届かない書簡−伊賀越えアジア・オセアニア

種類 ショート
担当 うのじ
芸能 3Lv以上
獣人 1Lv以上
難度 難しい
報酬 10.4万円
参加人数 8人
サポート 0人
期間 07/01〜07/05

●本文

「おはようございまーす」
 明智光秀役の柿沢天昇が、スタジオ入りをする。
 それを驚く目で見るスタッフ一同。
「あ、あれ?」
「おはよう、柿沢くん」
 スタッフの反応にとまどうカッキーにスタッフの一人が声をかけた。
「今日、どうかしたんですか?」
 カッキーの質問に首をかしげるスタッフ。
「それはこっちの台詞っていうか‥‥柿沢くん、今回出番、基本的に無いっていうか‥‥」
「え? ‥‥あ、ほんとだ! 今回、僕のシーンないじゃないですか! 主役なのに!」
 驚くカッキーを慌ててフォローするスタッフ。
「ま、まぁ、ほら、次回は最終回で、明智光秀がばっちりでるからね。今回は身体を休めて貰おうって事で」
「そ、そうだったんですか」
 納得するカッキー。
 立ち話もなんだろうと、出番がないにもかかわらず控え室に向かうカッキー。
「そういえば、控え室、メロン来てます?」
「メロン? 来てませんけど」
「そうですか。生ハムメロンを食べるって言われて来たんですけど‥‥」
「生ハムメロン?」
「はい、たしか」
 カッキーは自信なさげに言ったあと、控え室の扉を開けた。



 秀吉が中国大返しを開始する少し前、同じく必死の行軍を強いられた人物が居た。
 徳川家康である。
 家康は堺で本能寺の変を知り、最短ルートで自らの国にとって返した。
 後に言う、神君伊賀越えである。
 険しい山越え、そこには地侍や、農民の一揆、明智光秀の命を受けた者たちが待ちかまえていた。
 服部半蔵率いる伊賀、甲賀の者たちに助けられ、わずかな部下と共に険しい山を越える家康。

 しかし、不幸中の幸いがあった。
 明智からの書簡には不備があり、肝心の家康の人相の部分が紛失していたのだ。
 そこに書かれていたのは家康打つべしのみ。
 敵は、家康の顔を知らなかった。



 『届かない書簡』とは、本能寺の変から明智光秀の死亡までの11日間にスポットを当てた連続ドラマである。
 このドラマの特徴は、武将、名も無き兵士、そして忍びの者と言った様様々な々な人物が戦場で散りゆく、その場面が主に描かれることである。
 第三回目である今回の舞台は、堺から伊勢までの伊賀。
 ここでは、明智光秀の命を受け家康の命を狙う者たちと、それを阻止しようとする者たちとのせめぎ合いが行われ、多くの人間が命を散らす事となる。

●今回の参加者

 fa0225 烈飛龍(38歳・♂・虎)
 fa0295 MAKOTO(17歳・♀・虎)
 fa1338 富垣 美恵利(20歳・♀・狐)
 fa1414 伊達 斎(30歳・♂・獅子)
 fa2002 森里時雨(18歳・♂・狼)
 fa2640 角倉・雨神名(15歳・♀・一角獣)
 fa3800 パトリシア(14歳・♀・狼)
 fa3846 Rickey(20歳・♂・犬)

●リプレイ本文

●練習をいっぱい
 角倉・雨神名(fa2640)の鋭い一突き。
 烈飛龍(fa0225)は、その突きを避けきれないことを悟る。
 フェイロンは避けることを諦め、手に持っている刀を振るった。
 共に、その一撃が致命傷になった。
 うかな、フェイロンともに、深手を負った。
「アメージング!」
 二人の動きが止まった時に、見学をしていたRickey(fa3846)からの大きな声と拍手がわきおこった。
「スゴイよ。二人ともクールだった! ニンジャアクション!」
 リッキーが素直に賞賛しているのは分かるが、その微妙な感想に、フェイロンは苦笑しながらうかなに言う。
「どうだった? 一連の流れはあんな感じだ」
「はい、大丈夫です。それより、穴山様、直した方が良い点はありませんか?」
 うかなの言葉に、頷きながら考え込むフェイロン。
「‥‥リッキー君、台本見て貰える? 今のシーン、スロー再生するんだったよな? たしか」
 フェイロンに言われ、台本を広げるリッキー。
「えーと‥‥そうだね、アナヤマの最後はスローになってる」
「それだと、あれだな。最後の突きの前の動作、もっと腰を貯めた方が良いな」
「腰を貯める‥‥ですか」
 フェイロンの言葉を自分に言い聞かせるように繰り返すうかな。
「あまり急ぐ必要はないってことだな。スロー映像になるから急いでやっても意味がない。ゆっくりやったって、俺は避けないからさ」
 うかなとフェイロンのやりとりを聞きながらリッキーが笑う。
「これがジャパニーズ談合ってやつだね」
「あとは、俺のことは穴山様って呼ばなくていいからな? さて、次はそっちの番だな、どのシーンが分からないんだって?」
 フェイロンが今度はリッキーの方に顔を向ける。
「ベンケイノニオウダチっていうのが、ちょっと‥‥」
 言われたリッキーは自分の台本を見せる。
 監督から弁慶の仁王立ちのイメージで、と言われていたのだ。
 日本史にある程度通じてなければ理解できなくても仕方がない説明だったのかも知れない。
「‥‥あー、それか。それはつまりだな‥‥倒れないんだ」
「倒れないんですか? 死ぬのに?」
 リッキーの疑問に頷くフェイロン。
 そんな二人に、今度はうかなから応援が飛んだ。
「がんばってくださいね」


