Weather Mood −LSアジア・オセアニア

種類 ショート
担当 うのじ
芸能 3Lv以上
獣人 1Lv以上
難度 難しい
報酬 10.4万円
参加人数 8人
サポート 0人
期間 05/12〜05/16

●本文

「‥‥なぁ、お前何やってるんだ?」
 音楽番組『Music War』の現場に向かう途中の司会者の二人のうち、上田が相方の下田に向かって言った。
「これか?」
 両腕を交差しながら聞き返す下田。
「そうそう。それ」
「これはな、相手を抱きしめるときに逃げられないようにするために筋トレ中なんだよ」
「‥‥」
「勝った時とか、頑張ろう! の時とか、スカっと空振りするともったいないだろ?」
「‥‥いや、ま、いいけど」

 コロシアム風のステージを前に、大勢の観客が舞台の開演を今か今かと待っていた。
 その様子を見ながら、最終確認をしている番組プロデューサーの望月。
「今回は、『Weather』と題しましたけど‥‥どんな歌が聴けるんでしょうか、楽しみですね。純粋な天気だけじゃなく、季節や特殊な空模様かな。気分とかもあるかな」
「望月さん、仕事してくださいよ」
 浮き浮きしてる望月に声をかけるスタッフ。
「い、いやだなぁ、ちゃんとしてますよ。えーと、どれどれ‥‥今日のお客さんは、音楽だけじゃなく、ダンスや演出も観たい人が多いんですか。さすがに本物の雨を降らせるわけにはいかないですけど」
 会場に来ているお客さん達から事前に回収してあるアンケートを観ながら一人呟く望月。
「さて‥‥あとは、楽屋からのOKの合図が来たら、開始しましょう。みなさん、準備はだいじょうぶですか?」

 古きヨーロッパをイメージさせるコロシアムの中で、チェスのようなコマ達がその場に集いあう。
 それらは、白きギタリストやキーボード弾き、黒きドラマーや歌い手達となり、お互いに技を競うべく、列を整え、開戦の合図を待っていた。
 睨み合う二つの陣営。
 そこに浮かぶ二つの剣。
 その二振りの剣がぶつかり合うとそこに上からギター重なり、番組のシンボルマークとなった。
 そこに『Music War』という番組タイトル、そして、今夜のテーマである『at Weather』が加わる。
 そして、司会者の二人が、それぞれ白の陣営、黒の陣営として、登場し、開戦の合図を告げた。

「そろそろ時間ですね。最初から最後まで楽しんで行きましょう!」

●今回の参加者

 fa0133 凪代繭那(21歳・♀・鴉)
 fa0475 LUCIFEL(21歳・♂・狼)
 fa1376 ラシア・エルミナール(17歳・♀・蝙蝠)
 fa1744 雛姫(17歳・♀・小鳥)
 fa2657 DESPAIRER(24歳・♀・蝙蝠)
 fa3461 美日郷 司(27歳・♂・蝙蝠)
 fa3861 蓮 圭都(22歳・♀・猫)
 fa4028 佐武 真人(32歳・♂・一角獣)

