芸人プロレスごっこ王3アジア・オセアニア

種類 ショート
担当 牛山ひろかず
芸能 フリー
獣人 フリー
難度 やや易
報酬 0.7万円
参加人数 8人
サポート 0人
期間 02/16〜02/18

●本文

 プロレスごっこ──それは、素人によるプロレスの真似事でしかないが、ここにはそれを魅せる域にまで昇華した番組があった。基本レスラーに扮する芸人が、様々な物や者を相手にプロレスをしているかのように見せて笑いを誘う。ただそれだけのことなのだが、小モノを使ったボケをベースとする、一人芝居に一発芸、リアクション芸にヨゴレと、お笑いの基本要素の散りばめられた、芸人のワンダーランドなのである。

 TOMITVのある会議室に、芸人プロレスごっこ王選手権のスタッフが集められていた。そこへプロレスごっこの一番えらい人が、ダーツでも金棒でもなく、今回は吹き矢を手に姿を現す。
「北は北海道から南は沖縄まで制圧‥‥圧倒的じゃないか、我が軍は!」
「間スカスカですけどね‥‥」
 プッ! 余計なコトを言ったスタッフが、少年探偵ご用達の眠り薬のついた吹き矢のエジキとなる。
「分かってねーな! ホントにスカスカになっちまったのは、番組の制作費だッ!」
「え‥‥それで、我が軍のどこが圧倒的なんですか!?」
 網走と与那国島ロケで早くも制作費が危機的状況にあることを、カミングアウトするえらい人。これには、スタッフ騒然である。なぜなら、削られる最初のものがスタッフ関係のお金だからである。
「こんなときこそ、内に目を向けずに外へ打って出る。そして、滅びる!」
「そんな破滅志向‥‥すばらしすぎます!」
 言いかけたところへ、吹き矢を構えようとするえらい人が見えたので、一瞬で絶賛に走るスタッフ。
「‥‥で、どこへ打って出るんですか?」
「いざ鎌倉!」
「は?」
「我が軍は1192を作るんだろうが! そのために、内政無視で打って出るんだろうが!」
「サー、イエッサー!」
 さっぱり理屈は分からなかったものの、とりあえず肯定の返事をしておくスタッフ。
 こうして、北海道、沖縄につづいて神奈川と、急に局の近場になったことに不安を覚えつつも、第二期芸人プロレスごっこ王選手権ランキング戦の第3戦がスタートするのであった。

参考例:
・軟体レスラーvsボストンバッグ:身体の柔らかい芸人が、固め技という設定でボストンバッグの中に入っていき、ファスナーを内から閉めたところで、レフェリーストップ、ボストンバッグの勝ち。

注意:
・神奈川県は鎌倉市で収録を行います。
・『鎌倉』をテーマに試合をしなくてはなりません。『鎌倉』から連想できないこともないものであれば、どんなに遠くても構いません。雪のカマクラなど、近すぎる部類に入ります。
・歴史的建造物等を破壊してはなりません。
・ポイントはプロレスごっこの一番えらい人の独断と偏見によってのみ与えられます。すばらしい、おもしろい、えろい、えらい人に媚びる、視聴率が取れる等、一切関係ありません。
・ランキングによる2代目プロレスごっこ王が決まるのは、先の見通しが立たないくらい先のことです。
・とりあえず、序盤はポイントのインフレにはなりませんが、最終的には一発逆転のバラエティのノリになるので、そういうのに怒らない人募集です。
・プロレスごっこは安全第一です。死亡、怪我、流血はまあまあ避けましょう。

過去の放送のスケジュール(最近5回分)
・新春SP 01月01日 07:00〜
・前夜祭 01月29日 07:00〜
・節分SP 02月03日 00:30〜
・第1回 02月10日 08:00〜
・第2回 02月13日 07:00〜

●今回の参加者

 fa0892 河辺野・一(20歳・♂・猿)
 fa1294 竜華(21歳・♀・虎)
 fa2824 サトル・エンフィールド(12歳・♂・狐)
 fa2850 琥竜(26歳・♂・トカゲ)
 fa3577 ヨシュア・ルーン(14歳・♂・小鳥)
 fa3622 DarkUnicorn(16歳・♀・一角獣)
 fa4120 白海龍(32歳・♂・竜)
 fa5271 磐津 秋流(40歳・♂・鷹)

