music fever 前半アジア・オセアニア

種類 ショート
担当 うのじ
芸能 3Lv以上
獣人 1Lv以上
難度 難しい
報酬 10.4万円
参加人数 8人
サポート 0人
期間 11/13〜11/17

●本文

 TVから流れてくる声。
「音楽バトル、最終章、ファイナル」
 同じ文章が黒のバックに白の文字で画面に流れる。
「多くの名曲を生んできた、過酷な音楽バトル『Battle the Rock』がついにフィナーレを迎える」
 そして画面に映るのは、今まで登場した様々なアーティスト達。
 チャーミングな女の子とギターを弾く男性。
 夜の貴族、バンパイアな男女。
 白いドレスに身を包んだ女性。
 それぞれに積み重なってきた、長いようで短い歴史。
 それが今に至るまで続いていく。
 次いで、大きく『the music fever』という文字が踊る。
 画面の右下には小さく、『魂を響かせろ! Battle the Rock SP』と書いてある。


 『Battle the Rock』は、音楽番組である。
 しかし、この番組が特殊なのは、番組の最後に観客の投票によって選べれた一曲が、最後にもう一度、このステージで歌うことができるという点だ。
 これはラストの曲を賭けた、アーティストたちによる音楽バトルである。

●今回の参加者

 fa0034 紅 勇花(17歳・♀・兎)
 fa0124 早河恭司(21歳・♂・狼)
 fa0597 仁和 環(27歳・♂・蝙蝠)
 fa2161 棗逢歌(21歳・♂・猫)
 fa2228 当摩 晶(19歳・♀・狼)
 fa2521 明星静香(21歳・♀・蝙蝠)
 fa2778 豊城 胡都(18歳・♂・蝙蝠)
 fa3867 アリエラ(22歳・♀・犬)

●リプレイ本文

●オープニング
 第四部のオープニングムービーが流れる。
 オープニングに合わせて、客席とステージには穴が空いた金網が張られている。
 映像という空想が現実になった舞台。
 それはテレビの中の話で、視聴者から観れば、空想の世界なのかもしれない。
 しかし、その場にいる人にとっては、その空気は忘れられないものとなった。
 照明が輝き『Battle the Rock』の文字がバックスクリーンに広がる。
 『the music fever』これが今回のテーマだ。
 いつもの司会者の二人が登場し、番組がスタートした。
「永遠と心に鳴り響く音がある」
「それぞれがせめぎ合い、お互いと高見へと誘う音がある」
「その最高潮に降り立つ音、そして、奏でるアーティスト!」
「これが、今日登場する、7組のアーティストたちだ!」
 司会者の二人のあおりを受け、登場する出演者達。

 最初に登場したのは紅 勇花(fa0034)だ。
 勇花は、真っ先に登場すると、ステージに向かって駆け出す。
 黒いコートを翻しながら、持っているギターを右上に突き上げた。
「その歌は、進み行く決意。前を見据えるパワーガール! 紅勇花!」

 続いて画面に映ったのはアリエラ(fa3867)。
「心を鼓舞するスウィートボイス。幸せのハイテンション! アリエラ」
 名前を呼ばれ、笑顔で画面に映るアリーだったが、緊張で、停止画像のように固まってしまった。
 やっと動き出して両手を振る。
 手を振る振動で黒い衣装の上で胸元が白い輝きが軽く跳ねた。

「物では満たせない乾き。誰もの心に宿るそれに立ち向かうのは、明星静香」
 明星静香(fa2521)が画面に映る。
 山吹色の大きめのギターを横に立て、きわどく裂かれた白いワンピースとは対照的に、礼儀正しく頭を下げる。
 シズカは自らの紹介が終わると、待っているように、次のグループの紹介に目をやる。

 次に登場したのは、おとぎの国の住民たち。
「それぞれのメンバーの音楽性を、型に填ずにまとめ上げたその歌は、聴く人を不思議な世界へと誘う。音楽集団『蜜月』」
 紹介を受け、前に立っていいたナイト役の早河恭司(fa0124)が横にずれると、堂々と一歩進み出てきたのはお姫様の当摩 晶(fa2228)。
 仁和 環(fa0597)は、6人目のメンバーの写真をもち、一歩間違えればお葬式風の演出になりかねないところを、おめでたく飾る事でクリアし、メンバーの一体感と楽しげな空気を演出する。

