走れ、人間ども10アジア・オセアニア

種類 ショート
担当 牛山ひろかず
芸能 フリー
獣人 フリー
難度 やや難
報酬 0.8万円
参加人数 8人
サポート 0人
期間 12/24〜12/26

●本文

 TOMITVのスタッフルーム。その中の、自称スポーツイベント便乗チームに、一人の男が駆け込んできた。
「いろいろありましたが、ついに東のグランプリです。最後の飛翔の時が近づいてきましたよ!」
「そうだな‥‥よし、同じ時間に生で走るとするか!」
 後輩の言葉に、思いつきの言葉で返す先輩。
「それじゃ、ムチャキングになっちゃうよ〜! いや、まあそんな応援の仕方もアリだとは思いますけども‥‥」
「じゃあ、問題ないな」
「あっ! そんなことよりも、発走時刻が午後3時25分らしいんですけど‥‥5分で2.5km走って表彰まで‥‥できますかね?」
「サラブレッドは、2分30秒くらいで走れてんじゃん。半分も余るぞ」
「人間はそんなタイムでは走れません!」
「そこをなんとかしようと頭を使うのが、人間ってもんじゃあないのかい?」
「‥‥いつにも増して、キケンなスピードスターの集いになりそうですね‥‥」
 こうして、便乗も行き着いた競馬場疾走企画がスタートすることとなった。

使用コース・ハンデ
・競馬場の芝2,500mコースを使用。
・コース形態等は、府中にある某競馬場にすべて準じます。船橋の方じゃないです。
・基本的なハンデは、斤量(重さ、走りにくさ)によるハンデが中心となります。
・距離ハンデがつく場合は、2,500m以上となります。普通に2,500m走るのが最低のハンデとお考えください。

事前に用意される物
・大抵のものは用意されます。番組用意のものでなく、持ち込みでももちろん構いません。
・実況は用意されません。(ハンデ代わりに)自分で実況しながら走ることも可能です。走らずに実況・解説だけでの参加も可能です。

ルール
・制限時間があります。2,500mを3分以内に走り抜けてください。
・法に触れない限りは、何を使っても構いません。
・獣化は、視聴者に気づかれない限りにおいて、いくらでも使って構いません。でも、普通に走るだけで2.5kmを2分半とかやられるとおかしいことがバレますので、その辺は考慮してください。
・優勝賞金10万円。
・技能賞も10万円。あの馬の順位と同じ着順になった人に贈られます。あの馬が9着以下だった場合は、もっとも盛り上げた人に敢闘賞10万円を贈ります。
・露骨にムチャな妨害とかは、失格対象となります。軽い妨害は問題ありません。
・その他細かいルールは、俺がルールブックだ! とスタッフが申しております。

過去の放送のスケジュール(最近5回分)
・叩かれろ、人間ども 7月02日 07:00〜
・【AoS】泳げ、人間くん 8月01日 07:00〜
・【PSF】走れ、人間ども 9月15日 07:00〜
・走れ、人間ども8 10月02日 07:00〜
・走れ、人間ども9 12月09日 07:00〜

●今回の参加者

 fa0085 一二三四(20歳・♀・小鳥)
 fa0640 湯ノ花 ゆくる(14歳・♀・蝙蝠)
 fa0829 烏丸りん(20歳・♀・鴉)
 fa1790 タケシ本郷(40歳・♂・虎)
 fa2431 高白百合(17歳・♀・鷹)
 fa2529 常盤 躑躅(37歳・♂・パンダ)
 fa2850 琥竜(26歳・♂・トカゲ)
 fa4300 因幡 眠兎(18歳・♀・兎)

