第80回プロレスごっこ王アジア・オセアニア

種類 ショート
担当 牛山ひろかず
芸能 フリー
獣人 フリー
難度 やや易
報酬 0.6万円
参加人数 8人
サポート 0人
期間 03/10〜03/12

●本文

 プロレスごっこ──それは、素人によるプロレスの真似事でしかないが、ここにはそれを魅せる域にまで昇華した番組があった。基本レスラーに扮する芸人が、様々な物や者を相手にプロレスをしているかのように見せて笑いを誘う。ただそれだけのことなのだが、小物を使ったボケをベースとする、モノマネあり、一発芸ありの、お笑いの基本要素の散りばめられた、芸人のワンダーランドなのである。
 これまでごくごく一部では静かなブームではあったのだが、先日2月16日に第1回である第64回プロレスごっこ王が、28日に第2回である第72回プロレスごっこ王が放映された。
 そして、その数日後──
「大変です! 出場予定者がまたまた仕出し弁当に当たって、全員入院してしまいました!」
「なにっ! ベタな展開だな‥‥っつーか、もうそいつら無視して最初っから若手を募集した方がいいんじゃねーか?」
 駆け込んできたADの報告に、芸人プロレスごっこ王選手権のスタッフは血相を変えることもなく、いつものことだと思うようになってしまっていた。
「‥‥ま、今まで同様、若手を呼んでなんとかするしかあるまい。すぐに募集しよう!」

参考例:
・軟体レスラーvsボストンバッグ:身体の柔らかい芸人が、固め技という設定でボストンバッグの中に入っていき、ファスナーを内から閉めたところで、レフェリーストップ、ボストンバッグの勝ち。

注意:
・プロレスごっこは安全第一です。怪我はもちろん、ちょっと血が出ただけでもNGです。

●今回の参加者

 fa0402 横田新子(26歳・♀・狸)
 fa0509 水鏡・シメイ(20歳・♂・猫)
 fa2132 あずさ&お兄さん(14歳・♂・ハムスター)
 fa2396 海風 礼二郎(13歳・♂・蝙蝠)
 fa2529 常盤 躑躅(37歳・♂・パンダ)
 fa3028 小日向 環生(20歳・♀・兎)
 fa3134 佐渡川ススム(26歳・♂・猿)
 fa3180 マーマレード(21歳・♂・小鳥)

