6月の花嫁ドラマSPアジア・オセアニア

種類 ショート
担当 うのじ
芸能 2Lv以上
獣人 1Lv以上
難度 普通
報酬 3万円
参加人数 8人
サポート 0人
期間 06/28〜07/02

●本文

 廊下を全力でひた走り、笑い声が聞こえる扉を開ける。
 部屋から漂ってきたのは、あふれ出すほどのイライラ感。
 言ってみればどす黒い負のオーラだった。
 時計をみる。
 大丈夫、まだ遅刻ではない。
「はっ!!」
 慌てて部長をみる。
 ‥‥部長も怒ってはいないようだ。
 いつもなら、社員が私用電話をするだけで、目くじらを立てるというのに。
 ‥‥そのとき、僕は気がついた。
 このまがまがしいオーラが出ているのは、その私用電話中の先輩だったってことに。

「あっらぁ、そう? いい人を紹介? そんなことしてくれなくてもいいわよ、うふふふふ。べつに焦るものでもないし、のんびりね。うん。なぁに?」

 感情のこもってない笑い声。
 こわい、こわすぎる。
「いったいどうしたんですか?」
 小さい声で部長に聞く。
「‥‥電話相手、結婚するんだって」
「あー」
 先輩は妙齢の女性なわけで、なかなかデリケートな話題だ。
 話を聞く限り、ただ報告してるだけ、というわけでもなさそうで‥‥それは会話だけでなく、イライラが怒りに変わりつつあるこのオーラが物語っている。

「行き遅れ? ‥‥‥それが言いたかった? あぁん? 喧嘩売りに電話してきたのか、あんたは! いい度胸ね、『対外部』に喧嘩売るなんて、楽に成仏できると思わないことね」

 ガチャン。
 電話を切る先輩。
「さ、行くわよ、結婚式つぶしに」
「‥‥うちって『人外対応及び処理部』略して『対外部』ですよね?」
「そうだけど?」
 当たり前のように答える先輩。
「じゃあなんで、結婚式をつぶしに?」
「さっきの電話ね、浮遊霊からなの。わかる? 成仏しきれなくて現世をさまよってる分際で、私より先に結婚しようなんざ、許せるわけないでしょう! ジューンブライドだかなんだか知らないけど、そんなの来世で結婚しなさいよ!」
 ものすごい剣幕の先輩。
「『対外部』の仕事は現世に仇なす妖を成仏させることよ、文句ある?」


「以上がオープニングですね」
「幽霊たちのジューンブライドですか。それを潰すわけですね。場所は教会?」
 スタッフの一人は頷きながら言う質問に、オープニングを説明していた人が答えた。
「教会です。が、本物じゃなくて、撮影所3−Bにセットを作ります」
 撮影所B−3。
 本物の霊がでるという理由から、広いわりには、安くて、何時でも使える、という三拍子揃った撮影場所だ。
 そこに大きなチャペルのセットが組み立てられた。

●今回の参加者

 fa0262 姉川小紅(24歳・♀・パンダ)
 fa0406 トール・エル(13歳・♂・リス)
 fa0669 志羽・武流(21歳・♂・鷹)
 fa1276 玖條 響(18歳・♂・竜)
 fa1357 結城 紗那(18歳・♀・兎)
 fa2044 蘇芳蒼緋(23歳・♂・一角獣)
 fa3180 マーマレード(21歳・♂・小鳥)
 fa4032 滝口まあや(24歳・♀・ハムスター)

●リプレイ本文

●食べ物に興味津々
「結婚式って‥‥おいしいもの沢山食べれるところだよね?」
 そう言ったのは玖條 響(fa1276)が演じる新坂蓮。
 しかし、彼の予想とは反対に、挙式だけのため、披露宴の食事は無かった。
 今にも指をくわえそうな蓮に、兄役の蘇芳蒼緋(fa2044)が声をかける。
「残念だったな。でも、仕事が終われば食事にいけるから、な」
「‥‥うん」
 そこへ、チャイナな衣装の結城 紗那(fa1357)が近づいてくる。
「あのー、先輩たち、知りませんかー?」
「え? いないの?」
「はいー」
「結婚式を潰す! って息巻いてたから‥‥きっとどこかで、戦闘準備をしてるんじゃない?」
「そうですか。話し合えば、きっとあの世で結婚してくださると思いますのに‥‥」
 残念がる紗那に、周りが苦笑した。
「‥‥まぁ、そこらへんは、仕事だから、な。それにしても結婚ねえ‥‥、まだ俺には縁がなさそうだな」
「僕もかな? 愛よりお兄ちゃんと食事が大事だからな‥‥」
「ほへ? お兄ちゃんを食べんですか?」
「ううん、食べない食べない。‥‥あ」
 響が上を見ながら声を上げる。
「どうかなさいました?」
「どうした?」
 蒼と紗那の同時質問に答える響。
「今、あのステンドグラスの向こう側に、明智さんが乗ったヘリが飛んでいったような‥‥」

