evening partyアジア・オセアニア

種類 ショート
担当 うのじ
芸能 3Lv以上
獣人 1Lv以上
難度 難しい
報酬 8.6万円
参加人数 8人
サポート 0人
期間 10/02〜10/06

●本文

 会議室に向かう廊下。
「ハクション! ‥‥グス‥」
 番組プロデューサーの望月は、くしゃみをした後、虚空を見つめる。
 頭がぽーっとしているようだ。
「‥‥どうしたんですか?」
「うーん、風邪かなぁ。ここのところ、急に冷えてきたからね。気をつけてね」
 自分を棚に上げて、スタッフに注意を促す望月。
「そうですか。てっきり花粉症かと思いました」
「花粉症? 秋なのに?」
「いえ、秋にも花粉症ってあるんですよ? 俺の妹がそれで大変で。望月さんもてっきり同じかと」
「‥‥今度こそ、花粉症かもしれない!」
「って、何で喜ぶんですかっ」
 そんな、和やかな会話をしながら歩く二人は、会議室の扉の前にたどり着いた。

「今回のテーマは前にも決まっていたように『夜』ね」
 確認を取る望月の声に、会議室に了解の声が上がる。
「じゃあ、そんな感じで。以上」
「それだけですかっ?!」
「え? あー、どうしよう? 他に決めることあった?」
 いつもにましてぼーっとしている望月がスタッフに突っ込まれながら会議は続いていく。
 次回のテーマが『生命』に決まり、さらにその次の回にまで話が進んでいく。
「‥‥なんだか、望月さんが余計なこと言わない分だけ、早く進みますね?」
「そんなこと言っちゃだめでしょ! 聞こえるわよ」
「‥‥‥聞こえてますよー。まぁ、悲しいですが否定しません。さて、ところで次々回、ちゃんと、自治体と警察の許可とっておいてね。道路の使用は警察だけど、万全を期して」
「はい、わかりました」
「あと」
「はい?」
「秋の味覚が食べたいな。さっき『秋の味覚最高。生きてるってすばらしい』って言ってたやつ」
「‥‥‥‥わかりました」
 そう、次回のテーマの『生命』は、美味しいものを食べると幸せだよね。生きてるってすばらしいよね。というスタッフの発言に端を発しているのだ。

 会議が終わり、望月やそのほかのスタッフ数人が舞台に向かう。
 毎回、多少はセットを変えるため、大道具のスタッフたちが忙しそうに動いていた。
 すれ違うたびに、律儀に頭を下げるスタッフ一同。
 これから、オープニングのテストをするのだ。


 ストリートに広がる青に近い闇。
 そこに交差する剣の真ん中にギターの番組のシンボルマークが浮かび上がる。
 続いて、いつも通り、「魂を響かせろ! Battle the Rock」の文字が踊り、今回のテーマである「the sound of the night」の文字が並ぶ。
 準備は万端。
 後は、夜のパーティーが開始されるのを待つばかりだ。

●今回の参加者

 fa0034 紅 勇花(17歳・♀・兎)
 fa1376 ラシア・エルミナール(17歳・♀・蝙蝠)
 fa2726 悠奈(18歳・♀・竜)
 fa2837 明石 丹(26歳・♂・狼)
 fa2870 UN(36歳・♂・竜)
 fa3211 スモーキー巻(24歳・♂・亀)
 fa3661 EUREKA(24歳・♀・小鳥)
 fa4557 アレクサンドル(31歳・♂・豹)

●リプレイ本文

●楽屋室閑話
 『flicker様控え室』と書いてある扉の向こう側。
 本番前の一時、メンバーが精神を集中している、と思いきや、その中は意外にも大騒ぎだった。
「いや、ちょっと! 無理だって。アタシにはそういうの」
 ガタリと椅子と共に後ろに逃げようとするラシア・エルミナール(fa1376)。
「‥‥逃げちゃダメよ、ラシアさん」
 んふふと、化粧道具を持ったEUREKA(fa3661)がラシアに迫る。
「きゃー」
 ラシアの悲鳴が響き渡った。

 トントン。
 ドアがノックされ、ノブが回される。
「やっほー。遊びに来たよー」
 開かれたドアからやってきたのは、手を振りながらの悠奈(fa2726)。
 入ってきたユーナは、中でゆーりに組み付かれているラシアと目があった。
「‥‥」
 ぱたり。
 閉められた扉。
「どうしたのだ?」
 一緒に来ていたアレクサンドル(fa4557)がユーナに尋ねる。
「えーと‥‥なんだかお楽しみ中だったみたい?」
 しどろもどろなユーナの台詞に扉が開かれる。
「違うから!」
 もう一度ラシアの声が響いた。