●リプレイ本文

『全国3万人のプロレスごっこファンの皆様、こんばんは。今回もまた芸人によるワンダーランド空間、芸人プロレスごっこ王選手権のはじまりです! 実に80回を数える伝統ある番組の実況という光栄を賜りますは、私横田新子(fa0402)。解説は‥‥』
『はい、皆さんこんばんわ。今回解説を務めさせていただきます、水鏡シメイ(fa0509)です。明るく楽しく元気よく‥‥時に冷たく解説していこうと思いますので、よろしくお願いします』
 実況の横田はダンディカラーの黄色いスーツを身にまといハイテンション、対する解説の水鏡は着物姿で茶をすする、まさに動と静の布陣である。
『よろしくお願いします。さあ、早くも第一試合が始まろうとしています。鳥のように舞い、鳥のように刺す。ダンサー果汁120%、マーマレード(fa3180)選手によります、ダンサーvsタンスの一戦です』
『タンスとダンスとか、寒いことにはして欲しくないですね』
 マーマレードも、さすがにそこまでベタなダジャレで攻める気はない。人類永遠の敵、タンスの角と戦うだけである。
「ファイッ!」
 レフェリー、海風礼二郎(fa2396)の合図で試合が始まる。
「基本のチョーップ!」
『あーっと、右手小指を押さえて悶絶だー!』
「仕返しのキーック!」
『あーっと、右足小指を押さえて悶絶だー!』
「フライングボディアターック!」
『あーっと、腹を押さえて悶絶だー! まったく懲りるということを知りません!』
「最後のヘッドバーット!」
 それでもなお、人類最後の砦とばかりに頭から突っ込もうとするマーマレードに、海風が止めに入る。
「痛い? 痛いですよね?」
『あーっと、レフェリー海風、試合を止めました。痛そうで見ていられないので、レフェリーストップとのことです』
『誰ですか、そんな人をレフェリーにしたのは。まあでも、ごっこで痛そうなのはよくないですよね』
『さあ、つづいてはなぜか包帯にグルグルに巻かれての登場となります、佐渡川ススム(fa3134)選手です』
『別の番組で怪我したにも関わらず、今回の出場を強行したようですが‥‥こんな番組に命を賭けられても困っちゃいますよね』
「イクぜ、猿のようにっ!」
『早くも不穏な発言が出ていますが‥‥芸人対DVDの一戦です』
「これで俺は猿マスク、どんなヨゴレをやっても、中の人とは関係ないよ!」
 突然、包帯の上からマスクをかぶる佐渡川。そして、テレビとDVDプレーヤー設置すると、何やら宅配便が届けられる。
「えーと、なになに‥‥『超ぶっかけ7』‥‥ああ、あの頼んでいた裏モノか!」
『あの手のDVDには、思春期を迎える少年たちの夢と希望、そして絶望が詰まっていますからねぇ』
『え、絶望? 女子の私には分からないのですが、絶望も詰まってるんですか?』
『前半のサブい演技に早送りを覚えたり、痛ましい事件が後を絶ちません‥‥』
『そ、そうですか‥‥』
 そう言って茶をすする水鏡に、横田は返す言葉もない。
『おや? 猿マスクこと佐渡川選手、早くも出血でしょうか?』
『興奮の鼻血ですかね。しかし、パッケージだけで鼻血とは、中坊なみの妄想力ですねぇ』
 海風が試合を止めようか迷っていると、何でもないと試合続行を主張する佐渡川。
『というか、レフェリーは14歳なのに、こんなヨゴレ芸に絡ませていいんでしょうか?』
「ちょっと待ったあ!」
『あーっと、突然のちょっと待ったコールだ! 先程試合を終えたハズのマーマレード選手、乱入であります!』
「番組の品位を貶めちゃダメだよ! いいからそれを寄こしなさい! こっそり持って帰ったりしないからっ!」
 説得力の欠片もないセリフのマーマレードを無視して、佐渡川がDVDをセットする。
「TVの前にいる全国の思春期男子の期待に応えるためにも、今ここで放映するしかないんだよ!」
『それにしても、夕食時に流すようなものではないと思いますが‥‥』
『深夜でも、流しちゃダメですってば』
『あーっと、リモコンを巡っての戦いが勃発だぁ! これは醜い争いになりそうだッ!』
 この番組としては珍しく、文字通りのプロレスごっこが繰り広げられる。
『あぁ! 両者ダウン! 番組の品位は守られたーッ!』
「俺ぁ‥‥負けられねぇんだよぉっ!!」
 余計なことに最後の力を振り絞って、リモコンの再生ボタンを押してしまう佐渡川。
『なんということだーッ! ついに放送事故となってしまうのかッ!?』
 果たして、TVに映し出されたのは鮭の産卵シーンであった。
『これはまた、ベタなものをつかまされましたねー』
 相変わらずのんびりと茶をすする水鏡。だが、マーマレードは猛る魂の治まりがつかない。突然、ズボンのベルトを外しはじめる。
『まさかまさか、鮭の卵の受精シーンを画面に向かってやる気かーッ!? これはアブなーい! その技は危険過ぎるゥ〜!』
 さすがにガマンできず、スタッフたちが若手レスラーのごとく一斉にリングインし、二人をリング下に引きずり下ろす。
『はぁ‥‥男の欲望というものは醜いものですねぇ』
『気を取り直しまして‥‥凛とした声が今日は倒すべき敵に向く! 遅れてきた新人、小日向環生(fa3028)選手によります、女子高生vsラッシュアワーをお送りします』
