music fever 後半アジア・オセアニア
| 種類 | ショート |
|---|---|
| 担当 | うのじ |
| 芸能 | 3Lv以上 |
| 獣人 | 1Lv以上 |
| 難度 | 難しい |
| 報酬 | 10.4万円 |
| 参加人数 | 10人 |
| サポート | 0人 |
| 期間 | 11/13〜11/17 |
●本文
ＴＶから流れてくる声。「音楽バトル、最終章、ファイナル」
同じ文章が黒のバックに白の文字で画面に流れる。
「多くの名曲を生んできた、過酷な音楽バトル『Battle the Rock』がついにフィナーレを迎える」
そして画面に映るのは、今まで登場した様々なアーティスト達。
チャーミングな女の子とギターを弾く男性。
夜の貴族、バンパイアな男女。
白いドレスに身を包んだ女性。
それぞれに積み重なってきた、長いようで短い歴史。
それが今に至るまで続いていく。
次いで、大きく『the music fever』という文字が踊る。
画面の右下には小さく、『魂を響かせろ！ Battle the Rock ＳＰ』と書いてある。
『Battle the Rock』は、音楽番組である。
しかし、この番組が特殊なのは、番組の最後に観客の投票によって選べれた一曲が、最後にもう一度、このステージで歌うことができるという点だ。
これはラストの曲を賭けた、アーティストたちによる音楽バトルである。
●リプレイ本文
●閑話ステージと控え室を結ぶ廊下にスモーキー巻（fa3211）と望月がいた。
「この番組は過去の僕が終わった場所。そして、新しい僕がスタートした場所でもある。‥‥本当に感謝してる。ありがとう」
「そ、そんな、お礼を言われることなんて何も。それは巻さんの力だと思います」
スモーキー、望月ともに恐縮し合うなんとも日本的な場面だった。
「世の中には歌って踊れるアイドルがいるんですから、歌ってプロデュースも出来る人だって可能ですよ！ 巻さんなら出来ます！」
「あはは。ありがとうございます」
しばらく話した後、それぞれが自分の仕事に向かうべく別れる。
「いい人ですね」
声をかけられた望月が振り向くと、そこにいたのはスーツ姿の男性だった。
「‥‥ヴァニシングプロの。おはようございます」
「拙かったですか？」
「スポンサーさんですから、問題ないですよ」
どこかギスギスしたの空気。
「今日は大漁でしょう？」
望月が尋ねる。
「ええ。機会があれば声をかけたい人ばかり」
男は言葉を続けた。
「そして、ここにも一人、声をかけたい人がいるのですが」
「‥‥それですか。僕は無理です。たくさんの花をショーケースに並べて枯らしてしまう。そんなことは‥‥」
望月の言葉に男は冷静に答えを返す。
「どこに所属してもどんな花も枯らさずにプロデュース出来る人、だって可能なんじゃないですか？」
「‥‥」
その言葉に無言で俯く望月。
「もっちー」
望月に声をかけたのは嶺雅（fa1514）と司会者たち。
「では、私はこれで」
頭を下げて去っていく男性。
「‥今の人は？」
「いえ、大丈夫。どうしました？」
レイの心配に、笑顔で答える望月。
「今日の打ち上げ、楽しみでさ。お店はどこかなって言ってた所なんだ」
「ウン」
思わず笑い出す望月。
「大丈夫です。心配しないでください。それよりも、ほら、嶺雅さん、そろそろ出番ですよ。準備しないと」
言われて、気がつくレイ。
「ア、ソウダネ。急がないと！ また、後でー」
「はい、がんばってきてくださいねー」
司会者の二人と望月に見送られ、急いで戻るレイであった。
●flicker
「flicker」
マイクパフォーマンス時に曲名を言うため、グループ名だけの紹介。
紗綾（fa1851）はメンバーの３人がそれぞれの位置についたのを確認すると、自らもドラムの前に移動し、照明を受けながらマイクを握る。
