grow up moreアジア・オセアニア
種類 |
ショート
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担当 |
うのじ
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芸能 |
1Lv以上
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獣人 |
1Lv以上
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難度 |
難しい
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報酬 |
1.3万円
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参加人数 |
8人
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サポート |
0人
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期間 |
01/14〜01/18
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●本文
「パクパク」
歩きながら小さな包みから小さなお菓子を食べているのは、この『Battle the Rock』をまとめている望月というプロデューサーだった。
「何、食べてるの?」
通りすがったTV局のスタッフの一人が尋ねた。
「これ? これは、キスシュガーって言う砂糖菓子。ただのお砂糖なんだけど、最近疲れがたまっているのか、甘いものを補給しようと思って。食べる?」
そういって、小さなハート型の砂糖菓子を差し出す。
「いや、もらっておくけど。‥‥疲れてるの?」
「うん、そろそろ、バトザロSPの準備もしないといけないからね。今の奴が終わったら、次回はスペシャルだから。それが終わったら、一回休むけど、その間に、バトザロもマイナーチェンジしたいし」
「妙な予定が詰まってるんだな。それで、休めないから甘いものを補給か。倒れない程度にがんばれよ」
「ありがとう。がんばるよ」
そう言うと、ステージの方に向かう望月。
「あ、もうはじまるんだっけ?」
「うん、始まる。今回は『成長』がテーマなんだ。」
なぜか得意げに言う望月。
「今回が終わったら、ノンテーマでスペシャルだ! 今回、がんばってのりきるぞ、おー!」
急にハイテンションになった望月をみて、スタッフはもらった砂糖菓子をまじまじとみる。
「‥‥‥やばいクスリとか、入ってない、普通の砂糖菓子だよね、これ」
コンクリートジャングルをテーマにした舞台で繰り広げられるミュージック番組である『Battle the Rock』。
今回のテーマは『成長』だ。
『魂を響かせろ! Battle the Rock』の文字に続いて現れる『the sound of growth』と書かれた扉。
その扉の先に、成長しつづけるアーティストたちが、待っている。
それぞれの思いを歌い上げ、観客とともに次のステージに向かおうとするその魂のバトルがいま、はじまる。
●リプレイ本文
●オープニング
光が当たっていないステージは静かだ。
周りには何もない、誰もいない。
あるのは薄暗い非常灯の光りだけ。
そこが一瞬で変革する。
まばゆい光りに照らされるステージ。
そして、静けさは、最強の音楽と歓喜の声で打ち破られる。
収録が始まる。
画面には、『魂を響かせろ! Battle the Rock』と書かれた赤い文字が踊る。
そして、『the sound of growth』と書かれた扉が開かれる。
激しい音楽と、沸き上がる歓声に包まれ、番組が始まった。
最初にステージに登場したのは二人組の男。
ロッカー風の衣装に身を包んだ二人が、マイクを持ち、口に近づける。
「‥‥‥コンクリートジャングルの中で始まるミュージシャンたちのサバイバル」
「今回のテーマは、『成長』‥‥。人が常に変わっていく。故に成長し続けなければならない」
