第24回プロレスごっこ王アジア・オセアニア
種類 |
ショート
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担当 |
牛山ひろかず
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芸能 |
フリー
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獣人 |
フリー
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難度 |
やや易
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報酬 |
0.7万円
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参加人数 |
8人
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サポート |
0人
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期間 |
10/24〜10/26
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●本文
プロレスごっこ──それは、素人によるプロレスの真似事でしかないが、ここにはそれを魅せる域にまで昇華した番組があった。基本レスラーに扮する芸人が、様々な物や者を相手にプロレスをしているかのように見せて笑いを誘う。ただそれだけのことなのだが、小物を使ったボケをベースとする、一人芝居あり、一発芸ありの、お笑いの基本要素の散りばめられた、芸人のワンダーランドなのである。
TOMITVのある会議室に、芸人プロレスごっこ王選手権のスタッフが集められていた。その前に、プロレスごっこの一番えらい人が姿を現す。
「さて、早速だが今回のポイ‥‥」
「その前に一つ言わせてください!」
えらい人がしゃべっているのに割って入るなど、フルスイングの鉄パイプに当たりに行くようなものだったが、それでもスタッフは飛び込んでいった。そのせいか、えらい人も問答無用で黙らせたりはしない。
「何かね?」
「週一のレギュラーよりもハードな気がするのは、気のせいなのでしょうか?」
「気のせいだ。で、今回のポイント‥‥」
あっさり気のせいで片づけ、もはやそのスタッフに対する興味は失せたとばかりに、話をつづけていくえらい人。しかし、スタッフも引き返せない。
「待ってください! 気のせいじゃないです。実際、週一よりも頻度が‥‥」
「月〜金の帯よりはマシだろうが! で、今回のポイントだが‥‥」
こうなってしまっては、鉄パイプを振るわれなくとも、もうスタッフに言い返す力は残されていない。
「‥‥1正、1澗、1溝だな。というわけで、今回は『正しい』をテーマとする。問題ないな?」
鉄パイプを手に、スタッフ一同を見渡すえらい人。確実に正しくない番組作りをしている気がしてならない。
「正しいことってなんですか? 何が正しく、何が間違っているんですか?」
そこで、勇気あるスタッフが質問をぶつける。玉砕すると分かっていても。
「俺が正義だ! そんなこと言ってると、正座限定にするぞ、ボケェ!」
それで困るのはスタッフではなく出場者たちだが、自分たちのせいで出場者たちにとばっちりが行くのはスタッフの本意ではないので、ここはグッとこらえるしかない。
「えらい人が正しいです‥‥サー、イエッサー!」
こうして、正しいという言葉の奥深さを感じさせながら、通算43回目のプロレスごっこ王選手権がはじまるのであった。
参考例:
・軟体レスラーvsボストンバッグ:身体の柔らかい芸人が、固め技という設定でボストンバッグの中に入っていき、ファスナーを内から閉めたところで、レフェリーストップ、ボストンバッグの勝ち。
注意:
・『正しい』をテーマに試合をしなくてはなりません。が、何をもって正しいとするかは、各自の勝手であります。
・ポイントはプロレスごっこの一番えらい人の独断と偏見によってのみ与えられます。すばらしい、おもしろい、えろい、えらい人に媚びる、視聴率が取れる等、一切関係ありません。
・ランキングによるプロレスごっこ王は、ポイントで不可思議(10の64乗)を超える人が現れたくらいで決定の予定です(年内決着予定)。
・毎回上位総入れ替えのインフレですが、そういうバラエティのノリに怒らない人募集。