●おなかがいっぱい
「それじゃあ私も作ってきたサンドイッチ、もってきますね」
 パトリシア(fa3800)は頭を下げて部屋から出て行く。
 ホームパーティーとも言える雰囲気だった。
 広めの控え室には、スタッフが用意した所謂ロケ弁と言われる食事以外に、富垣 美恵利(fa1338)、伊達 斎(fa1414)二人がそれぞれ用意した食事がテーブルに並べられていた。
 それを見たパティが、私も作ってきたんです、と言って、お弁当を取りに行ったのだ。
「ああ、待ってるよ。行っておいで」
 先ほどまで、6月にカップルになった、ならなかったという話で盛り上がり、その肴にされていた一人であった伊達が快く送り出す。
 伊達が肴になった引き金を引いたのはパティだったのだが、若い純粋な心に負の感情はないのだろう。
「それにしても富垣さん、すごいね」
「生ハムメロンではないですが」
 伊達の言葉に、笑いながら答える美恵利。
「せっかく柿沢さんが来てくださったと聞いたものですから、一緒に食べていってくださいね」
「すいません。ありがとうございます」
 言われた柿沢が頭を下げる。
「僕の方は、急にちらし寿司が作りたくなってね」
 散る散る言っているせいかな、と伊達が笑う。
 時刻は丁度、お腹が空いてくる時間帯だ。
「おー、スゴイですね」
 並べられた豪華な食事を見て、森里時雨(fa2002)が感嘆の声を上げる。
「蜂蜜キュウリとは比べられないくらい」
 柿沢が怨みがましい声で時雨の台詞に同意する。
「カッキー、もしかして怒ってる?」
「怒ってないですよ」
 時雨のイタズラ料理を先ほど食べさせられた柿沢は笑いながら答える。
「それじゃ次は醤油にプリンでウニ‥‥」
 時雨の言葉が止まる。
「‥‥マコトさん、すごいですね」
 美恵利が言葉に詰まる。
 丁度撮影を終えたMAKOTO(fa0295)が帰ってきたのだ。
 帰ってきたマコトの姿は、役柄上、かなりきわどい衣装ではあったが、それを越えた、あられもない姿一歩手前であった。
 なぜなら、丁度撮影したシーンは、その散り際。
 そのシーンは大人向け一歩手前だったのだ。
「おっと、これは少年には目に毒だね」
 柿沢がすかさず時雨の目をふさぐ。
 一瞬反応に困っていた伊達だったが、撮影中に多少は慣れたのか、マコトに軽く羽織るような服を渡す。
「ありがと。そっか、さすがにこれじゃまずいね。着替えてくるな」
 マコトは伊達から服を受け取りながらそう言うと、先に食べてて良いから、と言いながら控え室から出て行く。
 姿が見えなくなると柿沢はようやっと時雨の目を解放した。
「俺はダメで、なんで柿沢さんは見てもいいんですか」
 時雨の言葉に、僕はもう成人してるからね、と笑う柿沢。
「酷いですよ。もっと見たかったのに。あの胸‥‥」
 言いかけて何かに気がつき凍る時雨。
 後ろから冷たい声がする。
「ふーん、見たかったんだ‥‥ふーん」
 凍る空気。
 止まる時間。
 恐る恐る振り返る時雨。
 そこには、サンドイッチを抱えた恐ろしいまでに笑顔のパティの姿があった。
「ただいまっと。‥‥おや?」
 そして帰ってくるマコト。
 冷房の効き過ぎか、何故か冷たい部屋の空気に立ち止まるマコト。
 そのためパティとマコトが並んだ。
 先ほどの自分が言った言葉のせいか、一瞬、時雨の視線が二人のバストに行ってしまう。
 その一瞬を見逃さなかったパティは笑顔のまま呟いた。
「‥‥ふーん、そうなんだ」


