早朝実弾バズーカヨーロッパ

種類 ショート
担当 牛山ひろかず
芸能 フリー
獣人 フリー
難度 普通
報酬 1.2万円
参加人数 8人
サポート 0人
期間 03/12〜03/16

●本文

 TOMITVの企画会議。だが、煮詰まって一向になにも決まらない。だったら飲みに行ってそこで話し合うか、としたのがマズかった。
「俺、早朝シリーズってスキだったなー」
「あー、あれっスか。早朝バズーカとか最高でしたよね!」
 早朝バズーカ──簡単に言えば、目覚まし代わりにバズーカをぶっ放し、飛び起きる芸人のリアクションを楽しむというものである。
「そうそう。アレをいつか自分の手で手がけるのが、俺の夢だったんだ! それが、今はこんなに薄汚れちまって‥‥」
「先輩! だったらやりましょうよ! 俺たちの手で!」
 酔いも大分回り、皆テンションがおかしなことになっている。
「でも、そのままではオリジナルを超えられない。それじゃ、ダメなんだ!」
「だったら、本物を使いましょう。時代は実弾っスよ!」
「お、いいね! でも、日本じゃできないだろ?」
「そこで、ロシアですよ! あそこなら、スナイパーがボウリングのピンを狙撃するくらいスから、なんだってできますよ!」
「よし、今すぐ戻って企画書を書き上げるぞ!」
 そんな酔った勢いだけでできた企画、それが早朝実弾バズーカであった。しかも海外ロケである。

舞台:
・ロシアのだだっ広い雪原に、プレハブ小屋を設置。うち、壁一面を撤去。

注意:
・死傷者を出してはいけません。
・撤去してある壁のスペースから、外に向けて発射しましょう。外から外に向けてでも構いませんが、プレハブに向けて撃ってはなりません。
・人や動物に向かって発射してはいけません。
・参加者は寝る役、起こす(撃つ)役をそれぞれ1回ずつこなします。

●今回の参加者

 fa0016 エディ・マカンダル(28歳・♂・蝙蝠)
 fa0474 上村 望(20歳・♂・小鳥)
 fa1119 コンドル・魔樹(23歳・♀・鷹)
 fa1881 アースハット(27歳・♂・鷹)
 fa2683 織石 フルア(20歳・♀・狐)
 fa3033 大宗院・真莉(30歳・♀・一角獣)
 fa3043 礼花(18歳・♀・トカゲ)
 fa3194 ジョンジョル(26歳・♂・狐)