・プロレスごっこは安全第一です。死亡、怪我、流血は極力避けましょう。
ランキング(上位5名、第21回プロレスごっこ王分まで)
1位 キューレ・クリーク(fa4729) 1穣pt
2位 湯ノ花ゆくる(fa0640) 約2垓pt
3位 小野田有馬(fa1242) 1垓pt
4位 あずさ&お兄さん(fa2132) 1京1156pt
5位 伊集院帝(fa0376) 1京2pt
過去の放送のスケジュール(最近5回分)
・第19回 09月26日 07:00〜
・第20回 10月05日 07:00〜
・第21回 10月09日 07:00〜
・第22回 10月15日 07:00〜
・第23回 10月19日 07:00〜
●リプレイ本文
『これより、放送40万回突破記念! プロレスごっこ阿鼻叫喚八大地獄巡りを‥‥ぐはっ!』
勝手な実況をはじめるサトル・エンフィールド(fa2824)に、走り込んできたヨシュア・ルーン(fa3577)の錐揉み式ドロップキックが炸裂し、サトルは一人阿鼻叫喚にされてしまう。
かくいうヨシュアも、そんなに放送されてないだろとツッコミを入れに飛んできたわけではない。サトルがよそ見しているスキに、後ろから飛び蹴りを食らわす仕事をこなしただけである。
「正義が欲しいんじゃない、真実が見たいんだ。真実は見えるか? ヨシュアです。というワケで、本日は解説と並行して、サトルくんの行動の正しさを評価したいと思います」
『〜ッ、ゴルゴムの仕業かッ!? って、ヨシュアの仕業か‥‥まったく、こっちは実況に手から光線が出るほど忙しいというのに‥‥』
勝手な宣誓をするヨシュアに、頭を振りながら起き上がるサトル。もちろん、いかに天使の微笑みと称されるサトルであろうとも、ヨシュアに蹴り倒されて放っておくわけはない。むしろ、天使の残酷さをもったサトルなのである。
「風火水地と来たら、残るは何? 天で天使の裁き? それもある。霊で百太郎に助けてもらう? それもある。だが、答えはこれじゃー!」
おもむろにくつ下を脱ぐとその中に鉄粉を入れ、それでヨシュアを撲殺のサトル。
『‥‥そうだね、答えは五行の『金』だね。ふー、砂浜で完全犯罪をしちまった‥‥って、砂浜じゃない!?』
完全犯罪に失敗したので撲殺も無効になり、ヨシュアがムクっと起き上がる。
「早くも判決は出てしまったようだ。これよりヨシュア殺人事件の判決を言い渡す!」
自分の殺人事件の判決を、自分でサトルに言い渡そうとするヨシュア。
「被告! サトル!! 被告! エンフィールド!! 判決は! 死刑! 死刑だ!! 死刑死刑死刑死刑死刑死刑!!」
『あー、よく考えればこれも金属だったっけか‥‥』
一人盛り上がるヨシュアを、ブローパイプでボコボコにするサトル。しかしえらい人の鉄パイプではないので、正しさが足りないのかヨシュアは倒れない。
「‥‥おまえたちは哀れだ。だが許せぬ! 実を結ばぬ烈花のように散れ! 蝶のように舞い、蜂のように倒れろ! ルンバで踊れ、ルンバで。I play to win!」
「めいど、ミゲールや! よろしゅうに♪」
だが、そこに突然ミゲール・イグレシアス(fa2671)が現れてしまう。なお、『まいど』ではなく『めいど』なのは、ミゲールがメイドの格好をしているからである。
「めいどバカバカしい話を一つ。あるお年を召された男性が、めーど喫茶と聞いたときに、墓場とかそういう雰囲気の喫茶店で、すでに枯れたお年寄りたちが集まる喫茶店かと思ったそうでんねん。つまり、何が正しいか間違ってるか、というのは個人の思い込みなんやで〜♪」
そうとだけ言うと、颯爽と去っていくミゲール。何が正しいとかいうことはもはや関係なく、残ったのはミゲールにメイド服が似合うと思う層はニッチすぎるということだけである。
『しかし、はええもんだぜ。あのミゲールとヨシュアが犬死にしてからもう一ヶ月か‥‥』
何ごともなかったかのように、実況を再開するサトル。極めて賢明な対応である。
「やればできる子、やればできる子‥‥」
対する解説のヨシュアは、ブツブツと内に閉じこもってしまっている。
そんな空気が暖まったんだかよく分からない状況の中、最初の選手である大神真夜(fa4038)が入場してくる。
『よーし、わしが一番乗りじゃあ! いや、わしが先じゃあ! ふふ、大神も相変わらずだな‥‥』
大神の入場に合わせてサトルが勝手な吹き替えをしてしまっていたが、大神はそんなサトルにツッコミを入れるどころではなかった。
「僕には何が正しいのか分からないよ、カンパネルラ‥‥」
