届かない書簡−高松城アジア・オセアニア

種類 ショート
担当 うのじ
芸能 3Lv以上
獣人 1Lv以上
難度 やや難
報酬 9.9万円
参加人数 8人
サポート 0人
期間 05/06〜05/10

●本文

『浮世をば 今こそ渡れ武士の 名を高松の 苔に残して』

 水攻めに会い、陥落寸前の城。
 その水面に浮かぶ一艘の船。
 そこでは、武士の鑑とも言うべき人物たちが、自ら命を散らしていった。
 家族にも等しい自らの兵士達のために。

 全ては一通の書簡から始まった。
 ある忍から書簡を奪った羽柴秀吉の軍はその内容に驚愕する。
 その書簡とは、織田信長の死、そして、明智軍への援護を求めるものであり、本来は、毛利軍へ届けられるものであった。
 この内容を知られてはならぬと、道という道、山、街道、など、書簡、全て手に入れるようにとの命を出す秀吉。
 秀吉はやらねばならぬ事がいくつもあった。
 書簡の封鎖、水攻め中の高松城の処理、そして、主君信長の敵討ちである。


「今回の僕の台詞なんだけど‥‥‥」
 明智光秀役の柿沢天昇が、台本を見ながら言った。
「‥‥これ、だけ?」
 カッキーの言葉に大きく頷く監督。
「まぁ、今回は清水宗治と羽柴秀吉がメインだから、ね」
「‥‥‥」
 微妙に納得したのか、しないのか、といった具合に頷きながら、カメラの前に向かうカッキー。
 小一時間かけた衣装とメイクの末の出番は、わずか5秒であった。
「信長、討ち取ったり! 各地に書簡を届けよ!」


 『届かない書簡』とは、本能寺の変から明智光秀の死亡までの11日間にスポットを当てた連続ドラマである。
 このドラマの特徴は、武将、名も無き兵士、そして忍びの者と言った様々な人物が戦場で散りゆく、その場面が主に描かれることである。
 第二回目である今回の舞台は、備中高松城。
 ここでは、明智光秀の書簡を持った者たちと、それを高松城に届けまいとする者たちとのせめぎ合いが行われ、多くの人間が命を散らす事となる。

●今回の参加者

 fa0225 烈飛龍(38歳・♂・虎)
 fa0431 ヘヴィ・ヴァレン(29歳・♂・竜)
 fa0892 河辺野・一(20歳・♂・猿)
 fa1414 伊達 斎(30歳・♂・獅子)
 fa1718 緑川メグミ(24歳・♀・小鳥)
 fa3134 佐渡川ススム(26歳・♂・猿)
 fa4360 日向翔悟(20歳・♂・狼)
 fa5602 樋口 愛(26歳・♂・竜)

●リプレイ本文

●アチャー ホアチャー
 体中に血の付いた忍び役の樋口 愛(fa5602)と凜とした立ち振る舞いの軍師然としている伊達 斎(fa1414)。
 対照的な二人が道を歩いていた。
「こんなところで会えるとは思ってなかったな」
 愛の言葉に頷く斎。
「友人に聞いていたから、いつかは会いたいと思っていたけどね」
 この撮影中によくみる光景だった。
 友達の友達という間柄の二人は、自然と話す機会が多かった。
「流石にもしかしたらご先祖様かもしれない人たちと違って、やり合おうなんて思ってはいないけどな」
 ニヤリと笑いながら愛が衣装だが、実は高性能なオーパーツである槍を軽く構える。
「例え訓練だとしてもごめんだね、こっちも」
 笑う斎だったが、接近戦だと槍の攻撃が何度もあってやっかい。離れて投擲をまつのが正道か。とやらないといった割にはぶつぶつと作戦を練り始める。
 そこに、登場した大きな影。
「おいおい、物騒なこと話してるな。俺も混ぜろ」
 切腹を間近に控えた烈飛龍(fa0225)が二人に話しかけた。
「いや、混ぜるもなにも、やりませんよ、さすがに」
 苦笑しながら言う斎の言葉に頷く愛。
「そうか。最近、身体が鈍ってていけなくてな。こういうお上品な役ばかりだと、派手に立ち回れないからな」
 フェイロンはそう言うと、衣装のまま、軽く身体を動かし、シャドウスパーリングを始める。
「俺みたいに忍者とかだと楽なんだろうけど‥‥あれ?」
 愛が首をかしげる。
「?? どうした?」
「なにか今妙な声が聞こえたような?」
「‥‥‥」
 沈黙し、耳を澄ませる一同。
「アチャーとか聞こえますね」
 伊達が言うとフェイロンが答える。
「確かに。なんだよ、俺のいないところでカンフーアクションでもして遊んでやがるのか? 不届きな奴だな」
 言うが早いか、走り出すフェイロンに、それを二人は追いかけていった。

