第28回プロレスごっこ王アジア・オセアニア
種類 |
ショート
|
担当 |
牛山ひろかず
|
芸能 |
フリー
|
獣人 |
フリー
|
難度 |
やや易
|
報酬 |
0.7万円
|
参加人数 |
8人
|
サポート |
1人
|
期間 |
12/12〜12/14
|
●本文
プロレスごっこ──それは、素人によるプロレスの真似事でしかないが、ここにはそれを魅せる域にまで昇華した番組があった。基本レスラーに扮する芸人が、様々な物や者を相手にプロレスをしているかのように見せて笑いを誘う。ただそれだけのことなのだが、小物を使ったボケをベースとする、一人芝居あり、一発芸ありの、お笑いの基本要素の散りばめられた、芸人のワンダーランドなのである。
TOMITVのある会議室に、今日もまた芸人プロレスごっこ王選手権のスタッフが集められていた。一同の前に、プロレスごっこの一番えらい人が姿を現す。
「今回のポイントは那由他! っつーわけで、1那由他、1阿僧祇、1恒河沙っつーわけだな! 全ポイント3文字というのはうれしいが、那由他に果てがあるとか言う前に、無限大の彼方に行きましょう、だ。分かったな?」
「さっぱり分かりません!」
ボクッ! 鈍い音をこめかみから立てて、倒れ込むスタッフ。無論、えらい人の鉄パイプを食らっただけの話である。
「このように、コイツは無限大の彼方に旅立ってしまったわけだが‥‥他に行きたい者はいるかな?」
「サー、ノーサー!」
鉄パイプでポンポンと手のひらを叩いているえらい人を前に、大仰に首を横に振り、全力で否定してみせるスタッフ一同。
プロレスごっこがついにあと2回となろうとも、このように有無を言わせずに力技ではじまるのであった。
参考例:
・軟体レスラーvsボストンバッグ:身体の柔らかい芸人が、固め技という設定でボストンバッグの中に入っていき、ファスナーを内から閉めたところで、レフェリーストップ、ボストンバッグの勝ち。
注意:
・『那由他』をテーマに試合をしなくてはなりません。『那由他』から連想できないこともないものであれば、どんなに遠くても構いません。
・ポイントはプロレスごっこの一番えらい人の独断と偏見によってのみ与えられます。すばらしい、おもしろい、えろい、えらい人に媚びる、視聴率が取れる等、一切関係ありません。
・ランキングによるプロレスごっこ王決定は、次回を予定しています。
・毎回上位総入れ替えのインフレですが、そういうバラエティのノリに怒らない人募集。
・プロレスごっこは安全第一です。死亡、怪我、流血は極力避けましょう。
ランキング(上位5名、プロレスごっこ王HalloweenSP分まで)
1位 ドワーフ太田 1極pt
2位 Zebra(fa3503) 1載8pt
3位 パトリシア(fa3800) 1載6pt
4位 グリモア(fa4713) 1正1澗1垓pt
5位 竜華(fa1294) 1正288pt
過去の放送のスケジュール(最近5回分)
・第24回 10月24日 07:30〜
・第25回 10月28日 07:00〜
・HESP 10月31日 07:00〜
・第26回 12月04日 07:00〜
・第27回 12月07日 07:00〜
●リプレイ本文
観測もされていない磁気嵐の影響か、微妙に参加者の少ない本日の収録。しかし、それでも残酷なまでに正確に、放送スケジュールは迫ってくる。
だが、そんなコトとは関係なしに、極上の笑みを浮かべて天使を超えた何かになってしまった実況のサトル・エンフィールド(fa2824)が、早くも放送席から番組をシメにかかっていた。