苦悩する大神。だが、分からなくて当然である。プロレスごっこは何をやっても正しいというタチの悪い世界なので──正確には、えらい人が間違いと言わない限りは正しい世界なので、打たれすぎて別の世界が見えない限りは分からないものなのである。
何が正しいかを理解するため、そのままジャッジとして採点席に座る大神。何が正しいのかが分かっている人がジャッジしないといけないのでは? という疑問は、プロレスごっこでは通用しない。
『どうやらやっと身体も動くようになって初登場じゃ。よく考えると、わしら全然番組に出ておらんのう‥‥』
相変わらずサトルの勝手な吹き替え実況がつづく中、DarkUnicorn(fa3622)が入ってくる。
「まずは、軽くアップでもするかの」
サンドバックに正拳突きを叩き込みつつ、回数を『正』の字でカウントしていくDarkUnicorn。
『よーし、ここは俺の出番だ。ま、待て! 抜けがけは許さんぞ、スベスベDarkUnicorn‥‥』
常盤躑躅(fa2529)が乱入してくるのに合わせ、なおも勝手な吹き替えを楽しむサトル。
「ふっ‥‥世間一般から見ればあきらかに間違っていることでも、漢としての観点から見れば正しいこともある。どエロりすとの俺様が、オトナのための夜のプロレスごっこ講座を開いてやるゼ!」
タキシードにパンダの覆面という正装で登場するだけあって、言葉の重みが違うのかどうかよく分からない。しかも、エロりすとである。エロテロリストとは大違いであるので、気をつけて欲しい。というか、性別が違うのでアッーとなって困ってしまうだけかもしれない。
「さあて、俺様の正義の‥‥いや、性技の四十八手を見せてやる!」
言い換えが普通逆だろうと思わなくもないが、そんなことよりも四十八手である。四十八手といえばプロレスではなく国技相撲の決まり手をまとめたものであるが、夜のと銘打つからには、当然そっちではなくあっちの方の四十八手であるのは言うまでもない。
ギロリング! 今回の貴重な女性参加者であるDarkUnicornと大神をターゲッティングする常盤。
「勝負だっ! 俺が勝ったら、四十八手の相手を‥‥ぐぼばっ! 二人がかりというのも男子の憧れとはいえ、ここは一対一で正々堂々‥‥いや、性正堂々と‥‥ぐへはぶふっ!」
常盤が同じリング上にいたDarkUnicornに抱きつくが、すぐさまボコボコにされてしまう。しかも、ジャッジとしてリング下に控えているハズの大神まで上がってきて、二人がかりでボッコンボコンである。DarkUnicornと大神にボコられる常盤という構図は、つい先日も見た気がしてならないが、別番組なので気のせいであろう。
「おぬしのようなのを、黒い悪魔みたいなヤツというのじゃ! ゴキとエロティカセブンの両方を併せ持つ躑躅には、ハードコアな気持ちではなく、ハードコアな行動で示すのじゃ!」
いや、気のせいではない。その別番組の恨みも併せて晴らすとばかりに、DarkUnicornはさらに愛車KDDX250に鎖でくくりつけると、盗んだバイクではないが走り出す。
「ゴキは、バイクでプチプチ轢き殺しの刑なのじゃ!」
「いや、これって引き回しって言うんじゃ‥‥」
ツッコミを入れている間に鎖が首に絡まり、酸欠で気持ちよくなってきてしまう常盤。
『フフフ‥‥あまりの長いブランクに、身体がなまっています。ま、まかせられるかーッ!』
サトルが初登場のドワーフ太田(fa4878)にピッタリの吹き替えをする中、ゴゴゴという効果音を背負って太田が乱入してくる。
「『己の正しさはリングの上で示せ』と常々言われてきたが、今回はその絶好の機会をもらえたというわけじゃな!」
いかにも本業がプロレスラーだけあるようなことを言っているが、ここはプロレスごっこのリングである。
「わしの証明したい正しさとは、ズバリこの一点に尽きる‥‥山、高きが故に貴からず。樹有るを以って貴しと為す。人、高きが故に貴からず。力を持って貴しと為す。地平らかに天成る」
実語教が途中からおかしくなり、最終的には平成に変化を遂げていたが、単に逆恨みが先走りすぎただけの話である。それは、太田の背の低いというコンプレックスにあった。160台後半で悩むなんてふざけんなこのヤロウとなりそうなものだが、そこはプロレスラー基準なのでご容赦願いたい。
だから、自分よりも背がデカいヤツだけには負けられぬという、無意味な反骨精神だけが育ってしまっていた。そう、こんなおかしなコトも平気でできてしまうまでに。
「その図体をさらに引っ張ってデカくなろうなど、不届き千万! わしもやらせてもらおうぞ!」
