第23回プロレスごっこ王アジア・オセアニア

種類 ショート
担当 牛山ひろかず
芸能 フリー
獣人 フリー
難度 やや易
報酬 0.7万円
参加人数 8人
サポート 0人
期間 10/19〜10/21

●本文

 プロレスごっこ──それは、素人によるプロレスの真似事でしかないが、ここにはそれを魅せる域にまで昇華した番組があった。基本レスラーに扮する芸人が、様々な物や者を相手にプロレスをしているかのように見せて笑いを誘う。ただそれだけのことなのだが、小物を使ったボケをベースとする、一人芝居あり、一発芸ありの、お笑いの基本要素の散りばめられた、芸人のワンダーランドなのである。

 TOMITVのある会議室に、芸人プロレスごっこ王選手権のスタッフが集められていた。その前に、プロレスごっこの一番えらい人が姿を現す。
「さて、今度こそ『じょ』は遠い彼方に去った! だから、今回のポイントは、1澗、1溝、1穣となったわけだな!」
「普通は使わない『じょ』が遠い彼方って‥‥いえ、えらい人のビッグさを表すにはまだまだ足りませんッ!」
 えらい人が鉄パイプを手に不機嫌になりかけたので、慌ててゴマをするスタッフ。単純なもので、一瞬でえらい人に笑顔が戻る。
「しかし、『じょ』だと漢字が出なくて困ってしまうわけだが、この『澗』だって漢字が出るというだけで、そうそう使うものじゃない。そこで、今回は『澗』の好感度アップキャンペーンを行う!」
「は!? 何をどうすればいいのか、まったく分かりませ‥‥いえ、まったくもってすばらしいお考え、愚かなる私どもには思いもつきませぬ」
 なんとかやり過ごし、ホッと一息のスタッフ。『澗』を持ち上げる以前に、えらい人を持ち上げるだけで疲れ果ててしまう。
「あの、愚かなる私どものために、せめてどのような例があるのか、ほんの少しでも示していただきたいのですが‥‥」
「自分で考えるクセをつけろよ‥‥読みから缶を使ってもいいし、意味の谷から谷底に落ちてみるのもいい。どーとだってできるじゃねーか!」
「谷底に落ちるのが、澗の好感度アップにつながるとは思え‥‥ぐぼはっ!」
 スタッフとしては当たり前の感想だったが、えらい人の逆鱗に触れて鉄パイプ制裁を受ける。
「バカヤロウ! 自分のために谷底に落ちてくれる人がいるなんて、よっぽど惚れ込んでなきゃしてくれねーだろが。幸せ者をアピールだろうが!」
「人じゃないし‥‥いえ、サー、イエッサー!」
 こうして、理不尽ながらもゆるゆるのテーマ縛りを設けつつも、通算42回目のプロレスごっこ王選手権がはじまるのであった。

参考例:
・軟体レスラーvsボストンバッグ:身体の柔らかい芸人が、固め技という設定でボストンバッグの中に入っていき、ファスナーを内から閉めたところで、レフェリーストップ、ボストンバッグの勝ち。

注意:
・『澗』の好感度が上がるような試合をしなくてはなりません。が、屁理屈でどうとでもなります。
・ポイントはプロレスごっこの一番えらい人の独断と偏見によってのみ与えられます。すばらしい、おもしろい、えろい、えらい人に媚びる、視聴率が取れる等、一切関係ありません。
・ランキングによるプロレスごっこ王は、ポイントで不可思議(10の64乗)を超える人が現れたくらいで決定の予定です(年内決着予定)。
・毎回上位総入れ替えのインフレですが、そういうバラエティのノリに怒らない人募集。
・プロレスごっこは安全第一です。死亡、怪我、流血は極力避けましょう。

ランキング(上位5名、第19回プロレスごっこ王分まで)
 1位 湯ノ花ゆくる(fa0640) 9999京9999兆9999億9999万9999pt
 2位 あずさ&お兄さん(fa2132) 1京1156pt
 3位 伊集院帝(fa0376) 1京2pt
 4位 サトル・エンフィールド(fa2824) 1兆513pt
 5位 タケシ本郷(fa1790)1兆pt
 5位 小峯吉淑(fa3822) 1兆pt

過去の放送のスケジュール(最近5回分)
・第18回 09月21日 07:00〜
・第19回 09月26日 07:00〜
・第20回 10月05日 07:00〜
・第21回 10月09日 07:00〜
・第22回 10月15日 07:00〜

●今回の参加者

 fa0750 鬼王丸・征國(34歳・♂・亀)
 fa1294 竜華(21歳・♀・虎)
 fa2122 月見里 神楽(12歳・♀・猫)
 fa2539 マリアーノ・ファリアス(11歳・♂・猿)
 fa2671 ミゲール・イグレシアス(23歳・♂・熊)
 fa2824 サトル・エンフィールド(12歳・♂・狐)
 fa3577 ヨシュア・ルーン(14歳・♂・小鳥)
 fa4713 グリモア(29歳・♂・豹)

