届かない書簡−本能寺アジア・オセアニア

種類 ショート
担当 うのじ
芸能 3Lv以上
獣人 1Lv以上
難度 難しい
報酬 10.4万円
参加人数 8人
サポート 0人
期間 03/26〜03/30

●本文

『時は今 雨が下しる 五月哉』

 苦悩の末に主君である織田信長を討つことを決意した明智光秀。
 光秀の決意を知った信長の忍びの者は、直ちに知らせるために、信長の元に急いだ。
 しかし、彼は、明智軍に見つかり、本能寺の変の第一番目の死者となった。

 そして、天正10年6月2日。
 明智軍が、本能寺を攻囲した。
 世に言う、本能寺の変である。


「似合うかな?」
 明智光秀役の柿沢天昇が鏡を見ながら、横にいるスタイリストに尋ねる。
「似合ってますよ、ええ」
 とはいえ、スタイリストの答えは、当てにならない。
 似合って無くても似合ってると答えるであろうから。
「それにしても重いですね」
「重い?」
「はい。この鎧です」
 そう言って、衣装の鎧を着たまま、肩を動かした
「これ、筋肉痛になりそうですよ」
「でも、実際のはもっと重かったそうですよ」
 スタイリストの言葉に驚きの声を上げる柿沢。
「そうなんですか? すごいなぁ」


 『届かない書簡』とは、本能寺の変から明智光秀の死亡までの11日間にスポットを当てた連続ドラマである。
 このドラマの特徴は、武将、名も無き兵士、そして忍びの者と言った様様々な々な人物が戦場で散りゆく、その場面が主に描かれることである。
 第一回目である今回の舞台は、本能寺の変。
 ここでは、最初に登場する書簡を届けようとした忍びの者を筆頭に、織田軍、明智軍の両勢力の兵士、そして、織田信長、森蘭丸ら、人間が命を散らす事となる。

●今回の参加者

 fa0225 烈飛龍(38歳・♂・虎)
 fa1338 富垣 美恵利(20歳・♀・狐)
 fa2002 森里時雨(18歳・♂・狼)
 fa3678 片倉 神無(37歳・♂・鷹)
 fa3853 響 愛華(19歳・♀・犬)
 fa4360 日向翔悟(20歳・♂・狼)
 fa4564 木崎 朱音(16歳・♀・犬)
 fa5423 藤間 煉(24歳・♂・蝙蝠)

●リプレイ本文

●馬から落馬して
 森里時雨(fa2002)の目の前には血まみれで倒れた木崎 朱音(fa4564)。
 そして、倒れた朱音の懐から書簡を取り出す時雨。
 3回ほどNGが出たシーンだった。
 派手な体術は一発OKの時雨だったが、このシーンは苦手のようだった。
 演技力が足りないのか、覚悟が足りないのか、幼くみえるとはいえ女性の懐に手を入れる時、一瞬、躊躇ってしまうのだ。
 今回は、無事、朱音の懐から書簡を取り出す事が出来た。
 馬へ向かうために、背を向けた時雨の肩に、くないが突き刺さった。
 朱音の最後の力を振り絞った一撃。
 しかし、傷は浅く、時雨は、そのまま、馬に乗り、駆け出す。
 しばらくすると、くないに仕込まれた毒のため、時雨の身体が動かなくなり、ついに落馬してしまう。
 全力疾走中の馬から転げ落ちる時雨。
 普段から身体を鍛えてるのを良いことに、スタント無しでの体当たりの演技である。
「大丈夫ですか?」
 カット! の声の後、真っ先に駆けつけたのが、朱音だった。
 先ほどまで殺し合っていた相手に心配をされるという何とも不思議な絵。
「だ、大丈夫っす」
 なんとか声を出した時雨だったが、ふと観ると、朱音の方も血まみれで、とても大丈夫そうには見えない。
「木崎さんのほうこそ、傷だらけで‥‥」
「‥‥え? これ、血糊ですよ?」 
 不思議そうに言う朱音。
「あー! そうだ、これ、芝居だ! じゃあ、俺のも血糊‥‥にしては痛いような気がすっけど‥‥」
「‥‥時雨君の、馬から落ちたときの傷は本物だよ?」
 立てる? と、朱音に肩を貸されて立ち上がる時雨。
 不意に蘇るNGシーンの記憶。
「‥‥時雨君? 大丈夫? なんだか顔も赤くなって、出血も多くなってるような気がするよ」
「だ、大丈夫っす!」
 森里時雨、彼の青春の一ページ。
 時雨は、馬から落ちながら、大人への階段を一歩登ったのだった。