 その後も、さらに登場するアーティストたちの紹介が続いていく。
 紹介を観ながら、長靴を履いた猫扮する棗逢歌(fa2161)が横にいるシズカと目と目で会話を始める。
 二人が頷いたり、目を動かしたり等して会話しているところを観ていたアキラは、おもむろに横にいる恭司の顔を見つめる。
 横に立っている騎士は、微動だにせずに騎士になりきっており、視線に全く気がつく様子がない。
 途端に機嫌が悪くなるアキラ。
 それを見ていた兎の豊城 胡都(fa2778)が声に出さずに笑う。
「‥‥‥」
 アキラの無言の抗議に、事は首をすくめた。

 そうこうしているうちに、7組18名、全ての紹介が終わり、司会者が開始を宣言する。
「それでは、『Battle the Rock』。スタート!」


●紅勇花
 最初の歌で準備時間がなかった。
 そのため舞台袖で目を閉じ深呼吸をする勇花。
「紅勇花。『Paradise Lost』」
 コールされた勇花は、力強く、ステージへ向かう。
 舞台の上で堂々と前を向いて立ち、強くギターの音が鳴る。

歩き続けた果てのヴィジョン
荒れ果てた世界の一輪の花
長く遠く、旅路は続く
闇の中を‥‥光に向かって

 勇花の声が熱くなり、それに続いてバックバンドと彼女自身のギターのリズムも激しくなっていった。
 輝きと回転を増していく照明に照らされながら、ステージが燃え上がる。

安寧の日々のピリオド、払い続けた代償
全てを失っても、今でも‥‥輝く何か追い求め‥‥!

遠い日々振り切るように折れた翼を広げ
今は明日の風を破れた翼に受けて
もう二度と戻れない楽園を思い嘆くより
今二人此処にいる真実を抱き守りたい‥‥

 最後に伸びていく声と音色。 
 照明のフェードアウトと同じく、それらも静かに消えていった。


●アリエラ
「アリエラ。『ラッキースター』」
 名前がコールされてステージに上がるアリー。
 しかし、彼女は音楽が始まる前にマイクを握った。
「プロになるって思った切欠がこの番組だったの!」
 彼女の言葉を聞こうと観客席が静まる。
「そんな私も今やリバティの仮入部員? 人生侮れないよね! だから、コレを見てる人も頑張っての気持ちを込めて!」
 大きな歓声を受け、アリーは手にしたエレキギターをかき鳴らす。
 しばらくのギターの音色の後、バックもそれに続き、できあがったアップテンポのノリがいい音に、今度はアリーの歌声が加わる。

キラキラ輝く光の中で 歌う姿に一目惚れ
TVの中で生きてる君は 夜空に輝く一等星
真っ暗な未来に灯りをともした

今日は同じ舞台であたしも歌う
憧れはそのままに
追いつこうと足掻きはじめたから
今は無理でもいつかきっと!

 銀の煌めきがアリーに降り注ぎ、同じく降り注ぐ光に輝きを増すステージ。
 アリーのギターが鳴り響き、曲は最高潮へ向かっていった。

君がそこにいたから あたしは今ここにいる
君はあたしのラッキースター
永遠に輝く一番星!
あたしも何時かはラッキースター
信じて輝け一番星!


●閑話
 歌い終わった勇花は、ゆっくりと控え室への廊下を進む。
 そこへ同じく歌い終わったアリーがステージから降りてきた。
「あ、おつかれさまですー」
「ああ、おつかれさま。聞こえてたよ。よかった」
「ほんとですか? ありがとうございます」
 二人が会話をしながら歩いていると、廊下が分かる。
 二人の控え室は右だが、左に行くと、これからステージの二組の控え室に向かう道。
「挨拶をしようと思ったけど、ステージの後のほうがいいかな」
 そう言う勇花の声を聞いたのか、聞かないのか、アリーが廊下を左へ曲がる。
「なんだか、静香さん、みんなに差し入れのケーキがあるって」
 アリーの言葉を受け、ああ、そうか、と勇花も廊下を左へ曲がった。