「アチャー」
「アチーー」
 どうやら簡易控え室の中から聞こえる奇声の主は河辺野・一(fa0892)と柿沢天昇のようだった。
「おまえら、面白そうなことしてるな、俺も混ぜ‥」
 フェイロンはそう言いながら扉を開け、中を見る。
 一瞬むせかえるフェイロン。
 その部屋で行われていたのは、中国拳法の練習ではなかった。
「あついー」
「からいー」
 二人は、ただカレーうどんを食べてただけだった。
「おまえら、何してるんだ?」
「どうしました?」
 後ろから斎と愛も追いついてくる。
「はふはふ。えーとどう説明しようか。河辺野さん、なにかアナウンサーっぽく実況してくださいよ」
「え? えー、わたくしが体験しているこの辛さは、まさしく身体が燃えあがるような勢いで‥‥」
 どうやら激辛らしいカレーうどんを食べているらしい二人の話をまとめるとこうだった。
 楽屋でカッキーと河辺野アナの二人して台本を読んでいた所、二人の歴史の知らなさ加減が絶妙で、各人物について、もう少しで何かを思い出せそうという、喉に物がつかえたような嫌な思い出し方をしてしまったのだ。
 そのため、頭をすっきりさせようということで、激辛カレーを食べようということになったのだ。
 カッキーと名前が似てるしね、と言いながら封を開けるも辛すぎたため、少しダシで薄めてカレーうどんにした。
 しかしそれでも辛かったため、奇声をあげるハメになったのでった。
「‥‥というわけで、みなさん、助けてください」
「‥‥」
「助けるって言われてもなぁ」
「まだ残ってるんですよ、汁もうどんも。辛いですけど美味しいですから」
 辛いために一度食べると止めれないのだろうカッキーが箸を止めずに言う。
「ま、まぁ、残すのももったいないし」
「ますます身体を動かしたくなったらどうしてくれるんだ?」
 愛とフェイロンの言葉を受けて、斎はこっそり鞄の中のタマゴサンドを見る。
 辛すぎたときの対策としてタマゴサンドは有りだろう、と判断した斎。
「うーん、まぁ少しだけなら」
 三人はそれぞれ口にしながらもカレーうどんに手を伸ばした。

 何とか完食した5人だったが、辛さが引いた後に大事なことに気がついた。
「やばい、衣装に‥‥」
「‥‥カレーが‥‥」
 彼らが目にしたのは、飛び散ったカレーうどんの汁と黄色く染まったそれぞれの衣装だった。


●キャー イヤー
 褌一丁という今の世では珍しい漢スタイルの日向翔悟(fa4360)。
 ファンがいたら鼻血を出して卒倒しかねない今のヒナタ。
 彼は、今ちょうど終わった撮影で裸に剥かれてしまっていたのだ。
「仕事とはいえ、男に剥かれるにはぞっとしないな‥‥そっちの気のあるのが居なさそうなのが救いか」
 呟くヒナタは一瞬、寒気に襲われた。
 それは誰かの視線、そっちの気のありそうなのがいないという彼の言葉は果たして正しいのだろうか。
 自分の常識と直感のせめぎ合いを感じつつも、ちょっと冷えすぎたかなと、用意されたガウンを羽織りながら控え室に戻るヒナタ。

