第27回プロレスごっこ王アジア・オセアニア
種類 |
ショート
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担当 |
牛山ひろかず
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芸能 |
フリー
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獣人 |
フリー
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難度 |
やや易
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報酬 |
0.7万円
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参加人数 |
8人
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サポート |
0人
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期間 |
12/07〜12/09
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●本文
プロレスごっこ──それは、素人によるプロレスの真似事でしかないが、ここにはそれを魅せる域にまで昇華した番組があった。基本レスラーに扮する芸人が、様々な物や者を相手にプロレスをしているかのように見せて笑いを誘う。ただそれだけのことなのだが、小物を使ったボケをベースとする、一人芝居あり、一発芸ありの、お笑いの基本要素の散りばめられた、芸人のワンダーランドなのである。
TOMITVのある会議室に、今日もまた芸人プロレスごっこ王選手権のスタッフが集められていた。一同の前に、プロレスごっこの一番えらい人が姿を現す。
「今年で、今月で終わりだから、ガンガン行くぞ。というわけで、阿僧祇サマの出番ときたか。1阿僧祇、1恒河沙、1極っつーわけだな!」
「サー、イエッサー!」
終わりといっても、番組自体が終わるわけではない。長々とやっていた、初代プロレスごっこ王を決めるためのランキング戦が一息つくだけの話である。
しかし、まだ第26回の収録前のせいか、スタッフの士気はムダに高いままである。
「威勢がいいな。だったら、今回のテーマは久々にフリーでいってみるか!」
「意味が分からないけど‥‥サー、イエッサー!」
さっぱり分からない勢いだけで、テーマをなしとするえらい人。阿僧祇で縛るのはムズかしいと考えたのか、あるいは何も考えていないのか。もちろん、後者であるのは言うまでもない。
「よし! じゃあ、全員に気合いを入れてやるか!」
「サー、イエッサー!」
なんの脈略もなくスタッフ全員を一列に並べると、鉄パイプでブン殴って気合いを注入していくえらい人。すでにヤバい儀式か何かのようである。
こうして、残り3回となったプロレスごっこがはじまるのであった。
参考例:
・軟体レスラーvsボストンバッグ:身体の柔らかい芸人が、固め技という設定でボストンバッグの中に入っていき、ファスナーを内から閉めたところで、レフェリーストップ、ボストンバッグの勝ち。
注意:
・試合をするにあたって、特にテーマはありません。好き勝手になんでもあり‥‥それがプロレスごっこの原点であります。
・ポイントはプロレスごっこの一番えらい人の独断と偏見によってのみ与えられます。すばらしい、おもしろい、えろい、えらい人に媚びる、視聴率が取れる等、一切関係ありません。
・ランキングによるプロレスごっこ王決定は、次々回を予定しています。
・毎回上位総入れ替えのインフレですが、そういうバラエティのノリに怒らない人募集。
・プロレスごっこは安全第一です。死亡、怪我、流血は極力避けましょう。
ランキング(上位5名、プロレスごっこ王HalloweenSP分まで)
1位 ドワーフ太田 1極pt
2位 Zebra(fa3503) 1載8pt
3位 パトリシア(fa3800) 1載6pt
4位 グリモア(fa4713) 1正1澗1垓pt
5位 竜華(fa1294) 1正288pt
過去の放送のスケジュール(最近5回分)
・第23回 10月19日 07:00〜
・第24回 10月24日 07:30〜