●殿様気分のお殿様
 両手に花の控え室。
 織田信長役である藤間 煉(fa5423)は、控え室にいながら、困っていた。
「信長ってこんな感じだったのかな。贅沢者だね。俺としては困ってしまうねぇ」
 控え室にいるのは、濃姫役の富垣 美恵利(fa1338)と森蘭丸の響 愛華(fa3853)。
 共に信長の恋の相手である。
「あら? 別に藤間さんが困る必要はないと思いますわ」
 美恵利が笑いながら言う。
「富垣さんは厳しいなぁ」
 美恵利の言葉に苦笑するレオン。
「奥方様、あまりいじめるのも可哀想かと存じます」
 蘭丸の役に成りきったアイカが言う。
 もっとも、アイカも半分笑っていた。
「うむ。あまり、わしをいじめるな」
 レオンも信長のような台詞回しで言う。
「あら? もし、これが役としていじめるとしたら、ここは修羅場ですわよ?」
 妻である濃姫と恋人である蘭丸。
 確かに、この場は修羅場と言えるかも知れない。
「わかったよ。修羅場は困るからね」
 降参のポーズを取るレオンの姿に、くすくすと笑うアイカと美恵利。
 そこに血まみれの朱音と時雨が帰ってきた。
「木崎ちゃん、おつかれ」
「殿、申し訳ありません。書簡は取られてしまいました」
 忍びに成りきった朱音の言葉に答えるレオン。
「気に病む事はない。大義であった。‥‥こういう忠誠心の子もありかな?」
 最後に付け足したレオンの言葉に反応する美恵利とアイカ。
「あら? また修羅場ですかしら?」
「相手は下忍だもん。今度は私も遠慮しないよ」
 不気味に迫る濃姫と蘭丸に迫られた朱音。
 訳は分からなかったが何故か身の危険を感じ、急いで時雨を連れて医務室へ逃げていった。
「‥‥ちょっとやりすぎちゃったかな?」
「これも、お館様のせいですわ。」
 レオンに全ての罪をかぶせた後、優雅に紅茶をすするアイカと美恵利であった。


●寄り合う若年寄
「なんだか、中の控え室が元気みたいだなぁ。‥‥行かなくて良いのか、若いの」
 言いながら外に設置された椅子に腰掛け、くわえたタバコに火を付ける片倉 神無(fa3678)。
「元気すぎて、練習できななくて」
 衣装を着た日向翔悟(fa4360)が、長台詞なんですよ、と続けながら、台本を見ながら答えた。
「そんなの後でもできるだろうに。俺もあそこで騒げるぐらい若ければ良かったんだが」
 ヒナタの言葉に苦笑する烈飛龍(fa0225)。
「まったくだ。いけないな。若いのは多少無理をしなくちゃ」
 フェイロンの言葉に頷く神さん。
 そんな二人に苦笑しながら答えるヒナタ。
「仕事よりも自分の幸せを優先しないとな。青春は短いぞ、青年」
「あ、誰か出てきますね」
 ヒナタが話題を変えるように言う。
「‥‥あの二人は‥」
「時雨君と朱音さん、か。中の人間にイタズラでもされたか」
「控え室の中にいるのは織田軍の中枢、下々の兵たちは居づらいかも場所かもしれないな」
「愛の逃避行とか?」
「‥‥もし、そうなら、俺は赤飯でも炊いて貰うが‥‥違うだろうなぁ」
 思い思いに好きなことを言う三人。
 その三人の前を、医務室に行ってきます、と通り抜けていく朱音と時雨。
 通り抜け際に神さんが声をかける。
「どうした?」
「わからねぇっすよ。なんか中が修羅場とかなんとかで、急に迫られて。あ、迫られたのは俺じゃないっすけど」
 要領を得ない時雨の答えだったが、一つ分かったことがあった。
「どうやら、中は、なにやら楽しいことがあるらしいな」
 神さんの言葉に頷くフェイロン。
 そのフェイロンは、行かないのか? とヒナタを見る。
「台詞覚えないといけないからね。『長門守、そなたは我に卑怯者に成れ、そう申すのか、本能寺に行かせぬ‥‥』」
 トラブルに巻き込まれるのはごめんだという態度のヒナタ。
「仕事よりも自分の幸せ。青春は短いぞ、青年」


