魂を響かせろ!最終改装アジア・オセアニア

種類 ショート
担当 うのじ
芸能 2Lv以上
獣人 1Lv以上
難度 難しい
報酬 3.9万円
参加人数 8人
サポート 0人
期間 08/12〜08/16

●本文

 『Battle the Rock』。
 深夜枠の音楽番組の割には視聴率が良かったこの番組が終了することが会議で決定した。
 スポンサーからは惜しまれる声はあったものの、終了の決定の決め手は『役目が終わった』という事だった。
 終了の知らせが届いたとき、スタッフの間で多少騒ぎになったが、時が経つにつれ、それぞれの仕事で忙しいのもあり、事態を受け止めはじめた。
「この番組の役目ってなんだったんですか?」
 スタッフが番組のプロデューサーの望月に尋ねた。
「新しいロック界のアーティストを発掘すること、それが、この番組の役目だったんだよ」
 そう言った後、この番組に登場したアーティストたちを語り出していく望月。
 それを聞き、スタッフは納得した。
 たしかに、アーティストの発掘は成し得た、と言うことを。 
 しかし、スタッフが納得したのには理由があった。
 いきなり終了になるというわけではなく、これから、ラストスパートとして最後の舞台作りをし、番組を続けるという条件があったからだ。


 『Battle the Rock』の最後の製作会議が開かれた
「今回が最後の改装になると思うんだけど」
「思うって? 最後にならない可能性もあるの?」
「99%は最後だけど、1%は分からないかな。スポンサーの問題もあるし」
「ああ、何が起こるか分からない、か」
 脱線し始めた会議を、望月が軌道修正する。
「最後ということで、舞台イメージに関しては、すべて任せようと思ってるんだ」
「え?」
「今まで、いろいろ注文をつけていて、最初はストリート風の舞台、次は倉庫街、そして、今はビル風。それぞれにすばらしい物ができたからね、今回は自由に良い物を作ってもらいたい」
「‥‥自由か‥‥、自由って逆に難しいかもしれないけど‥‥」
 スタッフのつぶやきに望月が反応する。
「‥‥たしかに難しいかもしれない。じゃあ、こうしよう。意見を募ってみて、無いようだったら、原点回帰ということで、最初のストリート風の舞台を再現してもらう。これでどうかな?」
 その後、会議はまとまり、スタッフの募集が始まった。

●今回の参加者

 fa0388 有珠・円(34歳・♂・牛)
 fa0431 ヘヴィ・ヴァレン(29歳・♂・竜)
 fa0629 トシハキク(18歳・♂・熊)
 fa0833 黒澤鉄平(38歳・♂・トカゲ)
 fa1816 館林 隼人(28歳・♂・トカゲ)
 fa2544 ダミアン・カルマ(25歳・♂・トカゲ)
 fa3917 多々納義昭(45歳・♂・亀)
 fa4044 犬神 一子(39歳・♂・犬)

