Beast Dawn −RSアジア・オセアニア

種類 ショート
担当 うのじ
芸能 3Lv以上
獣人 1Lv以上
難度 難しい
報酬 7.2万円
参加人数 8人
サポート 0人
期間 10/03〜10/05

●本文

「正気ですか?!」
 番組趣旨を聞いたときのスタッフの反応だ。
 音楽番組『Music War』。2つのチームに分かれて行われる音楽番組。
 言ってみれば性別関係なしの年末歌合戦だ。
 その最終回のテーマが、『獣人』だったのだ。
 とはいえ、それは隠された裏のテーマ。
 表向きのテーマは、『なし』となっていた。
「まぁ、気がつかない人は、早めのハロウィンだと思ってもらえると思いますよ」
 答えたのは番組プロデューサーの望月だ。
「それにしても‥‥‥‥」
「言いたい事は分かるんだ。でもさ、これから、NWの大きな事件が起こるたびに、全てを隠しきれると思う?」
 望月の言葉に、沈黙するスタッフ一同。
「別に、この番組で獣人について公表するつもりはないよ。ただ、今回の番組に半獣化とかして参加して貰えれば、徐々に土壌が出来ていくんじゃないかと思って」
 望月は、最後に、別に自棄になってるわけじゃない、と続ける。
「‥‥わかりました。でも、もし参加アーティストたちが半獣化を嫌がったら?」
「その時は諦めるよ。押しつけることは出来ないし、芸能生命を100%保証できるわけじゃないし」


「今回の観客たち、レベル高いらしいな?」
「そうなのか?」
「らしいぜ? 演出とか重視しないと見せかけて、トータルで観る人が多いんだってよ」
 廊下を歩きながら話しをしているのは番組司会者の二人。
「なるほどね。そう言うのってどうやってわかるんだ?」
「なんか、アンケートとってるらしい」
「へー」
 そんな会話の後に、二人の足が止まる。
 右と左の陣営に別れるためだ。
「‥‥さて、今回、俺は負ける気はないぜ?」
「当然、俺もだ」
「この試合が終わったら、番組改装らしいからな。次が来るまで長いわけだ」
「‥‥そうだな」
 頷きあう二人。
「負けた方が、番組後の打ち上げの2次会持ちでどうだ!?」
「‥‥それ、家族持ちで小遣いもらいの俺の方が不利じゃないか?」
「負けなければいいんだぜ?」
「‥‥ようし、わかった。後で泣いてもだめだからな」
 別れる二人。
 決戦の時は間近だ。

 コロシアム風のスタジアム。
 そしてそこに集った観客たち。
 スタジアムに光が当てられ、背後のスクリーンに映し出されるアニメーション。
 古代ヨーロッパをイメージさせるコロシアムの中で、チェスに出てくるような兵士たちがその場に集いあう。
 兵士らは白きギタリストやキーボード弾き、黒きドラマーや歌い手となり、回線の合図を今か今かと待っていた。
 睨み合う二つの陣営。
 浮かぶ二振りの剣と一本のギター。
 そこに『Music War』という番組タイトル、そして、今夜のテーマである『at Free』が加わる。
 そして、司会者の二人が、それぞれ白の陣営、黒の陣営として、登場し、開戦の合図を告げた。

「ここにいる全てが俺たちの味方だ! 全力で行くぜ! 最強のステージで、最高のライブだ!」

●今回の参加者

 fa0379 星野 宇海(26歳・♀・竜)
 fa1851 紗綾(18歳・♀・兎)
 fa2495 椿(20歳・♂・小鳥)
 fa2657 DESPAIRER(24歳・♀・蝙蝠)
 fa4559 (24歳・♂・豹)
 fa4657 天道ミラー(24歳・♂・犬)
 fa5307 朱里 臣(18歳・♀・狼)
 fa5316 希蝶(22歳・♂・鴉)