●届かない書簡−伊賀越え
「家康殿。このまま、共に行動しておりましたら、追っ手の良い的ともなりましょうぞ。此処は別れて進むが宜しかろうと存ずる」
 穴山梅雪と名を変えた信君の進言に徳川家康はしぶしぶ頷く。
 二手に分かれることは理にかなっているとはいえ、見つかった時の危険は増大するのだ。
「‥‥ご心配めさるな。痩せても枯れたも、この梅雪斎不白、信玄公の下でその人ありと知られた武将。腕に多少の覚えもござる」
「‥‥わかった」
 家康が信君の言葉についに頷いた。
「では、家康殿。共に命があれば、また会いましょうぞ。御武運をお祈り致す」
「そちらも! 三河にて茶会の続き、楽しみにしているぞ」
 二手に分かれる徳川軍と穴山軍。
 別れた後、徳川一行の前に現れた忍の軍団。
 緊張する一行の前に、忍の軍勢の中から一人の女性が進み出、片膝をついた。
「我が名は服部半蔵が一人、服部半蔵長光。伊賀越えの道、我らが護衛いたしましょう」


 徳川の斥候となった忍が一人。
 山に住む娘に化け、決して軍属には見えない。
 しかし、そんな彼女が襲われていた。
「へっへっへ、こんな所歩いてちゃ危ないぜ‥‥俺たちみたいなのがいるからなぁあ!」
 賊と化した追っ手の一団に、有無を言わさず攻撃をされたのだ。
「っ!」
 刀を振るわれ、軽くない傷を受ける斥候。
 今反撃するのはたやすい、しかし、忍の技を使うことになり、それでは家康一行が近くにいることを認めたようなものであった。
 そのため、斥候は、徳川一行と真逆の方向に逃げた。
 ついに捕まるもその場所は崖の上。彼女が意図したとおりの場所だった。
 下卑た笑みを浮かべながらにじり寄る賊たち。
 ある者は服を切り裂くために小刀に手に持ち、ある者は自らの服を脱ぎはじめた。
 絶望的な状況の中、斥候の反撃が始まる。
 しばらくして、崖の上から斥候と賊の一人が落ちていった。

 追う者、追われる者、無関係な者すら巻き込まれる戦。
 追っ手の一団に加わった小雨も巻き込まれた一人だ。
「家康を討てば、みんな飢えなくてすむっ‥‥!」
 戦になれぬ女の悲痛な思い。
 彼らは、武士の一段を追い詰めていた。

「‥‥まさか惟任日向が裏切るとは‥‥何が起こるか分からぬものだ」
 追い詰められている中、逆に頭が冷えてくる。
 信君は、自らの人生を振り返っていた。
「‥‥考えても見れば、他ならぬこの儂が武田を見限り、信長公にお味方するような時勢だ。何が起ころうと不思議ではないと言う事か‥‥」
 しかし、彼の思考は追っ手の一人の言葉によって遮られた。
「徳川家康! 村のみんなのため‥お命、頂戴します!」
 彼らは、自らが家康と勘違いをしているようなのだ。
「我が身の不運と言うわけか‥‥」

 斬り合いが始まる。
 慣れぬ山で動きが鈍い穴山軍に対して、優勢にことを進める追っ手たち。
 そして乱戦の中、死角から放たれる避けられない突き。
「家康、討ち取ったり‥っ」
 それは、飢えなくてすむと言っていたまだ若い女の一撃だった。
「‥‥すまぬな、我は家康公ではない。我が名は穴山梅雪、別人よ」
 致命傷を受けても、反撃すべく刀を上げる信君。
 しかし、その女、小雨を打ちのめしたのは、刀の一撃ではなく、家康ではないという言葉だった。
「そんな‥私、何のため、に‥」
 先に倒れた女を見ながら、我が命も残りわずかだと悟る信君。
「‥‥これも主家を裏切った報いともでも言うのか‥無念!」