●リプレイ本文

 河辺野一(fa0892)は旅に出ていた。そう、幕府を求めて。
 江ノ電に乗って民家の近さに驚き、小町通りを食べ歩く。季節など気にせず源氏山で山茶花を堪能し、明月院で紫陽花を愛でる。
 その傍らには、ハンディを持ったADの磐津秋流(fa5271)が、文句一つ言わずに常に付き従っている。
 だが、磐津は耐えられても、見てる方からすればいつから旅番組になったんだ? という疑問は当然湧き起こる。しかし、心配無用。
「1192296(いい国作ろう)、鎌倉幕府と言うではないですか」
 1192296と語呂合わせで読むと気にならないが、百万年以上も先の話である。どうも、大化の改新を虫殺しと覚えてしまって、64,564年とかいうタイプのようである。釈迦入滅後の56億7千万年も待ててしまえそうな勢いである。
 とにかく、河辺野は誰かに幕府を作ってもらうしかない、つまりは誰かに征夷大将軍になってもらうしかない、という結論にきちんと達していた。旅に出る前に気づけという話ではあるが、それでは番組経費で遊べないではないか。
 というわけで、他の選手の集まっている海沿いに出ようと若宮大路を由比ヶ浜に向かって歩いていると、そこで事件は起きた。
「なぜ、かまぼこのままじゃないんですかーッ!?」
 とある女子校の前までくると、なぜか建物の形にクレームを付け出す河辺野。こんなところで体当たりチャレンジャー精神をムダに発揮してしまい、侵入しようとしだす。
「‥‥‥‥」
 磐津はただ黙って聞いているが、周りが黙って聞いているわけがない。すぐに警備員が飛び出してくると、取り押さえられてしまう。
「ええい、お前らじゃ話にならん、さぁやを出せ! 紅茶の王子でも構わんぞ!」
 意味不明の言葉を叫ぶキケンな香りのする男として、そのまましょっ引かれていきそうになる河辺野だったが、磐津を身代わりに逃げ出してしまう。
「‥‥‥‥」
 それでも無抵抗に突っ立っている磐津だったが、カメラを持っているということで、やはり疑いの目を向けられる。
「‥‥‥‥」
 だが、磐津は黙して語らず。おかげで、本当に連行されてしまったが、それでも無言キャラは継続中である。一体、何が磐津をここまでさせるのか? 分かるのは、初公判時であろうか。
 そういうわけで、砂浜にたどり着く前から尊い犠牲を出してはいたが、たどり着けたら幸せになれるのかというと、そういうわけでもない。
『はい、男性陣は当然本命チョコをゲットし、女性陣は義理と本命チョコをばらまきましたよね? ね? おかげで、ぼくも有名税でチョコを一杯貰いました‥‥男子校だけどね!』
 女子校の(勝手な)惨劇につづき、男子校の惨劇を披露するは、実況のサトル・エンフィールド(fa2824)だ。砂浜に特設された放送席で、横には解説のヨシュア・ルーン(fa3577)を従えている。
『しかし、チョコを大量にもらって鼻血を吹くなんて、ヨシュアの奴もだらしがないなぁ‥‥』
 確かに、サトルの横のヨシュアは鼻血を垂らしていた。ただし、チョコの食べすぎではなく、ついさっきサトルが天使の笑顔でヨシュアの鼻面にパンチを食らわせたものであるが。
「‥‥いつかコロス! ではなく、いい奴コロス壇ノ浦。1185年、壇ノ浦の戦いで‥‥って、いい奴がコロされるなら、コロされるのは僕の方じゃないですか!?」
 サトルをギロリングと睨むヨシュアだったが、余計な知識を披露して自爆し、余計に鬱になる。
「こんちーす! おいらは琥竜(fa2850)だ。いざ鎌倉ーってコトで、勝負下着での登場さ!」
 そんな間にも、砂浜では最初の選手である琥竜が、鱗柄のビキニパンツ一丁という大変寒々しい格好での登場である。脂肪の削ぎ落とされた身体に、暖冬とはいえ冬の海風が容赦なく突き刺さる。
