七夕ライヴバトル南北アメリカ
種類 |
ショート
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担当 |
うのじ
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芸能 |
3Lv以上
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獣人 |
1Lv以上
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難度 |
普通
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報酬 |
不明
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参加人数 |
8人
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サポート |
0人
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期間 |
07/07〜07/11
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●本文
●7月のヴァニシングプロ
ヴァニシングプロは日本のロック系音楽プロダクションの最大手だ。ビジュアル系ロックグループ『デザイア』が所属している事から、その名を知るアーティストは多いだろう。
また、二代目社長緒方・彩音(fz1033)自らが陣頭指揮を執る神出鬼没なスカウトマンでも有名で、まだ芽が出ていないうちから厳選した若手をスカウトして育成し、デビューさせている。
「ささの葉さらさら のきばにゆれる お星さまきらきら きんぎん砂子(すなご)」
ヴァニシングプロの自社ビルから電車で10駅ほど離れた、下町の風情を残す商店街。軒を連ねる各店舗の店頭には、7月7日の七夕祭りへ向けて早くも竹をあしらった様々な七夕飾りが飾られている。
アーケードの一角で、アコースティックギターを片手に、童謡『たなばたさま』をロック調にアレンジして唄っている、1人の女性アーティストの姿があった。
「五しきのたんざく わたしがかいた お星さまきらきら 空からみてる」
夕方近い事もあり、親と一緒に夕食の買い物に来た子供や、学校帰りの学生達が足を止めて、女性アーティストの歌に聴き入っている。
「私の歌、どうかな?」
2番まで歌い終わった後、女性アーティストはギターを下げて感想を聞いた。童謡をロックで聴いたのは初めてという良い意見や、童謡は童謡のままの方がいいという手厳しい意見もあった。
でも、共通している事は、全員『七夕を知っている』という事だ。日本では当たり前だが、七夕はアジア圏のお祭りとされている。日本では盛り上がるだろうが、海外ではどうだろうか?
「よし、せっかくの『浴衣ライヴ』だ。七夕に合わせて、ライヴバトルで大いに盛り上げたいな。ライヴ用の浴衣はヴァニプロで用意するとして‥‥浴衣は『YUKATA』がいいな、それを報酬にするか」
女性アーティストは聴衆と手を振って分かれた後、すっくと立ち上がる。彼女は緒方彩音その人だった。スカウトの腕が鈍らないよう、彩音自身、アーティストに混じって路上ライヴをする事もあった。
今も路上ライヴをしながら、『浴衣ライヴ』の企画を練っていた。
●南北アメリカ
「さて‥‥七夕ですね」
カリフォルニア州ロサンゼルスから大陸中央へ車を走らせること約3時間。
周りにはガソリンスタンドがあるだけの何もないタダの道路。
そこに、ライブステージにもなるトレーラーが停車していた。
ここで、ライブを開こうというのだ。
勢い余って七夕ライブをする! とアメリカに来たものの、七夕が日本固有のお祭りであることに現場に到着してから気がついた、プロデューサー。
「場所は日本では考えられないほどの満天の星空の下のライブ会場を確保しましたし、夜の野外ということで、ちょっとややこしい法的な問題もなんとかなりましたが‥‥」
と言ってから、彼は大きなため息をつく。
「はい。問題は、七夕の知名度ですね。人が集まらないとどうしようもありません」
スタッフの指摘に、彼も頷く。
「そこで、決めました」
「何をですか?」
「今回のライブは、ここアメリカで、七夕の知名度を上げるところから始めましょう」
ものすごく気の長いような発言をするプロデューサーを、悲しそうな目で見るスタッフ一同。
「‥‥それで今回のライブ、間に合いますか?」
「それは‥‥最高のステージはあるんですし、きっとなんとかなるといいなと思っています!!」
