プロレスごっこXmasSPアジア・オセアニア

種類 ショート
担当 牛山ひろかず
芸能 フリー
獣人 フリー
難度 易しい
報酬 0.7万円
参加人数 8人
サポート 0人
期間 12/25〜12/27

●本文

 プロレスごっこ──それは、素人によるプロレスの真似事でしかないが、ここにはそれを魅せる域にまで昇華した番組があった。基本レスラーに扮する芸人が、様々な物や者を相手にプロレスをしているかのように見せて笑いを誘う。ただそれだけのことなのだが、小物を使ったボケをベースとする、一人芝居に一発芸、リアクション芸にヨゴレと、お笑いの基本要素の散りばめられた、芸人のワンダーランドなのである。

 TOMITVのある会議室に、芸人プロレスごっこ王選手権のスタッフが集められていた。初代プロレスごっこ王も決まったハズなのに、すぐに召集されるとはどういうことなのだろうか?
「集まってもらったのは他でもない。12月25日はクリスマス、ならばプロレスごっこのクリスマススペシャルが行われるのが必然!」
「‥‥あの、なぜ必然なのですか?」
 事情が飲み込めず、スタッフの一人が質問する。えらい人はその質問を待っていましたとばかりに、大声を張り上げた。
「諸君らに、幸せなイヴというものは存在しえない! そのため、このスペシャルは、24日夜に収録、25日朝に放送する撮って出しにした!」
 大ブーイングが起こるが、えらい人が鉄パイプに手を伸ばしかけた瞬間、シーンと静まり返る。
「諸君らに幸せなイヴを過ごさせないためだけに、24日の夜を自らの手で潰してあげようという出演者が8名も集まろうというのだ。むしろ、彼らの英断に拍手を送るべきではないか!?」
「‥‥単に、さびしい人が腹いせに来るだけなんじゃ?」
「そのとおり! ぜひ、彼らをあざ笑ってやって欲しい。おっと、そういうのは心の中で笑うようにな。ハッハッハッ!」
 言ってるそばから高笑いを上げるえらい人。
 このようなどうでもいい理由をもって、プロレスごっこ王クリスマススペシャルがはじまるのであった。

参考例:
・軟体レスラーvsボストンバッグ:身体の柔らかい芸人が、固め技という設定でボストンバッグの中に入っていき、ファスナーを内から閉めたところで、レフェリーストップ、ボストンバッグの勝ち。

注意:
・『クリスマス』か『さみしさ』をテーマに試合をしなくてはなりません。テーマから連想できないこともないものであれば、どんなに遠くても構いません。
・プロレスごっこは安全第一です。死亡、怪我、流血は極力避けましょう。

過去の放送のスケジュール(最近5回分)
・HESP 10月31日 07:00〜
・第26回 12月04日 07:00〜
・第27回 12月07日 07:00〜
・第28回 12月11日 07:30〜
・第29回 12月19日 07:00〜

●今回の参加者

 fa0295 MAKOTO(17歳・♀・虎)
 fa2002 森里時雨(18歳・♂・狼)
 fa2123 ブルース・ガロン(28歳・♂・蝙蝠)
 fa2539 マリアーノ・ファリアス(11歳・♂・猿)
 fa2614 鶸・檜皮(36歳・♂・鷹)
 fa2824 サトル・エンフィールド(12歳・♂・狐)
 fa3577 ヨシュア・ルーン(14歳・♂・小鳥)
 fa4371 雅楽川 陽向(15歳・♀・犬)