「では‥‥いざ、鎌倉ーッ!」
 安全のために冷水風呂の浴槽が用意されていたが、寒さでおかしくなったか、海にバシャバシャと突っ込んでいく琥竜。
「‥‥壇ノ浦は海戦でしたからね、当然でしょう」
『ヨシュアはこんなことを言ってていますが、すでに海の藻屑と消えております!』
 次々と簡単に命が失われていく中、白海龍(fa4120)が巨大な砂山を前にブツブツと呟いていた。
「ここはニースデス、ニースなのデース!」
 鎌倉の姉妹都市といえばニースと、幕府の開かれるよりも遥かに以前、今から40年も前から決まっているのだ。
 なので、必死にここはニースなのだと思い込むように自ら念じている。そのあまりの一心不乱ぷりに、琥竜同様寒さで判断力がおかしくなっているのではないかと心配になるが、琥竜とは違って鋼の筋肉と適度な脂肪に守られている。
 では、何なのか? TOMITVのお笑い番組出演者に蔓延する、打たれすぎの症状が出ていただけである。
 そのせいで、白海龍は砂が雪にしか見えなくなっていた。砂を盛り固め、穴を掘りはじめる。だが、白海龍は雪でカマクラを作っているつもりでしかない。
「あ、しばらくかかるので、番組進行しておいてくだサーイ!」
 白海龍が笑顔で放送席を振り返ると、手を振っている。その姿に、サトルとヨシュアは涙を禁じえなかった。
「うう、ベタに惜しい人がおかしい人になってしまいました‥‥」
『泣くな、ヨシュア。本当に泣くべきは、このVを見てからじゃあないか』
 サトルの合図で、目の前のモニタにVTRが流れる。
 同じ海外組でも、鎌倉をニースと思い込むことで済ませる者もいれば、本当に海外へ旅立ってしまう者もいた。
「ハォ! というわけで、私はナイアガラに来てるのよ」
 竜華(fa1294)が元気よく挨拶していたが、何が『というわけ』なのか? 無論、答えは今回のテーマ『鎌倉』にあるのは、言うまでもない。
「瀑布に打たれた後に、原稿をスピーチね?」
 竜華は、鎌倉といえば『幕府と元寇』を『瀑布と原稿』と勘違いしてしまっていた。
 ただ滝といわずに瀑布とまでいえるものは、鎌倉では用意しきれない。いや、えらい人と同じで日本という器では賄えない。
 というわけで、そのためだけにアメリカとカナダの国境まで来ていたのだ。しかも、水ごり用の白装束を着ているのだ。
「じゃ、打たれてくるね!」
 サトルとヨシュアが下着もつけずに若干透けている白に目を奪われている隙に、ポーンとフェリーから飛び込んでしまう竜華。
『あっ! ぼくのおっぱいが‥‥』
「サトルくんのものじゃないでしょ! むしろ、僕のもの‥‥ぐはっ!」
 勝手な言い分で兄弟ゲンカをはじめるサトルとヨシュアはさておき、竜華は本当に水しぶきの中に消えてしまった。こうして、また一つの命の灯火が消えたのだ。
 一体、プロレスごっこはどれだけ貪欲に人の命を食らうのか? というときに、遅ればせながら河辺野が到着する。もっともこの河辺野だって、磐津を人身御供に差し出して、生きながらえているだけなのだが。
「鎌倉幕府が見つかってしまいましたよ! なんか少しなまってて、キャバクラ幕府というらしいんですが‥‥行ってみましょう!」
 キャバクラのことがよく分かっていない大人な河辺野に対し、
『待って! 我々も同伴でお願いします』
「うん。いざ、キャバクラ!」
 子どもなサトルとヨシュアはよく分かっていた。同伴の意味が確実に違うのは分かっていたが、子どもだから分からないということにして、一緒について行こうとする。
 とりあえず、プロレスごっこの新たな英霊たちのために花束を飾って、そのまま砂浜を後にする。
「キャバクラ幕府へようこそなのじゃ。コードネームはDarkUnicorn(fa3622)、源氏名はヒメ、キャバクラ幕府のママさんなのじゃ!」