●リプレイ本文

 12月24日。どちらも同じ競馬場でのことなのに、10万以上の観衆に見守られる中での戦いもあれば、カメラクルーしかいない中での戦いもある。
 しかし、思いは一つ。誰よりも早くゴールを駆け抜ける、だ。こちらの方では、若干違う人々もいる気がしてならないが、それはそれである。
 そんなわけで、生放送の今回、3時の放送がはじまっても、すぐにスタートするわけではない。3時25分に発走、30分には放送終了というムチャなスケジュールである。
 順位が欲しければ、大体3分以内に走り抜けなければならない。文明の力や獣人の力を借りればたやすいコトかもしれないが、獣人の力はバレないように使わなければならないムズかしさ。
 では早速、出走各人を紹介していこう。発走時刻の関係上、紹介の時間が長めにとってあるので、というかほとんどがその時間なので、ゆったりと紹介していきたい。
 1枠1番は、一二三四(fa0085)のマウンテンバイクである。マウンテンバイクには実況用のカメラが設置され、さらには他の競技者に残り時間が分かるようにと、大型のデジタル時計が設置されている。
『久しぶりに、おはようございますの時間帯ではないですね! というわけで、おいらも久しぶりに登場してみましたよ? の、一です。実況も競走も、どっちもがんばります‥‥というわけで、まずはインタビューをがんばります!』
 走りながらの実況を務める彼女、まずはムダに長い紹介時間を有意義に活用すべく、試合前インタビューに回る。
 とはいえ、今回は全員が2,500m地点にいるので、距離でハンデをつけるいつものように移動する必要がないので、スムーズすぎるほどであるが。
『2枠2番は烏丸りん(fa0829)選手です。同じくマウンテンバイクですが、プロテクター完全装備で、やる気十分です!』
 競輪用のプロテクターを装備し、かっ飛ばす気満々の烏丸。実況の移動用にマウンテンバイクを使う一に比べ、本気度の高い装備である。
 ただし、烏丸はヘルメットだけは装着していない。芸能人は、やはり顔を見てもらってナンボなのである。それを少しでも隠すことは、安全を考慮に入れてもできない相談なのだ。
「ええ、やりますよ! 今日の私は、人馬一体‥‥じゃなくて、人機一体! 私が漕げば、自転車は走る‥‥ついに人とマシンの融合ですよ、メカフェチ大喜びですよ!」
『そんな大ゴトではない気がしますが‥‥』
「気にしたら負けです。負けなんですったら!」
 烏丸の得体の知れない、というか無意味な迫力に気圧されてしまう一。ついつい納得してしまう。
『ええと‥‥つづいて3枠3番、琥竜(fa2850)選手が、早くも来年の十二支の猪を伴っての登場です!』
 かなり大きめの猪の牙に紐をくくりつけ、自らはスキー板装着で水上スキーならぬグラススキーの格好をしている琥竜。
 だが、そんな外見はともかく、様子がおかしい。
「これから走る? ノンノン、すでにすってんてんでオケラ街道をひた走ってるゼー☆」
 ハズレ馬券の紙吹雪をまきはじめる琥竜。すでに異様にテンションが高い。馬なら入れ込みすぎで、パドックの段階で切られるタイプである。
「こうなったら、年明けの運試し、東西金杯に‥‥いやいや、まだ本当の年末の大勝負、大賞典が残っている!」
 確実に樹海コースの発想で、一人納得する琥竜。一もどう対応していいいのか分からない。
『えー、琥竜選手はいろいろな問題で絶対に負けられない戦いのようです‥‥』
 とりあえず、当たり障りなくスルーして、次に移る。
『4枠4番は高白百合(fa2431)選手です。なにやら鷹の羽根を背負っているようですが‥‥何か飛ぶ仕組みでもあるのでしょうか?』
「ふふっ」
 意味ありげに微笑むだけの高白。だが次の瞬間、表情が一変する。
「うふふふ‥‥ロンリークリスマス歴=実年齢な私の執念を、甘く見ないことですっ!」
 くわっと、一を食べかからんばかりの勢いの高白。しかし、そんなことをぶっちゃけられても、一は困るだけである。
『えー、3枠と4枠はちょっとテンションがおかしいので、こちらからはオススメできません。では、次にいきましょう。5枠5番は常盤躑躅(fa2529)選手。本日もナゾのマスクマン、バイオレットバイオレンスとしての登場です』
「そう! 俺の名はバイオレットバイオレンス、覆面レスラー志望のスタントマンだ。今日はパンダのメンコをしていると言うべきかな?」