●リプレイ本文

 聖夜も仕事を強制されているスタッフの寂しさを紛らわすために、より寂しい出演者たちが癒しにやって来た。そんなせいもあってか、なぜか気だるい雰囲気の本日の放送席。
「心の隙間、お埋めします。Barプロレスごっこへようこそ」
 それもそのハズ、鶸檜皮(fa2614)が勝手にバーを開店してしまっていたからだ。
「ねえ、聞いてくださいよ、マスター‥‥クリスマスと誕生日のプレゼント、両方一緒にもらえたことないんよ。誕生日プレゼントの方だけはもらえてたんやけど‥‥今年から、誕生日プレゼントもくれるええ相手が‥‥」
 早くもくだを巻いているのは雅楽川陽向(fa4371)。本日、見事に誕生日である。しかも都合のいいコトに20歳の誕生日なので、お酒もちょうど解禁である。
 サンタをイメージした赤のワンピースで熱いハートを演出していたが、肝心の彼女の心はまったく燃え上がらない。
「クリスマス? はっ! 関係ねぇゼ! 受験生の俺には、そんなハードコアな言いわけが‥‥ん?」
 一方、カウンターの離れた席には、見もしない参考書片手の森里時雨(fa2002)が言い訳だけしていた。と、その森里にグラスと紙切れが鶸から渡される。
 グラスには、森里のマジメに受けたのに0点だったという、3択苦労すでサンタクロースなんて目じゃない奇跡のマークシートが浮かべてあり、森里の胸を鋭くえぐった。そう、隙間を埋める産業の人は、悪意のないイタズラが大好きなのである。
 が、すぐにどうでもよくなる森里。それは、もう一枚の紙のせいだった。
「こっ、これは!?」
「あちらのお客様からです」
 そう言って、雅楽川を見やる鶸。もちろん大嘘であるが、森里はすでに読みふけっており、それどころではない。なぜなら、その紙は恋愛フラグの書かれた攻略本だったからである。もちろん、それも大嘘であるが。
「‥‥受験の攻略集よりありがたいっス!」
 ハードコアに受験のことなど忘却の彼方に飛んでしまう森里。早速、書かれているとおりの実践にとりかかる。
「えーと、なになに‥‥左の胸のダイヤルを右に3回、右の胸のダイヤルを左に1回、これで心を開いてくれるでしょう‥‥ッ!?」
 雅楽川から贈られたことになっているので、これで勘違いしない森里はいない。
「メリー、クリースマース♪」
 だが、それを実行に移せることはなかった。勢いよくやって来た爆乳ミニスカサンタのMAKOTO(fa0295)が、ノリで森里を蹴り飛ばしての登場を演出してしまう。
「衝撃的な出会いなのに、顔も分からないなんて‥‥ガクッ!」
 振り返るコトもできずに、前のめりに失神する森里。もっとも、振り返っていたとしてもパンツしか見ていなかったと思われるが。
「サンタさんが、プレゼントを持ってきたよ!」
「え!?」
 MAKOTOの必要以上に豊満さをアピールした衣装に、スレンダー美人の雅楽川といえど、むしろケンカを売られてるようなものである。だが、プレゼントとなれば話は別である。
 MAKOTOは無造作に袋に手を突っ込むと、プレゼントを取り出して雅楽川に手渡す。
「べ、別にクリスマスプレゼントなんかじゃないんだからね! ただの在庫整理なんだからね!」
 ツンデレ風味に言い訳してみるものの、実態はまさに在庫整理そのものであった。それでも、パワーリスト、サポーター、デジタルオーディオのいずれかが全員に当たるので、一応開けてのお楽しみである。
 そんなところへ、さらにサンタが入ってくる。これは、誕生日プレゼントのもらえない雅楽川に、大量のクリスマスプレゼント攻撃か? と思われたが、こちらは残念なプレゼントであった。
「サァ、ミナサン! めりー、べりー、苦シミまーす!」
 ミニスカサンタどころか、ビキニサンタのブルース・ガロン(fa2123)が立っていた。そう、いきなり吐き気のプレゼントである。セリフに偽りなしの苦しみなのである。