 その頃楽屋には、7人が詰めていた。
 そのうちの5人は、スタイリストさんたちに大目玉を喰らいしょんぼりしてる。
 元気がない? ならば元気を出させねば! と使命感に燃えた佐渡川ススム(fa3134)が場を盛りあげるために身体を張ってネタをしていた。
「やばいなー。みんな元気が無くて、俺、死にそう」
 佐渡ちゃんの悲痛な訴えに緑川メグミ(fa1718)が笑顔で答える。
「死んでいいのよ?」
「え?」
「狙撃のシーンの撮影の時、メグはそのつもりでやったのよね。打つシーンと倒れるシーンが別撮りじゃなければよかったのに」
 無茶を言うメグ。
「なんだ、撮影の話し‥」
 しかし、次の言葉に佐渡ちゃんの笑顔が凍る。
「メグの生まれたままの姿を見た人を生かしておく訳にはいかないものね」
 暗いバックにキラーンと目が光ったかのようなメグのオーラに圧倒される佐渡ちゃん。
 しかし、彼は見事にそれをはね除けた。
「あの時のこと、忘れられないんだね。よし、俺も男だ。責任を取ろう」
 佐渡ちゃんはそう言うと、一動作で衣装を脱ぐ。
 それはまるで超ハイスピードな脱皮。衣装はそのまま床に落ちる。
「さぁ。これでおあいこだ! 穴の開くほど見ーてーくー‥‥ぐごっ」
「きゃー! へんたーい!」
 みぞおちめがけて放たれたメグの拳。
 身長差の関係で、腹よりやや下の位置にヒットした気もしないでもないが。
 レディの悲鳴を聞き、ヘヴィ・ヴァレン(fa0431)が駆けつける。
「おい、どうした? 大丈‥‥」
 ヘヴィが言葉に詰まる。
 ヘヴィが見たのは勝ち誇るメグに、下腹部を押さえうずくまる佐渡ちゃん。
 そして、どちらかと言えば佐渡ちゃんに同情的な視線を送るそのほかの5人の役者たちという情景だった。
「‥どっちが被害者なんだ?」
 普段は警備関係の仕事ため、人間トラブルをよく見てきたヘヴィだったが、誰かにそう尋ねずにはいられなかった。
 そこへ、ガウン姿のヒナタが帰ってきた。
 扉を開けると温度差のため、大きな風が部屋の中に入ってきた。
 めくれるガウン。露わになる褌一丁のヒナタ。
 裸の男が二人いる楽屋。
 その珍しい光景にヘヴィが言った。
「おい、いったいドラマの楽屋では、何が行われるんだ?」
「‥‥えーと、現状を客観的に見るに公開3ピ‥ぐは」
 メグの拳が今度はススムの脳天に決まった。


●届かない書簡−高松城
 明智光秀からの書簡は多くの密使により各地へ送られていた。
 しかし、その中で送り主に届いたのはごくわずかであった。
 ここにもまた、使命を果たせずに散っていた忍が一人。
 その傍らに立つは軒猿、上杉軍の忍である。
「そなたの思い、そして使命、確かに受け取った」
 しかし、その場には織田軍の兵士達が近くにいる。
 軒猿は、風呂敷で自らを覆い、姿を隠した。
「いたぞ、ここだ!」
 隠れ身の術失敗
「‥‥こうなってしまっては仕方があるまい」
 槍を手に軒猿が兵士たちに立ち向かう。
 善戦するも多勢に無勢、ついに命尽き果てる軒猿。
 森の中から一羽の鷹が飛び立っていった。

 なかなかに落ちぬ高松城を前にしての秀吉軍本陣、黒田官兵衛が言った。
「ここは‥‥水攻めかと」
 黒田の言葉により、戦よりも冷酷な戦いが始まった。
 水攻めの完成を防ごうとあがく毛利軍の兵士達もいたが、それぞれが散りゆく。
 この無双の斧をもつ武士もまた。
「ま、いずれは来るだろうと思ってたがな」
 そう言い、策を進める工作兵に一直線に斬りかかり、重い一撃で、その身体を鎧ごと切り捨てる。
 一撃一殺の勢いで敵を切り伏せ、作業を止め、あわてふためき逃げる兵士の背を、得物の柄で押し倒し、上から切り捨てる。
「‥‥そう易々と屈して堪るかっての」
 工作用の木材を切り捨てると、その前に広がる土嚢の山。
「‥‥流石に土塊は切れねぇな‥‥」
 苦笑した一瞬の隙を突いて、3本の槍が彼の胸に突きささる。
「!」
 槍を振り払い、それらの兵士の息の根を止める。
「ち‥‥だが、まだ‥‥やれる‥‥」
 空虚を見る目はすでに死が近いことを物語っていた。
 徐々に彼の動きは反射的になっていき、身体に突き刺されていく槍に反応して敵を斬るようになっていった。
 ついに目から光が消え、うつぶせに倒れた。
 その身体に突き刺さった槍は総数にして15本。
 決して後代に名を残すことはなかった勇猛な武士の命が、一つ、散っていった。

 水攻めも完成し、敵の降伏もしくは崩壊を待つばかりとなった高松の戦。
 しかし、その状況を打ち破ったのが明智からの書簡だった。
 それは毛利軍に当てられたもので、秀吉軍に屈することがないように頼むものであった。