「カーーット! OKです」
 撮りが終了した。
 カットという声が響くたびにどこからか、ふぅと言う声が漏れる。
 お互いがしっかりと仕事をしているからだ。
 休憩室では出番待ちの志羽・武流(fa0669)が黒い衣装を着て座っていた。
「おつかれさまです。よかったですよ」
「志羽様、ありがとうございます」
 紗那が答える。
「ああ、おつかれ」
 蒼も答えると、響が言う。
「4人か。ちょうどよかった。今、フルーツゼリー、食べない?」
 テーブルの上には、色とりどりのフルーツが入ったゼリーがあった。
「響からの差し入れだな。うまいぞ?」
「あ、ありがとうございます」
 太ももがきわどい衣装のため、いろいろと気をつけながら座る紗那。
「俺もいいんですか? まだ仕事してないですけど」
 タケルが少し申し訳なさそうにすると、響が笑いながら答える。
「食べちゃだめーって喧嘩するのも大人げないし?」
「あはは。では、ありがたくごちそうになりますね。あれ? 蘇芳さんは?」
「お供えだってさ。そういえば‥‥幽霊のいる場所って気温低くなるって聞いいたけど、この部屋、どうなんだろう?」
 いつの間にいなくなった蒼からの話題が幽霊の話題に変わる。
 響とタケルの会話を聞きながら、身を震わす紗那。
「す、すこし寒くないですか?」
「‥‥じゃあ、やっぱり」
 紗那の言葉に何かを期待した響。
 しかし、その期待はすぐに裏切られた。
「ああ、冷房がすこし強くなったからな」
 帰ってきた蒼の言葉。
「そうなんですか? どうしてまた?」
 タケルの疑問に答える蒼。
「ウェディングの化粧とか、あまり汗をかいてほしくないそうだ」
「‥‥なるほど」
 どうやら、身を震わせる幽霊は今回も出なさそうである。


●衣装に興味津々
 滝口まあや(fa4032)はうらやましそうに二人を見る。
 二人とは、姉川小紅(fa0262)とトール・エル(fa0406)の二名だ。
「いいなぁ、お二人は。ドレスが着れて」
 衣装の関係上、スーツのため、二人のドレス姿がちょっとうらやましいのだ。
「でも、あたしのドレスは安物なのー」
 ぷぅと頬をふくらませる小紅。
「あら、そうでしたの?」
 トールが驚く。
「うん、ストーリーの関係上、ぼろぼろになるから。見た目は豪華だけど」
 小紅が言いながら、台本を開き、ここと指で指す。
「『堺日向子、動きにくいとスカートの裾を切る』ですか、なるほど」
 覗き込んだあと、頷くタマ。
「切るって縦にですかしら? それとも横に?」
 トールに答える小紅。
「うーん、監督さんからは特に言われてないのよねー。どっちがいいかな?」
「縦のほうが自然な気もしますけど‥‥」
「でも、横に切ったほうが動きやすいわよね‥‥」
「うーーーん」
 三者三様のポーズで思い悩む女優たち。
 そこへ、真っ白に着飾ったマーマレード(fa3180)が入ってきた。
「?? どうしたの?」
「ちょっと考え事を」
 タマが答える。
「あなたこそ、どうしてここへ?」
 トールの質問に、マレーは手にしていた分厚い本をタマに手渡しながら答えた。
「これ、渡してくれってね。頼まれていたドレスのカタログだってさ。プライベートで着るの?」
「わぁ、ありがとうございます。‥‥いえ、そういうわけではないのですが‥‥うわー、これ、きれいー」
 礼を言うが早いか、開いたページに感嘆の声を上げるタマ。
「え? どれどれ? 見たいー」
「ちょっと小紅さん、顔を出しすぎですわ。わたくしが見えなくってよ」
 先ほどの悩みなんてなかったかのように、ドレスカタログを見る三人。
 そんな三人を見ながらマレーは頭に手をやる。
「ついでに、出番の準備をしておいてくれって言われてたんだけど‥‥これは聞こえてないかな」