●届かない書簡−本能寺
「あの人から引き継いだ任務‥‥」
「おっさんから任せて貰った大仕事だ」
 降り注ぐ矢から逃げる忍と、先陣を切って捕らえようとする若武者。
 二人の思いは自らに仕事を託した人物が浮かぶ。
「くっ、殿の元へ、戻らねばならぬと言うのに‥‥」
 追い詰められている忍の足についに矢が突き刺さる。
 動きを止めた忍びはついに追いつかれた。
「その書簡、返して戴こう」
「殿を裏切るとは、愚かな」
 負傷しつつもくないを構える忍を見据え、若武者は刀を構えた。

 忍、そして若武者、双方に戦死者を出した両軍。
 それは開戦の合図でしかなかった。
 天正10年6月2日。
 早朝とすら言えない深夜。
 明智軍が、本能寺を攻囲した。
「皆の者、用意はいいか」
 先頭に立っているのは明智光秀。
 横に控えし片岡重蔵が言う。
「準備は万全。殿が望む敵将の首、見事討ち取ってご覧に入れましょう」
「頼もしいな、頼んだぞ」
 光秀は満足げに頷くと本能寺へと目を向ける。
 重蔵のほうは、未だに来ぬ若武者を思い、一瞬、後ろを振り向く。
 しかし、全ての思いは光秀の号令により、消えさった。
 今は何か余計なことを考えている時ではないのだ。
「敵は本能寺に座する悪鬼、織田信長である! かかれ!」
 鬨の声が上がる。
「‥‥あの旗印は!? 馬鹿な! あの惟任日向守が裏切ったというのか!」

「騒がしい。何事じゃ?」 
 外の騒ぎを感じ、目を開けた織田信長。
 そこに森蘭丸が駆けつける。
「上様! 一大事、討ち入りで御座います!」
「相手は?」
「旗印は桔梗紋。‥‥敵は明智殿‥‥明智光秀が軍勢!」
 蘭丸の報告に、信長が立ち上がる。
 別室で休んでいた濃姫も、また、部屋へ駆けつける。
「お館様、ここは一旦安土に戻られて体勢を立て直すべきではないかと思います」
 撤退を言う濃姫に目を向けると、信長は言った。
「帰蝶か。‥‥是非に及ばず」
 信長の足が向かったのは戦場。
 撤退をする気は無かった。

 乱戦。
 一歩も譲らない意地が、その覚悟が、お互いを切り伏せる。
 しかし、兵士の数、そして鉄砲の数の違いが、確実に戦況を明智軍有利へ傾けていった。

 信長が控えし、奥の間。
 ここに真っ先に踏み込んだのが重蔵だった。
「無駄だ。雑兵が束になってかかってきてもな‥‥」
 重蔵と信長に割ってはいるかのように濃姫が一歩前に出る。
「誰ぞや?」
「‥‥やっとお目当てのものに行き着いたようだな」
 重蔵の目に濃姫は入っていなかった。
「無礼者!」
 手にした長刀で斬りかかる濃姫。
 それを無造作にはじくと、返す刀で斬りつける重蔵。
 濃姫の白い衣が浅く斬りつけられ、白い肌咲く赤い血が薄暗い屋敷に鮮やかに映える。
 重蔵の刀は濃姫を紙一重で斬りつけることは出来なかったのだ。
「そちの狙いは、この儂であろう?」
 重蔵の刀をはじいたのは信長だった。
「天下の信長の首、この片岡重蔵が貰いうける」
 拮抗する刀と刀。
 そこに響く銃声。
 信長の肩に命中した弾丸が、動きを鈍らせる。
「もらった!」
 重蔵のとどめの一撃。
 信長は深手を負ったものの、それが致命傷を免れたのは、駆けつけた蘭丸が信長を突き飛ばしたおかげだった。
「上様、ここはお任せを! 奥方様、上様をお任せ申した!」
「‥‥わかりました。お館様。こちらへ」
「‥‥‥最期まで苦労を掛ける」
 蘭丸にそう言うと、信長と濃姫の二人は更に奥の間へと足を向けた。
 蘭丸はそれを横目で確認しながら、重蔵へと、槍を構えた。