自信たっぷりに宣言したプロデューサー。
彼の案は成功するのであろうか。
●リプレイ本文
●逢瀬へ出発
「おはようございます」
「あ、おはようございます」
望月の挨拶に答えたのは紅 勇花(fa0034)だった。
習慣とは恐ろしいもので、海外でもなぜか日本風に挨拶をしてしまう人たち。
「あれ? 勇花さん、男モノの衣装ってことは彦星役なんですね?」
望月が、首をかしげた後に言った。
「あ‥‥う、うん。‥いや、だってほら、僕って織姫って柄じゃないしさ‥‥」
変かな? と続ける勇花。
「変じゃないですよ。似合ってますよ。ね?」
立った今来たばかりのDESPAIRER(fa2657)に話しを振る望月。
「え? ‥‥なにがどうしたのでしょう?」
ディーの疑問には答えずに話を続ける望月。
「一応そっち系も寛容な国ではありますが、宣伝にもカメラがついて行きますので、あまり無茶なことはしないでくださいね?」
「んなっ。僕はそういうのじゃっ‥」
否定する勇花と、頭にハテナマークが浮かんだままのディー。
「わかってます。冗談です。撮影スタッフがついているので、困ったことがあったら言ってくださいってことです。ディーさんが会話できるそうなので、大丈夫だと思ってますけど」
「そんな‥日常会話、程度で」
謙遜するディー。
「大丈夫。それで十分ですよ」
三人が会話している間に、他のメンバーも揃った。
「あれ? 環さん、男モノの衣装ってことは彦星役なんですね?」
望月の言葉に、既視感、と呟く勇花。
「‥‥俺、男ですから」
「大丈夫。乙姫も似合うと思いますよ。ね?」
望月の言葉に頷く人たちを見て、現実から目をそらす仁和 環(fa0597)。
そんなまきを今回のパートナーの七瀬紫音(fa5302)が肩をポンと叩く。
「まぁ、冗談は置いておくとして、短冊など用意して車に積んでおきました。運転と撮影はスタッフたちが同行するので、心おきなく宣伝をお願いします」
望月の言葉に、よい返事をし、散っていく芸能人たち。
ライブ当日に客集めという暴挙に、打ち勝つことが出来るのだろうか。
●危険との逢瀬
最初は皆で一緒に宣伝をしていた一行。
しかし、ギターをもった勇花とディーペアが最初に皆と離れると、他の組も次第にそれぞれで別々の場所に散らばっていった。
そのうちの1組は、慧(fa4790)とラシア・エルミナール(fa1376)だ。
大きな笹を担ぎ、短冊を回していくケイ。
その横では、ラシアは、組を越えての宣伝をしている。
「いいんですか? 他の組のも宣伝しちゃって」
「いいんだよ。自分たちが気に入られるってのも大事かもしれないけどさ、それよりも、みんなが楽しんで、あたしが楽しめるのが一番だし」
ラシアの言葉に頷くケイ。
「そんなことより、ほら、みんなに説明。頼むよ」
ラシアの言葉に再び頷くケイ。
ケイは、ミルキーウェイで年に一度だけ会える恋人達に願掛けをするお祭りとの説明を周りにしていく。
そして、願い事を書く短冊を渡していくと、ケイはある事を尋ねられる。
「え? 僕の恋人と願い事はあるのかって? それはあ‥‥」
「危ない!」
とっさにケイを引っ張るラシア。
その目の前を猛スピードのスポーツカーが通り過ぎていった。
「あれは‥‥日本車? しかも超プレミアムのコスモスポーツ‥‥」
「大丈夫だった? まったく、気をつけないとね。日本と運転のルールが違うんだから」
「あちらには環様と紫音様がいらっしゃるようですね」
その頃、別の場所では、雛姫(fa1744)がペアの栄里森 圭汰(fa2248)とのんびり会話していた。
近くでは、まき、シオ組が宣伝をしているらしく、お客さんはそちらの方に取られてしまっているようだった。
「そうだね。すごい人気みたい」
ジャパニーズギター、オリエンタル、ファンタスティックなどの客たちの感嘆の声がちらほらと聞こえてくる。
その視線は次第に圭、ひなにも向けられるようになり、今回の趣旨を尋ねてくる人たちがでてきた。
どうやら圭の芸能人オーラの薄さが逆に親しげに声をかけやすくなっているようだ。
「はい。いえ、野球のオールスターの観戦に来たわけではなくて‥‥はい、そうですね。私も素晴らしい選手だと思います」
「‥‥ここに願い事を書くんです。流れ星に願いを言うのと同じ、かな。うん。そう、英語でも大丈夫ですよ」
「はい。今宵、日本の星伝説、七夕をモチーフにしたライブが行われます。ベガとアルタイルの恋の行方が知りたい方は是非会場へおこし下さい」
日本の企画と言うことで、中には関係ない事を言う人もいたが、それらにも律儀に答える二人は着実に宣伝を成功させていくのであった
皆の思い思いの宣伝。
その甲斐あって、入場券は驚異的な速さで減っていった。