「お化粧ぐらい、ステージに上がるときは毎回してるのに」
 ため息をつくゆーり。
「いや、そうなんだけどさ。女の子らしい化粧ってちょっと」
 ラシアの答えに、不満の声をあげるユーナ。
「とっても似合うと思いますよー」
 もちろんユーナは、用意されたお菓子をぱくつき、きちんとお茶を飲んでから口を開いていた。
「その通りですな。しかし、緊張しているとうまく行くものも行きません。ここは私が気を引きますので、その間にゆーり殿が気がつかれぬようにお化粧を施すのはいかがでしょう?」
 そう言い立ち上がるノワール。
「わかった。がんばってみるわ」
 乗り気のゆーり。
「では、お時間を拝借いたします」
 被っていたシルクハットを取り、お辞儀をするノワール。
「著名なるバンドの方々と仕事をご一緒できて光栄です。ご挨拶代わりに、麗しきレディに贈り物を‥‥」
 おおーと感嘆の声を上げるギャラリーのラシアとユーナ。
 この隙に、と化粧道具を持つゆーり。
 しかし、拍手をしたり、笑ったり、頷いたりと、観客はじっとしてはいなかった。
 と言うわけで‥‥化粧は一度洗い流すことになったのだった。


●オープニング
 ステージの上に降り立つ、いつもの司会者の二人が、いつものようにマイクを持ち、語り始める。
「ここ、ストリートで繰り広げられるミュージシャンたちのサバイバルゲーム」
「今日のテーマは、『夜』! 全てを包み込む漆黒の闇の先にある一筋の光。それを手にするのは一体誰なのか」
「今日、登場してくれるミュージシャンはこの6組!」

 最初に登場したのは紅 勇花(fa0034)だ。
 薄手の黒のロングコートをはためかしながら、勇花は、クールにステップを踏んだ。
「漆黒の衣装に身を包んだ麗人はギタリスト、紅勇花!」

「白の悪魔と黒の天使。『flicker』からデュオが登場!」
 半獣化して翼の生えているラシアとゆーり。
 なるべくそれらを動かさないように気をつけながら、二人は一歩前に進み、観客の声援に応えた。

 次にスポットライトが当たったのは明石 丹(fa2837)だ。
 今までの二組とは違い、スタイリッシュながらも、街も問題なく歩けるノースリーブにデニムパンツという姿のマコト。
「明石丹! 爽やかなイメージの強い彼が、夜というテーマをどう歌い上げるのか!?」

「新メンバーの加入のお披露目の今夜、最高の門出を迎えるのか! 『BLUE−M』!」
 新メンバーのノワールはあくまで紳士に観客に一礼をする。
 その横で笑顔で手を振るユーナ。

 UN(fa2870)にスポットが当たる。
「力強く響き渡る歌唱力、UN! 洗練された大人の男が持つ魅力を十分に味わい知れ!」
 コールに苦笑しながらもアンは一歩前に進み、軽く手を挙げた。

 続いて、スモーキー巻(fa3211)の番になった。
「最後に登場するのはミュージシャンとしてのスモーキー巻だ! 彼は並のアーティスト顔負けの実力を持っているから要チェックだ!」

 全ての紹介が終わると、カメラは司会の二人に戻った。
 司会者が、番組の開始を宣言する。
「それでは、『Battle the Rock』。スタート!」


●紅勇花
「紅勇花。『真夜宴−the Midnight Carnival−』」
 勇ましく歩いて登場した勇花。
 勇花は大きく息を吸い、気合いの入った演奏を始めた。

ネオンの光誘う闇色の夢、それは甘い甘い現実
欲望は肯定される、真夜の名の下に

ヴェルヴェットの風を纏い 濡れた瞳のマドンナが行く
カオスの窯は燃え沸き立ち 今宵も宴の幕が開く!

 そしてサビに、ギターの独奏に続いていく。
 真っ暗な闇に踊る色とりどりの光。
 浮かび上がる真っ赤なギター。
 勇花は、抱きかかえるかのようにして、ギターを鳴り響かせる。

ココロを−解き放つ、刹那に
理屈もルールも捨て去り 今は奔る想いのままに!
カラダを−熱く濡らす、輪舞曲(ロンド)
踊れ、暗き楽園の果てで

 ギャゥン! とギターの旋律が止まる。
 止まったはずの音がどこからか聞こえるかのような余韻を残して、照明が消えていった。


●flicker
「flicker。『Nightmare』」
 楽屋での騒ぎを感じさせないクールに登場した白い悪魔ラシアと黒い天使ゆーり。
 淡いスポットライトに照らされた二人。
 ラシアの歌声と共に徐々に舞台が蒼色に染まる。