 一人の行商人が検問を通過しようとしていた。
「お役目ご苦労様でございます」
 明智軍密使である彼は行商人に化けていたのだ。
「へい、手前は小物を扱うしがない行商人でございます。国元に帰る途中、こちらの戦に巻き込まれまして‥‥」
 立て板に水の口上と共に頭を下げつつ、そっと兵士に袖の下を渡し、簡易関所を通過する。
 しかし、一人の上官が、彼を呼び止め、刀を抜いた。
「‥‥近頃の行商人というのは、砂利道でも足音を立てぬ忍び歩きをするものなのか?」
 通過するときのほっとした気のゆるみに、習慣となった歩き方が現れ、それが致命となった
「気づかれたか! 俺はこんな所でぐずぐずしている訳にはいかないんだ。力ずくでも通らせて貰うぞ!」
 変装中でろくな武器をもっていない彼に対して、敵は武装した兵士たちに、塀の上から自らを狙う弓兵たち。
 彼は、自らの命が散りゆくことを悟りながらも、隠し持っていた脇差しを構えたのだった。

「‥これは」
 明智の密使の死体と彼が持っていた書簡を見た黒田が思わず口に出した。
 即座に開かれた軍議。
「‥御運が開かれる機会が参りましたな‥‥いえ、戯れにてございます、御容赦を」
 軍師たる黒田の行動は冷静だった。
 毛利との早期和睦。しかるのち、逆賊たる明智討伐のため『中国大返し』。
 そして、まだいるであろう密使を捕らえるため、警備の強化を実行したのだった。
「‥‥敵軍に本能寺を悟られる訳には行かないからな」

 警備強化の成果はすぐに表れた。
 秀吉軍は、ほぼ全ての密使を捕らえることに成功していた。
 残りの密使はただ一人。
 高松城に向けて、ムササビの術で乗り込もうとしていた。
 しかし、ムササビの術に使った風呂敷の柄、それが致命となった。
 ターン。
 鳴り響く銃声。
 忍を発見した緑川恵一郎が、即座に打ち落としたのだ。
 落ちた先からひょこりと立ち上がる忍。
 その背中には割れた大仏があった。
「‥‥大仏がなければ即死だった」
 弾丸と落下の二つのダメージを見事に受けきった大仏を見ながら呆然とする忍。
 立ち上がる忍びを見、驚愕する緑川。
「はずした? ええい、すばしっこい。でもやってみせる!」
 結局、この2射目で命が散っていった忍。
「安らかに眠るがいい、名も無き忍よ」


「我が命で城兵の命が助かるというのなら、これを為すは城主たる俺の役目であろう。筑前殿の申し条、確かに承った」
 秀吉軍からの和睦の書を受け取った清水宗治の決断に迷いはなかった。
 命を差し出すは清水の三兄弟、そして、毛利の者としての末近信賀など名だたる者たちであり、その命を惜しむ声、我も共にという声が場内を乱れ飛んだ。
 しかし、清水の言葉により、それ以上の被害を防ぐことが出来た。
 なにより、これ以上死者を出さないための和議に、余計な命を差し出すことはないのだ。

「穏やかな朝ですね」
 切腹当日、末近が清水に声をかける。
「まったく」
「昨夜までの騒ぎが遠い昔のように思えます」
 末近の言葉に笑う清水。
「‥‥昨晩、源三郎と話しをした。この期に及んで未練かもしれんが、説教じみたことを言ってしまってな」
「源三郎殿も良き父をもって幸せでございましょう」
 そして二人は黙った。
 空に昇る太陽に合わせて消えていく朝霧。
 自然というものが示す、この世の儚さと無情さを思いに止めながら。

 高松城に張り巡らされた湖面。
 そこに浮かぶ船の上での切腹。
 それで、ここ高松にて行われた戦いの終止符が打たれた。
 この時、二人の武将はこのような辞世の句を残したという。

浮世をば今こそ渡れ武士の名を高松の苔に残して −清水宗治
君がため 名を高松に とめおきて 心は皈る 古郷の方 −末近信賀



スタッフロール一部抜粋
清水宗治‥‥烈飛龍
末近信賀‥‥河辺野一
毛利軍無名の武士‥‥ヘヴィ・ヴァレン

黒田官兵衛‥‥伊達斎
緑川恵一郎‥‥緑川メグミ

上杉軍忍‥‥樋口愛

明智光秀‥‥柿沢天昇
明智軍密使1‥‥日向翔悟
明智軍密使2‥‥佐渡川ススム