「ギャランドゥを残したままの無駄毛処理に成功! さあ、存分に見るがいい!」
 股間と腹との境界の分からない毛を見せつけるブルース。誰も見やしない‥‥と思いきや、いつの間にか復活した森里だけが、かぶりつきで見ていた。
「闘いってのは、孤独なモンさ‥‥そして、いつもむなしい‥‥」
 先程の脳への衝撃で、完全に性癖がおかしくなってしまったようだ。もはや、これが一過性のものであれと祈るしか、我々にできることはない。
「‥‥今日は変なお客さんが多くてゴメンね。これ、お詫びのプレゼントと言ってはなんだけど‥‥」
 そう言って、雅楽川にケーキを差し出す鶸。クリスマスツリーの載った、バースデーケーキである。クリスマスツリーが載るくらいなので、ウェディングケーキ並みに巨大であるのは言うまでもない。精神的に吐き気を催しているところへ、胸焼けしそうな量のケーキである。
「そうそう。大量のケーキをマイペースに食べたいからこそ、プロレスごっこに参加したんやし‥‥って、なんで低温ロウソクが刺してあるねん!」
 ツッコミを入れるのはそこなのか? という気がしないでもないが、結局は火を吹き消して食べにかかる雅楽川。
「大将、やってる?」
 と、そこへ、ようやく放送席の主であるサトル・エンフィールド(fa2824)とヨシュア・ルーン(fa3577)が入ってくる。入ってき方が少年らしさもクリスマスらしさもなかったが、
「イヤ〜ン、来てくれたんだ〜☆」
 ブルースが大喜びなので、それもアリのようだ。颯爽と飛びかかっていく。
 森里に見られる喜びを覚えはじめていたブルースだったが、本命が来たのであっさり森里を置き去りにしたというわけで。
「ここまでランク下げて、しかも断られるなんて‥‥これじゃ、志望校と一緒っスよ!」
 ようやく正気に戻った森里が、ガックリとうなだれる。まあ、ブルースと行きずりの恋に落ちてしまうよりはよかったのかもしれない。
「もう、ヨシュアってば、お茶目な子☆ サンタがいるなんてね! 僕には見えないから‥‥ほーら、サンタを独り占めしてくるがいい!」
 サトルがヨシュアをブルースに放り投げ、自分はカウンターに着く。
「ちくしょー! 僕より幸せなヤツは、みんな皆嫌な奴だッ! 特に男!」
 ブルースに抱きつかれながら、他の幸せそうな男子を目で追うヨシュア。しかし、再びおかしくなって恍惚の表情でブルースを見つめる森里を発見し、もっと不幸な人もいることに気づいたので、この程度はガマンすることにした。
 しかし、ガマンしたのがいけなかった。ブルースはプレゼントを入れた水槽の中からなにやら取り出すと、ヨシュアに装着してしまう。
「これぞ‥‥浪漫回路ッ!」
 この浪漫回路、打たれすぎの人にしか見えないので、ほとんどの視聴者には見えていないのだが、残念なコトに今回の出演者全員には見えてしまっている。
「ソモソモ、くりすますトワァ、吃驚デスマスことデェス。日本語デハァ、ぺけガ益々トモォ、言イマス。枡ガ回ッテ、ますますメデタイ。ソレデハァ、コノ私ガ『おいしいとこだけもってき隊』副隊長トシテらうんどがーるヲ勤メル『プロレスごっこXmasSP』、存分ニィ、楽シンデェ、クッダサァーイ☆」
 機械的に棒読みするブルース。さっぱり意味不明な上、頼まれてもいないのにラウンドガールとしてリングに上がっていく。もちろん、衣装はそのままだ。
 とそこへ、初代プロレスごっこ王に輝いたばかりのマリアーノ・ファリアス(fa2539)が入店してくる。リングに行くには、どうも一度入店しなくてはいけないシステムのようだ。ボッタクリバーにすれば相当儲けられそうだが、お代はいただかないのが隙間を埋める人のたしなみ。