 そう言って、パンダのマスクを指差す常盤。とはいえ、その下もきっちり獣化でパンダになっていたが。
 しかも、下半身も着ぐるみで完全防備である。ケンタウロス風味ではなく、コントによくある感じの馬に乗った着ぐるみだが、とりあえず獣化を隠せればいいので問題はない。
 が、あんまりカメラで追われてバレるのもアレなので、
「俺に近寄ると、この股間のディープな馬並みインパクツで、スカートをめくって種付けしちまうぞ!」
 下ネタで一を完全に引かせ、追っ払うコトに成功する。大切な何かを失っている気がしないでもないが、そもそも大切な何かを最初から持っていないので問題はない。
『馬っ気バリバリで、消しのような気もしますが‥‥相手にしないでおきましょう。6枠6番は、因幡眠兎(fa4300)選手です。エプロンドレスに黒ウサミミと、どこまで走る気があるのか‥‥おや?』
 ふと、一が因幡の持っているものに気づく。『ワイヤーアクションとCGです』と書かれたプラカードだった。格好はともかく、ムチャをごまかす準備は万端のようだ。
「あー、バナナっておいしいよねー!」
 そんな因幡は、なぜか大量にバナナを食べては、皮を大切そうに保管している。
『えっと‥‥ウサギならニンジンとかじゃないんですか?』
「え? だって、ニンジンの皮じゃ滑らないじゃ‥‥あっ!」
 そこまで言いかけて、先に口が滑ってしまったコトに気づく因幡。確実に遅いが、慌てて口をふさぐ。まあ、軽度の妨害工作は認められているので、まったく問題はないのだが。
『何をしようとしているのか、分かりやすすぎる気もしますが‥‥次へいきましょう。7枠7番は、湯ノ花ゆくる(fa0640)選手! 先程まで、スタッフの方々と随分と入念に打ち合わせをしていたようですが?』
「制限時間が‥‥3分と‥‥いうコトみたい‥‥ですから‥‥走りながら‥‥でも‥‥時間の‥‥経過が‥‥分かり‥‥やすいように‥‥誰でも‥‥3分で‥‥3回作れる‥‥簡単‥‥3時の‥‥オヤツクッキングを‥‥しながら‥‥走ります☆」
 湯ノ花のボソリボソリとしたしゃべり方は生放送には大敵なのであるが、今日のように時間が余り気味のときは逆に天使である。
『そして大外、8枠8番はタケシ本郷(fa1790)選手で‥‥わっ!?』
「ポーッ!!」
 股間を押さえて、いきなり奇声を発する本郷。しばらくそのポーズのまま固まった後、傍らの看板を指差す。
 因幡がプラカードを持っているのなら、本郷は芝に立て看板を刺してしまっていたのだ。
『えーと‥‥『ここで振り返ったら死ぬ!』‥‥意味不明なんですが?』
「読んで字の如し! 振り返っても本郷は死なず、ただスタート地点からリセットするのみ!」
『確実に字の如しじゃないですよね?』
「予言するッ! あの馬は、2馬身差で圧勝するッ! これが! これがッ! アカシック番長だッ! そいつに触れるコトは死を意味するッ! 年末進行ーッ!」
『‥‥そろそろ発走の時刻が近づいてきました。おいらもスタートの準備にかかろうと思います』
 本当に本郷に触れるのがあらゆる意味でキケンになったので、さっさと戻っていく一。
 こうして、後は発走を待つのみであるのだが‥‥肝心の25分になっても、一向にスタートする気配がない。
「‥‥例のツンデレ娘が枠入りを嫌がって、発走が遅れています!」
 そこへ、現地からの緊急報告が入る。一応、同時に発走させる気満々なので、無謀にも発走時間がそれに合わせて遅くなる。となれば、走り切るのに許される時間も短くなるということだ。
 そんな間にもよく見れば、生放送中に動物虐待の抗議が殺到したのか、琥竜の猪がいなくなっており、琥竜が猪の着ぐるみを着て、むしろ琥竜自身が猪になってしまっている。
 そして遅れること3分、表彰式込みで後2分しかない中、絶望的な戦いがようやく幕を開けた。
 1km30秒として、2.5kmを1分半、残り30秒で表彰式と考えると、平均120km/hは必要な計算である。が、切羽詰った状況で走らされる者たちに、そんな細かい計算をしている余裕はない。
 まず、いきなり常盤の姿が消えた。早すぎてカメラが追いつかないのではない。思いっ切り光学迷彩を使ったからである。それなら、馬の足の着ぐるみで獣化隠す必要なくね? という話もあるが、ゴール直前に姿を現す必要があるので、そこもきっちり考えた戦法なのである。
