新春ドラマSPアジア・オセアニア
種類 |
ショート
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担当 |
うのじ
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芸能 |
1Lv以上
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獣人 |
1Lv以上
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難度 |
難しい
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報酬 |
1.1万円
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参加人数 |
8人
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サポート |
0人
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期間 |
01/13〜01/17
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●本文
ここは、とある呉服店。
じつは、さり気なく『あおわや呉服店』と看板が映るところが、とある呉服店ではなくなっている。
「‥‥お前も二十歳か。大きくなったな」
着物を選んでいる妻と娘を見ながら、感慨深げに呟く父。
「ついこないだまで、こんな小さかったのに」
と、膝の高さまで手を下げる。
「いやだ、お父さん、一体いつの話し?」
楽しげに笑う娘。
そして次のシーン。
娘が晴れ着を着ている。
前のシーンで買ったものだ。
散々はしゃぐ娘を見て両親は楽しにしている。
最後のシーンで、成人式に向かう娘、慣れないせいか、躓いてしまう。
すれ違いざまに倒れかけられてしまった男性は、慌てて、その娘を支える。
そして始まる、ラブストーリー。
「こんな感じでどうかな?」
「問題ないと思いますけど、スポンサーさんのOKがでるなら」
「65点かな。もっといい本書けるんじゃないの?」
中には辛辣な意見も飛び交っているが、ここは、ミニドラマCMの製作チームだ。
彼らには、スポンサーの商品をうまくドラマの中に組み込んで、さり気なく、そして確実に、視聴者に好印象を残すドラマを作り出す事が求められている。
これから、始まるのは、『あおわや呉服店』のCMなのであった。
●リプレイ本文
●撮影が始まる前に終わるもの、それは、撮影現場チェック
深夜、店の営業が終わってからスタッフたちが乗り込み、現場や雰囲気の下見に来ていた。
「呉服店のシーンなんだけど、実際にこの店を使わせて貰えるのか?」
蓮城久鷹(fa2037)が尋ねると、アシスタントディレクター(AD)からOKの返事が返ってきた。
「はい、ちょうど今ぐらいの時間になりますが、営業終了後にお借りできることになってます」
「じゃあ、夜なのをごまかすように照明、気をつけないとな。そっちの手配は?」
「いちおう板とかそういうのは、いつも通りですが‥‥」
ヒサは、手で軽くカメラのフレームを作りながら、撮影をしているつもりになって、質問をしていた。
実際問題、撮影をするときに、問題点は無くしておきたかった。
「まぁ、それならいいか。後は腕だな。衣装とかも借りるつては言ってあるんだろ?」
「もちろんです。OKがでてます。えっと、どの衣装にするかは前もって言っておかないといけないんですけど」
「衣装を決めておくのか。‥‥あ、おーい」
ヒサが、中松百合子(fa2361)に声をかけた。
「あ、はい。なんですか?」
「着物のレンタルの話、前もって借りるのを言っておくんだってよ」
