届かない書簡−最終回アジア・オセアニア

種類 ショート
担当 うのじ
芸能 3Lv以上
獣人 1Lv以上
難度 やや難
報酬 6.9万円
参加人数 8人
サポート 0人
期間 09/27〜09/29

●本文

 心しらぬ人は何とも言はばいへ 身をも惜まじ名をも惜まじ


「おはようございます」
 元気のいい柿沢天昇の挨拶。
 数ヶ月の間ずっと続いていた日常。
 しかし、それもついに終わることになった。
 届かない書簡の最終回。
 ついに明智光秀役のカッキーが倒れるからである。
「寂しくなるわね」
 衣装を着せながらスタッフが言う。
「何言ってるんですか。これからですよ、これから」
 カッキーが笑いながら続ける。
「最後に大きな花火をぱーと打ち上げるんですから!」


「何故返事が来ない?」
 明智光秀が怒鳴る。
 援軍を求めた先からの色よい返事が無かった。
 誤算に続く誤算。
 そのため、自軍の戦力1万6千。
 自らが考えていたものの半分以下だ。
 対する羽柴秀吉の軍は3万6千に膨れあがっていた。

「何故返事がない!」
 怒鳴ったのは、羽柴秀吉。
 同じ時にそれぞれの大将が同じ事を怒鳴っていた。
 秀吉は再三、光秀に投降をするように書を送っていた。
 しかし、その書状は光秀には届いていなかったのだ。
 使いの者が謎の死を遂げていたのだ。
 
 二人の大将の思惑とは裏腹に事態は進んでいく。
 山崎の合戦、そして、その知らせを聞いた勝竜寺城の攻囲。
 全てが決したかに見えた。
 しかし、鼠一匹すら逃さないと思える攻囲を明智光秀はくぐり抜けた。
 その知らせを聞いた秀吉は、追わなくても良いとの命令をする。
 明智光秀は無事に逃げ、彼の人生はまだ続くと思われたのだが‥‥‥‥。


 『届かない書簡』とは、本能寺の変から明智光秀の死亡までの11日間にスポットを当てた連続ドラマである。
 このドラマの特徴は、武将、名も無き兵士、そして忍びの者と言った様様々な々な人物が戦場で散りゆく、その場面が主に描かれることである。
 第四回目である今回の舞台は、山崎の合戦、及び、勝竜寺城からの脱出。
 この地で、明智光秀はついに命を落とすことになる。

●今回の参加者

 fa0378 九条・運(17歳・♂・竜)
 fa0431 ヘヴィ・ヴァレン(29歳・♂・竜)
 fa1338 富垣 美恵利(20歳・♀・狐)
 fa1463 姫乃 唯(15歳・♀・小鳥)
 fa2002 森里時雨(18歳・♂・狼)
 fa2657 DESPAIRER(24歳・♀・蝙蝠)
 fa3678 片倉 神無(37歳・♂・鷹)
 fa3800 パトリシア(14歳・♀・狼)

●リプレイ本文

●届かない食事−飲まれるもの
「緑茶がヘヴィ、コーヒーが神さん、紅茶は美恵利‥‥どうだ?」
 そう言いながら九条・運(fa0378)が一人一人にカップを渡す。
「最後の答え(見えないルビを読んでください)?」
「ああ、最後の答え(見えない以下略)!」
 落ちる沈黙。
 そして、息を吐いた片倉 神無(fa3678)が告げる。
「正解だ」
 誰が何を飲むかを当てるだけのゲーム。
 出番のない時というのは、台本を読んで台詞や動きを覚えるか、遊ぶかしかなく、たまにどうでもいいことが娯楽になったりもする。
「ま、冷めないうちに飲もうぜ」
 ヘヴィ・ヴァレン(fa0431)が、持ってきた茶菓子をテーブルの上に置きながら言う。
「あら、美味しそう。わたくしも差し入れを持ってきたのですが、これは後に出すことにしますね」
 富垣 美恵利(fa1338)はそう言うと、ヘヴィが持ってきたまんじゅうを一つ手に取る。
「それがいいだろうな。なんか、某青春真っ盛りが鍋をやるって意気込んでたから、まともな食べ物はそれまで残しておいた方が良いな。保険のために」
 神さんは美恵利に同意した後、クイッとコーヒーを煽る。
「おい、それ、今煎れたばかり!」
「!!」
「あ、熱くないですか? 片倉さん」
 慌てる三人とは正反対に、動じない神さん。
「‥‥大丈夫だ。しかし、遅いな、鍋。ちょっと様子を見てくる」
 そう言うと、神さんは立ち上がり、部屋から出て行く。
 しばらくして、ヘヴィが言った。
「あれ、無茶苦茶熱かっただろ? 出て行くときにペットボトルを取った手、震えてた気するんだが」
「‥‥沸騰してすぐだったからな」
「えーと‥‥大丈夫、なのでしょうか、ほんとうに」
 二人のやりとりを聞いて困り顔の美恵利。 
「‥‥少し、冷ましてから飲むか?」
「そうですわね」
 目の前のカップを見ながら頷き合うヘヴィと美恵利。
「あ、そうですわ。九条さんのお飲み物、何にします?」
 美恵利に聞かれ、初めて自分の飲み物がないことに気がついた運。
「そうだな、俺は‥‥火傷しないやつならなんでも」


