over soulアジア・オセアニア

種類 ショート
担当 うのじ
芸能 3Lv以上
獣人 1Lv以上
難度 難しい
報酬 10.4万円
参加人数 8人
サポート 0人
期間 10/30〜11/03

●本文

「ここで本当にやるのかぁ」
 ウキウキした遠足前の子供の様な声。
 音楽番組『Battle the Rock』のプロデューサー、望月の声である。
 『ここ』と言うのは、とある駅前の普段は普通のストリートとして使われている場所だ。
 今度の番組では舞台に作ったストリートではなく、今度はストリートを舞台にしての番組撮影になのだ。
 各所の許可を取り付けるため、放送される時間は深夜だが、撮影は夕方から行われる事になった。
 とは言え、許可を取り付けたわけで、合法である。
 それでも、普段人通りのある普通の道を占拠するというのは、イケナイ事をしているようで、望月を興奮が包んでいた。
「それにしても、ここじゃ、照明のテクも使いにくいし、音響設備もあまり良くないかな。もろに実力が左右する舞台になっちゃったかも。参加ミュージシャンのみんなにはごまかしがきかない厳しい環境になっちゃったけど‥‥後で謝って許して貰おう」
 本当に悪いと思っているのかどうか怪しいぐらい簡単に割り切った望月に、同伴したスタッフが苦笑する。
「だってさ、もう、後2回なんだし、わがまま言ってもいいかなって」
「まぁ、それもそうですけど‥‥」
「わがままと言えば、最終回、1時間スペシャルにするか、1時間半スペシャルにするか悩んでるんだけど、どっちがいいと思う?」
「いや、僕に聞かれても。いっそ、謝るついでに参加アーティストの方々に聞いてみるのはいかがでしょう?」
「なるほど!」
「そこで納得しないでくださいよ」
 やっぱり苦笑するしかないスタッフだった。
 一同が歩いていると、望月が足を止める。
「あれ?」
「どうかしました?」
 目に止まったのはカボチャのディスプレイ。
「もうこんなの時期か。第一回と同じテーマで『魂』にしたけど、そういうこだわりをしないで仮装ライブにしてもよかったかな」
「アーティストの方々がそう言う衣装をしてくるかもしれませんよ?」
「それはそれでいいんじゃない? 止めないよ。時期もいいし。スタッフも何か仮装しようか?」
「え? するんですか? 今から衣装集めます?」
「さすがに無理かなぁ」
 他愛のない会話をしながら会場予定地を後にする一同。
 今は静かなここが、撮影日には最大の盛り上がりを見せるのだ。


 駅前に何台も車を用意できるわけはなく、近くの駅ビルの空き部屋がスタッフや参加アーティストの仮の楽屋となった。
 しかし、肝心の舞台となるトレーラーだけは別だ。
 これがなければ、何も始まらない。
 そのため、普段は車が入らない場所に大型のトレーラーが乗り込んでいた。
 ここが開くとステージが開始される。
 ストリートを舞台にした戦いが、始まるのだ。

●今回の参加者

 fa0475 LUCIFEL(21歳・♂・狼)
 fa1362 緋桜 美影(25歳・♀・竜)
 fa1744 雛姫(17歳・♀・小鳥)
 fa2608 AKIRA(23歳・♂・蝙蝠)
 fa3596 Tyrantess(14歳・♀・竜)
 fa3661 EUREKA(24歳・♀・小鳥)
 fa4738 MOEGI(9歳・♀・小鳥)
 fa4852 堕姫 ルキ(16歳・♀・鴉)

●リプレイ本文

●撮影前閑話
コンコン、と叩かれる扉。
「どうぞ」
 男の声で、返事があった。
 扉を開いたのは、EUREKA(fa3661)だ。
 扉の中では司会者の二人が着替えをしていた。
「あ、ゆーりだ。おはよーございます」
 司会者の二人のうち、ミイラに扮している背の低いほうが声を掛ける。
「ユーリさん? おはようございます」
 もう片方のほうは、頭に釘を刺しながらの挨拶だ。
「おはようございます。『TRICK or TRAP』と言うことでお菓子を持ってきたから、食べて貰おうとおもって」
「トリップ?」
「おおー! でも、できれば、イタズラの方が‥‥」
 相方の疑問符を全く聞かずに、でもこれはこれで、と言いながら嬉々として袋を受け取るミイラ男。
「いっただっきまーす」
 ミイラ男は言うが早いか、袋を開けクッキーを一つ口の中へ。
 その時、ユーリの目が光った。
「うまうま」
 感想を聞くと、残念そうに目に灯った光が消える。
「あんまり本番前に食べるなよ」
「わかってんよー」
 二人のやりとりを、優しく眺めるゆーり。
「そうよ、そのクッキー、本番が終わってからね。番組に悪影響がでると困るし」
「そうだぞ、今回ライブだから、撮り直しきかないんだからな、トイレとか、だめだぞ」
「うるさいなー。大丈夫だよー」
 