●リプレイ本文

●戦の前に
「おはようございます」
 番組司会者の下田が声をかける。
 あまり丁寧な言葉遣いをしない彼だが、この言葉だけは最後まで言って一つの単語なのだ。
「おはようございマス。お久し振りデス下田サン!」
 天道ミラー(fa4657)が元気な声で応える。
「おー、元気いいな。気合い入ってんなー!」
「もちろん! 見てよ、この素早い身のこなし!」
 シュシュと腕を振るうミラー。
 その腕の振りは常人の目には捉えきれないほど素早い。
「すげーな。必殺、高速お手!」
「必殺なのっ?!」
 そんな会話をしている二人だが、普段とは違う違和感があった。
 違和感とは、二人の頭の上に獣の耳が生えていること。
 今回は、半獣化して舞台に臨むことになっているのだ。
 そんな中、やはり半獣化した希蝶(fa5316)がやってくる。
「おはようございます」
「おはようございます。会うの初めてだな、よろしくな」
 応える下田の頭を見て蝶が言う。
「下田さんは猿‥‥やっぱり尻赤いの?」
「‥‥」
「‥‥」
 いきなりの質問に黙り込む下田とミラー。
「あー、あー、なるほど。そうか。お前、そっち系か! 悪いな、『やらないか?』系は俺の守備範囲じゃないんだ。俺は女の子専門だからよ」
「あれ?」
 反応しきれなていない蝶の隙を突いて、逃げ出す下田。
「そうだ。女の子と言えば! 突撃、隣の控え室! セクシーなハプニング、ゲットだぜー!」
 走りながら、不穏当な言葉を吐く下田。
 その言葉を聞き、慌ててミラーが止めに走った。

 思わず聞き惚れてしまいそうな鼻歌が聞こえるとある控え室。
 ノリノリで歌を歌っているのは紗綾(fa1851)。
 さーやの前に座っているのは朱里 臣(fa5307)。
「ふわふわですねぇ〜」
「ありがとう、紗綾ちゃん。編み込みって大変なのに」
「そんなことないよ」
 シンの言葉に首を振るさーや。
 尻尾のブラッシングも終わり、今はさーやがシンの髪を編み込んでいる最中なのだ。
 静かで幸せな一時、それは長くは続かなかった。
「おぉっと、部屋を間違えたー」
 あからさまに胡散臭い声が響きながら開かれる扉。
 扉を開いたのは当然、下田。
 後ろからは、ダメーと言いながらミラーも追いかけてきていた。
「うわ、嘘つきが来たー」
「だめだよ、勝手に開けたらー」
 シンとさーやが口々に下田を非難する。
「ちぇ、なんだ。着替え終わってやがる」
 酷い言葉を呟きながら、ごめんごめん、と謝る下田。
 しばらく、冗談のような本気のような言い合いが続いていたが、ふと、さーやが下田の格好に気がつく。
「下田さんも獣化するんだ。じゃあもっちーさんもするのかな?」
「んー、それは俺も聞いてないなぁ。っていうか、しないじゃね? あの人、表に出ないし」
 下田の答えにガッカリするさーや。
「おいおい、テンション低いぞ? 大丈夫か? 本番目の前なんだからな」
「分かってる。大丈夫だよ。気合い入れていこう! ね? みんな」
 シンの言葉に頷きあう一同。
「よーし、それじゃ、えいえいおー!」


●DIVA『BestialeAria』
 さーやが奏でるバイオリンの音色は静かに響いていく。
 ステージに漂う雲、に浮かぶその人影が、人にあるはずのない翼を大きく広げる。
 翼を広げたのは、中央に座し、竜の女王に扮した星野 宇海(fa0379)だ。

夜に住まう獣達の宴が
今、静かに幕を開けようとしている

我は問う 幸福の在り処を

 参加者8人全てが揃い、それぞれの演奏をこなしていく。
 そしてDESPAIRER(fa2657)が歌い、言葉を紡いでいく。
 星海も、それに答えるかのように歌う。
 
