照明が一斉に灯る。
 クロのドラムに、タイのギターとシズカのベース。
 ハイテンションなだけではなく、少しだけ憂いがこもっているかのような曲調に、それにあわせたシズカの歌声が加わる。

木漏れ日 静かに照らし
鐘は空へ鳴り響く
純潔 その名の道は
ただあなたへと続く

あなたに似合う私になれる?
ずっと繰り返す答えのない問い
幸せは目の前にあるのに
不安で潰され 消えて行きそう

 今までと違い、さびの部分になり曲調が強くなる。
 憂いを払拭する強い前向きの意志を表現するようにキーもやや高めに変わった。

怖いけど 怖いけど 支えて欲しいよ
あなたの側で強くなれる
足りないものが埋まってくよ
愛してる 愛してる このまま抱いてて
ふたりで行こう 幸せへと
このままずっと離れないで

 間奏になると、今まで歌詞をもり立てていたドラムとギターとベースが、それぞれを引き立て行く。
 イメージを壊さないように気をつけながらの、短めながら、思いのこもった間奏。
 それが終わると、今度は不安げな曲調になった。

指輪を通され
あなたに絡み取られる
このままずっと離さないで
私も離さないでいるから

 歌はアップテンポにまた戻る。
 思いは前向きに明るく。
 シズカは目の間の幸せを掴みとるように、手を伸ばしながら歌を続ける。

怖いけど 怖いけど 支えて欲しいよ
あなたの側で強くなれる
足りないものが埋まってくよ
愛してる 愛してる このまま抱いてて
ふたりで行こう 幸せへと
このままずっと離れないで


●エンディング
 4組の演奏が終わり、再び、司会者の二人組が登場する。
 いつもどおり、投票が促される。
「それでは、『judge』。スタート!」
 観客たちが各自の持っている10枚のコイン、それが舞台に設置してある各ミュージシャンの箱に向かって投げ入れる。

 蜜月の控え室には、3人のメンバーにもう一人お客さんがいた。
 ルシフだ。
 控え室に設置されてある舞台を映すモニターを観ながら、それぞれ思い思いの場所に腰をかけていた。
「‥‥そういえば、手袋は返しました?」
 胡都の言葉を受け、思い出したように差し出す恭司。
「お、サンキュウ」
「本番の時は大丈夫だったんですか?」
「ああ、衣装さんに予備を用意してもらってあったから大丈夫だったぜ」
 ルシフが答えた。
 そんなやりとりを観ながらどこか釈然としない顔のアキラ。
「‥‥どうした?」
「いえ、別にいいんですけど、いつの間にルシフェルさんが馴染んでいるんですか?」
 恭司の質問に答えるアキラ。
「ああ、それは、なんというか」
「今回の決闘は引き分けだったからな」
「そうそう」
 恭司とルシフは互いに頷きあった。
 決闘する間柄とはいえ、仲は良いようで、よく分からない理由にあきれ顔のアキラが、舞台を映し出すモニターに目を移す。
 画面はちょうどエレベーターの扉が開くところだった。

 エレベーターから登場したのは、紅の花嫁。
 美影だった。
 美影は、登場するや、イントロを結婚行進曲で始めた一回目とは異なり、いきなり激しいビート音で間髪おかずに『紅の契』をスタートさせる。
 今回の勝者は『緋桜美影』だったのだ。

紅い空の下 契約の刻
貴方が娶るのは 貞淑な百合
嫁ぐ私は 奈落の薔薇

 美影の歌声も加わり、会場は最高にヒートアップ。
 放送画面では、ちょうどこのあたりでエンディングのテロップが入るところだろう。
 とはいえ、会場にいる人間にとっては無関係の話。
 会場にいる人間は、とことんまで紅の悪魔の魅惑の歌声に酔いしれていった。