●リプレイ本文

●曲外『楽屋訪問』
「ひなまゆの楽屋訪問コーナー。ぱーと3」
 手にマイクをもった風にして、凪代繭那(fa0133)が小声で叫んだ。
「‥‥繭さん。一体、どちらに向かって話していらっしゃるのですか?」
 繭那のカメラ目線に、どこにカメラがあるのだろう?ときょろきょろしながら言う雛姫(fa1744)。
 結局カメラは見つからなかった。
 雛の質問には答えずに番組?を進める繭那。
「さて、次は佐武さんのお部屋だ。今回は読経もコーヒーも無しだよ。時間がないから」
「‥‥わかりました」
 扉をノックすると返事が返ってくる。
「どうぞ?」
 開かれた扉の向こうにいるのは佐武 真人(fa4028)だ。
『おはようございます』
 雛と繭那の挨拶がステレオで発せられる。
「ああ、おはようございます。どうした?」
「じつは、雛ちゃんが佐武さんの楽屋にどうしてもお邪魔したいってきかなくて」
「え? そうでしたっけ?」
 繭那が説明する事情に驚きの声をあげる雛。
「そうだよ。忘れちゃった?」
「‥‥そう言われるとそうだったかも知れません」
 んー、と考え込む雛を余所に、真人と繭那の会話は続く。
「?? まぁ、いいよ。変わったところはないと思うけど」
「ありがとうございます」
 入ってみた結果、自分たちの部屋とそうは変わらず、ギターがあったり、香水があったり、と、至って普通の楽屋であった。
 ぱーと1もぱーと2も同じだったのだが。
 しかし、そんな中、繭那があるものを発見する。
「あ、これは」
 楽屋のテーブルに立てられた一枚の写真。
 写真の中に立っているのは真人だけではなかった。
「ああ、これ。これは家族の写真だな」
「おー。お子さんだ」
 感心しながら鑑賞している繭那。
 そして、かなりの間考え込んでいた雛がハッと気がつく。
「繭さん、どうしてもなんて言ってな‥‥あ、お写真ですね。わたくしにも見せてくださいー」

「こんな感じ。どう?」
 ラシア・エルミナール(fa1376)が台本を見ながら上田に尋ねる。
「大丈夫だよ、これくらいなら。おやすいご用。この台詞を言えば良いんだよね?」
 上田は、ラシアの心配にOKを出した後、逆に美日郷 司(fa3461)に尋ねた。
「‥‥ああ、そうだ。別に見ながらでも構わないが‥」
「大丈夫。これくらいなら覚えれるよ」
 それじゃ打ち合わせ完了、と場をまとめるラシア。
 コーヒーでもいれるか? と尋ねながら立ち上がるツカサ。
「それにしても、下田さんの抱きつく訓練は成功するかな?」
 コーヒーを待ちながら、言うラシアにどうだろうね、と苦笑する上田。
「でも一体誰に抱きつくつもりなんだろ? ま、こっちはリラックスしてコーヒーを飲むことにするか。あ、ブラックで宜しく。上田さんはどう?」
 背伸びをしながら言うラシアの言葉に焦る上田。
「ど、どう? って俺が抱きつくの? ラシアさんを? ‥‥いや、それは色々問題があるんじゃ」
「‥‥俺は観ない振りをしてやってもいいが‥‥」
 絶妙なタイミングでコーヒーを持ってくるツカサ。
「‥‥いや、そうじゃなくてさ」
 脱力をするラシアだった。

「ひなまゆの楽屋訪問コーナー。ぱーと4‥‥はやめようか?」
「?? どうしてですか?」
「だってほら、次は‥‥」
 次の部屋はLUCIFEL(fa0475)の楽屋だった。
「ルシフ様ですね。あの方は準備に時間がかかるのですか?」
「いや、そういう訳じゃないと思うけど‥‥」
 なら大丈夫です、と言い、ノックをする雛。
「‥‥わかった。雛ちゃん、私が全力で守ってあげるからね」
 扉が開き、ルシフが出てくる。
「‥‥おはよう。どうしたの? 思い詰めたような顔して」
 ルシフの視線の先には呟く繭那。
 そんな彼女に首をかしげながらも、皆の楽屋を訪問していることを告げる雛。
「まぁ、いいけどな。そうだ、ちょうどいい。雛姫にあげたいものがあったんだ。入っておいでよ」
 きゅぴーん。
 ルシフの台詞に繭那の目が光る。
「待って、それはダメよ。今の雛ちゃんは私が守るって決めたんだから!」
「?? えっと‥‥」
 どうしたの? と雛に視線で尋ねるルシフ。
 私も分かりません、と目で答える雛。
「‥‥流し目!?」
 保護者モードの繭那の目には、ルシフの全てが、獲物を狙う肉食獣の行動に映ってしまうのであった。