「今宵のflickerは原点回帰のvampire。バトザロが始まったばかりの頃はまだ二人だけだったけれど‥‥沢山の出会いと別れがあって、flickerは大きく成長しました。そしてこれからも成長し続けます！ 皆、これからも見守っててね！
flicker〜R2〜より、全世界の人に愛を込めて‥‥『prologue of the vampire』」
紗綾の台詞が終わると、黒羽 上総（fa3608）のギターが高く透き通る音色をたてた。
クロのギター、紗綾のドラム捌きに加えて、ラシア・エルミナール（fa1376）の歌声が響く。
絡めたその腕に力を込めて引き寄せた 離れないように
ラシアからレイに歌が引き継がれ、それが交互に繋がっていく。
気づかないフリして でもその温もり感じながら歩き続けた
過去の君、今の君、未来の君 受けとめる覚悟はあるよ
背中は友に任せて 必死に似合わない背伸びして 戦い続けていくつもり
傷ついても いろんな場所に癒しはあるから
二人の重なる歌声は、聴く人を圧倒させた。
そして舞い散る薔薇の花びら。
それぞれが胸に挿した物と同じ薔薇がひらりひらりと舞い落ち、青い光を鈍く反射する。
速くなるドラムが先導し、リズムもガンガンにスピードを上げていく。
Midnight『vampire kiss』 始まりという名のプロローグ
次に紡ぎ出すお話のキャストはワタシタチ
空に輝くスポットライトの光を浴びて 翼広げて
離れない事を誓い合ったから また手を差し伸べて
握った手の暖かさ胸に感じる
余計な言葉なんて必要ないよ 歌声さえ重ねれば
すべて解り合えるから
アイシテルなんて言わない
でも側にいて見守ってるよ
くじけないように 倒れないように
midnight『vampire kiss』 物語はまだ始まったばかり
歌が終わると、ステージに揃った４人全員で手をつなぎ、観客席へ一礼。
最後に、それぞれが胸に付けた薔薇を、、感謝の気持ちと共に観客席へ投げ込んだ。
●Trisagion
水威 礼久（fa3398）がドアを叩く。
返事があり、開かれたドアから出てきたのは、ＬＵＣＩＦＥＬ（fa0475）だった。
「‥‥どうも。ミカいるかな？」
クレイスの言葉に、いるよ、と答え、中にはいるよう勧めるルシフ。
「いや、ここでいいんだ」
「そうなのか？ 入っていいんだが。ミカ、お客さんだ」
呼ばれたＭＩＣＨＡＥＬ（fa2073）は廊下に出て行く。
ミカを見送ったルシフは、一人呟く。
「‥‥過保護になる親の気持ちが今なら分かる気がする」
「ごめんな、本番前に」
「いいよ、どうしたの？」
ミカが、クレイスに尋ねた。
「ミカと初めて会ったのはこの番組だったろ？ なんか懐かしくってさ」
「そうだね。半年ぐらい前かな？」
「‥‥じつは、特に用はなかったんだ。ただ、ミカにがんばれって言いたかっただけで」
「そっか。ありがとう」
クレイスの言葉にミカは笑顔で返す。
「俺、そろそろ行くよ。お互い仲間が待ってるもんな」
「そうね。お互いがんばりましょう」
別れる二人だが、クレイスが振り返り言う。
「ミカ、俺、目を離さずに応援してるから。だから、ミカも俺の事、しっかりと応援しながら、かっこいい姿、観てくれよな」
「お帰り。なんだって？」
「ん？ がんばれって」
帰ってきたミカにルシフが尋ねた。
「それだけ？」
「うん、本当にそれだけ」
ミカの答えに、残念そうな、それで居てホッとしたようなため息をつくルシフ。
「そろそろ時間だな。コート、二着用意して貰ったから二人で着れるから」
「あたしの分も用意して貰ったんだ。ありがとう」
そう言い、二人はコートを羽織り、準備は全て整ったのだった。
「Trisagion。『FELICITA』」
歓声を受けて登場した兄妹の二人。