・第25回 10月28日 07:00〜
・HESP 10月31日 07:00〜
・第26回 12月04日 07:00〜
●リプレイ本文
「第27回プロレスごっこ王、はっじま〜るよ〜!」
収録開始目前、すでにリングに上がっている本日のレフェリー、ティタネス(fa3251)が、入念にリハーサルをしている。しかし、どこかしっくりこないのか、しきりに首を傾げている。
「なんだか今回は子どもが多いみたいだから、子ども番組っぽいタイトルコールに間違いはない‥‥ハズ。じゃあ、何がいけないんだろ? やっぱ、基本に忠実にコールは全員でやるべきなのかね?」
ティタネスがブツクサ言っている間にも、本番スタートである。
『ようよう! 朝っぱらからこんなモノを見ている、ヒマ度ダブルエックスの皆さん方、7時の時報代わりに悪夢を見せてやる──まずは一曲目‥‥SATSUのわっ!』
なぜかヒップホップのノリで実況をはじめるサトル・エンフィールド(fa2824)の身体が、突然宙に浮く。
「番組コールは、やっぱ子どもたち全員でやらないとな!」
本番がはじまろうとも理想の画を追い求めるティタネスが、サトルの首根っこを引っつかんで、リフトアップしていたのである。
「ひぃっ!」
対する解説のヨシュア・ルーン(fa3577)は、避難訓練よろしく放送席の下に逃げ込んでいたが、あっさり見つかって同じく吊り上げられてしまう。
「あと2匹‥‥もとい2人。残るは帯刀兄弟か‥‥どこ行った?」
獲物を求めるような血に飢えた野獣のような目で、周囲を見渡すティタネス。と、なぜかティタネスと同じ20代であるDarkUnicorn(fa3622)に目が止まる。
「子ども‥‥発見!」
「な、なんでわしがお子ちゃまなのじゃ!?」
「答えは‥‥これだっ!」
DarkUnicornの胸元に手を突っ込むティタネス。
「な、何をする!? わしはそういう趣味は‥‥ちょっとあるのかもしれなくなってしまったのじゃ! 責任をとるのじゃ!」
「は? 何を言ってんだい? コレだってば!」
ティタネスが何かを取り出すと、DarkUnicornの胸がベコリとへこんでいた。そう、パッド代わりに詰め込まれていたメロンパンである。
「ぬぅ、イヴに向けてふっくらお色気度UPしておったのに‥‥」
「だから、その発想が子どもっぽいってコトで、子ども認定で問題ないよな?」
「大アリじゃ! こうなったら、クリスマス特番を繰り上げて、お正月特番に突入するのじゃ!」
「どっちにも早すぎるよぅ‥‥」
ヨシュアが非難の声を上げるが、DarkUnicornは聞く耳持たない。ドスを抜き放つと、構えてサトルとヨシュアに突進していく。
「ええい、ぬしらお年玉をもらっておろう。それをよこすのじゃ! お年玉を鉄砲玉がおどし玉なのじゃ!」
『フフ、まさかこんなにすぐリアルSATSUGAIが見られるとは!』
勝手なコトを言いつつ、抜かりなくヨシュアを盾にするサトル。
「うわぁっ! 〜ッ!? はは‥‥まさか、ハサミがこんな形で役に立つ日が来るなんて‥‥」
しかし、ヨシュアは残念なコトに無事であった。違う用途用に用意しておいたハサミを咄嗟にかざしたところ、DarkUnicornのドスを奇跡的に受け止めてしまっていたのだ。
「ぬぬぬ‥‥引っ込みがつかなくなってしまったのじゃ!」
今度はどこからともなくボウリング球を取り出し、辺り構わず投げまくるDarkUnicorn。そう、落とし玉である。ネタ自体はベタだが、本当にやるとキケンなので、よい子はマネしてはいけない。というか、落とすというよりはブン投げているので、よりキケン度アップである。
「えーっと、ついついレフェリーだってコト忘れてたけど‥‥これって、凶器だよな? でも待てよ。今回のテーマはフリー、つまり自由なんだっけ? ということは、要するに縛るものがないノールール状態、でいいのかな? そうなると‥‥あれ? 反則もなにもない、ということにならないか? それじゃ、反則のとりようもないじゃないか! プロレスごっこって、むずかしいなぁ‥‥」
「勝手な解釈してないで、止めてくださいよぉ‥‥」
考え込むティタネスに、ヨシュアが泣きながら助けを求めるが、誰もDarkUnicornを止めようとはしない。
「テーマ通り、1阿僧祇円用意するのじゃ!」
『‥‥ようよう! 朝っぱらからこんなモノを見ている、ヒマ度トリプルエックスの皆さん方、7時10分の時報代わりに悪夢を見せてやる──まずは一曲目‥‥って、もうはじまってるし!』