明けぬ夜はない でも暮れぬ昼もない
暁告げる鐘が鳴り アナタが現に逃げても
今夜も待ってる 夜の静寂のLabyrinth

 ユーリの指がキーボードを踊り、ラシアのマイクに手を伸ばした。

愛しくて恋しくて 狂おしいほど募る想い
魔性の月が ワタシ歪める

愛なんていらない そんな欠片じゃ足りない
欲しいのは貴方の全て 絶望さえ残さず

引き裂いて壊したい この腕すり抜けられぬよう
漆黒の夜の檻に アナタ閉じ込め

何だってあげる 望むならこの身変えて
天使にも悪魔にも 無垢な少女にさえ

 赤く染まっていたがまた蒼色に戻る。
 そして、ラシアとユーリの声が重なり合う。
 普段の音楽と歌声と楽器の融和を求める観客たちであったなら卒倒していたかもしれない。
 それほどの圧倒的に完成された音楽性が、キーボードと歌声の融和が客を酔わす。

光と影 表と裏 矛盾なく寄り添う夜
月と闇 罪と罰 深く沈め
全てが崩れ 闇に溶けゆくNightmare

 間奏の間にもテンポが上がっていき、最高潮に達した。

明けぬ夜はない でも暮れぬ昼もない
暁告げる鐘が鳴り アナタが現に逃げても
今夜も待ってる 夜の静寂のLabyrinth


●明石丹
「明石丹。『空夢フィーバー』」
 コールされたマコトは、ステージの中央に立った。
「Are you ready? ノって燃えて弾けて飛んで! 感じろ空夢フィーバー!」
 マコトの声を合図にして、バックの音が弾ける。
 ベースを弾きながらのマコトの歌声がそれに続いた。

ビルの向こう 暗幕で区切られた舞台
鏡の月と小さなイルミネーションが光る

不夜城生まれ 眠らぬ街育ち
夜交ぜ 人は歓声あげて生まれ変わり
誰も 虫の音響く窓など知らない

シーンに応じ カラユメ歌えば
遠い遠い彼方から幾億の時間(とき)超える
あの星は もう流れてしまった lululu

 甘い声のマコトが、ハイテンポに合わせて、大きく声をだし、シャウトする。
 回転する赤い光が、その姿をエキゾチックに映し出す。

毎夜毎夜 何れも劣らぬ豪華キャスト
光の速さでスポットが巡る
テーマは永く変わり無し
遅れずに決めろよ Hey,Mr.Right!

 マコトのシャウトで歌が終了した。


●BLUE−M
 ノワールは、手にしていた深紅の薔薇をマイクに変え、ユーナに手渡す。
 ユーナがそのマイクでMCを始めた。
「BLUE−Mの悠奈です。新メンバーのアレクサンドルさんが加入しての音楽、楽しんで下さい」
 紹介されたノワールはもう一度頭を下げた。

「BLUE−M。『月に願いを』」
 紹介が終わるのを待ってから、曲のコールが入った。
 ゆったりとした木琴の音が、ほのぼのとした空気を演出する。

涙を心に隠して 無理に笑わないで

闇の中で膝を抱えている貴方
ねえ 顔をあげて

 ユーナの歌声に合わせるように、ノワールは木琴と鉄琴の音を使い分けていた。
 しかし、忙しい中にも、客を軽くどよめかせるパフォーマンスは忘れないノワール。

夜空には 月が輝き星が瞬く
どんな闇にも負けない光があるの

悲しみも 苦しみも 
夜の闇に 置いてきて
涙が 月明かりに溶けてゆく

明日は 笑顔が戻るように
月の光に願いをこめて
私の祈りが届きますように

 所々に音色を、そして無音を使い分けた二人は、最後もアコースティックギターと木琴の音色を使いこなした。
 その余韻に乗るように、舞台の照明と共にユーナの声が徐々に小さくなりながら響いていった。


●UN
 アンの控え室のドアがノックされる。
「鍵は開いてるぞ」
 アンの答えに応じて扉を開いたのはマコトだった。
「演奏、観てたぞ。すごかった。腕を上げたな」
 アンが控え室の隅にあるディスプレイを指しながら言う。
「そう? そう言ってもらえるとうれしいな」
 素直に喜ぶマコトにアンが言う。
「せっかく来たんだ。少し休んでいけ。あいにく茶も菓子もないが」
「お茶なら控え室に用意されてるから大丈夫」
「そう言われるとそうだな」
 マコトのポジティブシンキングに頷くアン。
 マコトが茶を入れながら言う。
「そう言えば、最初参加したときはアンと組んでたんだよね」
「ああ、そうだったな。今回は別になったが、また一緒にやれる時も来るだろう。同じ事務所だしな」
「うん。そうだね」
 しばらく無言でお茶を飲む二人。
 そして、アンが立ち上がる。
「そろそろ、俺の番だな。行ってくる。ここに居てて構わないぞ」
「わかった。行ってらっしゃい。がんばってきてね」
 マコトの言葉を背中に受け、ああ、と振り向かないまま手を振り、アンは部屋を出て行った。