 そして、高白はコバンザメ戦法で常盤にくっついていた。常盤が気づきそうなものだが、幸運付与も使った影響か、勝手に幸運の天使が憑りついていると思ってしまっている。
 しかし、常盤の姿が見えないので、まるで高白が羽で飛んでいるかのヤバい映像だが、因幡も獣化の力全開で並走していたので、プラカードの『ワイヤーアクションとCGです』というコトでごまかすことになった。
 ワイヤーはどこから吊るしているのか? 生でここまでCGを合わせられるものなのか? そういった疑問は、とりあえず勢いでなんとかするのみである。
 しかし、先頭は烏丸である。ペース配分無視のTV馬状態で、スタートと同時にかっ飛ばしていた。しかし、このペースを維持できてさえ、放送時間内に収まりそうにもない。
 一方の最後方は、本郷である。いや、これを最後方と言っていいものかどうか‥‥。ムーンウォークで後ろ向きに走ることにしたのはいいものの、本人はムーンウォークをしているつもりなのだが、まったく普通に前へ進んでしまっている。ただ逆走しているだけなのだ。
 しかも逆走OKだったとしても、一度ゴール板前を通過するコース形態上、それでも1.5km程度は走らねばならないワナ。
 そして、湯ノ花は最初のクッキングポイントに到着していた。が、3分もかけては間に合わなくなってしまったので、
「これが‥‥完成したものが‥‥コレ‥‥です‥‥」
 一切作ることなく、完成品を取り出しては走るの繰り返しである。
「猪がいないなんて、誰が言った? 俺が猪でゴゥーっ!」
 琥竜が猪突猛進らしく、そのまま最初の1角を直進していき、きっちり時間内に競走中止と見せ場は作った。
 本郷を除いた最後方には一がつけていたが、それでも積み込んだ様々な機材が重過ぎて、すでに実況をしながらどころではない。しかし、順調にヘロヘロになった烏丸がズルズルと下がってきて、ようやくデジタル時計を見てくれる人が現れた。
「えー、まだ残り50秒もあるんですかー?」
 烏丸はすでにリタイアする気満々であるが、それでも必死にこぎつづける。
 一方、トップ集団となった常盤と高白、因幡であるが、ついに因幡がバナナの皮を取り出す。すると、浮いているハズの高白がスコーンと空中で転ぶ。無論、常盤が転んだわけだが、見えていないのでなんのことか分からない。
「ふっふっふ‥‥俺を本気にさせてしまったようだな!」
 見えないのをいいことに、障害コースを通って思いっきりショートカットする常盤。ついに時間内にゴールを切った‥‥かに見えた。
「え? まだ1周目ですよね? ゴール板前の通過が確認できてませんが‥‥」
「しまったぁ!」
 今ごろになり、作戦の穴に気づく常盤。だが、高白は納得がいかない。
「え? 私はちゃんと飛んでましたよね?」
「飛ぶのはあの馬もそうだからいいけど、ちゃんとコースの上を‥‥」
『競走の途中ですが‥‥ハァハァ‥‥時間がやってきてしまいました。ごきげんよう、さようなら!』
 当然の如く、時間でブッツリと放送はぶった切られる。無謀な挑戦は、無謀さを思い知らされて終わった。
  中止 3 琥竜(逸走)
  失格 1 一二三四(タイムオーバー)
  失格 2 烏丸りん(タイムオーバー)
  失格 6 因幡眠兎(タイムオーバー)
  失格 7 湯ノ花ゆくる(タイムオーバー)
  失格 4 高白百合(勝者なき戦いに漁夫の利もなし)
  失格 5 常盤躑躅(見えないパンダはタダの駄パンダ)
  失格 8 タケシ本郷(逆走したのにタイムオーバー)
 1着がいないので優勝賞金なし。あの馬も1着なので、技能賞も該当者なし。このままでは20万円が宙に浮くことになってしまうが、そこはキチンと分配するのが便乗チームのいいところ。
 協議の結果、普通に競走の不成立による買戻しではつまらないということで、的中者なしの特払いと同じ扱いとすることにし、7割を全員で割って1万7,500円ずつが分配されることとなった。
「メロンパンが‥‥完成したの‥‥です‥‥」
 そんな中、レース中に完成させた‥‥というか、完成品を取り出したメロンパンをみんなに振る舞う湯ノ花。勝者も敗者もなく──いや勝者はそもそもいないのだが──ノーサイド。なぜか、そんなラグビー的な終わり方をするのであった。