●リプレイ本文

●始まりは挨拶から
「おはようございます」
 この業界ではいつも聞かれる挨拶だが、やはり、本当の朝に聞こえると気分がいいものようで、返ってくる返事もどこか爽やかさを感じる。
「おはようございます」
 番組の指揮者である望月の挨拶に、ダミアン・カルマ(fa2544)が応えた。
「ダミアンさんだよね? 今回はよろしく。あれ? 釣り帰り?」
 望月がダミアンの肩に掛かったクーラーボックスに目をやる。
「いえ、これは」
 ダミアンは、言いながら、箱を地面に置き、蓋を開ける。
 漂ってくる冷たい空気。
 中にはよく冷やされたドリンクや氷が入っていた。
「暑いですからね。なかなか休憩所にも行けないこともあるでしょうし。みんなで飲めればと」
「なるほど! 賢い! さっそく、僕も一本いただこう」
「‥‥え?」
 さっそく手を伸ばす望月にあっけにとられるダミアン。
 そこへ、他のスタッフもやってきた。
「おはよう」
「おはようございます」
「ああ、おはよう」
 それぞれの挨拶。
「よぉ、おはよう」
 その中の一人、黒澤鉄平(fa0833)が、クーラーボックスを囲む二人に声をかけた。
「あ、大将、おはようございます」
 手にスポーツドリンクのペットボトルを持ちながら、ぺこりと頭を下げる望月。
 それに習いダミアンも頭を下げる。
「おいおい、天辺が頭下げてくれるなよ。まぁ、ラストスパートで駆け抜けるに相応しい舞台を用意してやるから、安心しな」
 苦笑しながら黒鉄が言う。
 三人集まると人は集まるもので、何故かここが集合場所のようになってくる。
「今回初参加だ。最後だけ参加ってのも何だが、まぁ一つ宜しくな」
 その中で、自己紹介をした 館林 隼人(fa1816)。
 なかなか態度の大きいアシスタントディレクターで、周りが驚く中、トシハキク(fa0629)が続けた。
「俺は、四度目。と言うか、最初から最後までってことになったな。感慨深いが、‥‥今回の仕事は仕事として全力を尽くすぜ」
 よろしく、とジス。
「館林さんもトシハキクさんもよろしくお願いしますね」
 望月が返事をしながら、それにしても、と、続ける。
「トシハキクさんには、お世話になりっぱなしですね。最初の頃には考えられないくらい、名を馳せている、と言うか、いろいろ噂を聞きます」
「そうかな? でも、俺も、この番組から舞台づくりの基礎をいろいろ学んできたからな。‥‥とうとうこれが最後の舞台づくりかと思うとな‥‥」
 想い出話に花が咲く前に、ストップが入った。
「ほらほら、周りが困ってるじゃねえか」
 ヘヴィ・ヴァレン(fa0431)。彼もまた、この企画に長く関わった一人だ。
「思い出話は後にしてよ、やることやろうぜ。どうせ、この仕事が終わったら、もう一つ思い出が増えるんだからな」
 ジスが応える。
「そうだな。よし、みんなが全力で仕事をして、最高の戦いの舞台を用意するぜ」