●届かない情熱−うたれるもの
「み、な、ぎってきたー!!!!」
 森里時雨(fa2002)の絶叫。
「チリを喰らう! と言っても共和国を食べるのではなく、ましてやチリ人をいただくなんて大人な展開ではない! いや、確かにその後に広がるアバンチュールな日々とふくよかな胸元に憧れがないというわけではないが、今回のチリは、チリペッパーのチリであるからして、もし、飛び込もうものなら、激烈的な辛さが俺の身体を包むことになる! そう、全てを辛く、辛く 辛く! つらいという字が辛いと書くのも何かの縁に違いないわけで、つらい日々に最適なチリソースが今、目の前に広がっている! 面子的に行われるであろう闇鍋開催の予感に身を任せた俺、卵が固く茹ってようが、豊胸の適わぬ望みを託した牛乳鍋だろうが、味はすべて激辛に! 全てを辛く! 辛い日々に乾杯! とか言いつつ酒は飲めない俺が、今、つらいと言ったのか、からいと言ったのかは、俺のみぞ知るのである!」
 びしぃっ! と後ろに指を突きつける時雨。
 後ろにあったのは、重ねられた弁当と、その左右にたたずむパトリシア(fa3800)と姫乃 唯(fa1463)。
「‥‥鍋は?」
 時雨の言葉に答えたのは、ユイだった。
「ないけど?」
「なんでっ?!」
「なんでって言われても‥‥」
 訳が分からずに困り出すユイ。
 そして、時雨は思い出した。
「あー! 番組間違えた!」
「‥‥お芝居の練習じゃなかったんだ。一生懸命観てて損しちゃったかな」
 ユイが何とも言えない表情でパティを観る。
 しかし、パティは、時雨の奇行はどうでもいいようで、一人、呟く。
「‥‥ミツ×ヒデ‥‥いや、これはだめよ! そんなの認めないわ!」
「みつひでさん、NGですか?」
 時雨から撮影現場へ、視線を戻すユイ。
 しかし、撮影の方は順調に進んでいるようで、首をかしげる。

 しばらくすると、撮影が終わり、柿沢天昇がDESPAIRER(fa2657)と、帰ってきた。
「あ、おつかれさまです」
「ありがとうございます」
 ユイの労いの言葉に、ディーが答える。
「‥これで、夫役の光秀さんとのシーンが全て撮り終わったんですね」
「そうですね。お疲れ様でした。まだ個々のシーンは残っていますけど、一緒に、はもう無いですね」
 ディーに頭を下げるカッキー。
「いえ、こちらこそ。でも、煕子さん、悲しい、でしょうね。‥私だったら、最期に、側に、いてあげたかったと、思います」
「そうかもしれないですね」
 頷くカッキーに、言葉を続けるディー。
「私は、愛する人とずっと、一緒‥に‥‥あ、す、すいません」
 何故か急に我に返り謝るディー。
 それを観たカッキーが話題を変えた。
「そう言えば、みなさんは何をしていたんですか?」
「あたしはお芝居の参考に見学だよ」
「俺は、鍋を作りに‥‥そうだ! ここには鍋がなかった! パティ、俺はどうすればいいんだ?!」
 未だに遠い目をして考え込んでいるパティを揺する時雨。
「え? あれ? みなさん、いつの間に、居たんで‥‥」
 揺すられて気がついたパティの声が止まった。
 パティの視線は、肩と胸の丁度微妙な境界線にある時雨の手。
「待て! 違うんだ! 胸とかそう言うんじゃなくて、純粋に肩と間違えただけで!」
 胸と肩を間違えた。
 その一言が、全てを決定づけた。

