Beast Dawn −LSアジア・オセアニア

種類 ショート
担当 うのじ
芸能 3Lv以上
獣人 1Lv以上
難度 難しい
報酬 7.2万円
参加人数 8人
サポート 0人
期間 10/04〜10/06

●本文

「正気ですか?!」
 番組趣旨を聞いたときのスタッフの反応だ。
 音楽番組『Music War』。2つのチームに分かれて行われる音楽番組。
 言ってみれば性別関係なしの年末歌合戦だ。
 その最終回のテーマが、『獣人』だったのだ。
 とはいえ、それは隠された裏のテーマ。
 表向きのテーマは、『なし』となっていた。
「まぁ、気がつかない人は、早めのハロウィンだと思ってもらえると思いますよ」
 答えたのは番組プロデューサーの望月だ。
「それにしても‥‥‥‥」
「言いたい事は分かるんだ。でもさ、これから、NWの大きな事件が起こるたびに、全てを隠しきれると思う?」
 望月の言葉に、沈黙するスタッフ一同。
「別に、この番組で獣人について公表するつもりはないよ。ただ、今回の番組に半獣化とかして参加して貰えれば、徐々に土壌が出来ていくんじゃないかと思って」
 望月は、最後に、別に自棄になってるわけじゃない、と続ける。
「‥‥わかりました。でも、もし参加アーティストたちが半獣化を嫌がったら?」
「その時は諦めるよ。押しつけることは出来ないし、芸能生命を100%保証できるわけじゃないし」


「今回の観客たち、レベル高いらしいな?」
「そうなのか?」
「らしいぜ? 演出とか重視しないと見せかけて、トータルで観る人が多いんだってよ」
 廊下を歩きながら話しをしているのは番組司会者の二人。
「なるほどね。そう言うのってどうやってわかるんだ?」
「なんか、アンケートとってるらしい」
「へー」
 そんな会話の後に、二人の足が止まる。
 右と左の陣営に別れるためだ。
「‥‥さて、今回、俺は負ける気はないぜ?」
「当然、俺もだ」
「この試合が終わったら、番組改装らしいからな。次が来るまで長いわけだ」
「‥‥そうだな」
 頷きあう二人。
「負けた方が、番組後の打ち上げの2次会持ちでどうだ!?」
「‥‥それ、家族持ちで小遣いもらいの俺の方が不利じゃないか?」
「負けなければいいんだぜ?」
「‥‥ようし、わかった。後で泣いてもだめだからな」
 別れる二人。
 決戦の時は間近だ。

 コロシアム風のスタジアム。
 そしてそこに集った観客たち。
 スタジアムに光が当てられ、背後のスクリーンに映し出されるアニメーション。
 古代ヨーロッパをイメージさせるコロシアムの中で、チェスに出てくるような兵士たちがその場に集いあう。
 兵士らは白きギタリストやキーボード弾き、黒きドラマーや歌い手となり、回線の合図を今か今かと待っていた。
 睨み合う二つの陣営。
 浮かぶ二振りの剣と一本のギター。
 そこに『Music War』という番組タイトル、そして、今夜のテーマである『at Free』が加わる。
 そして、司会者の二人が、それぞれ白の陣営、黒の陣営として、登場し、開戦の合図を告げた。

「最初から最後まで楽しみましょう。素晴らしいステージを! さぁ、行きましょう!」

●今回の参加者

 fa1376 ラシア・エルミナール(17歳・♀・蝙蝠)
 fa1514 嶺雅(20歳・♂・蝙蝠)
 fa2457 マリーカ・フォルケン(22歳・♀・小鳥)
 fa2837 明石 丹(26歳・♂・狼)
 fa2993 冬織(22歳・♀・狼)
 fa3211 スモーキー巻(24歳・♂・亀)
 fa3887 千音鈴(22歳・♀・犬)
 fa4852 堕姫 ルキ(16歳・♀・鴉)

●リプレイ本文

●織音『Wild Innocence』
 白いノースリーブ、アンクレット、同じ要素の衣装の二人。
 冬織(fa2993)と千音鈴(fa3887)の二人は前半の人たちと同じく、半獣の姿になっていた。
 後半の開始早々、二人の歌声が場を支配する。
 響く楽器は、声、ただ一つ。
 なめらかな心地がいいバラード。