 電車の扉のセットが運び込まれ、扉の向こう側にエキストラ‥‥は経費削減の関係上用意できなかったので、スタッフがラッシュアワーを再現すべくぎゅうぎゅうに詰まっている。
 そこへ、小日向がセーラー服に三つ編みオサゲの姿で、学生鞄を抱えて現れる。眼鏡着用は当然、そして生足である。
『しかし、二十歳超でのセーラー服は、そこはかとなくAVチックでどこか痛ましいッ!』
「なに、AVだって!?」
 まだ戻っていなかったマーマレードが、未だ敏感にそのキーワードに引っかかる。
『もう誰にも止められない! 暴走機関車マーマレード号、何を勘違いしたか、突っ込んでいった。これでは痴漢AVモノになってしまう〜ッ!』
 制止しようとする海風の手をかいくぐり、肝心の小日向まで弾き飛ばし、一人だけ乗り込んでしまう。
 そこで扉が閉まり、そのままスタッフに連れ去られていってしまうマーマレード。
「ああ、アレに乗らないと遅刻確定なのにぃ!」
 小日向がガックリとうなだれる。
『しかし、行き先は先程地獄行きに変更された模様! 乗らなくて正解だぁッ! 星になった人は放っておいて、次に参りましょう! あずさ&お兄さん(fa2132)によるスク水少女vsドジョウだぁ!』
『少女? どう見ても、ホセ・メンドーサと戦った後のようになった人にしか見えませんが‥‥』
 リング上には、コーナーに置かれた椅子で真っ白な灰になったお兄さん人形しかなかった。一応、『セコンド』と書かれた札を首から下げているが、どう見ても燃え尽きた後のようにしか見えない。
『なんということでしょう! お兄さんが、試合前から灰になってます!』
『いつパンチドランカーになるようなコトがあったのか、まったく知る由もないので放置の方向で』
「放置プレイモノのAVだって!?」
 いつの間にか戻っていたマーマレードが、無理矢理のように言葉を拾って、一人ハァハァしている。
 が、さすがに今度ばかりは速攻でスタッフに連行されていく。
『一瞬ノイズが乗ったような気がしましたが‥‥気にせずいきましょう。あずさ選手の入場です!』
 スクール水着に、ありえない量の詰め物満載で、明らかにおかしな体型での登場である。股間のあたりのふくらみに言及してはいけないのは、お約束中のお約束である。
 ドジョウの入った水槽を持参で、さっそく掴むのに悪戦苦闘するあずさ。ぬるっと滑ったドジョウが、海風のズボンの中に入ってしまう。
『あーっと、レフェリー海風、明らかに自分から入れにいきました!』
『まー、そこは芸人のサガというか、しょうがないでしょう』
 水浸しになったリング上で、滑る転ぶのグダグダ感たっぷりに、あずさと海風が結局リング下へと転がっていく。
 と突然、リングのマットが、下からドンドンと叩かれる。
「てめぇら! どいつもこいつもしょっぱい試合ばっかしやがって! うおおぉぉぉ!」
 リング下からチェーンソーでマットを引き裂いての登場は、常盤躑躅(fa2529)である。パンダ覆面を反対向きにかぶっているのが意味不明である。
『マットを破壊しての登場だぁッ! しかし、リングの値段がどれほど高価か分かってるんでしょうか!?』
『分かってないからできるんじゃないですか? 分かっててやってるなら、かなりの大物ですよねー』
『というか、収録前からリング下でじっと待機していたんですか?』
『こういった水面下での白鳥の水掻きがあって、お笑いの現場は支えられているんですねぇ』
「俺の名はバイオレットバイオレンス! 覆面レスラー志望のスタントマンだ!」
 そう言うと、ようやく覆面をかぶり直す。
「俺の相手は、こいつだ!」
 なぜか弁当を掲げる常盤。
「こいつぁ、タダの仕出し弁当じゃねぇぜ! ここのスタッフ連中ならもう知ってるだろうが、本来の出場者たちを全員病院送りにした最大最強最悪の敵だ!! こいつに勝利した者こそ、真の優勝者と言えるだろう!」
『さあ、パンダ覆面の小憎い役! 常盤選手と仕出し弁当の一戦がはじまりました!』
『この仕出し弁当、実際に当たったときのものを、そのまま冷蔵保存して、先程チンしてきたばかりだと聞きます』
『えっ!? 当たったものを、さらに日を置くなんて、もっとマズいんじゃないですか?』
『だけど、誰が彼を止められるというのでしょう‥‥』
『止める云々以前に、関わりあいたくないですけどね!』
「エビフライに逆エビ固め! さばみそにサバ折り!」
 実況は一切無視して、次々とおかずを胃に収めていく常盤。
『そろそろ来るころだと思うんですが‥‥』
 水鏡がのんびりと茶をすすっていたところで、常盤の箸がピタリと止まる。そして、青い顔をして腹の辺りを押さえはじめる。
『やはり最凶だった、仕出し弁当ッ! しかし、大丈夫か常盤選手。リバースもマズイが、脱糞はもっとマズイぞーッ!』
「スカトロモノのAVだって!‥‥って、さすがにそれは勘弁‥‥」
 何度でも戻ってくるマーマレードだったが、さすがにそこまでマニアックな趣味は持ち合わせていなかったらしい。
「しかし、ここで踏ん張って優勝しなくては、賞金が‥‥」
「賞金なんて、ありませんよ?」
 なおも頑張ろうとする常盤だったが、レフェリーの海風にそう言われて、完全に固まってしまった。
 その静止した時間のまま提供が流れ、静寂のまま番組も終わった。