●始まりはパペットから
 テーブルを挟んで、向かい合うソファー。
 ソファーには望月、多々納義昭(fa3917)、犬神 一子(fa4044)、有珠・円(fa0388)、そしてダミアンが座っていた。
 テーブルの上にはノートパソコン。
 他のメンバーは今の舞台に手を入れ始めていたおり、ここではオープニングシーンを話し合っているところだった。
「『最初の舞台、金網の「檻」を破って走り出すトレーラー。寝静まるビルの街を抜け、トレーラーは元の街へ帰ってくる』というイメージで。ですから、これまでのステージの流れを盛り込む感じで、走馬燈みたいに‥‥」
 アリスの言葉をうんうんと頷きながら聞く望月。
「となると、やっぱり、CGになるのかな?」
「例えば、トンネルの中の壁とかに、今までの参加したパフォーマーたちが映ったりしたりするといいかなって思うんですよ」
「それだと、フルCGだと、違和感がありそうだね。前回のアニメ調も悪くなかったんだけど」
「うーん。‥‥ジオラマをつかったりして、所々実写を混ぜる感じかな」
「ジオラマ?」
 アリスの言葉に反応する望月。
「はい、ジオラマ」
「‥‥‥じゃあ、パペットアニメにするのはどうかな? それで、トンネル内の壁とかには、映像を使う感じで」
「パペット?」
 ここまではアリスと望月の二人が話しているだけだったが、わんこが尋ねた。
「そう。パペット。あの、カクカク動くヤツ。時間がかかりすぎるかな?」
「作るジオラマの数によるじゃろうけど‥‥」
 答えるよっさんに、笑顔で言う望月。
「大丈夫。ジオラマは二つ、用意できてるから」
「え? もう?」
「一回目と2回目のジオラマは用意できてるんだ」
 アリスが気がついたように反応した。
「それって‥‥‥」
「うん。前にもらったやつ。だから前回の舞台のジオラマがあれば走馬燈は作れると思うんだ」
 立ち上がり、奥からごそごそと、ジオラマを持ってくる望月。
 それを見て、アリスは笑った。
「わかった。やってみるよ。でもパペットとなると、司会者の二人の衣装も決めておかないと、早めにだめだね。撮影に時間がかかるから」
 衣装か、と息をつく一同。
 決めなくてはいけないことがまた一つ増えたのだ。
「衣装なんだけど」
「衣装なんじゃが」
 アリスとよっさんの言葉が重なった。
 アリスがよっさんに先を促す。
「‥‥うむ、衣装なんじゃが、今流行のチョイ悪系のファッションでいくのはどうじゃろ?」
「チョイ悪系‥‥なるほど。確かに司会の二人も若いわけではないですし‥‥‥」
 頷いている望月の変わりに、わんこが言う。
「‥‥言いかけていたみたいだが」
「いや、ゴージャスにするのが良いと思ったけど、チョイ悪系もいいかもしれない」
 アリスがイメージを想像しながら言った。
「まぁ、そこらへんは、どっちにするかお任せしてもいいじゃろ。わしは言われた物は作るでな」
 よっさんの言葉にわんこが同意する。
「それに関しては俺もだな」
 少し悩んだあと、望月が言った。
「そうですね。衣装に関しては、チョイ悪オヤジで行きましょう。オヤジって言うと司会者の二人に怒られそうですけど」
 望月の決定を受け、わんことよっさんが、もう話すことは終わったと立ち上がる。
「じゃあ、俺は舞台の方を手伝いに行くからよ」
「ふむ、わしもじゃ。舞台セットの話し合いは舞台側でするんじゃろ? 先に行ってるわ」
 二人が出て行くと、じゃあ僕も、と望月も腰を上げた。
「‥‥あの、僕は?」
 今まで何も言わなかったダミアンの一言。
「ふふふ」
 不敵な笑いのアリス。
「さぁ、一緒に作ろうか。やることは一杯だぞぉ」
 妙に明るく誘うアリス。
 後ずさりするダミアン。
 しかし、出口への道は図らずも望月が障害物になっていた。
 アリスは簡単にダミアンを捕まえると、引っ張っていく。
「OPは任せておいて。悔いの残らない仕事をするつもりだから」
「はい、よろしくお願いします」
 道を開けた望月は、目の前を通っていくアリスと引きずられるダミアンを見ながら頭を下げた。


●始まりは舞台から
 夜空をイメージした舞台装置。
 隼人の提案で、ただ光らせるではなく、そこに文字を表示出来るようにしたかった。
「流星のディスプレイの位置、もうちょっとずらせないか?」
 隼人が言うと、ふむと言いながら作業をするよっさん。
 そんな二人に、ドリンクの差し入れがあった。
 プロデューサーの望月が持ってきた‥‥とはいえ、もともとは、誰かがクーラーボックスに入れた物だが。
「おつかれさまです。二人とも、ちゃんと休んでくださいね」
 そう言うと、望月は二人にドリンクを手渡す。

 一方舞台の方は、順調に進んでいた。
 昔の映像を見ながら、再現するところは再現し、変更するところは変更する。
「これ、前の舞台に使ってたヤツらしいけど、舞台の隅に置けねえかな?」
 言いながら、ビルの破片を舞台の隅に置くわんこ。
「おい、みんなちょっと来てくれ」
 黒鉄が集合をかける。
「せっかくだからよ、俺たちの名前も書いておかないか? 記念によ」
 イタズラ心にニヤリと笑う黒鉄。
 他のスタッフも大乗でサインをスプレーしていく。
「犬神、せっかくだから空をいじってるやつらも呼んできてくれないか?」
 黒鉄の言葉に、了解と、呼びに行くわんこ。
 わんこが返ってくると、今までは歴代のアーティストの落書きしかなかった壁に、様々な落書きが増えていた。
 苦笑しながらスプレーを受け取り、名前を吹き付けるわんこ、隼人、よっさんたち。
 うらやましそうにしている望月に、ジスがスプレーを渡す。
「いいんですか?」
「もちろん」
 ジスは頷く。
「ありがとうございます」
 嬉々として名前を書く望月に気がついたヘヴィが言う。
「おいおい、あんたが書くのは名前だけじゃないだろ。せっかくだし、大きく書いてみろよ、番組タイトル」
「えー? そんな、大それた事!」
 わいわいがやがやと進む落書きタイム。
 別室で作業していたアリスとダミアンも呼び出され、壁に落書きをさせられた。