 しばらくして部屋から出てくるユーリ。
 結局、トウガラシ入りクッキーを食べる所を見ることはできなかった。
「うーん、芸人さんなら、あそこで一発で引かないと」
 廊下で首をかしげるゆーりであった。


●オープニング
 駅前の広場に設けられた特設会場。
 二振りの剣とギターが描かれたトレーラーの扉が開かれる。
 即席のステージに勢揃いしている、アーティストたち。
 観客の声援に混じり、司会者の二人が舞台の中央に立つ。
 まず口を開いたのはミイラ男に扮した司会者だ。
「ミュージシャンたちのサバイバルが新たなる戦いの場」
 フランケンシュタイン風の司会者が続く。
「今回のテーマは、『魂』。まさに原点回帰、今までの全ての結晶が、今日のこの晴れた舞台で解き放たれる」
「今日、ここに集ったのは、この5組!」

 一歩進み出たのは、MOEGI(fa4738)。
 小さい彼女を見ると普段より小さめの舞台さえ、やや大きく感じられる。
 堂々と前に進み出たもえぎは、落ち着いた様子でコールを受ける。
「小さいその身体からでる音楽は、まさに大人顔負け。ロッケンローラー! MOEGI!」

 次に紹介されたのは、ゆーり。
「ミュージシャンEUREKAがソロで登場! 天使の歌声が今ここに!」
 胸の前で指を組み、祈るようなユーリにカメラが向けられる。
 そして、瞳を開き、カメラに向かって、値千金の笑み。
 優しげな、それでいてクールな表情に大勢が魅了される。

「エロ可愛い、エロかっこいい、この言葉を体現させたのがこの二人! 『夜魅姫』」
 次に紹介されたのは、堕姫 ルキ(fa4852)、Tyrantess(fa3596)の二人だ。
 路上だと言うのにきわどい衣装の二人は、そのまま妖艶に絡み合う。
 幼い容姿にアンバランスの衣装と動きで観客を魅了する。

 次に登場したのは、緋桜 美影(fa1362)。
 今度は本物の大人の色気を見せつける美影は妖しげに唇を舐める。
「常に高いパフォーマンスを見せる、バトルザロックのクィーン。戦う女王様、緋桜美影!」
 メッシュから見える黒の下着を見せそうで隠しつつ、カメラマンをいじめる。

 最後の登場は三人。
 狼男に青い妖精、吸血鬼と、西洋の怪物に扮しているのはLUCIFEL(fa0475)、雛姫(fa1744)そしてAKIRA(fa2608)だ。
「ハロウィンの衣装に身を包む三人が織りなす最高の宴。『LAH』!」

 全ての紹介が終わり、司会者が開始を宣言した。
「それでは、『Battle the Rock』。スタート!」


●MOEGI
 渇いた口をお湯で湿らす。
 震えている足を軽く叩きながら緊張をほぐす。
「うう、やっぱ緊張するなぁ」
 もえぎが心を落ち着かせる努力をしてると扉がノックされた。
「もう?」
 5分間と言われていたが、5秒しかたっていないと思ったほど、時間が短かった。
 しかし、いざ本番になると、意を決する。
 長く尖った襟をピンと両手で伸ばし、扉を開けて出て行った。

「MOEGI、『Fancy Girl』」
 コールされ、ステージに登場するもえぎ。
 身体の半分ほどもあるほどのエレキギターを大きく天に掲げ、そのまま勢いよく演奏を始める。
 リズミカルに身体が左右に動くような乗りやすいリズムを、ドラムとエレキギターが奏で、もえぎの歌声が加わる。

盛り上がるpartyもそろそろお開き
子供達は家に帰り 大人達は鍵を閉める
ここからが本当の あたし達のHalloween
街を抜け出して夜明けまで騒ごう

まだまだ遊び足りないと heartが催促してる
魂まではじけるよな spicyな毎日がいい でも

お菓子よりもsweetな愛
thrillingにイタズラな恋
あたしにはどっちもまだ少し早いかしら

胸一杯広がるdreaming
止められない気持ちはfreedom
選ぶ先は無限の可能性 Fancy Girl


●EUREKA
「EUREKA、『Lost Angel』」
 翼を生やしたシスター姿のゆーりが、厳かに登場し、シンセサイザーの前に立つ。
 キーボードを一つ押すとそこから響いたのは重厚なパイプオルガンの電子音。 

天地の狭間も朧になる Mysterious Night
胸の隙間 埋めてくれるアナタ探し
舞い降りた狂宴の大地 白い羽根散し

安息だけの世界などイラナイ
凪いだ鼓動は熱を持たない まるで人形
痛みも知らぬ ぬるま湯のParadise
見切りつけてもいいでしょ?