 角を曲がれば、明星静香と蜜月の控え室。
 そんなところで二人は曲がり角の影に隠れるかのようにいるアキラに気がついた。
 お姫様スタイルのため、バレバレなのだが、どうやら控え室から見えなければいいらしい。
「どうしたんですか、晶さ‥」
「しっ」
 アリーの台詞を、静かに、しかし強い口調で止めるアキラ。

「じゃあ、静香。がんばってきて」
 明星静香の部屋の扉が開くが、最初に出てきたのはおーかの声で、部屋の主であるシズカの声は次だった。
「ありがとう、がんばってくるわ。後でそっちの楽屋にも遊びに行くから」
「うん、待ってる。うちの部屋が一番広いから、みんなが来るって言ってるからね。遠慮せずにおいでよ」
 『みんなが来る』と言うところで、思わず笑う二人。
「みんなが来ても、僕は静香の横にいるからさ」
「うん」
 無言の後に笑い声、そして話を続けようとするおーかの唇に、シズカの指先が触れ、動きを止める。
「もう行かないと。時間だから」
 そして、その指で自分の唇を軽く触れる。
「優勝の前借り‥‥なんてね、ちょっと唇が渇いちゃっただけよ」
 そう言い、慌てて廊下を進むシズカ。

 さささっと、隠れる影が三つ。
 シズカはあり得ないことにまったく気がつかず、ステージへ向かった。
「‥‥後で来るね」
「‥‥私も」
 特に悪いこともしてないのだが何故か隠れてしまった影BとCの勇花とアリーが言う。
「‥‥」
 同じく影Aであるアキラが無言で了解を伝えた。

 舞台袖に到着するなり壁に向かい、しゃがみ込むシズカ。
「ちょ、ちょっと気障だったかしら‥‥」
 誰にも見えないが顔は真っ赤だ。
 番組司会者の一人がしゃがむシズカに気がつき、相方に言う。
「おい、アレ。大丈夫か、静香。調子が悪いなら‥‥」
「バカ、あれは、ああやって集中力を高めてるんだよ。声かけたりなんかしたら逆に邪魔になるぞ」
「あー、なるほど。気合い入ってんなー」


●明星静香
「明星静香。『砂』」
 ステージに響く秒針の音。
 他の楽器もその後に鳴り響く。
 がなり響くというのではなく、しんみりとした早めの曲調。

薄い光のさす部屋
幸せを分かち合った場所
夢みたいな日が終わるころ
人形のように閉じ込められた

幸せを教えてくれたあなたも
今は悲しみしか与えてくれない 
だから未来(さき)へと行くために
あなたにさよならを告げた

 シズカのギターを弾く腕が止め、何かを抱きしめるように動いた。
 しかしそれは儚く抜け落ちていくかのように、掴みきれていない。
 ギターはバックに任せ、シズカは身体全体で歌を表現していた。

手に入れたものは砂と消え
二人の愛も消え去って行く
幸せはもう蘇らない
決してあの日には戻れない

過去は陽炎 移り消え行く
あの日の思いも 移り消え行く


●蜜月
「今度、三人で漫才しようぜー。音楽漫才ー」
 司会者の二人にあてがわれた楽屋の扉が開き、中から声がした。
 中から出てきたのは司会者のふたりと、これから出番の蜜月のまき。
 今の言葉はまきの三味線を観ながらの台詞だった。
「勘弁してくれ。ボケとかツッコミとかは、俺に合わない」
 苦笑するまきに、漫才を提案した司会者が突っ込む。
「うそつけ。総ツッコミだろ、いまの発言自体が」
「まぁ、純粋なボケとは違う感じだから。転がされる感じで」
 司会者の片方が相方をどうどう、と諫める。
「転がされる‥‥」
 まきの言葉に気がついたように取り繕う。
「あ、いやいや、なんていうか、猫にじゃれつかれる毛糸の玉みたいな感じで」
「あー、わかるわかる」
「‥‥‥俺はよく分からないんだが」
 軽く手を頭にやるまき。
「おっとごめんなさい。本番前だからね。余計なこと考えないで、がんばってきてください!」
「後で、そっちに行くからさー、みんなによろしく」
 笑顔で二人に送り出されるものの、腑に落ちないまきであった。