『ぼく(サトル・エンフィールド)の常駐する‥‥ぼくたちの番組‥‥『プロレスごっこ』は深く傷ついた‥‥。いや‥‥正確に言えば、『プロレスごっこが生んだヨシュア・ルーン(fa3577)という怪物によって、プロレスごっこ自身は傷つけられた‥‥』』
ヨシュアに壊されたデジカムを手にしつつも、極上の笑みが崩れる気配はない。おかげで、サトルのすぐ背後に普通にヨシュアに立っていたが、まったく気づかない。
一方の前方からは、あずさ&お兄さん(fa2132)のあずさが深刻な面持ちでやってくる。
「キズの痛みが深く現れてくるのは、これからだよ‥‥。ヨシュアくんに服を切られた人たちを、その家族はこれからもずっと待つのかな?」
なんのコトかさっぱり分からないけど、サトルに渡された台本どおりに読むあずさ。さっぱり分からないついでに、サトルの後ろのヨシュアからハサミまで手渡されてしまっている。
しかし、サトルはそれすらも気づかずに、番組をまとめようとしている。
『この番組がどうなっていくのか、ぼくにも分かりません‥‥。ただただ‥‥』
「そこでお前は『悲しい事件でした‥‥』と言うッ!」
『〜ッ!?』
突然の声に、後ろを振り向くサトル。果たして、そこには不自然な関節の曲がり具合のヨシュアが立っていた。
『ぐぅえっぷ‥‥ヨシュア、貴様がなぜここにいるッ!?』
サトルがパニックになって順調に壊れたところで、ヨシュアは満足げに去っていこうとする。
が、サトルは最後の正気を振り絞り、ヨシュアにオラオラと突っ込んでいく。粉々になって吹き飛ぶヨシュア。
『ハッ!? これは人形ッ!?』
いや、ヨシュアが粉々になるわけがない。人形に入れ替わっていたのだ。そして、その人形がお兄さんであることは言うまでもない。
「ちょ、サトルくん、ヒドいよっ!」
あずさがサトルの身体を揺すって文句を言うが、もはやサトルはうつろな目でヨダレを垂れ流すのみで、まったく反応しない。
「‥‥というわけで、急遽実況を務めることになったあずさです。天が呼ばなくても、地が呼ばなくても、人が呼ばなくても、それでも帰ってきてしまうのが、このプロレスごっこのリング!」
使い物にならなくなったサトルを抱き枕にしながら、実況席の占拠に成功するあずさ。尊いお兄さんの犠牲をムダにしないためにも‥‥。
「勝手に結成した『おいしいとこだけもってき隊』の隊長として、ラスト2回は負けられません‥‥って、実況席にいて私は勝てるのでしょうか? ちなみに、結成と言っても今のところ隊員は不在で大募集中ですっ!」
しかしどうやら、お兄さんは順調に犬死に確定コースのようだ。
「さあ、最初の紗原馨(fa3652)選手が入ってきました! おっとこちらに向かってきています。どうしたのでしょうか?」
なにやらブツブツと考え込んだ様子で、入場してくる紗原。無人のリングではなく、人のいる放送席に向かっている。
「入場しながらでなんだけど‥‥テーマがあるんですねぇ。えっと、なゆた? 人の名前‥‥なのかな?」
紗原はあずさとサトルの前に立つと、人を探している風に叫んだ。
「『なゆた』か『ゆーた』という名前の人はいませんかー? 現在、その名前の血液が不足してまーす!」
確実に途中から違う呼びかけになっていたが、あずさがサトルを奪われまいとギュっと抱きしめたものだから、それが紗原の目に留まってしまう。
「あっ! この子がゆー太だね? 別にゆーきでハンカチ王子でもいいんだけど‥‥ほら、おいで! ポン太!」
一度として同じ名前を言わずにサトルに呼びかける紗原だが、相変わらず壊れたサトルは無反応である。
こうして、サトルをめぐる女(注:一人は心のみ)の戦いがはじまる‥‥が、一瞬で終わった。
「サトルくんは渡せないよっ!」