 作業の中での休憩タイムのような一時が終わり、それぞれが持ち場に戻る。
「あ、望月」
 望月を呼び止めるヘヴィ。
「はい?」
「この前に言われたこの後の打ち上げパーティーなんだが、とりあえず、決めてきた」
 一枚の店のパンフレットを渡すヘヴィ。
「ああ、このお店ですか。いい趣味ですね。ありがとうございます。楽しみにです」
「じゃあここで大丈夫だな。まったく、いつの間にか人使いが荒くなったもんだぜ」
 苦笑するヘヴィに、はははと頭を下げる望月。
「低姿勢な所は変わってないのにな」
 そう言い、歩き出すヘヴィを引き留める望月。
「ん?」
「あ、パーティーなんですが、有珠さんとダミアンさんのステージのミニチュア。撮影が済んだら、それを使ってかっこよく飾ってもらえないかと」
「‥‥‥」
「?」
「無茶な要望を言うところも変わってないのな」
 そう言い、ヘヴィはもう一度苦笑した。


●始まりはここから
 網のフェンスで遮られたステージ。
 そこに、いくつものアーティストたちが、一瞬ずつ、煌めき、浮かび上がる。
 その後、先ほどまでステージだったフェンスの向こうから一台のトレーラーが走ってくる。
 トレーラーはブレーキを知らないのか、そのままフェンスを突き破り、走り去る。
 トレーラーの行き先を追うカメラ。
 トレーラーは古びた倉庫街を走る。
 倉庫の壁に浮かんでは消えるアーティストたちの姿。
 倉庫街を抜け、街に戻ってくるトレーラー。
 トレーラーの横にリムジンが並び、併走する。
 街灯が過ぎゆくごとに、浮かぶ姿は、またもやアーティスト達。
 上空にはヘリが飛び、眼下の2台の行き先を明るく照らす。
 ギターと剣のエンブレムが描かれたひときわ大きなビルを通り抜ける。
 いつの間にか、その道を走っているのはトレーラーだけになっていた。
 キキーッ! そんな音が聞こえるぐらいの車体を横にしての急ブレーキ。
 止まった場所は、スタート地点。
 網のフェンスは破られたままだ。
 トレーラーの運転席のドアが開くと、二人の男性が下りてきた。
 二人は自らが開けたフェンスの穴を覗き込むと、ヒョイとくぐり、舞台に向き直った。
 ここで、ディスプレイが青くなる。
 パペットアニメが終わったのだ。
 ワンテンポ置いてから起こる拍手。

 オープニングムービーを映していたディスプレイを消した後、今度は舞台の照明が点けられる。
 網のフェンスは大きな穴が空いているものの、そこは、懐かしいストリート風のステージ。
 所かしこにイタズラ書きがしてあり、薄暗い夜の照明のせいもあってか、混沌とした雰囲気を感じる。
 薄暗い中に輝く星々。
「勝利が決定しました」
 誰かの合図によって、今度は明るくなるステージ。
 夜明けを見事に再現していた。

 すべての動作を確認した後、皆が一同に集まる。
「さて、俺たちは、最後に駆け抜けるステージを、全力で作ったつもりだ」
 黒鉄が言うと、皆が頷いた。
 そして、それ以上は言わなくても通じていた。
「はい。分かりました。気持ちに答えられるように、全力で番組を作ります!」
 高らかに宣言する望月。
 沸き上がる拍手。
 拍手が収まるのを待ってから、ヘヴィが言う。
「さて、みんな! 打ち上げの準備だが、もうできてるぞ!」
 またも拍手。
 一段落したという安堵感、完成した喜び、終わるという寂しさ、やり遂げたという誇り。
 それぞれが混ざり合い、盛り上がる会場。
 それは、打ち上げ会場に行っても変わらなかった。