 開始直前、皆で円陣を組んだ。
「みんな頑張ろう」
 言いながら、蓮 圭都(fa3861)がハイタッチをする。
 これ見よがしに、背を屈めるツカサと真人には膝を折ろうかと冗談を言いながらもそれぞれと頭上で手を合わせる。
「‥‥えっと、はい、私もがんばります‥‥」
 DESPAIRER(fa2657)も右手を挙げる。
「うん。がんばろうね」
 パシン、と手を合わせ、笑顔で頷きあうディーと圭。
「それじゃ、みなさん、がんばっていきましょう」


●1曲目『sky road』
「天気は晴、絶好のツーリング日和になりそうです」
 上田の元気の良い声の後、エンジンに点火する音、アクセルをふかす音が続く。
 その後、真人のギターが、ツカサのベースが鳴り響く。
 そして、繭那のドラムが、思わず身体を揺らしたくなるリズムで叩かれる。
 そのドラムの音に合わせて進んでいく背景と回転する照明。
 それらを十分に楽しんだ後、ラシアの声が響く。

さあ この晴れた青空バイク飛ばして
吹き抜ける風に身体任せて

Ah 現実が頬を叩く前に
夢の最果てまでぶっ飛ばしていこう!

面倒くさいこと全部投げ捨てて
青い空とお日様 追ってずっと走りたいね

さあ 止める奴はもう誰もいないから
現実(いま)の果て 夢の果て 跳ね飛ばしていこう!

全ての果てに辿り着いたら 今度は逆に走ればいい
夢の最果てから現実(いま)へ 戻ろう日の沈む前に

 ラシアの歌が終わると、ドラムのリズムが徐々に小さくなっていった。
 次にベースの音が小さくなり、最後に残ったギターも、フェードアウトする。
 音と同様、背景が動くスピードも、照明の強さも、徐々に小さくなっていった。


●2曲目『涙雨』
「晴れのち雨‥‥長雨注意報が出ています」
 暗闇の舞台に縦の線がいくつも落ちていく。
 ピアノの静かな音。そして泣き悲しむような音色のツカサのバイオリン。
 グレーのレインコートに身を包んだディーが、淡い照明に浮かび上がり、切なげに歌う。

降り続く 涙雨
一面の 重い雲
昼もなく 夜もなく
音もなく いつまでも

どんなに雨が 続いても
いつかは晴れる 時がくる
例え悲しみ 深くても
いつか忘れて しまえると

わかっては いるけれど
止まない雨は ないけれど

 重い雨の中、徐々に大きくなっていく歌声。
 ひしひしと伝える想いに合わせて、ピアノとバイオリンの音がしっとりと絡み合っていった。

止まないで 涙雨
消えていく 望みなら
初めから ないほうが
幸せと 知ったから

降り続け 涙雨
悲しみすら 押し流して
降り続け いつまでも
空の水が 尽きるまで

 大きくなった歌声が、徐々に小さくなっていった。
 そして、さらに小さくなる歌声。
 歌声に呼応するように薄くなっていく照明。
 全てが最初の暗闇に包まれる。
 最後に呟くように、囁くように、ディーの声が紡がれた。

降り続け いつまでも
私の涙 枯れるまで


●3曲目『rainy waltz』
「暫く雨が続きますが、天気は回復に向かう見込みです」
 未だに降り続ける雨。
 それを印象づける深い青色の舞台。
 しかし、明るいワルツ調で始まった歌は、雨の印象は先ほどまでとは違い、虹を予感させるものだった。
 登場する傘を持った女の子たち。
 傘を持ちレインコートを着て、楽しげにダンスを踊る。
 軽やかなワルツから、激しいギターのメロディに変化し、歌が始まった。
 マイクスタンドの前に立った雛の高めの声が、雨上がりを予感させた。