●6月の花嫁ドラマSP
 『対外部』の一行が向かった先では、厳かに式が行われていた。
 外からの侵入者が来ないように監視しているはず矢島と杉田、そして明智を除いた6人は式に参列する手はずだ。
 先に入った新坂兄弟と楊が式の様子に絶句する。
 三人は、程度の差こそあれ場違い風の服装ではあるものの、咎める人はいない。
 なぜならば、他の参列者たちもそれなりに場違いの服装だからだ。
 ミイラが居たと思えば、端の方にはゾンビもいる。
 濡れた浴衣を着た幽霊もいた。
「結婚式って‥‥おいしいもの沢山食べれるところだよね?」
 残念そうに言う蓮に亮が答える。
「残念だったな。でも、仕事が終われば食事にいけるから、な」
「‥‥うん」
 そこへ、霊幻導師風の楊が近づいてくる。
「あのー、先輩たち、知りませんかー?」
「え? いないの?」

「おーっほっほっほ」
 末席からの高笑い。
 厳かな雰囲気ぶちこわしたのは、ど派手なドレスを着た小宮山えりだ。
 その横には、純白のドレスに身を包んだ堺日向子の姿もあった。
 日向子は、携帯電話をかけながら、明らかに慣れてない風に、てゆーかぁ、と大声で言いながらの登場だ。
 二人の登場に頭を抱える先に潜入していた三人。
「不合格だわ」
 崩れ落ちる日向子。
「‥‥どうされましたの?」
「参列者‥‥いい男ゼロ! 幽霊ばっかりだって判ってても、つい花婿の友達に期待していた自分が憎い‥!」

 こんな事がありながらも、粛々と進行していく式。
 ある意味恐ろしくもある。
 しかし、誓いの言葉の時に事件は起こった。
 ガシャーーーーーーーーーーン。
 中央のステンドグラスをぶち破って登場したのは、明智ピート!
「待ちたまえ! そこのレディ。私との愛を忘れたか!」
 破れた窓から見える空からヘリが去っていく。
 びしっとポーズを決めた明智。
「‥‥どなたですか?」
 しかし、花嫁に軽やかにスルーされてしまう。
 それを見た日向子が携帯に向かって叫んだ。
「ピートの馬鹿が、変なことしてるー。こうなったら乱戦よ! 春子ももう来ちゃいなさい!」
 言いながら、動きにくい! とドレススカートの半分を破り捨てる。
「こうなったら、やるしかないですわね。だいたい幽霊のくせにウェディングドレスなど、生意気ですわよ。あなたには地獄でこのゾンビと式をあげるのがお似合いですわ」
 地面に魔法陣を描きだす小宮山。
「結局こうなったか」
 頭を抱える兄に、悟った顔の弟が肩を叩く。
「まぁ、結局退治するんだしさ。じゃいただきます」
 早速除霊のために前に出る蓮。
 慌てて、札で援護する亮。
「本当なら、話し合いで解決できればよかったのですが」
 言いながら楊も札を構える。
 除霊が始まり、式はめちゃくちゃ、大乱闘。
 そこへ登場するのは真打ちの杉田と矢島の二人。
 二人だけは普段の仕事着で、杉田は針で、矢島は札で、霊たちを駆逐していく。
「『対外部』に喧嘩売るなんて、楽に成仏できると思わないことね!」
「そうですわ、だいたい、そんな格好、わたくし達、ウェディングドレスを着れない者にとってはあてつけですわ!」
 杉田の言葉に、遠くからの小宮山の同意。

 明智は華麗に避けることに専念しているし、日向子はどっせい! と霊をぶん殴っている。
 小宮山はゾンビを召還し、敵味方入り乱れてのゾンビでどれが味方か端から見ていると全くわからない。
 杉田は、新郎を除霊した後、新婦と息が詰まるようなバトルを繰り広げていた。
 当然、内装はぼろぼろだ。
 他の人間たちはあっけにとられもう隅で見ているだけだ。
「悪いが、逃げられても困るからな」
 言いながら亮が結界を張り、戻ってくる。
「おかえりなさい」
 これは楊。
「おかえり。‥‥でもさ、これって悪者みたいだよね」
 しんみりという蓮。
 蓮の言葉に亮が答える。
「‥‥大丈夫だ。あの言葉があれば、なんとかなる」
 この時ちょうど杉田が新婦を除霊した。
「あの言葉?」
 蓮の疑問に、今度は矢島が答えた。
「あの二人‥あの世で結婚式をやり直せたらいいですね‥‥」
「‥‥無理矢理いい話にしてませんか?」
 楊のつっこみに、誰も答えなかった。
 教会の割れた窓から朝日が昇ろうとしていた。


スタッフロール(抜粋)
新坂 亮‥‥‥蘇芳蒼緋
新坂 蓮‥‥‥玖條 響
杉田春子‥‥‥滝口まあや
堺日向子‥‥‥姉川小紅
小宮山えり‥‥トール・エル
楊 麗華‥‥‥結城 那
矢島 新‥‥‥志羽・武流
明智ピート‥‥マーマレード