「ああ、そうですか。わかりました。貸し切り状態のお店は目の保養ですね。のんびりチェックできますし。いくつか見繕ってはあるんですけど、いいですか?」
「あ、はい。お店の方を呼んできます」
ユリに言われて、ADが走り出す。
「あとは、昼間に来て、実際の店の雰囲気を感じれれば最高だな」
ヒサは、満足げに頷くと、スタッフ用出入り口に向かう。
「ヒサさん、どこにいくんですか?」
「男女がぶつかるシーンな、いいところがないか、観てくるから。後はまかせた」
撮影のベストポジションを探しにヒサはでていった。
●少女から女性へ、面影を残して
赤い着物姿の少女が鏡に映る。
右手を胸に当てると、ちょうど手元にある手鞠の柄が、緩やかに弾むように動く。
クルリと回転し、見返ると、ちょうど背中が鏡に映っている。
「‥‥こういう感じなんですけどぉ」
着物の少女である美森翡翠(fa1521)が、富垣 美恵利(fa1338)に同意を求める。
「はい、わかりました。こう、ですね」
横にいる美恵利も、同じ動作をする。
「二人とも息がバッチリですね」
後ろで観ていた喜田川光(fa2481)が目を細めた。
「ふふふ、よろしくおねがいしますね。お父さん」
ヒスイが悪戯っぽく、言う。
「お父さんですか、ははは。こちらこそ、よろしくおねがいします、娘よ」
「娘よって、何か違いますよぉ」
一同が笑う。
「じゃあ、服を買って貰ったあと、鏡を覗き込むシーンから行きます。準備してください」
ひとしきり笑った後、スタッフが声をかけた。
ひかるとヒスイがスタンバイに入る。
「では、シーン3、カット2、テイク1、行きます」
カメラの前に出されたカチンコが鳴る。
カチンコがはずされると、カメラの前には赤い着物を着た少女と紺地の着物を着た男性。
少女は鏡を観ながら右手を軽く胸元に持ってくる。
●リハーサルと本番の衣装の秘密
成人式のシーン、エキストラをバックに、談笑しながら歩く実夏(fa0856)と寒河江 薫(fa2239)。
おい、あれ、と指をさすカオル。
指をさした方向には、友達とじゃれあいながら、こちらに向かってくる美恵利の姿がある。
友達と追いかけっこをしている美恵利が躓き、それを受け止める実夏。
「カット! うーん、じゃあ、リハはこれくらいにしておこう。いったん休憩。用意してあるお茶とかコーヒーとか飲んで休憩しよう。あ、座ったらだめだよ」
メガホンを持っていた男性が休憩を宣言し、椅子に座る。
「‥‥やっぱり、着慣れてるからかな‥‥」
ぶつぶつと呟きながら、スタイリストのユリを捕まえる。
「ヒロインの衣装なんだけど、変えて貰える?」
「今からですか?」
「無理かな?」
「いえ、できますけど。‥‥どこを変えますか?」
「どこでもいいから。パッと観は同じでもいいんだ。じゃあ、お願い」
話を終えると、男性は大きく宣言した。
「美恵利ちゃん、じゃあ、そろそろ本番用の衣装に着替えてもらえる? 他の人の再開は1時間後」
急に着替えを言われた美恵利は、慌てて控え室に戻る。
一足先に控え室に向かっていたユリに追いつき、尋ねる。
「本番用の衣装って、どういうことですか?」
「‥‥さあ? 私も今聞いたのよ」
男性はそのまま、実夏とカオルのもとにやってくる。
「カオルさん、いいよ、ばっちり。何か好きな食べ物ある? 撮影終わったら、それ食べに行こう。そのつもりで本番よろしく」
遠回しに笑顔を勧められたカオルは、思わず苦笑した。
「実夏さんもいいよ。和服着慣れてるのかな? 自然な感じが出てる。渡された曲もいい感じだったし、そのイメージにあってるよ。あ、でも、ちょっと、内緒話があるんだけどいいかな?」
近くに来て、こしょこしょと内緒話をされる実夏。
休憩室に戻る二人だが、実夏が少し困った顔をしているのにカオルが気がついた。
「何を言われたの? 大丈夫?」
「大丈夫やけど‥‥、なんや、本番用の衣装、時価数百万するからしっかり受け止めい、やて。ハッパかけられてもうたな」
「言わなければ、気楽に行けたのに‥‥」
軽く抗議の声を上げるカオル。