 舞台が徐々に青く染まり、ユーリが投げた十字架がその光を受けながら舞台に落ちる。
 すると舞台の光が徐々に赤く変わっていく。

『イ・キ・テ・イ・ル』
そう感じさせて「My Half−Soul」
『コ・コ・ニ・イ・ル』
感じたら囁いて「Call my name」

満たされぬ楽園を捨てた Lost Angel
祈り歌は 欠けた魂求める
アナタが何者でも構わない
闇の翼 鋭き牙
愚かし人さえ愛しい Half−Soul


●夜魅姫
 着慣れている堕天使風の衣装の最終チェックにはいるルキ。
 衣装の関係上よく翼を出している身としては、翼を偽物に見せるにはなかなかのコツがいるのだ。
「ルーキーさんっ」
 後ろからがばっと抱きしめるタイ。
「きゃ?」
 翼が邪魔してなかなか上手く抱きしめることが出来ない。
「‥‥抱きしめるときに翼は邪魔だな」
「そう思いますけど、どうしたんですか?」
 急に、と言葉を続けるルキ。
「いやいや、困った顔が見れると思って」
「? 驚きはしましたけど」
 首をかしげるルキに今度はタイが困ってしまう。
「ま、ともかく、そろそろ時間だな。俺たちの曲と魅力で、客を骨抜きにしてやろうぜ」
「はい、そうですね」
 ルキとタイがコートを羽織って、扉に向かう。
 この寒さのため、脱ぐのはステージの時なのだ。

「夜魅姫。『Dextathy』」
 漆黒の堕天使と小悪魔の登場。
 タイがまず、自らのギターを軽く抱きしめ、キスをする。
 照明が暗転を繰り返しながら妖しいムードを作り出し、それに合わせたスローテンポでギターのリズムが刻まれる。

Give us your heart&soul‥‥ Give us your heart&soul‥‥

 ルキの声をメインにタイの声が加わる。
 ドキドキ感を煽る照明とリズム。
 光に照らされる、一瞬だけ映る妖艶な二人のポーズ。
 全てが魔性の宴へと誘う。

揺らめく焔に獣が踊る ルナティックな魔性の宴
夜の波動がカラダ疼かせ 甘い泉湧き上がる
揺らめく瞳虚空を惑う エロティックな誘いの色
見初めたアナタにココロ疼かせ 瞬く間に飛んでイく‥‥

「好きなの‥アナタが好きなの、この想いは‥もう、止まらないの‥!」

揺らめく理性定めもさせず ヘレティックな本心隠して
闇に引き込みココロのままに 抱き締め囁きかける

「アナタとワタシ、愛し合いましょう‥このカラダと、ココロの全てで‥」

 一瞬の照明が二人だけを包み、浮かび上がらせ、曲は最高潮へ進んでいく。
 タイのギターとルキの歌声が、高低を付けて共に響きわたる。

堕ちゆくままに‥生まれたままに‥刹那の愛が交わる!

貪りあって、鼓動分け合って、芽を摘み喉を潤して
さぁ、扉を開いて‥奥の奥まで突き進んできて!
全てワタシに委ねて‥白い熱情吐き出して!
アナタの知らない天獄へと

 一瞬止まる音楽。
 そこへ、はっきりと官能的な声が響く。

―イ・カ・セ・テ・ア・ゲ・ル―

 今まで暗かった照明が一瞬だけ光を増し、エンディングを盛り上げた。

「カラダもココロも魂も‥アナタの全て、ワタシだけのモノ‥」


●緋桜美影
 渋い顔をしている美影。
 手にしている缶は炭酸飲料の中ではメジャーとも言えるコーラである。
「なんで、このビルの自販機にはこれしかないかな」
「すいません」
 付き添いのスタッフが頭を下げる。
 不満を言いながらも一口するる美影。
「あーあーあれ? ラーラー」
「え?」
 美影がオペラ歌手のような歌声を披露する。
「やばい、歌声が変わっちゃったみたいだ」
 顔を壁の方へ向け、うなだれる美影。
「ええっ?! すぐに探してきます!」
「‥なーんちゃって、ってあれ?」
 くるりと振り向き、イタズラげに舌を出す美影だが、スタッフの姿が見えない。
「‥まさか、本気にした?」

「緋桜美影。『VOICE』」
 名を呼ばれてダッシュで登場した美影。
 ステージ中央に置かれたマイクを奪うように手に取り、叫ぶように歌う。 

このクソっくだらねぇ世の中 嘆くだけかい?
アンタそんなに上等なのか その足は見掛け倒しなのか
誰もが泣いてるから泣いて 皆笑うから笑って 纏めて流されるまま生きて
それで「タノシクイキテル」つもり? 