「プロレスごっこ王の収録が行われていれバ、そこがどんなリングであろうと上がル! それが‥‥Noblesse Oblige!」
 プロレスごっこ王のどこがノーブルなのかは分からないが、強迫観念に押されて試合を開始するマリアーノ。
 だが、対戦相手は入ってこず、冷め切った料理、置かれたままのケーキ、渡せないプレゼントのみが小道具として運ばれてくる。そう、対戦相手は『さみしさ』なので、入ってこようがない。
 気づけば、ブルースのバックコーラスで、いつまで待っても来ないあの人を待ちつづける歌を歌っていた。ブルースのテノールが心地よいが、格好がすべてを台なしにしてしまっている。
 そこへ、さらにクリスマスチキンセットが運び込まれてくる。
「あちらのお客様からです」
 鶸の言われた方を見れば、MAKOTOが手を振っている。一応、健康を害するほどに甘くしたドッキリなのだが、待ち人が来ないので、一向に食べられない。
 うつろな瞳で、じっと待ちつづけるマリアーノ。誰か乱入して来いと言わんばかりの隙の作り方だが、誰も入ってこない。
「マスター、このヨシュアという名の壊れたノートパソコンとハサミの粉末入りカクテル、おいしいね!」
 サトルはクリスマスにまで実況なんぞやってられるかとばかりに、オススメカクテルを飲んでいる。無論、鶸が未成年にアルコールを飲ませるようなマネはしない。人として飲んじゃいけないものが入っている気がするが。
 一方、ブルースから解放されたハズのカクテル名にまでなったヨシュアはといえば、
「そこのあなたッ! 私の前世は靴ヒモでしたかッ!? そう、第1回ランキング戦での優勝を機に、残酷ですわよと答えてやったぞ!」
 MAKOTOからのプレゼントに身体が2倍になりそうな毒々しいキノコをもらい、それを食べてしまったので、ありもしない浪漫回路が活発になり、完全におかしくなってしまっていた。
 そして、森里はブルースの歌声に余計にホレてしまっていた。遠すぎる世界に旅立ち、当分帰ってこれそうにもない。そして、雅楽川はそれら一連の光景をツマミに、ケーキをまったりと食べている。
 いつまで待っても来ないあの人は、やっぱりいつまで待っても誰にも決まらない。だが、もはやマリアーノには待つことしかできない。それは、達人同士の戦いで先に動いた方が負けるのにも似ていた。
 が、バーの方は好き勝手動いている。その楽しげな様子が、余計にマリアーノのさみしさを募らせる。
「大人って‥‥お誕生日とクリスマスに、プレゼントをくれるものですよね?」
 計算された上目遣いで、MAKOTOを見るサトル。雅楽川みたいに放送当日とまではいかなかったものの、21日が誕生日だったのである。
「おうよ、ちゃんと二つ用意してあるよ!」
 サトルが渡された二つの包みに耳を当てると、カチカチ音を言っている。そう、時限爆弾である。それぞれにコードがついており、どちらを切っても爆発するという逸品だ。
 エロお子ちゃまのサトルとしては、爆発は爆発でもその爆裂バディがプレゼントされて欲しいところだったが、ここはとりあえず天使の微笑である。
 とはいえ、クリスマスプレゼントをもらったから、天使の笑みを浮かべているわけではない。新たな能力に目覚めた喜びからである。それは、タイムジャンプだった。
「大人って‥‥お正月に、お年玉をくれるものですよね?」
 単に都合よくいろいろせびっているようにしか見えないが、自称タイムジャンプである。
 そんな様子を満足気に眺めながら、シェーカーにテキーラとホワイトキュラソーを注ぐ鶸。ライムを搾り入れ、フリフリした後にスノースタイルのグラスに注ぐ。
「こんな夜には、マルガリータだ‥‥ふっ、シンプルにかぎるな」
 鶸がそう呟くと、映像が引きになっていく。
 最後だけムリに渋いクリスマスイヴになりつつも、そんなプロレスごっこな聖夜は暮れていくのであった。