太田はすでに自分の手で、鎖でグルグル巻きになっている。さらに走っているDarkUnicornにフックを投げると、太田も常盤同様市中引き回しの刑に混ざる。
「ぐはっ‥‥く、苦しいのじゃが、これで背が伸びるのであれば易いものよ‥‥」
「やっぱり僕には何が正しいのか分からないよ、ジョバンニ‥‥」
確実にヤバい人登場で、逃げるように採点席に戻った大神が頭を抱えていた。
「Oh〜、まさにカミカゼ、ジャパニーズはクレイジーデース! 僕ガ日本に来て〜、大分経ちマスがッ! このツナミなノリには乗り切れマセーン!」
本当に阿鼻叫喚八大地獄巡りになってしまったリングを見て、エセアメリカーンなキャラで登場した白海龍(fa4120)が驚愕の声を上げる。
「そうデス、こういったノリが僕を含めタ外国人を悩ませるノデ、何よりも日本語がムズかしくなるのデスッ!」
だが、順調に話があさっての方向へ行きはじめる。
『し、知っておるのか、巨大白海龍ーッ!?』
「エエ、間違った言葉モ使いツヅけレバ浸透する言葉にナル、というカルチャアを最近知りマシタ! 知ったからには、戦わねばナリマセーン! というワケで『正しい日本語』と戦い、美しいう日本語を取り戻すノデース! 言葉狩りなんかに、負けマセーン!」
サトルの吹き替えムチャブリにもきっちり乗っかる白海龍。
「具体的ニハですネ〜、誤用の代表トモいわれる『確信犯』を誤用の方向デ使い倒そうと思うわけデスネ〜。とりあえず、今回ハなんだかガチムチのお兄サンがたくさんいますノデ〜、うっかり足を滑らせて確信犯のボディタッ‥‥ぐぼはっ!」
常盤も太田もどちらも捨てがたいとばかりに抱きつこうとした白海龍だったが、DarkUnicornに引きずり回されているわけだから、弾き飛ばされるのみである。
「こうなるコトモ、確信犯ナンデスケドネ‥‥ガクッ」
崩れ落ちる白海龍。だが、ちょうど常盤も太田が通過するところへ崩れ落ちていた。その衝撃で、鎖がちぎれてしまう。三人団子となってゴロゴロと転がり、ちょうど入場してきたミゲールにぶつかって止まる。
いや、ミゲールではない。中身はミゲールでもナゾのマスクマン、カースマスク・ミヒャエルであった。が、そんなことはどうでもいい。白海龍にとっては、おいしい料理がもう一皿出てきたようなものである。とりあえず抱きついてみて、肉体の感触を堪能である。
ミゲールはプロレスごっこで正統派プロレスをしてしまう正しさを演じようとして出てきたのだが、
「男なら、世間で間違ってると言われてようが、正しいと思って進まねばならないときもある‥‥が、男の道を踏み誤る気はないんや!」
完全にブチ切れ金剛である。正統派プロレスと言いつつ、狼が飢餓に苦しんでいる世界での真剣と書いてシュートと読むの合図を出しているような気がしてならない。
「ノンノン、確信犯じゃナイデース。プロレスごっこ的確信に基づいてやってマース!」
それに慌てて首を振る白海龍だったが、もはやどうにもならない。ミゲールにとってはガチマッチ、白海龍にとってはくんずほぐれつの戦いがはじまってしまう。
「うぉ! こんなに景色が変わるものなのか!」
一方、太田は失神したまま寝言を言っていた。幽体離脱ゆえの高い視点だということに気づいてはいない。
だが、太田がそんな束の間の幸せを味わっている中、一番長く引きずり回されていた常盤は完全に打たれすぎになっていた。
「しょうがねぇ、こうなったらコイツを使うか‥‥」
取り出したるは、パンダッチワイフ。あくまでもイノッチ似のパンダのワイフであって、決してオランダ妻が電気ウナギの夢を見たりはしないのである。団地妻には誘惑されるのかもしれないが。
「I’m えらい人ーッ! って、私はえらい人じゃないんだが‥‥」
現れたのはえらい人ではなく、大神だった。
「え? ジャッジだろうって? 一晩でやっておくれよ、ジェバンニ‥‥」
ブツクサ言いながらも、結局はえらい人に手渡されたランキング表を読み上げる大神。
1位 常盤躑躅 1正
2位 DarkUnicorn 1澗
3位 白海龍 1溝
「目指せ、プロレスごっこ王! 以上だ‥‥」
最後のキメゼリフだけはえらい人が言って、そのまま去っていく。
「サトルくん、そろそろシメの時間のようだから‥‥死刑執行!!」
思い出したかのように、ずっと正しさを評価していたヨシュアがサトルを裁こうとする。
「えい、合体ッ!」
だが、あっさり返り討ちにあってしまう。まあ、サトルが単にヨシュアに肩車させているだけであるが。
こうして、阿鼻叫喚八大地獄巡りは閻魔大王に会うところまで行かぬまま終わっていくのであった。