●リプレイ本文

「さて、通算42回、おそらくはえらい人の更年期障害とかけているのでしょう、プロレスごっこがはじまりました。解説は自分、ヨシュア・ルーン(fa3577)が務めさせていただきます」
 実況を差し置いて、冒頭の挨拶をかます解説のヨシュア。となれば、実況のサトル・エンフィールド(fa2824)が黙ってなさそうなものだが、ブローパイプの調整に忙しく任せっきりである。
「ランキング戦も佳境に入り、ポイントに関連するお題のキャンペーンに乗ってやると、やる気満々ノリノリです。で、こちらがキャンペーン? 何それ? おいしいの? でおなじみ、実況のサトルさんです。今朝もよろしくお願いします」
 サトルが口を挟んでこないのをいいことに、挑発までしていくヨシュア。どうも、オープニングでヒドい目に遭わないと満足できない身体になってしまっているようだ。若年性の打たれすぎ芸人症候群のようである。
『‥‥そろそろ選手入場もはじまるし、今回もやっときますか! ブローパイプから噴き出るものはなあに? エアのみの風、炭を使った火、シャボンの水と来たら、残るは一つしかないよね? そうだね、地のビー玉だね。どっちかって言うと、血のビー玉だけどね』
 ブローパイプから高速でビー玉を噴射し、ヨシュアの頭を爆砕しようとするサトル。無論爆砕されるはずはないが、テンプルを直撃するビー玉の振動が脳に伝わり、むしろヨシュアはなんともいえない清々しい表情になってしまっている。病状は確実に進行しているようだ。
『‥‥では、最初の試合にまいりましょう!』
 オープニングコントもそこそこに、実況の仕事に戻るサトル。一方のヨシュアは恍惚の表情で、解説の仕事どころではなさそうである。
『初戦はいきなりの1vs2ハンディキャップマッチとなりました。澗→じゅん→Jun‥‥ということで、Juneに挑むは鬼王丸征國(fa0750)と竜華(fa1294)のお二人です』
 Juneはもちろん6月のことであるから、その入場シーンがあるハズもない。ので、竜華が純白のウェディングドレス姿での登場である。
『最強の女傑か? はたまた登場女性中最弱のお肌年齢を見せつけるのか? 見た目よりずっと歳は行ってるが、婚期なんて気にしない。竜華選手、堂々たる入場だァーッ!』
「今が旬よ!」
 サトルの実況に若干カチンと来つつも、ジューンブライドゆえの花嫁姿で登場の竜華。熟れた身体がお色気過剰のいやらしい新婦さんになりつつあるが、禁忌の歳の話まで出してしまった以上、それ以上はそっとしておいてあげるのが礼儀である。
『老兵は死なずッ! またも戦場に舞い戻ってきた鬼王丸征國だァーッ! 若さと老練さの一騎打ち‥‥いえ、すでに老化によるボケがはじまっているようですッ!』
 先程の竜華とは対照的に、ゴツいおっちゃんの入場である。というか、鎧兜を身にまとってゴツすぎである。だが、それも仕方がない。五月人形になりきっているのだから。
 って、5月? Juneが5月? Juneは6月で、5月はMayだという説が非常に有力であるが?
「五月人形には、金太郎と鍾馗様の2形態あるのぅ。金太郎は、後に頼光四天王の一人として鬼退治を手伝うのじゃね。そして、鍾馗様は‥‥」
 鍾馗様以前におまえが正気か? という話であるが、前フリとかでは一切なく、純粋にボケているので止めようがない。
「昔は旧暦を使っておった。旧暦の五月は、グレゴリオ暦のJuneに大体相当。旧暦の方が農耕には則した暦じゃった‥‥」
 だが、一転して打たれすぎではないと主張し出す鬼王丸。だが、そういうとこだけには耳を貸さないのがプロレスごっこの流儀である。ので、リアルボケキャラとして継続される。
「五月雨を、集めて早し、最上川‥‥芭蕉でございます。ところで、五月晴れという言葉もございますが、元々はJun雨の合間の貴重な晴れのことを指しまして、気象予報士の間では‥‥」
 旧暦を使っていたころを思い出したのか、鬼王丸が言葉の丁寧な老人と化していたが、梅雨のことをJun雨と呼んでみたり、若干ファンキーなおじいさんである。が、そんな間にもお色直しを済ませた竜華が戻ってくる。
「澗なら旬というわけで、秋の旬の食材と戦うわよ!」
 お色直しを済ませたせいか、Juneのことは完全に忘れ去り、6月の初夏の旬ではなく、今の秋の旬を取り揃えた竜華。目の前には、秋ナスやサンマ、キノコの類が並んでいる。