「逃がすかよ‥‥」
 重蔵が一歩足を踏み出すと、蘭丸は槍でその足を払う。
「あくまで邪魔だてする気か」
 槍と刀、蘭丸と重蔵の戦いは熾烈を極めた。
 明らかに腕に勝る重蔵だったが、蘭丸の覚悟の前に、足を止めざるを得なかったのだ。
 しばらくすると、奥の間から火の手が上がった。
「! 自害だと! ‥信長は俺の手柄だってのに」
 呟く重蔵の一瞬の隙を突いて、蘭丸の槍が重蔵の足下も廊下に突き刺さる。
 無駄に思えた槍の一撃。
 次の瞬間、蘭丸のもくろみが分かった。
 槍の一撃により、崩壊していく廊下。
 転がり落ちた二人、先に立ち上がったのは蘭丸。
 蘭丸は重蔵の胸に槍を突き刺すも、重蔵はその槍を掴み、槍の持ち主たる蘭丸の胴を薙ぐ刀の一撃を放った。
「‥‥信長の腰巾着の小姓風情が‥‥‥勝てる訳も無ぇのに」
 勝ちを確信するも身体が動かない重蔵。
 致命傷を負ったはずの蘭丸が、這い蹲ってしがみついていた。
 驚愕した重蔵は、その掴む腕を切り捨てようと刀を振り上げた。
 その時、重蔵の胸に突き刺さった槍に手をかけた蘭丸は、その槍を引き抜いた。
 抜かれた槍の穴から流れ出る大量の血。
「信長は‥手前の主人はどうせ死ぬんだ‥‥それなのに‥何故そうま‥で‥」
「上様‥あの世でも、御身の傍で‥」
 泥にまみれた荒武者と美少年。
 その二つの命が散らした赤い花びらは、星の光に輝いていた。

 信長と濃姫、二人はいつものように、寄り添っていた。
「帰蝶、すまぬな」
「もったいのうお言葉」
 笑った濃姫は小鼓を手にとった。
 燃えさかる炎の中、響き渡る小鼓の音と信長の声。
 それは崩れ落ちる屋敷の中に消えていった。
『人生五十年。下天のうちに比ぶれば夢幻のごとくなり。ひとたびこの世に生を受け滅せぬもののあるべきか』
 

 崩れ落ちる本能寺。
 織田信忠はそれをただ見ている訳にはいかなかった。
「今行かねば、どうしろというのか!」
 信忠の言葉に村井貞勝は言う。
「殿! 本能寺に向かうなど論外でございます。そればかりか、此処でぐずぐずしていては大殿の二の舞ですぞ! 一刻も早く洛外へ落ち延び為されませ!」
 貞勝の言葉をにらみつける信忠。
「長門守! そなたは我に卑怯者に成れ、そう申すのか!? ここで我が何もせずおめおめ逃げ出せとは、織田の当主として、そのような真似は出来ぬ」
 それを真正面から受け止める貞勝。
 ついには貞勝が折れた。
「‥‥分かり申した。ですが、此処ではあまりに無防備。とりあえず二条御所へ参る事と致しましょう」

 戦の火、それは川の流れのように飛び火していく。
 その流れは、二条御所においても、止めることは出来なかった。

 二条御所が取り囲まれたという報告を受けた信忠。
「気に病むことはない。すでに、ここが我が死に場所。その覚悟は出来ておる」
 信忠の言葉に頭を下げる貞勝。
「そなたらの命はこの信忠が預かった。者共、命を惜しむな! 名こそ惜しめ! 馬廻衆の最後の晴舞台、反逆者の日向守に存分に見せてくれようぞ!」
 信忠の言葉に、兵士たちの大声が上がる。
 戦場において、後がないのは双方とも同じだった。
 故に、お互いの兵の命が散り、また散っていく。
 それを見ていた貞勝も、自らの槍を取った。
「‥‥織田のお家の為に粉骨砕身して幾星霜‥‥、ここで散るのも定めか‥‥。最後の一花、此処で咲かせようぞ!」
 貞勝の振り回す槍が兵士達の命を散らしていく。
 しかし、貞勝の進みもやがて堰き止められ、そこに無数の槍が突き刺さった。
「‥‥ご」
 貞勝の最後の言葉、それは誰にも聞こえず、口から漏れたのは命の源たる赤い血。
 数多の兵を失い、貞勝の死も悟った信忠。
 彼もまた、多くの傷を負っていた。
 それでも、動きを止めず、敵を切り捨てていく。
「この織田の血、総易々と動きを止めてはくれぬ」
 自らの、斬りつけた相手の血に染められた、その顔には、かすかな笑い。
 この一晩で散りし、命の華が、一つ、また一つと増えていった。

 夜が明ける。
 そこには数多の死体があった。
 立ち往生した信忠の折れた刀が、一晩の戦闘の激しさを物語っていた。


織田信長‥‥藤間煉
織田信忠‥‥日向翔悟
村井貞勝‥‥烈飛龍
森 蘭丸‥‥響愛華
濃姫‥‥‥‥富垣美恵利
織田軍の忍‥‥木崎朱音

明智光秀‥‥柿沢天昇
片岡重蔵‥‥片倉神無
明智軍の若武者‥‥森里時雨