「え? サトルだなんて‥‥ぽこ太じゃなかったのね。ヒドい! だましたのねっ!?」
勝手に逆上する紗原だったが、そんな名前の人はいないとあっさり気づき、すぐさま引き上げていく。
「えっと‥‥今ので試合終了でしょうか? え、さすがにそれはない? 分かりました。では今度こそ第一試合、DarkUnicorn(fa3622)選手の入場ですっ!」
あずさの合図に、寒々しい格好のDarkUnicornが入ってくる。貧相な胸をさらにキツくさらしで巻き、下はゴスロリ繻「白」のみ。見せる悦び、見られる悦びに目覚めつつあるDarkUnicornは、打たれすぎとはまた違った方向で危険領域に突入中である。
「那由他がゆー太? そんなわけないのじゃ! 太古の昔より、『無い湯たんぽ』を略してなゆた、それに当て字で那由他と決まっておるのじゃ!」
力説するDarkUnicorn。湯たんぽなしで寒さと戦うがゆえの、さらしにフンドシということらしい。一応頭部にはウサミミもつけていたが、なんの足しにもならないというか、素っ裸にソックス以上に特殊なフェチである。
「というワケで、湯たんぽなしはもちろんのこと、一切の暖房器具を排除して、冬将軍と勝負なのじゃ! おっと、ホームで戦う気はないぞえ。あえてアウェー、氷のリングで勝負なのじゃ!」
スケートの氷筍リンクのように、リング上に氷がはめ込まれていく。第一試合から氷のリングで、第二試合以降いい迷惑であるが、DarkUnicornはそんな小さなコトにこだわるような器ではなかった。
「放送終了まで生き残るコトができれば、わしの勝ちなのじゃ‥‥はっ、くちゅん!」
チュドーン! いきなり寒さに耐え切れずにくしゃみをするDarkUnicornだったが、その拍子になぜか持っていた爆破スイッチを押してしまう。
「な、なにゴト!?」
黒コゲになったマリアーノ・ファリアス(fa2539)が、リングに吹っ飛ばされてきていた。事情がまったく飲み込めず、キョロキョロとしている。
「那由他だけに無い湯たんぽしておったら、くしゃみで爆発となったのじゃ!」
悪びれずに、非常に簡潔な説明をするDarkUnicorn。しかし、それだけでマリアーノはすべての事情を飲み込めてしまう。
「那由他‥‥あ、それ知ってルヨ。日本最大の望遠鏡の名前だよネ♪」
その望遠鏡はひらがなで書くような気がしないでもないが、他の選手たちに比べればかなり元の言葉に近いので、鋭く自分の試合に持ち込んでしまうマリアーノ。
「望遠鏡といえば星、つまりStarを見るものなのデ、スーパースターっぷりを見せつけるヨ!」
しかし、案の定あっという間にあさっての方向になるマリアーノ。見るから見せるへ、順調に露出狂補正がなされているが、それにもまったく気づいていない。
だが、ともかくスター宣言してしまったマリアーノは、意図していなかったとはいえ爆風に飛ばされてのド派手な登場に負けないよう、ド派手にふるまうしかない。
ということで、何事もなかったかのように悠然と手を振り、観客の声に応えている。もちろん無観客なのがプロレスごっこだが、たとえ実際には観客がいなくても、そこに大観衆がいるように視聴者に見えるようにしてしまうのがスターの掟である。
果たしてそれができていたかどうかはナゾであるが、マリアーノはあずさの横の解説席に座り、勝手に『超大物ゲスト解説者』と掲げてしまう。
気づけば、サトルは放送席脇の床に打ち捨てられていたが、マリアーノは超大物で傲岸モード突入中なので、まったく気にもかけない。
「では、次の試合を見せてくれたまエ!」
マリアーノが精一杯横柄な態度をとっているところへ、再び紗原が入場してくる。
「人の名前じゃなくて、仏教用語‥‥なのかな? なので、お経と戦うことに、たった今したよ!」