 そこへ、竜華がキノコに箸を伸ばす。それでマツタケを食べたりすると想像力豊かな人間にはたまらないのだが、
「私はマイタケやシメジの方が好みだから無問題」
 残念な結果に終わってしまう。
 しかし、放送席にいつの間にかマリアーノ・ファリアス(fa2539)がやって来ており、勝手に結成されたエノキ並み三兄弟はヒートアップである。とはいえ、まだまだこれから荒くれ者になっていくお年ごろではある。
「竜華さん、メシはまだかいのう?」
 そこへ、一層老化が進んだ鬼王丸がやって来る。となれば、竜華の受け答えは一つしかない。
「おじいさん! さっき食べたばっかじゃないですか!」
「そうじゃったかのぅ‥‥」
 鬼王丸は秋の旬を一切口にしていなかったが、納得してしまってトボトボ引き上げていく。
『‥‥つづいても1vs2のハンディキャップマッチです。文字どおりの『澗』に挑む二人の勇者! まずはガチの勝負に期待がかかるッ! ミゲール・イグレシアス(fa2671)だァーって、いない!? じゃあ‥‥有名ミュージシャンでありながら、たまにプロレスごっこに現れてしまうのは、やはり打たれすぎなのか、月見里神楽(fa2122)だァーッ!』
 ミゲールが現れない中、月見里が走って現れる。見れば、何やら筆で書かれた書初め用の半紙を掲げている。『ミゲール全面敗訴』とか書いてありそうな勢いであるが、実際に書いてあったのは『澗下水』というなじみのないものであった。
『えーと‥‥ヨシュアくん、チミはなんのための解説なんだい?』
「説明しよう!」
 だが、ヨシュアに一言の猶予も与えず、月見里がしゃべり出してしまう。
「これは『かんかすい』と読みます。納音の一つです。納音とはなっちんと読み、生まれ年および誕生日の十干十二支の干支を使った、由緒正しい古代の秘術です。現代風に言えば『開運! 性格診断』ですかね? この納音の‥‥』
 放送席が激しい睡魔に襲われる中、それでも月見里の説明はつづいていく。
『zzz‥‥ん? 終わった?』
 途中はざっくりカットされ、サトルの目覚めから再開する。
「‥‥それでですね、澗下水の意味は『谷川の急流を流れる水』なんです。というわけで、こちらのVをご覧ください」
 月見里のフリに、画面が渓谷の風景に切り替わる。
「むぁいど!」
 が、映っているのはミゲールであった。しかも、なぜかアイマスクをしている。
「潤とは谷! 谷底へのダイブで、潤への理解を深めるんや‥‥とはいえ、ホンマにそんなことをやったら、放送できなくなってまう。そこで、下にマットを敷いたビルからの飛び降りで疑似体験し、潤の理解の足がかりにするんやで!」
 そこでミゲールがアイマスクを外し、谷底をのぞき込んでいる自分を発見する。
「って、ホンマの谷やないけ!」
 わざとらしいまでに驚くミゲール。連れ去られてくる段階で、薄々は気づいていたハズである。
「えーと、バンジーのロープは‥‥なし? んなら、パラシュートも‥‥なし?」
 誰に確認しているのか分からないが、カメラに向かって身振り手振りで説明するミゲール。
「あのな。アドレナリンさえ出れば谷に向かって行く最中がスローに見えたり、断崖絶壁から飛び降りることで身体を鍛え上げてカモシカの蹴り程度ではびくともしない肉食獣の‥‥って無理やん‥‥って言ってる間に落ちてルーー‥‥」
 気づけば、ミゲールの声が遠ざかっていっていた。すぐには水音が聞こえてこないあたり、中々の深さの持ち主のようだ。
 まあ、彼が生前にいいことをしていれば、蜘蛛の糸が垂れてきて助かるに違いない。それって死後の話なんじゃ? という疑念がわずかに湧くが、ホントに死者が出ていたら放送されていないので、彼のことは忘れ去ってあげるのがせめてもの供養というものである。
 すっかり手遅れだが、そこへようやく月見里が到着する。というか、ミゲールの惨劇があったことさえ知らないようだ。
 月見里が道を使って谷底の川まで降り、そこにボートを浮かべる。そして、カメラを設置したダミー人形を乗せて、流してしまう。
「え? お見送りするだけなのって? 神楽は『路傍土』と『海中金』だから、まったく違うタイプなの。体験する必要ないもんで♪」
 映像がボートのカメラに切り替わる中、笑顔で応える月見里。途中、カメラにミゲールらしき人影が映ったような気がしたが、仮にそうだったとしても無人なのでどうにもならない。