「今日、進化し続ける魂を響かせるのは、この4組」
二人の台詞が終わる、画面が切り替わる。
「二人のボーカルに加わったギターのプラスアルファ! flicker〜R×H〜」
ラシア・エルミナール(fa1376)と嶺雅(fa1514)の二人のボーカルが映された後、ギターを持った早河恭司(fa0124)にカメラが向けられる。
恭司が軽く手を挙げると、カメラは満足したように、またボーカルの二人を、今度は一人一人映し、最後に、大きく引いて、三人を一つの画面に治めた。
次に映されたのは、緋桜 美影(fa1362)だ。
カメラを向けられると、軽く挑発的なポーズを取る。
調子に乗ったカメラが、きわどくアップに迫ろうとすると、笑いながら軽く舌を出して、それからカメラを手で覆おうとする。
慌てて逃げるカメラ。
「逃げられない、理想と現実。現実を知るオトナへの応援歌を、緋桜 美影が歌う!」
「ネクサス! 音楽が紡ぐ絆が生み出す新たな風。今夜、嵐が吹き荒れる」
続いて映し出されたのは、三人の男女。
赤いギターを手にした八田 光一郎(fa1591)が、ギターでパフォーマンスを始める。
紹介中は音声が入らないのに気がつくと、残念そうに、パフォーマンスを中断する。
それを二人が観ていた。
藤宮 光海(fa1592)は苦笑しながら。
七式 クロノ(fa1590)はあまり表情を出さずに。
そして、なにかを思いついたのか、じゃあもう一回とカメラマンに言いながら、コウが、今度は音が出なくてもいいパフォーマンスをしようとするが、光海が止める。
止められたコウが諦めたとき、画面が切り替わった。
切り替わった画面の先には、黒づくめの椚住要(fa1634)がいた
カナメは、カメラが向いても、いつもの表情を崩さない。
睨み付けるようにカメラを一瞥すると、それだけで、後はどこか不機嫌そうな顔のままだ。
「爆発するハイテンション! ストイックな彼が見せる、瞬間の輝き。椚住要!」
紹介が終わり、カメラがまた、大きくぶれるように動いて、司会の二人を映す。
「それでは、『Battle the Rock』。スタート!」
●flicker〜R×H〜
「さて、最初はあたしたちだね。早河もレイも、がんばろう」
「ウン。恭ちゃん、よろしくダヨ」
「ああ、よろしく。」
ラシアが声をかけると、恭司とレイがこたえる。
そして、三人は、それぞれが手にもったバンダナを軽くぶつけあわせると、腕にバンダナを巻きながらステージへと歩き出す。
「flicker〜R×H〜。『Achieve growth』」
コールされ、登場するラシアとレイ、そして恭司。
中央やや下手より置かれたスタンドマイク側にラシアとレイが立ち、恭司が上手側に立つ。
曲が始まる。
出だしは、レイのソロだった。
中性的な歌声が響いた後、ラシアのソロが高く、力強く響き、そしてまた、レイのソロに戻る。
恭司のギターも、二人のソロに合わせるように、やや静かめだ。
遠い昔に抱いた かけがえないのMEMORY
今でも胸に抱いて
時の流れ歩いてる
幼い日に感じた 汚れのない思い出
やがては薄れていく
大人へとの引き換えに
It forgets why?
この記憶を 決して忘れたくはないよ
例えそれが子供から
大人になるためでも
It might be so?
この記憶の 全てが自分なのだから
失う事認めないで
静かめに始まった曲はすでに激しいものに変わっていた。
恭司のギターも最初のものとは違い、ギアが壊れたかのように、激しくなる。
そして、ここで始めて二人の声が重なった。
If you want to become a true adult
声を重ねる二人を、瞬間ほほえましく観ていた恭司は、その後全力で突っ走った。
一人で飛び出しかねない勢いで、間奏を激走する。
そのままの勢いで、レイもラシアも歌い続ける。
not forgetting
その言葉がきっと道標になるよ
だから決して忘れないで If you want to become a true adult
最後は二人で歌いきると、今まであまり動かなかったレイが腕にまいたバンダナをほどき、頭の上で、ぐるぐると回す。
そのまま勢いをつけて、バンダナを観客席へと投げ込んだ。