ヨシュアを人身御供とばかりに、あっさり放送席に戻ってきていたサトルが実況に復帰するが、すでにリング上にはTyrantess(fa3596)がギター片手に上がっていた。
「犯行‥‥じゃねえ、反抗と書いてロックと読む。って、そういうわけでもねーが、『阿僧祇で縛るのはむずかしい』とか言われると、かえってそこにこだわってやってみたくなるじゃねーか!」
そう言うTyrantessのギターをよく見れば、アコースティックギターであった。阿僧祇→アコギ→アコースティックギターというわけだ。本人が言うとおり阿僧祇にこだわる必要はまったくないのだが、そう言われれば言われるほどむしろこだわる理由なき反抗、それがロックというものである。
「俺も本当は朝弱いんだが、夜から起きてりゃ平気だと最近気づいたから平気だ! というわけで、『朝起き』聞いてくれ!」
弦を激しくかき鳴らしはじめるTyrantess、効果抜群の目覚ましソングだ。ここでも理由なき反抗で、阿僧祇→あそうぎ→あさうき→あさおき→朝起きとなっていたが、やかましくてそんな細かいところまで考えていられない。
というか、朝起きを通り越して朝立ちになっているような気もしないでもない。Tyrantessといえば露出度の高い衣装と決まっているが、その格好で激しく動くものだから、男性諸氏は違うところが起きてしまうというものである。
しかし、これではパッドを抜かれてえぐれてしまったDarkUnicornの逆鱗に触れるのではないかと心配になってくる。と、リングサイドに目をやれば、いつの間にか先程の騒ぎは収まっていた。
そして、リングの片隅に持ち込んだコタツに入り、よぼよぼとミカンを食べている。
「やはり、年末は歌番組じゃのう‥‥」
お正月から、若干時間が巻き戻って年末になったようだ。しかしDarkUnicorn自身は子ども一転、ただのお婆ちゃん状態である。
「しかし、肉体で競い合う番組も見たいところじゃ‥‥リモコンは、と」
そこに捨て犬のように怯えたヨシュアが入ってきて、DarkUnicornにリモコンを渡す。本当はウィルフレッド(fa4286)に手渡す予定の無意味にTOMITVしか映らないように改良済みのリモコンだったのだが、こうなっては仕方がない。
それって壊しただけ? のような気がしなくもないが、プロレスごっこはTOMITVの懐の広さなしには存在しえないので、やはり改良というべきなのである‥‥という解説も、ヨシュアの胸の中でお蔵入りである。
というわけで、DarkUnicornがTVもないのにリモコンを押すと、TOMITVスタジオ内リングで目の前の選手が入れ替わるという仕組みにたった今なった。
なので、Tyrantessがフェードアウトしていき、代わりにウィルフレッドと帯刀橘(fa4287)が入ってくる。
肉体で競うというわりには、あまりに幼い二人組であった。しかしこの二人、実の兄弟なのである。その二人が、リモコンを旗に見立てたビーチフラッグスをしようというのである。
うら若き兄弟分での血で血を洗う抗争は、本日も含めて毎回のように放送席で繰り広げられている。しかし実の兄弟で、しかも出場選手としてガチで戦うとなると‥‥残念なことに、かなりの打たれすぎ兄弟もいたものである。
と、リングインするウィルフレッドに、なにやらハサミを手渡すヨシュア。そして、なにやら目配せをする。
「? ああ、そういうことね!」
何かに気づいたらしく、そう答えるウィルフレッド。しかし、橘のように兄弟ならちゃんと伝わったのかもしれないが、ヨシュア相手で通じたのかどうか。確実に自爆への道を歩んでいるヨシュアな気がしてならないが、何を言わないでおいてあげるのが本当のやさしさというものである。
「兄さん、今日もTOMITVを見ようよ。家族全員がプロレスごっこを楽しんでいるんだし」
弟の橘は夏休みSPの廃校マッチの際に、某打たれすぎ芸人の追っかけにやってきたくらいのプロレスごっこマニアだが、どうやら呪われた家系の賜物だったようだ。
「時代はWWBでしょ? モーニングコールMを見るべきだよ!」
呪われた家庭にあって、ウィルフレッドだけがマトモに育ったようだ。堂々と裏番組を主張するあたりは、やや屈折してしまったのかもしれないが。
「平和な家庭のためだ! 兄さん一人で、家族全員の楽しみを奪うなんて許せない!」