●リプレイ本文

『ご覧ください。この見渡す限りの真っ白な雪原を! 早朝バズーカに実弾を使ってみたい、ただそれだけのためだけに、ここロシアまでやって来ました』
 見渡す限りの雪原をバックに、アースハット(fa1881)が巨大な温度計を持っての登場である。
『現在の気温は氷点下20度を下回ってます‥‥早く帰りたいものです』
 カメラに映らないところでは、織石フルア(fa2683)が低温の悪条件の中、機材のチェックに余念がない。とはいえ、撮影スタッフというわけではない。音響に携わる人間のサガで、音源としてバズーカの生音を持ち帰る気満々である。
 パパパーン!
「きゃ!」
 するはずのない爆音に、驚く織石。
「あ、いや。ちょっと小道具の爆竹のテストを‥‥」
 本番中なら鬼のように笑っていたところだが、関係ないところだけにちょっとだけバツが悪そうに頭をかくアース。
『はい、では一組目を紹介しましょう』
 照れ隠しではないだろうが、強引に本番をスタートさせてしまう。
「これで撃つの? マジで? ヤバイんじゃないの?」
 手渡されたバズーカに若干及び腰なのは、エディ・マカンダル(fa0016)である。まあ、本物の対戦車ロケット砲を撃つ機会などそうそうあるものではないから仕方がないことだが。
 パパパーン!
「うぉっ!」
 突然の背後の爆音に、エディが驚いてバズーカを放り投げて、尻餅をついてしまう。例によってアースの爆竹であるが、今度こそ本番中だけに大爆笑である。
「ユー、サック!」
 そこにジョンジョル(fa3194)がやって来ると、アースの胸ぐらをつかむ。
「悪ふざけで怪我でもしたら、どうするでござるか?」
 そう言って手を離すと、腰を抜かしているエディに手を差し出す。
「怪我にだけは、お互いに気をつけようでござる」
「お、おう‥‥」
『早朝バズーカ前に、こんなさわやかに握手をかわしていいものなのか、微妙ではありますが‥‥』
 それ以前に寝る前のやり取りを流していいものかという問題は一切スルーして、エディはバズーカを構え直し、ジョンジョルはプレハブに寝に向かう。
 そこだけを見れば、マウンドに向かうピッチャーと、バットを手にネクストサークルで素振りをするバッターという画に近く感じられる。しがし現実は、スポーツでも何でもなく、くだらなさをとことんまで追求したただの早朝バズーカである。
『‥‥さあ、あれから一時間が経ちました。寒くて死にそうです‥‥』
 アースやエディ、スタッフ一同は放射冷却の厳しい雪原に置き去りであるが、プレハブの中ではジョンジョルはぬくぬくと寝ている。元々朝が弱いこともあって、二度寝でぐっすりである。
「おりゃ!」
 ドカーンと爆音が轟く。やや遅れて、遠くから着弾の爆音も聞こえてくる。
 ジョンジョルが目を開けるが、すぐに夢だと思って寝に戻ってしまう。
『撃って!』
「おう!」
 ジョンジョルの様子をモニタリングしていたアースから、指示が出る。
 しかし、ジョンジョルは上半身を起こしかけるが、すぐに夢だと思って寝に戻ってしまう。
『もう一丁!』
「おう!」
 ジョンジョルは、もはや夢の中の出来事だと思って、ぴくりともしない。
『オマケでもう一発!』
「おう!‥‥って、何発撃てばいいんだ!?」
『‥‥ですよね。ちょっと待っててください』
 アースがプレハブに入ると、ジョンジョルはがっちり熟睡である。先程胸ぐらをつかまれた恨みもあってか、手荒く叩き起こされる。
「アイムソーリー、ひげソーリーでござる。もう一度ミーにチャンスをくださいでござるよ!」
 しかし、くだらないダジャレがスタッフ一同の逆鱗に触れ、最後のチャンスは撃つ側だけになった。
『気を取り直しまして‥‥上村望(fa0474)に早朝バズーカといきたいと思います』
 ジョンジョルと代わって寝ているのは、上村。ダウンもフェザーも許せねえ、万年床の綿布団のみが唯一神と、スタッフにどこか加齢臭のする布団を用意させ、わざわざ手荷物にさせた剛の者である。
 一方の砲手はコンドル・魔樹(fa1119)である。魔樹は発射と同時に、上村に突進していく。
「うわぁ!? め、メガネ、メガネ‥‥」
 飛び起きた上村は、ベタにメガネを手探りで探している。
「大丈夫か!? 大丈夫か!?」
 だが、魔樹ががっちりと身体をつかんで揺する。
「いや、だからメガネ、メガネ‥‥」
「大丈夫か!? 駄目なのか!?」
 そんなことには聞く耳持たず、大きく身体を揺さぶる魔樹。上村は、もはやムチ打ち寸前である。
『つづきましては、礼花(fa3043)への早朝バズーカです』
「戦争の演技はあまりした事がないのですが、がんばらせていただくであります、小隊長殿!」
 砲手の大宗院真莉(fa3033)はアーミールックの衣装に身をまとい、すでに旧日本兵二等兵のような違うような微妙な役作りをしている。
「目標前方100メートル、プレハブ小屋、発射します!」