Ah−

瞳開き 初めて見た色は 遥か遠い蒼
産声あげた小さな命 見守るように 試すように
何処までも続く天

息弾ませ 駆け抜けた風に 寄り添う色は翠
意識と爪研ぎ澄まし 吠える魂 包み込んで
様々な想い溶かす森

 歌声の中に混ざる楽器たち。
 孤高の歌声中に彩りが生まれ、背景もそれに合わせて、光を増していった。

暁を告げる鳥の声
まどろみから覚めた白き獣
「野性の色翻し 今出来ること貫いて」 

『Stand up and Run』
絶望に心切り裂かれても
『Stand up and Run to the Victory』
諦めず走り続けろ 幾つもの夜を越え

誰の為でもなく (Nobody’s sake)
生きることが勝利の証 (Proof of the victory to live)
「いつしか全ては白き光となる」『Wild Innocence』

 歌の終わりと同時に、世界が白となった。
 明るくホワイトアウトした舞台の上で、ちーは楽器の元へ向かい、とおるも舞台から素早く移動する。
 ようやく客の目が慣れた頃、舞台の上ではちーのドラム、そしてスモーキー巻(fa3211)のアコギを持って準備完了していた。


●スモーキー巻『Tortoise Pace』
 今までの獣姿をしていた人たちとは打って変わって背中に甲羅を背負った衣装のように見えるスモーキー。
 行進曲風のテンポ似合わせて、スモーキーが歌い出す。

Step by step 一歩ずつでも確実に
どれだけの 人に追い抜かれても
Step by step たまには少し休んで
急がずに 行こう長い旅路を

空を駆ける翼も 風を切る速さもなく
僕にあるのは甲羅と 長い長い時間だけ

 あくまでものんびりとした歌声。
 亀の歩みのイメージ通り、ゆっくりとしたその歌声は、一歩一歩進んでいくイメージを観客たちに与える。
 そして、間奏の間の牧歌的な口笛が、激しい曲が続き、疲れていた客たちを癒す。

空を駆ける翼に 憧れたこともあるけど
ゆっくり歩き続けるのも これはこれで悪くない

Step by step のんびりでも着実に
人は人 自分のペースで行こう
Step by step 焦らずでも諦めず
いつの日か 辿り着けばいいのさ

その日まで 行こう長い旅路を


●B+B『Masquerade』
 続いての演奏は、堕姫 ルキ(fa4852)と明石 丹(fa2837)がメインだった。
 皆が獣化しており、普段とはどこか違うイメージなのだが、いつも翼を生やして活動しているルキだけは普段通りだった。
 黒のルキと白いマコトの対照的な姿、バックに登場した踊り手たち、その全てが物語を紡ごうと、時を待っていた。
 大きなドラムの音から始まった音たちのダンスに乗って、青白い煙が舞うステージに立つ二人。

始まりはいつも「お好みはどちら?」とネジを巻く
これが私と歌う言葉 一つじゃ足りない
牙を隠したか弱いドミノ 内側に抱えた仮面舞踏会
誘う手一つ あなたと二人 踊り出す

 交互に歌い合うスタイルで続く。
 ルキの歌うと共に挑発的な動きに、マコトのファンは思わず悲鳴を上げそうになったかもしれない。
 そして物語はいよいよヒートアップしていく。

暴いた心を唇に乗せ触れても 永久に0から減らない距離
紛いの空飛ぶ光に願え 掴み取るその時 星は堕ちる

Masquerade
条件で願いを叶え
Masquerade
真実を計るなんて
Say what you really are thinking

嘘で始まったと嘆くも自由
それなら仮面ごと全て愛だと歌わせて
欲しい


●マリーカ・フォルケン『優しい止まり木』
 4番手の登場はマリーカ・フォルケン(fa2457)だった。
 先ほどの『B+B』の歌ではヴァイオリンを演奏していたマリーカだが、今度は、ピアノへと向かった。
 薄暗いステージ、重厚な黒を主張するピアノ。そしてそこに浮かぶ白いドレスを纏ったマリーカ。
 マリーカの指が鍵盤の上を舞った。