 しばらくして、神さんが部屋に入ってきた。
「おい、鍋はって、どうしたんだ、これは?」
 大惨事となった部屋と時雨、そして肩で息をしているパティを観て動きを止める。
「うわー、凄い血糊ー!」
 シャラン、シャランと携帯で写真を撮るユイ。
「本当に‥血糊ですか?」
 ディーが珍しく突っ込んだ。
 神さんの存在に時雨が気がつく。
「あ‥‥」
「‥‥いや、お前が悪い! 諦めろ」
 神さんの言葉に、時雨が崩れ落ちた。


●届かない書簡−討たれるもの
 合戦場から離れた場所で行われた戦闘。
 最後に届かない手紙はここにあった。
「貴様ら、ただの土民ではないな?!」
 槍を持った集団に囲まれた一人の男。
 菅沼と呼ばれている彼が、最後の手紙をもっていた。
 想像以上の劣勢になってしまった明智軍の希望の光を。
「くっ!」
 菅沼の刀が、敵の一人を袈裟懸けに切り裂くも、逆に菅沼の腕に鈍い衝撃を受ける。
 切り裂かれた服から覗いたのは、血ではなく、鉄の帷子。
 先ほどの菅沼の言葉を肯定するその武装は、それ以上に、残酷な事実を伝えていた。
「もはや、願いは叶わぬということか‥‥天下泰平は遠くなるのか‥‥」


 暗闘が繰り広げられている中、表舞台でも多くの命が失われていた。
 山崎の地で、仁王立ちする一人の男。
 鎧には多くの傷。そして、兜はすでに無く、髪が背中に垂れていた。
 必死に自らに与えられていた戦場を守っていた、御牧兼顕、その人である。
 しかし、他の隊が破れ、敵軍がこちらに向かってくるのを観たとき、もはや守りきれぬ事を悟る。
「流れは羽柴の側に乗ったか‥」
 自軍の、一番怪我か軽い兵を一人呼び止める兼顕。
「このままでは本隊が総攻撃を受けるのは必至。故に、光秀様にこう伝えよ。『我討死の間に引き給え』と」
「そ、それは‥」
 その言葉に驚く兵を一喝する兼顕は全軍に号令をかけた。
「怯むな! 光秀様撤退の為、一秒でも多く時間を稼げ!」
 左右、そして前方、全ての咆哮から突撃してくる敵軍に対して、巨大な鉄棒を振り回し、構える兼顕。
 その姿は戦場に飲み込まれていった。


 明智軍、撤退。
 山崎の合戦は、明智軍の敗北に終わった。
 明智本軍は勝竜寺城に撤退を始める。
 そして撤退のために更なる犠牲が必要だった。
「光秀様! ここは私に任せてください!」
 誰かの犠牲がなければ、敵に追いつかれてしまう。
 それを皆が知っていた。
「わかった。先に行く。後ほど合流しようぞ」
 光秀が若き兵に声をかけ、肩に手を置く。
「はい、すぐに参ります」
 一行から別れた彼は、刀を構え、敵の到着を待つ。
 全ては自らが望んだこと、悔いはなかった。
「光秀様! 御武運を!!」


 数多の犠牲を出しながらの撤退。
 しかし、たどり着いた勝竜寺城も明智軍が安住できる場所ではなかった。
 鼠一匹すら通り抜けないのではないかと言われるほどに厳重に囲まれた勝竜寺城。
「最早ここまでか‥‥」
 兵の戦意は無惨にも落ち、陥落の時が目の前だった。
 そんな中にあっても『明智光秀だけでも、脱出させたい』との思いを抱く忠義の者たち。
 彼らは、その願いを伝え、答えを聞かず敵陣へ切り込んだ。
「まだ終わった訳ではない! 覚悟!」
 夜半、城正面から打って出る兵士たち。
 敵軍に到着するまでに、半数が鉄砲で撃たれて倒れた。
 残った半数の内、更に半分は敵の槍に突き刺された。
 最後の四分の一が、敵軍に到着し、鬼神のごとく刀を、槍を振るう。
 しかし、多勢に無勢。
 最後の一人が槍に貫かれる。
「明智殿‥‥御武運を‥‥」
 この騒ぎのおかげで光秀は脱出することが出来た。
 この戦の中において、唯一の明智軍の勝利だった。