「ただいま」
 たまが自分たちの控え室に戻ると、他のメンバーは全て揃っていた。
「おかえりなさい。どうでした?」
 声を返す胡都。
「‥‥なぁ、猫にじゃれつかれる毛糸の玉ってどういうイメージだ?」
「‥‥そうですね、もてあそばれるイメージでしょうか。それが?」
「‥‥いや」

 5分もない待ち時間。
 そんな中、アキラが言う。
「ねぇ、キョン」
「どうしたの?」
 恭司が答える。
「‥‥なんだか唇が‥渇いてきちゃったんだけど‥‥」
「エアコンの風、強すぎかな? たしか、ここに‥‥あったあった」
 はい、と笑顔でリップクリームを渡す恭司。
「‥‥」
「?? どうしたの?」
「な、なんでもないわっ。それより、しっかりしてよね。今日はわたしのナイトなんだから」
「わかってるよ。でも今日じゃなくても‥」
 恭司の言葉に、一瞬、アキラの身体がびくりと反応する。
「そ、そうね。今日じゃなくても明‥‥」
「うん。アキはいつもしっかりしてるから、こっちは心配してないよ。大丈夫、アキならちゃんとできる」
 恭司の台詞になぜか蹴りを入れるアキ。
「あー、衣装の鎧に足跡が。誰か、タオル取って」
「ちょっと待ってください。ウェットティッシュがこちらにありますから」
 胡都が苦笑しながら、テーブルの上のウェットティッシュの箱を手に取った。
 足跡も無事に消した後、胡都が自らの衣装の時計の針を確認し、立ち上がる。
「さて、行きましょう」
 
「蜜月。『conte champselysees 〜眠れる森のお姫様〜』」
 お姫様のアキラが王座に、胡都がドラムの席に座る。
 まき、恭司、おーかは、それぞれが手に、楽器を持ち、位置に付く。
 おーかがマイクを取った。
「うつむいてばっかな、Ladies & Gentlemen & The Worlds! セカイはそんなに甘くない。傷つくことだっていっぱいある。だから、僕らは此処にいるんだ!」
 言葉を続けるおーか。
「今宵蜜月が演じるは可憐な乙女の物語。夢見る少女の英雄譚!」
 それを合図に、一連のショートストーリーを思わせる歌が始まった。

深い森の中で、形を変え行く世界を見てた
微睡む空気の檻の中で、形を固めゆく人を見てた
物語の台本通り一糸乱れず戯曲を編む
ここは御伽の眠れる森
わたしは再び眠りにつく

 何もさせてもらえないお姫様。
 舞台は薄暗く、空気もややまどろんでいるかのように色づいていた。

深い森の中で、形を変え行く世界を見てた
劇から外れるのを恐れるセカイ
ガラスの靴が砕けて消えた

 今まで動いたとしても、止められていたお姫様がついに動き出した。
 ガラスの靴が転がり、照明が明るくなる。
 被っていたヴェールが宙を舞った。

rout in this sleeping days!
Bloom in this fuckin’days!!
眠り姫のままじゃいられないの
自分の手で触れてゆきたいんだ
セカイにはびこる憂鬱なんかヒールで蹴散らしちゃえ

 動き出したお姫様はついに、何かを打ち砕く。
 そして、そこにあった物、全てが止まる。
 残ったのは新たな世界に旅立ったお姫様のみ。

rout in this sleeping days!
Bloom in this fuckin’days!!
君はロミオ、私、ジュリエッタ?
悲しい恋の物語なんです
それはあなた達の物語でしょ?
指くわえてみてるといいわ
ガラスの靴だって脱ぎ捨てる、不愉快な鏡だって打ち砕く
傷ついても、倒れても、それすらが与えられた奇跡だもの
そこで黙ってみてるといいわ
結末だって変えてみせる!

 お姫様の投げキス、強い決意とともに、歌劇が終わる。
 舞台は暗転し、静寂に包まれた。