 もちろん直接プレハブを狙うわけではないが、そう言ってドーンと発射する。
 肝心の礼花はといえば、発射音と同時に驚いてベットから落下、さらに着弾の音にも驚いて、起き上がりざま滑って転ぶという、スタッフ見習いにしておくには惜しいくらいの、芸人ばりのコケ芸である。
『さあ、今度はエディとジョンジョルが攻守を入れ替えての登場です!』
 これが最後のチャンスであるジョンジョルは、
「動物はいないでござるか? 植物だって生きているでござるよ」
 神経質なまでに気を遣っている。
「安全確認は完璧でござるな?‥‥発射!」
 だが、モニタ上からエディの姿が消えてしまっている。
『おや、エディがいない!? いや、ドアから出てきました!』
 出てきたのは、ボロボロになって煤けた衣装のエディだった。そして、頭はアフロヘア。爆発オチといえばアフロのヅラと相場は決まっているが、中途半端に似合っているものだから、かえって微妙感というか残念感が漂ってしまっている。
「はっはっはっ‥‥」
 が、撃ったジョンジョルは大爆笑である。そのとき、エディが咳き込んで仕込んでいた粉をぶふうと吐き出した。
「はっはっはっ‥‥」
 エディはなおも笑いつづけ、笑い袋のようなにいつ果てるとも知れなかった。
『‥‥つづきまして、大宗院がベッドに入っています。』
 大宗院の格好はネグリジェである。極寒のロシアの雪原でネグリジェ一枚とは、死をも恐れぬ女優魂である。確実に方向性は間違っているが。
 笑いが止まらなくなったジョンジョルが音声を拾わないところまで連れて行かれたところで、織石が砲手として登場する。
「では、いくぞ! ターゲット確認‥‥っとお!」
 中腰になってバズーカを構えたところで、重みに耐え切れずに仰向けに倒れてしまう織石。
 本来ならば、倒れた際の勢いで発射するのがお約束だが、実弾入りでそんなお約束をしたら死んでしまう。
「ターゲット確認、ロックオン‥‥ファイヤー!」
 今一度構え直すと、今度こそ発射する。
「敵襲でありますか、小隊長殿!?」
「‥‥おはよう!」
 轟音に飛び起きた大宗院は、先程のよく分からないキャラを継続中である。何食わぬ顔でさわやかに挨拶する織石と相まって、シュールな画である。そして、次に備えてそのままベッドに入る織石の画まで堂々と流すのだからたまらない。
「重っ‥‥やっぱり、本物のバズーカなんですね」
 起こされる側ではバズーカの迫力というよりは、魔樹の迫力に押された形となった上村が、そんな感想を漏らす。
『では、上村選手の一本目です!』
 今まで一度もやったことないのに、ここに来て突然アースがホイッスルを鳴らす。
「ふぅ、いざ撃つとなると、緊張しますね‥‥」
 そう言って、一度手の汗をぬぐう上村。
「では‥‥えと‥‥に、逃げてくださいぃぃ!?」
 緊張のあまり、意味不明のことを口走る。無論、逃げなきゃいけないような場所に撃ち込んだわけではない。
 そんな上村の喧騒をよそに、織石はピクリとも動かない。
『えーと‥‥』
 アースがどうしたものかとしゃべりかけたところで、ようやく飛び起きる織石。随分待たされたわりに、起きる動作だけは異常に俊敏である。
「寒い‥‥」
 寝ぼけ眼で上村の顔を覗き込むと、両手で頬を押さえて引きずり込んでしまう。
「まだ春じゃないのに‥‥起こしたな‥‥!」
 頬を引っ張ったまま、ガックンガックン揺らす。これで、上村は再びムチ打ち確定コースである。
「‥‥春になったら起こしてくれ」
 冬眠キャラを継続したまま、織石は布団に戻ってしまう。
『さあ、最後になりました! 魔樹は『限界まで近くに着弾させろ』と言い残して寝てしまいましたが、何を言っているのかさっぱりです』
 ここまで来ておきながら、早朝バズーカを知らない体をきっちり装うアース。
 ついで登場した礼花は、バズーカではなく、イスラエル・ミリタリー・インダストリーズ社製ウージーを見せびらかす。
「これは飾りです。ブルジョワにはそれが分からんのです」
 そう言って、しまってしまう礼花。分かりやすく言えば、弾なんて持ってないよ、うわーん、ということである。
 結局、礼花は全員と同じ番組の用意したバズーカを発射する。
 その轟音を受けて、魔樹はダイビングボディプレスばりに、豪快にベッドから転げ落ちる。
「‥‥な、なに!? 敵? 敵襲?」
 呆然と辺りを見回す魔樹。大宗院と若干かぶり気味であるが、それはお約束ゆえやむを得ないところ。
『さあ、最後がベタに締まったところで、以上‥‥ん?』
 アースが手を振ろうとしたところへ、見れば大宗院が裾を引っ張っている。
「このドラマは、いつ公開されるのですか?」
『以上、早朝実弾バズーカをお送りしました! さようなら〜』
 きっちり大宗院を無視して、番組を締めるアース。大宗院が本放送を見るまで早朝バズーカだと気づかなかったのは、言うまでもない。