「ならば、力でリモコンを奪ってみよ! もはや遊びの時間は終わったのだよ、橘くん」
アツい橘に、なおも挑発するウィルフレッド。
『早起きしてプロレスごっこ見るくらいなら、プロレスごっこDVD買え! 俺の給料は現物支給だから、毎回プロレスごっこDVD一本なんだよ! これのレア度を増すために、てめーらが買い占めてから、インターネットオークションで高値が付くようにする‥‥この華麗な人生設計、理解できる? ブツブツ‥‥』
対して、実況のサトルは冷めて毒を吐いていた。
「おっ、ようやくはじまるようなのじゃ」
そんな中、ビーチリモコンがスタートする。両者うつ伏せになって、じっとスタートの合図を待つ。
そして、ウィルフレッドと橘の身体が弾けた。目指す先はリモコン。しかし、そのリモコンはDarkUnicornが持ってしまっている。
DarkUnicornのところへ、ウィルフレッドと橘がなだれ込む。
「獲ったどー!」
「いや、俺の方が早い!」
共にリモコンを握り締め、レフェリーのティタネスを見やる橘とウィルフレッド。
「‥‥ああ、そうか。レフェリーだけがルールに従おうとするから、おかしなことになるんだな。ノールール状態だから、今回はレフェリーも好きにやっていい、と。それじゃ、あたしも好きにジャッジさせてもらおう‥‥いやいや! 選手の側も自由なんだから、レフェリーに従う必要もないんだっけ? じゃあ、レフェリングしても意味ないじゃん! プロレスごっこって、むずかしいなぁ‥‥」
しかし、肝心のジャッジするティタネスが、未だに自問自答していた。
とはいえ、その必要はなかった。DarkUnicornが鬼の形相で立っていたのだから。二人が殺到した際に、ウィルフレッドのハサミがDarkUnicornの服を切り裂いてしまっていたのだ。
「わしは見せたいのであって、見られたいんじゃないのじゃ!」
とんでもないカミングアウトをしつつも、ポン刀を振り回して荒れ狂うDarkUnicorn。
「むぁいど! ミゲールや、よろしゅうに」
とそこへ、野菜の星の戦闘服を着たミゲール・イグレシアス(fa2671)が入ってくる。
「テーマはフリーだ! っちゅーコトで、ここでフリーダが暴れてるって聞いたんやけど‥‥」
ミゲールの目には、フリーダことDarkUnicornが、特戦隊のウィルフレッドと橘を折檻しているところにしか見えていない。
「貴様がやったのか、フリーダ! ああ、こんなに打たれすぎになってもうて‥‥」
しかし、言っている言葉とは裏腹に、なぜかビルドアップされたバディを見せつけはじめるミゲール。
「ワイの筋骨隆々さを見よ、むききききー! この鍛え上げられたヒッティングマッスル! 拳の方が耐えられんのや、いてて‥‥」
何しに出てきたんだとばかりに、ミゲールがそのまま退場しようとしてしまう。
ミゲールがそんなアホなことをやっている間に、DarkUnicornはコタツの住人に逆戻りしていた。
「そうそう、年末はアニメ特番も見ておきたいところじゃ‥‥ポチっとな」
リモコンを押されてしまったので、不思議な力にリング中央に押し戻されるミゲール。もはや、絶体絶命のピンチである。
「こ、こうなったアレしかあらへん。フュージョンや!」
不思議なダンスで白地に紫の宇宙人着ぐるみを装着しはじめるミゲール。
『ノロノロと鬱陶しいわッ!』
毒舌どころか、ついリングに上がって手まで出てしまうサトル。何かあったのか、本日は荒れ気味である。
「I’m えらい人ーッ! 今回も‥‥ぐぼはっ!」
実況のサトルがリングに上がるならば、えらい人も上がらねばなるまいと、颯爽と登場する。だが、その後ろからさらにものスゴい勢いで、Tyrantessが入ってきて、えらい人を踏み潰してしまう。
「I’m Tyrantessーッ! スヌーズ機能、絶賛搭載中! っつーコトで、シメにもう一度『朝起き』を聞いてくれーッ!」
ギターをかき鳴らすTyrantess。ランキング発表はどこへ行った? と思いきや、Tyrantessのバックの電光掲示板に、ひっそりと表示されていた。
1位 ミゲール・イグレシアス 1阿僧祇
2位 Tyrantess 1恒河沙
3位 帯刀橘 1極
「‥‥なんで一緒にやって、橘くんだけ入ってるのかな?」
「えーっと、プロレスごっこ愛の差?」
それを見たウィルフレッドの呟きに、橘が答える。
「ま、いーや。WWBスポーツスポット見て、寝よ」
しかし、ウィルフレッドが他局に振るヒドい終わり方になるだけだった。