Lala lu lala
ミルク色の霞に滲む レイン・ツリーの並木道
傘に踊る雫達の 弾けるようなリズムにのって
軽やかにステップ踏めば 聴こえてくる水色旋律

Lala lu lala
空を映す水溜りを 1・2・3で跳んでごらん
水の鏡の奥底に 一瞬ちらりと見えるでしょう
雨のカーテンと厚い雲で 覆い隠された天空の扉

 雛と圭の軽やかな歌声と、水たまりの上を跳ねるように踊るダンサー。
 楽しげな演奏をする圭。
 それに合わせて華やかに舞う雛。

あの奥では太陽が
晴れを夢見て眠っている
踊りましょう 雨垂れのワルツ(レイニーワルツ)
お寝坊さんの目覚めを誘う 希望に満ちた雨の曲を

Lala lu lala‥‥lalala‥‥

 雨粒が跳ねるように煌めきながら、舞台は次の局面に向かっていった。


●4曲目『春晴れ、快晴也』
「雨のち晴れ、この後は爽やかな天気が続くでしょう」
 上田の言葉を合図に、照明が青から白へ転換した。
 今までレインコートを着ていた圭と雛もそれを脱ぐ。
 そして出てきた太陽を迎えるかのように、全ての奏者が舞台の上に集合した。
 繭那のドラムの音が、今までとは違い、正統派のロックのリズムを打ち出す。
 それに合わせて、真人と圭の2台のピアノがセッションに参加した。
 中心にはボーカルのルシフ。
 そして、ラシア、雛、ディーのコーラスメンバーにツカサのベースが加わる。
 背後のダンサーたちもそのまま残り、ステージに動きを加えていた。


降り注ぐ光の雨 世界が彩られる
微かに聞こえてくる 音色は何処からか
愛を求めて 俺は彷徨っていた
出会えた奇跡は 運命と呼べるよね

 奇跡という言葉に、ルシフの目はカメラの奥にいる視聴者を捕らえていた。
 そして、運命という言葉は、前列二番目中央やや右にいるレディに。
 一つ一つの歌詞を想いを込めて歌うルシフ。

キミのコト抱きしめて 受け止め続けてゆこう
何度でも感じさせる 一番大切だと
輝く未来 キミと描くよ
この熱き想い 永遠に

 1フレーズごとに対象を変えていくルシフの視線。
 その思いは、観客に、そして、横でコーラスをしているメンバー、ピアノ、ドラムと演奏している仲間にも向けられる。
 それを盛り上げるように、ピアノが奏でるリズムが一音一音丁寧に打ち鳴らす。

キミのコト抱きしめて 与え続けてゆこう
何度でも言葉にする 誰より愛してると
溢れる未来 キミと進むよ
この強き想い 永遠に

 最後に向けられた視線は観客へ。
 雨の世界から抜けた世界で永遠を誓った歌は雨ではなく愛を振りまき、全てを明るき照らしながら、静かに優しく、しかし、情熱的に幕を閉じたのだった。


●曲外『誓われる再起』
 敗戦。
 勝負にこだわってるものでもない、とはいえ、どちらかと決められるとなかなかショックは大きかった。
「ごめんね。こっちが歌とか曲で劣ってたってことは無かったと思うんだけど‥‥」
 謝る上田だったが、それ以上に頭を下げる人がいた。
「‥‥ほんとうに、すいません。わたしが‥‥しっかりしていれば‥‥」
 十分しっかり役目をこなしてはいたが、普段から多少ネガティブな所があるディーは自らを責めてしまっていた。
「いや、そんなことないよ。しっかり聞いていたよ」
「こういうので真剣に落ち込んだって仕方がないだろう」
「‥‥CDの売り上げランキングで1位にならなかったとしても、別にファンがいないってことじゃないだろう?」
 男性陣がそれぞれ慰めるも、今にも泣き出しそうなディー。
「‥‥あ、そうです。読経をしましょう。圭都様、お願いします。読経は元気が出るっておっしゃっていましたし」
「‥‥いや、元気じゃなくて気合いが入るって‥‥」
「それでも!」
 珍しく押しの強い雛に気圧される一同。
「だから、元気を出してくださいね、ディー様」
 雛の笑顔に、何とか頷くディー。
 その後、『LEFT SWORD』の控え室は30分の読経大会となったらしい。