彷徨い揺らぐ風に抱かれて
耳を澄ませば聞こえてくる
『夕闇世界の奥深くにて
誰かが願う祈りの歌が』

我告げる 時は来たれり

 星海のこの一言を合図にして、曲が踊り狂う。
 とまどい、その末に暴れ出したかのような圧迫感。
 まるで音に溺れそうな響き。

人の目気にして俯き歩き
偽りを纏うのは終わりにしよう
『闇の中でも煌めく世界を
ただあるがまま感じたいから』


生きる事は 罪ですか
望む事は 許されますか

例え全てが罪であろうと
恋する想いは許してほしい

自由を求めて獣達は終わらない夢を見る

 歌の終りと共に止まる演奏。
 花吹雪が舞台に舞い、響く鐘の音。
 最後に星海が宣言をした。

生を刻む 錆び付いた歯車が
今、再び動き出した−


●High Black『MASK』
 黒ずくめの三人。
 椿(fa2495)と笙(fa4559)と蝶。
 それぞれが翼を羽ばたかせ、獣の耳を、尻尾を動かしながら、舞台に残る。
 彼らが歌う歌は、激しいロックだった。

起こるべくして起こる事象
先読み鴉が隙狙い 鋭く瞳凝らす
『ImitationでもRealでも 光放てばソレでいいのさ』
どうせ本物見抜く目なんて 誰も持ちはしない

承りましょう身に余る光栄
余り過ぎてNo Originality パターン物真似オウム
『あやふやな言ノ葉紡ぎ 虚夢(そらゆめ)世界を漂う』
真実見抜いてくれる誰か 無意識に探しながら

 三人の激しいロックに合わせたソロやパフォーマンス。
 その中で、笙が激しいアクションを魅せ、会場が沸いた。

仮面の下獣隠し 平々凡々生きるも人生
「だけど」
転ばぬ先の杖 偶にはへし折りたい
喉元に爪突きつけて イイヒトやめてもいい?

『Like beast』 仮面をつけた獣達
闇の中手探り 何を求める
『Lier beast』 本音晒すは苦渋の世
光の中眩しくて 瞳逸らす

「結びは無く 往く路は一方通行 駆ける抜ける花道 問うは一度(ひとたび)」

 最後に、三人が一つの疑問を投げかけた。

『Do you wanna MASK?』


●Fread「Beasts Inside」
 今までバックでドラムを叩いていたシンがさーやと変わった。
 演奏を続ける『High Black』からバトンを受けて、ステージに立ったのは、 蝙蝠の女王と、その忠犬の2人。
 ミラーとシン、そして、DESPAIRER(fa2657)の周りを赤いレーザーライトが回る。

I got beasts inside me
抑えきれない衝動に 野生の獣が目を覚ます
I got beasts inside me
And they’re coming out‥‥Tonight!

 前奏は終わり、とばかりに勢いを増す演奏。
 そして、大きなの絶叫。
 品を失わないハードな舞台が、強く、一歩一歩進んでいく。

マニュアル通りの世の中 マニュアル通りの生き方
何のために生きてるの? 時々見失いそうになる
マニュアル通りの言葉に マニュアル通りの服装
私じゃなくてもいいでしょ? どうせ何も変わらない

理性と臆病の鎖 今すぐにその牙で噛み切って!
不安定な自由でも 恐れずにその手を伸ばして!

I got beasts inside me
もう我慢はヤメにして 心の獣を解き放つわ
And I need them to be me
ニンゲンらしくあるより 私らしく生きていたいから

You got beasts inside you
飼い慣らされたりしないで それが例え正しく見えても
And We all got beasts inside us
世界を変えていくのは いつも野生のままの情熱

 あり得ないほどの完成度の高さ。
 今までのライブとは違った、圧倒的なまでの動き、演奏、歌声。
 突如現れたそれらに、言葉もなかった観客たちは、一瞬の沈黙の後、大喝采を上げたのだった。


●戦い終わって
「‥‥残念、でしたね」
 ディーが、グラスを持ちながら、静かに言う。
「そうですね。でも、精一杯がんばりましたし」
 同じく静かに答える星海。
 カウンター以外にも広めのスペースがあるシックなバー。
 店の雰囲気にとけ込み、まるで映画のワンシーンのような二人。
 もっとも、その横では、財布がー、と叫んでいる下田で全ては台無しになっているのだが。
「嘆く気持ちも分かるけどね。俺も後々勝ち誇るだろう身内を考えると、頭痛くなるし」
「俺もダヨ。怖い裏リーダーが‥‥」
 椿と笙も話してることは中々大変そうではあるものの、顔は笑っていた。
 貸し切りのバー。
 そこで行われた打ち上げは、皆の心を暖かく、下田の懐を寒くしたのだった。