 そして再びスタジオの映像に戻ると、月見里が立っていた。無論、月見里の隣に平然とミゲールがいたりはしない。ミゲールは本日、スタジオには来ていないのである。
『なるほど、そういうガチでしたか。おっと、エノキ三兄弟の長兄がリングに向かいました。常に最悪のケースを想定しろ、俺はなおかつその少し斜め上を行くッ! でおなじみ、マリアーノ・ファリスだァーッ! 果たして予想の斜め上を行くことができるのか? しかし、露出度は最強だッ! この分野で上回った選手はいない!』
 サトルの勝手な実況に見送られて、つづく試合のマリアーノがリングに立つ。が、すっかり復活してしまったヨシュアが、なおも勝手な解説を入れつづける。
「今回の見所の一つは、ハサミの危機から免れたマリアーノ選手の動向ですが‥‥」
 そな中、突然出てきたピアノで弾き語りをはじめるマリアーノ。歌うはあの曲、『澗』は『カン』でも、アルファベット3文字で書くほうの『カン』の曲である。つまりはマリアーノの『El amor es todo(愛こそすべて)』という座右の銘、そこからお察しくださいということである。マリアーノの生まれる前にヒットした曲じゃね? と冷静にツッコミを入れても構わないが、プロレスごっこに出るような少年はそもそもどこかおかしいのだ。
「‥‥最後には必ず愛が勝つことを実証してみせるヨ! おお、我に七難八苦を与えたマエ!」
「七難八苦を与え給えとは、七転八倒させてくれ‥‥とのダイイングメッセージに思えて仕方ないのですが?」
 ヨシュアが言うが、サトルは答えない。それよりも、すでにへべれけで最後に入場してきたグリモア(fa4713)を注視していた。
『謎、まったくの謎! なぜ酔っているのか? なぜカンガルーの着ぐるみなのか? これが新風が吹き込むということなのか、グリモアだァーッ!』
「澗→燗で、『カン』ガルーで晩酌だって! はは、朝なのに晩酌ってサイコーだね!」
『なるほど。さんずいにひへん、水と火ならむしろ関係があるッ!』
 冒頭でエレメンタルアタックを完遂したサトルが言うと、説得力があるのかないのか分からない。分かるのは、朝っぱらからぐでんぐでんのグリモアがダメ人間であるということだけだ。
 カンだけに肝臓を気にせずに飲みつづけるグリモアをバックに、『未成年の飲酒は法律で禁じられています。よい子はマネしないでね。成年しても、このような大人にはならないよう、注意しましょう!』のテロップが流れる。
 つまみもかんぴょう巻き、寒天、乾物、缶詰など、ことごとく『カン』尽くしである。抱えてきた一升瓶はあっという間に空になり、空き缶をカンカン叩いて、次の酒を催促するグリモア。
「お姉さ〜ん、お酒のおかわり〜♪」
 だが、引っ張られてきたのはお姉さんではなくマリアーノである。だが、自分から七難八苦を求めてしまったのだから、これは仕方がない。
「でも、まだ一難だけですね。ここは僕らも行かないといけないと思うんですが‥‥」
 ヨシュアがサトルを煽るが、サトルは本業の実況に忙しいので相手にしない。
「実況のサトルさんは、どうやら女子の少なさにやる気を失っている模様です。では、僕がこのハサミで‥‥」
 マリアーノのコスチュームを切り裂きに、ヨシュアもリングに上がってしまう。七難八苦先行で、もはや愛は関係なく、何に勝つのかよく分からない状態になっているマリアーノ。
「I’m えらい人ーッ! 今回も独断と偏見でポイントによるランキングがつくゼ!」
 そこへ、事態を収拾すべくというわけではないだろうが、ポイント発表にえらい人が現れる。
 1位 グリモア 1澗
 2位 ミゲール・イグレシアス 1溝
 3位 マリアーノ・ファリアス 1穣
「目指せ、プロレスごっ‥‥ぐはっ!」
 鬼王丸がハリセン片手に乱入してくると、えらい人に理由もないのにツッコミを入れ、その隙にランキング表を奪ってしまう。
「番組の途中ですが、ここで訂正があります。順位に誤りがありましたので、ここに訂正してお詫び申し上げます」
 1位 えらい人 1正
 2位 グリモア 1澗
 3位 ミゲール・イグレシアス 1溝
 4位 マリアーノ・ファリアス 1穣
「以上、プロレスごっこをお送り‥‥ぐはっ!」
 鬼王丸がえらい人の反撃を受け、ランキング表も奪い返されてしまう。だが、一度出したものは引っ込めないという意味のないこだわりのため、ポイントはそのままだったという。