 狩人やきこりが使うはずの山小屋。
 しかし、その場所には今、明智に組する刺客がいた。
 毒殺を狙う一人の忍。
 山小屋で用意されたにしては豪華すぎる食事。
 それに警戒して、一口も口にしない徳川一行。
「どうなされた? ご気分が優れませぬか? 茶でも入れましょうか?」
 そう言い立ち上がる狩人に扮した忍。
 どさり。
 崩れ落ちたのは、徳川一行の中の一羽の鳥。
 毒見役として使われていたそれだ。
「くっ! 不慣れな山道、集落を襲うほどに困窮するおぬしらが、それほどまでに用心深かったとはな!」
 毒見役に見つかったと知るや、強壮丸を飲み自らを強化し、隠し持っていた剣を抜く。
「別人と間違えているのだろう、われらは山道とて、困窮しておりはせぬ」
 刺客を取り囲む徳川側の忍たち。
 その手にある飢渇兵糧丸を見て舌打ちする刺客。
「かくなる上は、わが手で家康の首!」
 立ち回る刺客。
 しかし、多勢に無勢、彼の剣が徳川家康に届くことは無かった。


 幾たび命を狙われたのか、それを思い出すことすら苦痛となった徳川一行。
 そして、気の休まらぬ日は、本日も同じであった。
 山菜取りに来ていた少女にすれ違う。
 そんな少女すら、一行はただの少女とは思えないほど、猜疑心の塊となっていた。
 しかし、その予感は的中する。
 すれ違いざまに杖に仕込んでいた刀を抜き、家康に飛び掛る少女。
 警戒をしていた一行の行動は迅速で一点の無駄の無い動きだった。
 唯一の問題は切り裂かれた少女がまだ動いていたこと。
 幾多の斬撃にも気を止めず、歩みを進める少女。
 一流の忍だった。
 彼女は自らの命と引き換えに、正面にいた徳川家康に致命傷を与える。
「‥任務、完了‥‥‥」
 崩れ落ちる少女。
 同じく倒れこむ家康。
 周囲の声が騒がしくなる。
 少女は薄れ行く意識の中、その内容は理解できず、ただうるさいと感じるだけだった。
「家康公の影武者がやられた!」


「ここは私が。長船、後は頼みます」
 伊勢越えの出口がようやく見えつつあるころ、一行は敵の集団に襲われていた。
 先に服部半蔵と名乗った女が窮地を救ったものの、一人では防ぎきれる数ではなかった。
 10人の相手に対し、自らを10人と増やし対抗する忍術も、相手が300人では自分ひとりが10になったところで足止めにしかならないのだ。
「‥しかし‥‥」
「いえ、これからはあなたが半蔵を名乗りなさい。さぁ、いきなさい、徳川様をお守りするです」
 服部半蔵を名乗った女。
 彼女の姿を見たものはこれが最後であった。
 しばらくして響く爆音、爆心地では大きなクレーターができていた。
 彼女は一人、300の敵に対し、最後まで勇猛に戦ったのだ。

 敵地にて主の帰りを待つ船。
 徳川一行がその船に乗り込もうとする時、追っ手が動いた。
 追っ手たちは乗船という無防備な瞬間を待っていたのだ。
 船に向かう刺客たちを見た一人の侍が船から降り立つ。
 全身に傷を負った彼は、自らが長くないことを知っていたのだ。
 彼は懇親の力を込めて舟を押し、船出を急がせる。
 彼の背に突き刺さる矢。
 振り返ると、先ほどの忍びが倒した数と同じ数がこちらに迫っていた。
「‥我が命もこれまでか‥‥」
 そう言い、ここ数日で多くの敵を切りすぎた刀を抜く。
「私はここで追っ手を打ちます。家康様、御武運を!」
 敵を見据え、振り返らずに言う侍。
 次々に突き刺さる矢、やり、刀。
 それでも彼は倒れず、主君の無事を守っていた。


 徳川の生還。
 多くの部下を失いながらも、三河本国に立つ徳川家康。
「多くを失った。部下も、友も、そして自らも」
 そう言い、天を見上げる家康。
「自ら、我が影も失った。‥‥しかし、それらの犠牲無くては僕が今こうしていることも無かったのかも知れんな」
 そういった後目を閉じる。
「いや、場合によっては、僕ではなく影が生き残っていたかも知れんな。‥‥いや止めよう、何にせよ、僕は生き残った。まずはこれからも生き延びる算段を考えるべきだ」
 家康は、まっすぐ自らの部屋に戻り、座るまもなく言った。
「服部半蔵長船‥‥状況の報告を」



スタッフロール一部抜粋
徳川家康‥‥伊達 斎
徳川影武者‥伊達 斎
服部半蔵‥‥富垣 美恵利
穴山信君‥‥烈飛龍
徳川軍斥候‥‥MAKOTO
徳川軍侍‥‥Rickey

追っ手の一人‥‥角倉・雨神名
刺客の忍1‥‥森里時雨
刺客の忍2‥‥パトリシア