●ライブでみんなと
夜、野外ステージに光が灯る。
舞台の袖の左右には、昼間に集められた多くの願いが飾られている。
そして、願い以上に多くの人が集まっていた。
昼間観たそのままの人たちがライブをやるということで、日本マニア以外にも、その時にファンになった人たちが大勢やって来ていたのだ。
最初に登場したのは、ディーと勇花のペアだった。
ゆったりとした曲調のバラードには『Pica pica』という曲名がついている。
一年に 一度だけの 七夕の夜
一日ごと 指折り待つ 二人出会える日
しっとりとした歌声にわき起こる拍手。
歌詞が分からないとはいえ、ディー歌唱力と勇花のギターは言語の壁を越える。
無情の雨は 時を選ばず 冷たく降りしきり
あまりに深く あまりに速く 河は流れゆく
そしてその後に続く『Pica pica』のサビ。
帰り道に、ぴかぴか、と呟く人たちが多く見かけられたのは、歌と曲、そして分かりやすいフレーズだったからだろう。
集客という点では及ばなかったものの、ライブ後の印象という点では、非常に印象深い曲となった。
2番目の登場は、まきとシオのユニット『天河〜TENGA〜』。
1曲目とは違いアップテンポの曲、『星一夜』が歌われる。
薄暗くしたステージの上を照らすのは、本物の星たち。
悠久の刻の中 一夜限り赦された逢瀬
君の「貴方の」いない世界
愛しさだけが生きる糧
刻の彼方の罪ゆえに 引き裂かれた指先
見えぬ絆を信じ 一年(ひととせ)経て廻り逢う
激しい演奏の中にまきが奏でる聞き慣れない音色が客の雰囲気を盛り上げていく。
そして、曲の最高潮でゆったりめとなった曲は、静かに余韻を残していった。
愛し過ぎた罪 それでも魂(こころ)が君を呼ぶ
いつか永遠を夢みて 今宵は腕の中
君の柔らかな温もり感じ 囁く我愛称
朝陽よあと少しだけ 眠っていて
ラシアとケイ、海外へ次第にその歌声が認知されつつあるグループの1バージョンとでも言うべき『flicker〜S〜』の名は観客の期待を大きく高めていた。
『星の河』と題したその歌が始まると観客は一斉に沸き上がる。
果てしなく広がる あの星の激流は
愛し合う二人を引き離し『流れている』
「流れ流れる河は 途切れることなく」
『二人の輝きさえ押し流して続いていく』
二人の歌声が重なり合い、エレキギターの響きが星空の流れと、キーボードの音色が星たちの煌めきとリンクしていく。
「琴奏でて機織り待ち続けている」
『愛し愛された星 12の星座巡る日まで』
そばに抱き寄せて
このまま見つめていたい
ケイとラシア、二人の目線が絡まり合い、静かに手が結ばれていく。
ラシアの身体が星々に流されるように、ケイの元へ、近づいていった。
天の河に対する想い、それは最後まで、二人から聞こえてくる『Milky Way』の歌声が語っていた。
ユニット名『STARGAZER』、ひなと圭のユニットが、舞台の最後を飾った。
真っ先に感じるのがフルートが奏でる澄んだ音色。
今までの胸の高まりを押さえ、且つこれから歌われる歌へ、落ち着いた心で期待をおこさせる不思議な音色。
そこへピアノとドラムのクラッシックを残したロック感を感じさせる前奏が流れる。
『星祭り』の歌が始まった。
昔々に起こった出来事
伝説の神々の時代
美しい織姫(ベガ)と
勇敢な彦星(アルタイル)が
お互いに恋をした
ベガとアルタイル、どちらも言われなければ気がつかない星。しかし、圭とひながそれぞれを指さし、満天の星空に輝く二つの星を祝福する。
天の河の流れが聞こえてくるようなチャイムの音。
密かな願いを歌声(うた)にこめて 愛する君に捧げましょう
この想いが 川のむこうまで届きますように
希望の祈りを旋律(おと)にのせて 愛する君に贈りましょう
この想いが 時のかなたまで響きますように
愛する二人の想いを受けたかのように、見つめ合うひなと圭に観客は引き込まれていった。
●織姫と彦星の逢瀬
ステージの終わりを告げられるも、客席からはアンコールの声が響く。
そんな中、プロデューサーの望月がまき、シオの二人に声をかける。
「二人とも、この特別衣装に着替えて! お客さんたち、二人を見に来た人が多かったんだ、ほら早く!」
二人に用意されたのは、天の羽衣を連想させるきらびやかなドレスと、牽牛をイメージさせる浴衣。
特別に用意されたその衣装に身を包んだシオ、まきの二人がステージに降り立ったとき、観客たちの一番大きな拍手がわき起こった。
終わりたくないライブ。
『天河〜TENGA〜』が歌う歌のように、朝陽が昇らぬように、時が止まるのを望むかのような観客たち。
その後、ライブは3度のアンコールを迎え、全ての織姫と彦星、そして観客たちは星降る夜に感謝し、二つの星の幸せを願ったのであった。