 場所は変わって、燃える坂本城。
「まさか己の手で、明智家の幕を引く事になろうとは‥‥な」
 呟いたのは明智軍の臣下の一人、明智秀満。
 そして、彼の前には、光秀の妻、煕子の亡骸があった。

「‥‥今なら、今ならひょっとすれば落ち延びる事は可能」
 秀満の言葉に首を振る煕子。
「私とて明智家の女‥‥こうなった時から、すでに覚悟はできています」
 重い覚悟、それは秀満にも見て取れた。
 しかし、そうさせないために、秀満はここ坂本城に来たのだった。
「本来なら潔くされるが必定‥‥だが出来る事なら‥‥」
 しかし、煕子は首を振った。

 その結果、目の前に、主の妻が亡骸となって倒れている
 主人の名を呟きながらの最後であった。
 そして、我が身の死も、また、近づいていた。
 燃える火が、自らを焼き尽くそうとしていたのだ。
 妻子を殺した自らに主の名を呼ぶ権利など無い。
 そう思い、静かに、その時を待つ秀満であった。


「あんた?」
 田んぼに一人立つ、女性がいた。
「あんたー? お茶がはいったわよー」
 大きな声で叫ぶ彼女は、旦那を捜しに森の中へ歩く。
 先ほどまで、確かに田んぼ仕事をしていたはずなのだ。

 勝竜寺城から脱出した光秀。
 わずかな護衛に囲まれながら、向かう先は、安土の城か、妻子の待つ坂本か。
 ともかく遠くへ逃げなければならなかった。
「ふぅ。ここまで来れば、何とか大丈夫であろう」
 偽りの安堵感が一行を包む。
「ん?」
 下を観ていた光秀が、自らの影が大きくなっていく事に気がつく。
 その理由に気がつくのに、0.5秒。
 上を向くと、敵の槍がすでに迫っていた。
 竹槍を持った刺客。
 彼は、竹を利用して頭上から迫っていたのだ。
 竹のしなりを弓として利用し、自らを矢とした決死の一撃。
 それが、上を向いた光秀の腹を貫いた。
「我こそは小栗栖の中村長兵衛! 京都所司代村井貞勝様の仇、討ち取っ‥‥」
 名乗りを上げる刺客。
 その名乗りは最後まで言うことは出来なかった。
 彼の首が飛んだからだ。
 そして、そこに上がる大きな悲鳴。
 一時とはいえ、夫婦となった相手が斬られている。
 そのことに驚きの声を上げながらも、一歩も動けないでいるのは、先ほどの田んぼにいた女性だった。
「貴様も仲間か!」
 そして彼女のまた、光秀の護衛に、容赦なく切り捨てられる。
 中村長兵衛とその妻、明智光秀を討ち取ったと言われている二人の最後であった。

 程なくして、致命傷を負った光秀も自刃し、ここに、明智光秀の11日の天下は終わった。
 その後、天下は、羽柴の、豊臣の時代へと移り変わっていくのである。



スタッフロール一部抜粋
明智光秀‥‥柿沢 天昇
煕子‥‥‥‥DESPAIRER
明智秀満‥‥片倉 神無
御牧兼顕‥‥ヘヴィ ヴァレン
明智軍兵士1‥‥パトリシア
明智軍兵士2‥‥姫乃 唯

菅沼某‥‥‥森里時雨

中村長兵衛‥‥九条 運
中村長兵衛の妻‥‥富垣 美恵利



●おまけ
「『お疲れ様でしたー』」
 全ての撮影が無事終了し、スタジオはお祭りムードになった。
 様々なスタッフが抱き合ったり、握手をしたり、飛び上がったり。
「おつかれさまでした」
 カッキーが全員に握手をして回っていた。
「おつかれさまでした。この後、柿沢さんがおごってくれるわけですね。きゃー、嬉しいですわぁ」
 にっこり笑って握手した手を離さない美恵利。
「ありがとう、カッキー」
「カッキー、ごちそうさま」
 逃げ場のないことを悟ったカッキーは、自分より年上の人間を巻き込もうと声をかける。
「ヘヴィさん、片倉さん、ご一緒にどうですか?」
 しかし、年上というのは、人生経験が豊富という意味でもある。
 つまり、逃げ方を心得ているのだ。
「お、そうか? 柿沢、悪いな。ごちそうさま」
 笑顔で答えるヘヴィ。
 その後、行われた打ち上げ会は、スタッフ主催の1次会だけではなく、4次会まで続いたのだった。
 もちろん、カッキーの全て奢りで。