紗原は尼さん間違いで海女の格好を通り越し、海人Tシャツを着ているだけだが、それがDarkUnicornと同じ冬将軍との戦いになっていることに、まだ気づいていない。
そんな間にも、スタジオ中にお経が大音量で響き渡る。
「ふぁ〜、長いんだねぇ。終わったら、起こしてくださーい‥‥むにゃむにゃ‥‥」
うるさすぎて眠れない気がするが、早くも激しい睡魔に襲われる紗原。DarkUnicornがスッと近寄ると、その頬を激しくビンタする。
「寝たらダメなのじゃ! 寝たら死んでしまうのじゃ!」
「もう疲れたよ、パトラッシュ‥‥」
しかし、それでも床に転がっていたサトルの隣で寝ようとする紗原。
「サトルは犬ではないのじゃ! 犬畜生以下というのじゃ!」
DarkUnicornがさりげなくヒドいコトを言って止めようとするが、紗原は止まらない。
「あーっ!?」
だがここで急に、放送席を占拠した割には実況をしなくなっていたあずさが、大声を出してついに立ち上がった。
「ど、どーしたのですカ?」
驚きのあまり、隣のマリアーノも下手に出てしまう。
「‥‥私たちは、大変な思い違いをしていたんだよっ!」
見れば、あずさの前の机には、紙片が散らばっていた。『NAYUTA』と書かれた紙を、ハサミで一文字ずつバラバラにしていたのだ。
「那由他をローマ字で書くとNAYUTA。そこに、今回はラストから2回目だから、ジョーカーの次に強いカードのエース、Aを足す。これを並べ替えるとUANTAYA‥‥英語でYOUのコトをUと表記することもあると考えると‥‥!!」
「ど、どういうことダ、キバヤシっ!?」
大物の解説のハズのマリアーノが、すっかりノッてしまう。
「つまりっ! 那由他とは‥‥ユー、あんたや! だったんだよ!」
「な、なんだってーッ!?」
マリアーノに釣られて紗原まで驚きの声を上げてしまう。となれば、あずさがビシっと指差した先には一人しか残っていないハズだ。
そう、いつの間にかリングに戻っていたDarkUnicornである。乾布摩擦ならぬ、寒い風に肌をなでられる寒風摩擦と称して、ガクガクと震えている。
「‥‥‥‥」
一瞬間ができてしまったが、キャラを思い出したマリアーノが、慌てて一喝する。
「‥‥そんなヌルい試合、観てられるカッ!」
そして、リング上に飛び込んでいくマリアーノだが、あっという間に様子がおかしくなる。
「‥‥ヌルくも寒くもない、冷たいんダネ! おや? むしろ暖かくなってきたゾ!」
「うわぁ! みなさん、楽しそうだねぇ♪」
マリアーノがおかしくなっていく中、すっかり眠気が飛んでしまった紗原もおかしくなってしまったのか、狂乱のリング上に乱入していく。
「‥‥えーっと‥‥私のせい?」
あずさが後先考えずにキバヤシになってみたものの、よく分からない展開になってしまい、しかも冷凍マグロが3匹出来上がってしまっては、頭を抱えるしかなかった。
「I’m えらい人ーッ! 今回も独断と偏見でポイントによるランキングがつくゼ!」
そこへ、困ったときのえらい人とばかりに、ポイント発表にえらい人が現れてくれた。
1位 紗原馨 1那由他
2位 DarkUnicorn 1阿僧祇
3位 マリアーノ・ファリアス 1恒河沙
「目指せ、プロレスごっこ王! 以上だ‥‥」
そして、えらい人は去っていく。もはや、動く人影はあずさただ一人である。
「えーっと、どうしよう‥‥おいしいとこだけもってき隊、隊員募集中! では、ごきげんよう!」
勝手に宣伝だけして、ムリヤリ終わらせにかかるあずさ。こうして妙に静まり返った中、『プロレスごっこ王決定戦』への最後のバトンタッチが行われたのだった。