●緋桜 美影
美影は、コールされるまでの間、これから始まるステージのことを静かに考えていた。
客席のみんなを思い出すと、思わず苦笑いが出る。
見に来てくれた人たちの大半は若者だろう。
今日の歌は、まだ、早いかもしれない。
「‥‥でも、いつかは分かっちゃう時が来るんだよねー」
一人呟くと、立ち上がり、出番に備える。
「さて、いくか!」
「緋桜 美影。『進ム君に捧グ』」
美影が軽い足取りで登場する。
これから歌う歌は悲しい歌ではない。
これが本来であり、自然であり、前向きなのだ。
そう思うと、足取りも軽やかになり、自然と、顔も笑顔になった。
もっとも、それは、悪戯をするときの笑顔にも似ていたのだが。
夢見て進む君よ考えて 今この時聞いて欲しい
進むだけが未来への道じゃない
振りかえるその先にも 道はあるよ
誰もが過ごした夢見がちな時代 望めば叶うと教わった
大人が囁く甘い台詞 『ユメハ・イツカ・カナウ』
使い古された言葉でも 年頃の彼らにゃ命取り
一瞬の刹那が100万$ 10年後の僕なんて他人タニン
学校いってメールして家帰って 気付けば二十歳は通過済み
描いた夢とはかけ離れ 電車に揺られて出勤
きわどい歌詞を、おどけた表情で歌い続ける美影。
間奏中にサイドから映しているカメラを見つけると、指で弾くような素振りを見せる。
その動きに合わせて、映像も揺れる。
おどけた美影は、歌い続ける。
夢みていただけの君達を 厳しい現実があざ笑う
世の中そんなに甘くない頭を冷やしなよ
少し落ちついても一度考えな
大抵ぶつかる夢と現実の差 こんな筈じゃないと感じてた
子供が憧れる素敵な職業 『センシュ・タレント・オカネモチ』
誰もが言ってた夢だけど 思い出したら只の恥
取り消せるなら100万$ 10年前の俺なんて他人タニン
会社いって頭さげて飲み歩き 気付けば定年もう目前
描いた夢を掘り出して 酒のつまみで苦笑い
夢見て進む君にこそ 今この時に伝えたい
進む事だけが勇気じゃない
退く時に試される勇気だってある
夢を追い続ける君だから 今この時に聞いてくれ
進む事だけがホントに正しいの?
退く先にだって違う答えがあるかもよ
歌い終わると、心地よい疲れと快感がどっと湧いてくる。
それらに流されながらも、美影はマイクを持った手を軽く挙げて声援に答えた。
●ネクサス
「そろそろ俺達の出番だよな?」
控え室をウロウロと歩くコウ。
出番が迫り、じっとしてはいられないようだ。
「はいはい、少しは落ち着く。大丈夫だよ、時間になったら呼びに来てくれるから」
光海が苦笑しながら言うと、コウが答える。
「それはわかってる。でもな、バトルなんだぜ? やるからには勝ちに行くぜ! なぁ、クロノ?」
今まで、座って、二人のやりとりを観ていたクロノに急に話を振るコウ。
「‥‥‥ああ、そうだな」
クロノは、答えに困ったのだろう、答えに間があった様に思える。
「ほら、そういうわけなんだよ、光海も、盛り上がりまくれよ」
クロノの答えに気をよくしたのか、コウは、少し得意げに、諭すように言った。
「それはもちろんだけどね。でも、盛り上がりすぎてミスしないでよね」
「あたりまえだ。まかせとけ」
「‥‥行こうか、迎えが来た」
「おう!」
「ネクサス。『情熱の果実』」
コールに答えて、登場する三人。
スタンドマイクが準備されている位置に、クロノとコウが立ち、光海はヘッドセットタイプのマイクをつけて、ドラムの席に座る。
それぞれが位置についたのを確認すると、力強いクロノの声が響く
「OK, guys beginning it. We are NEXUS!」
その言葉が終わると共に曲が始まった。
クロノがギターを弾きながら歌い、コウがベースを弾き、光海がドラムを叩く。
まずはオーソドックスのバンドのスタイルから始まった。
「ツライ」なんてここで止まって 明日が霞むだけだぜ?
黙って俯いてちゃ 何も見えない
「無理だ」なんて弱気になって 明日のキミに何て言う?
その先に行かなきゃ 何も手に入らない
そして、コウが歌に加わる。
与えられた幸せで十分かい?
今の現実で足踏みしてたら 先になんて進めない
誰かの足跡辿らなきゃ不安かい?