ルシフが良く通る声で台詞のように歌い上げる。
旋律を重ねて世界に音色を刻む 物語の欠片
そして、羽織っていたコートを、金網の穴に目がけて投げ入れる。
最前列の観客達が手を伸ばしあい、一人の女性の手にコートが舞い降りた。
受け取った女性に、片目を瞑るルシフ。
そんなパフォーマンスの中、演奏はすでに始まっていた。
流れる髪も 滑る指先も 綺麗だったよ
でも気付かなかった 気付けなかった 出逢う日まで
甘い言葉を囁けば 驚き恥じらい背ける
けれど君を抱き寄せて 心の奥深く キスをする
幾千幾億の言葉を集めたって 伝えきれるはずはないから
降り積もる淡い光に 心は宿ってる
Amore sincero それだけさ 全て叶う夢の刻よ
終わると同時に、素早くステージの中央を入れ替わるルシフとミカ。
ミカのギターソロが終わると、また、ルシフが中央に戻ってくる。
犇く音に 埋もれていても 探し出せる
確かに引き寄せた腕はすり抜け 無邪気に笑う
La felicita‘e‘nascosta dappertutto 今なら信じられるさ
例え季節が移り変わっても 変わらない日々 Primavera
幾千幾億の宝石を集めたって こんなに輝くことはないから
見つめ続ける瞳の奥の光 スライドさせる程眩しい
Amore sincero 微笑みが 愛の歌を奏で紡ぐ
ルシフとミカの交代。
今度のミカのソロ演奏は先ほどとは違い長めで、ルシフはその最中背を向け動きを止めていた。
背中がくっついたかのように寄り添う二人は、ミカのギターソロが終わると、お互いが反転し、軽やかに入れ替わりを計る。
ミカのギターと、ルシフの歌声に力が入り、最後の歌詞に突入する。
喜びも悲しみも苦しみさえ 二人で抱きしめたい 全部抱きしめたい Primavera
世界中の宝を探しだしたって これ以上のモノはないから
例え誰も知らなくても 必ず其処にあるさ
どんな大きな対価を払ったって 代えられるはずはないから
降り積もる眩い光に 運命は宿ってる
Amore sincero それだけさ 全て叶う夢の刻よ
●４Ａｓ
『４Ａｓ様控え室』と書かれた扉。
クレイスがその扉を開ける。
「ただいま。遅くなってごめん」
「どうでした？」
スモーキーが尋ねる。
「がんばってくるって言ってきた。そっちは？」
「おつかれさま。こっちは、ちょっとお話してきた。また打ち上げで会うから、少しだけ」
クレイスとスモーキーの会話。
部屋のむこうでは雛姫（fa1744）とＴｙｒａｎｔｅｓｓ（fa3596）が談笑していた。
「‥‥というわけで、最初にこの番組に出演したときは、flicker様の楽屋に居座ることになってしまったんです」
「それはそれで面白そうじゃん。遊び行けるっていうのはいいぜ？」
「ですよね。あ、それなら、後で一緒にご挨拶に行きませんか？」
タイとひなの会話はどこかずれていそうだが、意外と話が噛み合っていた。
「挨拶って、後でも良いの？ 始まる前が良いんじゃ？」
「‥‥それもそうですね。でも、今から行っても、ちょうど今ステージ中でしょうし‥。きっと、後からでも笑顔で迎えてくださいますよ」
「なんだ？ 挨拶に行くなら、俺も行く」
クレイスが話に加わる。
「はい、ご一緒に是非」
「軽いお菓子を準備しておいたからさ、ミカとかも一緒に、ちょっと摘めればいいなって思ってたんだ」
クレイスが備え付けの小さな冷蔵庫を指しながら言う。
「え？ でも、今話してたのはTrisagionじゃなくてさ‥‥」
「別にさ、両方に声かければいいんだろ？」
タイの言葉にもめげないクレイス。
それを笑いながら観ていたスモーキーが時計を観た後、立ち上がる。
「どうやら、そろそろみたいだね」
みんな、と言いながら、揃いのリボンが巻かれた腕を前に突き出す。
呼応するように皆も腕を突き出し、リボンが重なり合った。