「せやけど、100円を100万円言うのとは、わけが違うからなぁ」
美恵利が気付けを終えて帰ってくると、休憩時間も終わりだ。
「シーン4 カット3 テイク4 行きます」
撮影が進んでいき、美恵利を受け止める場面になった。
真剣に美恵利を受け止める実夏。
「カット! OK! 緊張感最高! さすがミュージシャンは本番に強いね」
●撮影の終わり、撮影は終わり
美恵利が右手を胸の辺りで軽く抑え、鏡を覗き込んでいる。
濃い緑色の着物を着ている、少し老けたひかる。
さらに、その後ろには、押さえ目の紺色の着物を着た横田新子(fa0402)が控えている。
そして、くるりと半回転し、見返り姿で鏡を覗き込む。
「‥‥お前も二十歳か。大きくなったな」
感慨深げに言うひかる。
「ついこないだまで、こんな小さかったのに」
と、膝の高さまで手を下げる。
「いやだ、お父さん、一体いつの話?」
楽しげに笑う美恵利。
後ろで微笑んでいる新子。
「カット! OK! バッチリでした」
この言葉に、それぞれが息を吐く。
「全撮影終了です、お疲れさまでしたー」
これで全ての撮影が終了したのだ。
撮影最後を見届けるために残った役者たちやスタッフから拍手が起こる。
「みなさんもお疲れさまでした」
最後のシーンに参加したひかるが頭を下げた。
「けっこう順調に終わりましたね」
美恵利が新子に声をかける。
「そうですね」
新子も笑いながら答えるが、スタッフが横から声をかけた。
「あ、新子さんは、これから、ナレーションの撮りがあるので、ヨロシクお願いします」
「‥‥‥あ、まだ私はおわってないのね」
新子の笑いが、思わず苦笑になった。
●身内だけの完成試写会
「おーい、編集完成したぞ。観るか?」
ヒサが編集し終わったばかりのデータを持って来た。
データを再生すると、スタートは、鏡に映った美恵利からだ。
女性と言う年齢なのだろう、一人の女性が鏡の前にいた。
クリーム地の梅柄着物に落ち着いた赤藤色の帯という装いの女性は、右手を胸の辺りで軽く抑え、鏡を覗き込んでいる。
後ろには、濃い緑色の着物を着ている、少し老いた父を思わせる男性。
さらに、その後ろにいる、押さえ目の紺色の着物を着た店員が、よくお似合いですと言っていた。
彼女は、くるりと半回転し、見返り姿で鏡を覗き込む。
「‥‥お前も二十歳か。大きくなったな。ついこないだまで、こんな小さかったのに」
と、父親は膝の高さまで手を下げる。
「いやだ、お父さん、一体いつの話?」
楽しげに笑う娘。
そして、画面が、ノスタルジックな配色になる。
小さな女の子が、ショウウィンドウ前に立ち、着物を見上げていた。
それを見た父が、その子を店の中へ連れていき、新しい着物を着せる。
試着室ではしゃぐ女の子は、右手を胸の辺りで軽く抑え、鏡を覗き込んでいる。
話は進んでいき、どんどんシーンも流れていく。
藍色がかった濃い灰色の着物に紺の羽織という晴れ着姿の眼鏡をかけた男性。
その横には、濃い茶色系の着物に明るめの羽織という、同じく晴れ姿の男性。
二人は、笑いながら、行き交う成人式に向かう仲間を観ながら歩いていく。
バックには、今風の音楽だが、和風にアレンジされており、着物にしっかりとマッチした曲が流れている。
おい、あれ、と指をさしたのは茶色系の着物を着ている男性だ。
指をさした方向には、友達とじゃれあいながら、こちらに向かってくる先ほどの女性の姿があった。
薄紅色の晴れ着を着た彼女は友達と追いかけっこをしているのか、こちらへ走ってくる。
走りながらの彼女は躓いてしまう。
バックの曲のテンポが変わった。
ちょうど、目の前にいた眼鏡の男性のほうへ身を委ねるように飛び込んでしまうと、眼鏡の彼は彼女を必死に支える。
顔を赤らめながら、礼を言う女性。
お互いが顔を見つめ合う。
「‥‥みのる君?」
「‥‥みさき?」
そこに入るナレーターの声は、先ほどの店員と同じものだった。
「大切な人と大切な時には 『あおわや呉服店』」