うかうかしてたら後ろから みっともなく弾かれる
一瞬、三人それぞれの目が合い、頷きあった。
その時、さらに、光海もボーカルに参加する。
三人、それぞれの特徴のある声が、お互いを殺すことが無いように、美しく合わさる。
胸に宿した青い果実 情熱の色に染めろ
大事なモノだけ抱えて ガムシャラに進めばいい
甘くない情熱の果実 孤独も絶望も喰らい尽くせ
A brand−new tale can begin when
あの日の影を抜き去って 明日の光に手を伸ばせ
三人が歌ったあとは、またクロノのソロに戻ったりと、静かに盛り上げていっていたが、ここで、一気に
曲が盛り上がりを見せる。
再度、三人のコーラスに入り、ラストに向けて、一気に歌い上げる。
胸に宿した青い果実 情熱の色に染めろ
風だって超えて 孤独も絶望も突き放せ
そうさ輝く情熱の果実 実る明日を目指せ!
歌が終わり、客の声援に、大きく応えるコウ。
苦笑しながらコウを観る光海に、タダ観ているだけのクロノ。
三人の心を代表するかのように、コウは、自らが手にしている楽器を天高く持ち上げた。
●椚住要
「椚住要。『Starting Over』」
自分がコールされると、カナメは立ち上がり、舞台へと歩き出す。
無愛想に見えるカナメは、特にそのままで、いつものまま舞台に上がった。
手にしたエレキギターのスイッチを入れ、一音ならしただけで、カナメの中のスイッチも変わった。
闇の中 目指した光を見失い
途方にくれる小さな君
目を凝らしても何も見えず
伸ばした手には何も触れない
比較的静かに始まった曲は、カナメの歌と演奏で支えられていた。
観客は、特にその演奏に圧倒される。
そして徐々に曲が盛り上がっていく。
でもすぐに君は気付くだろう
君を支える優しい光に
勢い良く最高潮に登りつめた歌とともに、演奏も爆発する。
ハイテンションのまま、そのまま最後まで突っ走るカナメ。
君の後ろには道がある
それは悲しみ 傷つき 迷っても
決して途切れることのない道
もう一度やり直すのも 悪くはないさ
沢山の出会いや別れが 道標になるから
歌が終わると、ギターだけでなく、全ての演奏が一瞬で止まる。
電気も落とされ、衣装が黒づくしだったカナメは、そのまま闇に乗じて舞台から去る。
照明がついたとき、舞台の上には誰もいなかった。
●エンディング
6組すべての演奏がおわり、後は勝敗を決するだけになると。再度登場した司会者の二人組。
彼らが、観客に投票を促す。
「それでは、『judge』。スタート!」
観客達の手に握られているのは、10枚のコイン。
観客達は、そのコインを自らが思うように分配し、舞台の各ミュージシャンのハコに向かって投げ入れる。
コインの玉入れの要領だ。
そして、投票が終了した時、ハコの中に一番コインが入っていたミュージシャンの扉の鍵が開く。
「次やるときは、敵だな?」
「‥‥うーん、そうかもネ」
お互いにどこか残念そうでもあり、逆にやり遂げた笑顔もお互いに見せあった。
「あたしは、どっちでもいいけどね。楽しくやれるのが一番だよ。今日も楽しかったしね」
ラシアが、白河とレイ、二人に言う。
「ああ、そうだな。俺も楽しかった‥‥でも、次やるときは、敵じゃない気がするな」
「次‥‥ああ、そうだネ。次やるときは、絶対に敵じゃないネ。恭ちゃん、またヨロシク」
「あ、ほんとうだ。もう次の機会が回ってくるなんてね」
扉が開けられる。
そう、三人の歌を、ステージでは皆が待っているのだ。
「‥‥楽しんでいこう!」
恭司はどこか自分にも言い聞かせるように言いながら、ステージに向かった。
エンディングに流れたのは、『flicker〜R×H〜』の『Achieve growth』だった。
先ほどやったのとは少し違い、やや優しげに感じられるその歌は、より完成度を増していた。
エンディングテロップも流れ終わり、歌も終わったとき、ラシアと恭司は、先ほどのレイと同じように、バンダナを客席へ投げた。
スローモーションかのようにゆっくりを落ちていくバンダナ。
それが客席に着く頃には、映像は次回のスペシャル番組の紹介に変わっていた。