「がんばっていこう！」
スモーキーの声とほぼ同時に扉がノックされる。
「っしゃあ！ 派手にいこうぜっ！！」
タイが切り込み隊長となり、舞台へ向かう一同だった。
「４Ａｓ。『Never Stop The Music』」
４人がステージに並ぶ。
メインの演奏者はギターのタイとベースのクレイス。
そして、メインのボーカルは、ひな、そしてスモーキーだ。
ひなの歌声に、後を追うスモーキー。
最後の曲が終わり Liveの幕が下りても（まだ終わりじゃない）
その曲は心の中で いつまでも響き続ける（次は君たちの番さ）
Never Stop The Music！
今まで薄暗かった照明が一気にまばゆいものに変わる。
タイとクレイスが、今まで押さえていた分、同じく一気に力強く曲を奏でる。
そして、そのままの勢いで、二人の歌声が加わる。
Livehouseを後に 駅までの道を歩けば
どこからか聞こえてくる なじみのあの曲がある
一つ一つの曲達は やがて終わってしまうけど
伸ばした腕の先のバトンは 必ず誰かに届く
街中に
画面の中に
あるいはポケットの中に
いつだって歌は続いていく 消えることなく確かに
ほら こうしている瞬間 今この時にも！
世界のどこかで 新しい歌が 産声を上げている！（さぁ走りだせ！）
４人それぞれマイクに向かう。
４人の合唱が響く。
so，Never！ Never！！ NEVER！！ Stop The Music！！
途切れることのない歌声が世界を包む
Never！ Never！！ NEVER！！ Stop The Music！！
終わることのないメロディーが世界を回す
徐々に小さくなるメロディーが、最後の部分を何度も何度も奏でる。
そして最後に、タイとクレイスの指の動きだけ、音はかすかにも聞こえなくなり、舞台がフェードアウトしていった。
●エンディング
７組の演奏が終わった。
司会者の二人が再び登場し、彼らはいつもの台詞で投票が促す。
「それでは、『judge』。スタート！」
普段より多めの箱があるものの、薄暗い舞台へ、光の雨がとなって投げられて行くいつもの光景。
皆の視線がステージに行っている時、その薄暗い照明に隠れ、司会者の一人が俯いた。
もう一人の司会者が周りに気がつかれないようにそっと相方の背中を叩く。
二人の司会者は顔を上げ、降り注ぐ光の雨の先を、結果発表を待つのであった。
「‥‥すこし少なかったか？」
クロが、シュークリームの入ったタッパーをテーブルに置きながら言う。
「そう？」
レイの言葉に首を振るクロ。
「出演者の人数の倍は必要だった気がする」
「‥‥大丈夫！ 他の人も準備してるから」
「そうなのか？」
「多分だけどネ」
「‥‥‥」
クロとレイの会話をよそに、紗綾があたふたと花束の準備をしていた。
「ねぇ、花束贈呈っていつしようか？」
「急がなくてもいいと思う」
紗綾の言葉にラシアが答える。
「そ、そう？」
「うん。まだ番組は続いてるし、後で打ち上げもあるし、その時でも」
「あー、そっか。そうだよね。なんか変な勘違いしてた。別に電車の時間があるとかじゃないもんね」
紗綾のハテナな例えに、多少引っかかりながらも頷くラシア。
「そ、そう‥‥かな？ あたしも後で挨拶しようと思ってるしさ」
「じゃあ、このお花は、戻して‥」
そんな紗綾を観ながら顔を上げると、視線がレイとぶつかる。
「‥‥そうそう、舞台始まる前になにか言いかけてなかった？」
レイが尋ねる。
「あ、うん。あのさ、レイ、『あ‥‥」
トントン。
叩かれる扉。
言いたかった言葉を飲み込むラシア。
扉の向こうから伝えられた言葉に、全員が立ち上がった。
番組のラストシーン。
司会者が最後に言った。
「それでは、本当に、本当にラストの曲、『flicker』で、『prologue of the vampire』！」