わたしは飛べない小鳥だった。
「絶望」という名の籠に閉じこめられて、
夢さえ見る事も許されずにいたから。
だから、いつか籠の中で死んでしまう、
そう思っていた。
なのに、
あなたはそっと籠の扉を開いてくれた。
「希望」という名の光に照らされた小鳥は、
ただそれを信じて、ただひたすらに
己の命を輝かせて、大空を羽ばたいた。
それがただ嬉しくて、楽しくて。
やっと「自分」に成れたのだから。
だから、
ただ、ひたすらに、命の限りに。
あなたへのお返しに心からの歌を。
それしか返すものはないけれど。

空飛ぶ自由も、歌う自由も
すべてあなたがくれたもの。
だけど、
もう一つだけ私に下さい。
疲れた時にそっと止まる、安らぎの場を。
あなたの傍らが、わたしのただ一つの居場所だから。

 マリーカの弾き語り。
 世の真実を知らない人ですら、その切実の思いはそれそれの胸に伝わり、響いていく。
 そして、胸の痛みに耐えている観客たちから、翼を広げ、上へ昇っていくマリーカ。
 まるで鶴の恩返しの逃げて消えてしまうかのような寂しさを受けた観客たちは、悲鳴ともため息とも言えぬ声を上げる。
 それに気がついたマリーカは、昇るのを一瞬止め、安心させるように微笑んだ。
 望まれる限り、消えていなくなったりはしない、と。


●flicker〜R2〜『Night of beat』
 響くギター。
 スモーキーのギター、続くマコトのベース音、ちーのドラムの音。
 それらはハイパフォーマンスながらも、構成はオーソドックスなもの。
 舞台の構成、曲としての構成、それは最後の曲として場を締めるには、潔いとも言えるし、普通すぎる、とも言える。
 しかし、二人の歌声によって、普通、スタンダード、それら王道はやはり王なのだ、と観客たちは知ることになった。
 嶺雅(fa1514)とラシア・エルミナール(fa1376)の二人がステージに立つ。

冷たいビル風が 吹き抜ける
月夜の街には 獣達の叫び
Ah 行き場のない悲しみのレクイエム

羽が堕ちて行く空は 真っ赤
日が沈めば 膝を抱えて眠る
Oh 理性奪う悪夢(Nightmare)を破る

 まさしく、赤く止まった悪夢が、打ち破られたかのように、一転して明るくなるステージ。
 歌声と楽器の音も一瞬止り、再び再開する。

Quiet Missing night
時だけが過ぎていく

信じる言葉なんてない
(BELIEVE YOURSELF)
怖がらない 諦めない
(element Blave)
立ち上がるよ何度でも
(Absolutely)
そう 
一人のわけがない

It wishes that the night only of this beast be eternal

誇りを胸に刻んでるから
To nearby because there is someone

どこまでも歩き続ける

 全てが終わった、その時、そのステージを見ていた人たちは、舞台の上にいる半獣人の姿を、自然と受け入れていた。
 それらが本物である、とは誰も思っていなかったが、そこにあるものとして、ただその姿が自然だった。
 高度な歌と曲、演出、普段以上の完成度のステージに、惜しみない拍手と喝采が贈られる。
 それは8人の勝利というよりも16人の勝利と言えるのかもしれない。


●勝利の果てに
 貸し切りのバー。
 普段からスタッフの何人かが番組の終わりに使っていた店だったが、今回、司会者の下田の奢り、と言うこともあり、周りに迷惑をかけないように貸し切ることになったのだ。
 勝手知ったる他人の家とばかりにくつろぐ人、貸し切りと言うことで思う存分騒ぐ人、もうどうにでもなれと開き直った一人がいたり、と、思い思いに皆が楽しめる会場となった。
 そんな会場の隅のカウンターで、グラスを回しているのは、プロデューサーの望月。
「何をしんみりしておるのだ?」
 とおるが横に座り、話しかけた。
「あ、お疲れ様です。うーん、いや、なんて言うか、これで良かった‥‥のかな、と」
 望月の言葉を、軽く笑うとおる。
「してしまったものは仕方あるまい。WEAからの苦情が怖いお主ではあるまい?」
 とおるの言葉に今度は望月が苦笑した。
「はい、そうですね。怒られるときは怒られればいいんですよ。ただ、なんていうか、これで、みんなに伝わったかな? って」
 とおるは、ふむ、と頷いてから、手にしていた煎餅をぱきりと折り、片方を望月に渡す。
「それを知りたければ、会場にいたものを捕まえて、頭の中を調べてみるしかなかろう。流石に、そのような物騒な能力はもっておらん」
「それは僕もですよ。考えてもしかたない、か。そうですよね。今回の番組が、獣人たちの希望の星となった、と信じましょうか。どの曲もすばらしかったですし、これ以上、露骨にメッセージを出すのは性急すぎたかもしれませんしね」
 望月のの言葉にうなずくとおる。
「今回はこれでよかったのだ」
「はい、そうですね」
 望月は同意すると、グラスの中に残った液体を一気に喉に流し込んだ。