「UN。『Small hours of the morning』」
 黒のレザーに身を包んだアンが舞台に登場した。
 ドラムのリズムが鳴る。
 ハイテンポ気味なジャズの様なの旋律に合わせて、アンの歌声が響く。

試すのと誤魔化しが御得意様
手の届く場所だけ 僅か照らせば
安っぽい明かり弾くグラス通し世界を見る
闇に沈む輪郭 水滴の向こう
歪んだ視界で君の微笑だけがキレイ

今宵かぎり
朝が来るまでは嘘のない これが真実

東の窓がリセット告げる頃
夢も氷も微睡みに溶けてしまった

 体の芯に響くようなアンの声に、ベースの身体の表面を揺さぶる音色。
 その余韻を残したまま、舞台は暗くなっていった。


●スモーキー巻
「『夜を越えて』ですか。いい歌ですね」
 スモーキー巻の控え室から、二人のプロデューサーがでてきた。
 同年代でしかもプロデューサー同士だからと乗り込んできた望月を、スモーキーが快く部屋に入れてくれたのだ。
 色々話した末、そろそろ時間だからと、部屋から出てきたらしい。
「色々、昔のことを考えてしまって」
 スモーキーが照れながら言う。
「なんだかんだ言っても、歌好きなんで、やってみようって」
 苦笑した後、言葉を続けるスモーキー。
「ゼロどころかマイナスのスタートっていう感じですけど」
「そうですか。僕、こういうの好きですよ」
 望月の言葉に、ありがとう、と返事をするスモーキー。
「がんばってください」
 そう言い二人は別れた。
 一人はステージへ、一人はステージの裏側へ。

「スモーキー巻。『Over The Nights』」

 少し手持ちぶさたの様子のスモーキーはマイクを両手にもった。
 そして、曲が始まるのを待つ。
 ドラムとギターの旋律がノスタルジーを醸し出すのを確認して、スモーキーが口を開く。

星空を見上げるたびに 思い出す遠いあの夜
気の合う仲間を集めて バカ騒ぎしたあの頃

今日と同じ明日が 無限に続いているようで
何か変えたくて 掴みたくて どこまでも走り続けた

いつも変わらない夜空を 見上げながら思った
いつかこの夜の向こうで 夢を掴んでみせると
今も変わらない夜空を 見上げるたびに思う
いくつもの夜を越えても あの日の夢はまだ遠く

 大きく上を向き、一瞬目を閉じた後、スモーキーは自らの手とマイクを見つめながら、想いを歌った。

走り続ける僕はまだ あの日見た夢の途中


●エンディング
 6組の演奏が終わり、再び、司会者の二人組が登場する。
 いつもどおり、投票が促される。。
「それでは、『judge』。スタート!」
 観客たちが各自の持っている10枚のコインが、各ミュージシャンに届けと、薄暗い舞台に光となって降り注ぐ。
 投票が終わり、しばらくすると、今まで暗かった舞台が、まるで日が昇るかのように赤く染まる。

 油断すると嫌な事ばかり浮かんでくる。
 歌声は負けていた気がした。
 夜の闇だって、上手く利用した人がいた。
「ダメだね。ネガティブシンキングは」
 そう独り言を言うと、鏡を見ながら苦笑する。
 自然と小さく声が出た。
「‥‥にいさ‥‥」
 深く目を閉じる。
 決して自分に自信がないわけではない。
 自らの歌う姿に魅了した観客だって居たはずだ。
 勝てるなら僅差。
 いや、僅差で勝てるはず!
 目を開くと顔はもう前を見据えていた。
 その時、ドアがノックされた。

 夜明けに発ったのは『紅勇花』だった。
 黒いコートに赤いギターを持った勇花が、再びステージに上る。
 そして、演奏される『真夜宴−the Midnight Carnival−』。

ココロを−解き放つ、刹那に
理屈もルールも捨て去り 今は奔る想いのままに!
カラダを−熱く濡らす、輪舞曲(ロンド)
踊れ、暗き楽園の果てで

 歌う映像に被るようにエンドロールが流れ、番組は終了した。