轟くさ アスファルトの大地を駆け巡る
世界を震わす この叫び
身体蝕むリセイ叩き割って ホンノウと欲望のままに
打ち鳴らせ 届く限り 生きてる証この叫び

このしみったれた毎日で 満足かい?
アンタそんなに人間出来てるの その腕は何を求めてるの
大人が言う事はそんなに正しいの 皆行くから塾行って 何となくハメを外して
これが「オマエノジンセイ」なのか?

 襟元に両手をかけた美影は、そのままメッシュのインナーを左右に引き裂いた。
 必要のない殻を破り捨て、全てを解き放つかのように。

貫けよ 灰色の空届く限り
きっと響く その叫び
繋ぎ止めるクサリ断ち切って ココロが叫ぶままを
かき鳴らせ 命の限り お前を示す叫び

「オゥアーーーーー」
 美影の叫び声がビリビリと窓ガラスを振るわせ続けた。


●LAH
「LAH。『Midnight Feast』」
 コールされると、どこからともなく響く低い音。
 カラーンコラーンカラーン、と時計の音が響く。

It’s a heaven’s gate?
―No, It’s a hell gate!

 狼男のルシフと妖精のひなの掛け合い。
 吸血鬼のアキラがギターを鳴らせば、ひながタンバリンを揺らす。
 動きを止めないルシフ。
 まるで学芸会のような明るさに、高度な演奏と歌唱力で、会場がぱっと明るくなる。

見えているか? あれが地獄の門
知っているか? この日我らの日

厚い雲が途切れ 月が始まりの鐘を鳴らす
気高い闇を魂に刻め 静寂に包まれた刻は終わりだ

Choice! Choice! Choice!
Treat? It’s insufficient!

 くすくすくすとイタズラに笑う声に続いて、アキラのギターの演奏が入る。

信じるままに 気の向くままに
世界を廻る 魂の叫び

魔女とコウモリ黒猫ゴブリン
幽霊バンシーゾンビに魔神も

笑うなよ人間ども この日我ら死者達の日
許して欲しけりゃ ブツを捧げなその手の全て!

Choice! Choice! Choice!

 ラストの歌声は三人の声が合わさった。

Trick or treat!? It’s a word of magic!
Strike and break the Halloween night!


●エンディング
 5組の全ての演奏が終わり、再び登場したのはミイラ男とフランケンシュタインの司会者の二人。
「それでは、『judge』。スタート!」
 司会者の言葉で、投票が始まる。
 各ミュージシャンの箱の中へ、観客から投げ込まれるコインは待ちの夜の光を受けいつもよりも鈍く光っていた。

「おつかれさまでした」
 ひながマフィンを、テーブルに並べ、紅茶の用意を始める。
 紅茶の心が安らぐ香りが部屋に広がる。
「俺は、コレがないと」
 アキラが簡易冷蔵庫から取り出したのはミルク。
 どうやらミルクティーにするらしい。
「二人とも、のんびりしすぎだぞ?」
 ルシフが言う。
「??」
 ハテナマークを浮かべるひなとアキラ。
「アンコールがあるだろ? それに、勝利の祝福として女神の唇を頂くっていう約束もあるし」
 ピッとひなにウィンクをするルシフ。
「それはそうだな。でも、みんな上手かったからなぁ」
「え? そんな約束した覚えが‥」
「はぁ」
 二人ののんびりにため息をつくルシフ。
「それに果報は寝て待てと‥‥」
 その時、ドアがノックされた。
「『LAH』のみなさん、最後にお願いします」
 扉を開けながらスタッフが言う。
 ほら、という顔をしながら席を立つルシフに、苦笑する二人。
「ミルクティはあとで、だな。行くか!」
「ああ。それと、祝福のキス、忘れるなよ」
 アキラとルシフが、廊下へ向かう。
「あ、待ってください。それにそんな約束‥‥」
 慌てて動き出すひな。
 こうして、三人は再び、ステージに向かった。

 カラーンコラーンカラーン、と時計の音が響く。

It’s a heaven’s gate?
―No, It’s a hell gate!

 再び始まる狼男と妖精の掛け合い。
『LAH』の『Midnight Feast』の演奏が夜のビルに木霊した。