 バーの一角に流れるピアノの音色。
 弾いているのは、こういった店での演奏になれているマリーカだった。
 マリーカは、先ほどの歌を歌っていた。
 即席のライブの観客となっているスタッフたち。
 その一角に、ステージをこなした、マコト、スモーキー、ちー、ルキがいた。
「マリーカさんのこの歌、悲しい歌だよね」
 ゆったり聞いていたマコトがぽつりといった。
「どうして?」
 同じく聞いていたちーが尋ねる。
「一人で小さな世界にいるって寂しいよ、やっぱり」
 マコトの言葉に頷くスモーキー。
「確かに。今までの獣人たちも同じふうに思っていたんじゃないかな。広い世界を求めて、結局、この業界という広いようで狭い世界に閉じこもる事になっちゃった。別にこの業界が嫌いなわけじゃないけどね」
「僕も、歌は好きだし、ここにいることだって幸運だと思ってるけど」
 スモーキー、マコト、二人の気持ちは、同じだった。
 広くて小さな世界。
 この世界に亀裂が生じたとき、どうなってしまうのだろうかという不安。
 現在の安定という安心感。
 しかし、真実が解放され、人々が仲良くやっていく世界という将来への淡い期待。
 全てが混ざり合い、期待というよりは願望と言った方がしっくりくる夢物語であることが現実的な大人の考えで分かる。
 ため息をつくマコトとスモーキー。
 そんな二人を見てため息をつくルキ。
「二人とも、ステージで疲れちゃったんじゃない? そんなんじゃ、これからの4次会、5次会までもたないよ?」
 そう言って笑うルキに釣られて笑う二人。
 因みに今は1次会だ。
 ルキは、二人があたしのファンだったらとっくに枯れ果てちゃってるぞ、と冗談を言った後、少しだけ真剣な顔になって言った。
「そのために今回精一杯やったんだからさ?」
 止んでいたピアノ。
 いつの間にか横に来ていたマリーカが言った。
「‥‥それに、今ここにいるみんながいますから。一人じゃないと思いますよ、わたしたちは」
「うん、そうだね。だから、今回はこれなのかな?」
 チーはそう言いながら、縞瑪瑙を取り出す。
 それは、今回の勝者に与えられたもの。
 友情を意味するネックレスだった。

「ひとりじゃない、か」
 未成年なのでお酒が飲めないラシアは、ノンアルコールカクテルを手に、カウンターに座っていた。
 横にはレイが座っている。
「そうダヨ。今回のチームだって仲間だし、チームが別れちゃっても仲間だしネ」
 レイの言葉に、やや不満気味に、ふーん、と頷くラシア。
「‥‥たしかに、昔は一人だった時もあるから、ありがたみはよく分かるよ‥」
 どこか不満げなラシア。
 その空気がしばらく続いた後、そっとラシアの方が抱き寄せられる。
「それにラシアには、俺もいるしね。ラシアはずっと一人じゃないよ」
「‥‥ま、いいんだけどね」
 レイの突然の行動に、暗い照明でも十分に分かるほど赤くなったラシア。
 そんなラシアにじっと寄り添うレイ。
 そのまま、しばらく、二人は、わいわいと騒ぐ仲間たちを静かに見ていた。
「これがずっと続けばいいネ」
「‥‥ん」
 レイの言葉に返事をするかわりに、ラシアは力を抜いてレイに身体をあずけた。
 目を閉じ、静かな時間を過ごす二人。
 そんな二人を、現実に引き戻すと携帯電話の撮影音。
 しゃるらん。
「よっしゃー。へっへっへー。これを週刊誌に売られたくなかったら、2次会の費用はおまえらが払えー」
「な! 下田さん、それは卑怯者のすることだよー」