 店に入ると、DarkUnicornが出迎えてくれた。キャバクラのことがよく分かっていないDarkUnicornが作ったので、よく分からない店に仕上がっていた。
「ハォ! そろそろ、瀑布の感想をの原稿をスピーチしてもいいかしら?」
 まず、店の女の子として竜華がいることだ。その後、どうなったのかは一切説明なしである。しかも、水で肌にペッタリと貼りついた白い薄手の着物、もちろん下着は何もナシという、特殊な接客をしている。
 が、問題はその接客されている側の方である。海に消えたハズの琥竜、砂のカマクラを作りつづけているハズの白海龍が、平然とお酒を飲んでいた。しかも、ピンドンことドンペリニヨン・ロゼである。
「キャバクラなど行ったことがないからよく分からぬのじゃが‥‥テレビで見たホスト番組のように、喋って煽って飲ませればよいんじゃよな?」
 もちろん、DarkUnicornが自腹で用意するわけはなく、番組制作費の中から出ているのは言うまでもない。無論、次のロケ地が経費削減のあおりでお台場になるコトなど知る由もないので、やりたい放題である。
「‥‥‥‥」
 そんな喧騒とは打って変わって、奥では連行されたハズの磐津が寝ていた。ムクっと起き上がると、そのマクラを指差す。
 河辺野にサトル、ヨシュアはすっかり気圧されてポカーンとしているしかなかったが、どうやら『鎌倉→マクラ→低反発→逆らわない』ということで、何ものにも逆らわないということのようだ。
 だから、今の状況にも逆らわずに流されるのみで、先程の河辺野のせいで連行されたのも逆らわなかったというわけだ。
 一方、DarkUnicornは何やら説明書を読んでいた。
「ふむふむ‥‥口を使ってサービスをすればよいのじゃな?」
 それはもうキャバクラじゃないじゃん、目の前にあるドンペリの色の名前がつく店じゃん、キャバクラでかろうじてつながっていた鎌倉も関係なくなっちゃったじゃん‥‥と、様々にツッコミを入れたい琥竜だったが、いい目に合えるのをみすみす逃す気はないので、じっと黙って待つのみである。
 だが、次の瞬間琥竜を襲ったのは、耐え難い頭の痛みであった。
「わーっ! 何してるんだよッ!?」
 見れば、DarkUnicornが頭に噛みついていた。琥竜が必死に振りほどく。
「ん? 説明書どおりにやっただけなのじゃ! ここに書いてあるのじゃ、頭に歯を立てないように気をつけましょう‥‥ん? 立てないだったのじゃ! スマンのじゃ!」
 一応は謝るDarkUnicornだったが、何が悪いのかさっぱり分からず、説明書を眺めながらしきりに首をかしげている。
「では、甘噛みをすればよいのかのう?」
 このままでは実験体としてのヒドい目にしか遭わないと気づいた琥竜が、それもいいと思うM心もあったものの、助け舟を出すことにした。
「いや、それでも間違ってると思うんだ‥‥前のページの最後、見てみ?」
「‥‥亀って書いてあるのじゃ。ああ、なるほど、そういうことなのじゃな! しかし‥‥亀獣人はおらんようじゃが?」
「わーっ!?」
 ポロっと獣人と言ってしまうDarkUnicornに、大慌てて大声でごまかす琥竜。確実に、客の方が気を遣う店と化していた。
 だが、そんなセリフが飛び出す前に、映像は白海龍と竜華の方に切り替わっていた。運び込んでおいた砂のカマクラの中で、白海龍と竜華が寄り添って七輪を囲んでいる。
「では、入り口の部分を塞ぎマース。これで、個室プレイとかいうものが可能になるそうデスヨ?」
「‥‥わー! ナイアガラで見えた虹が、ここでも見える!」
「雪の結晶に反射して、虹がさらにキレイですヨネ!」
 密室で焚かれる七輪の練炭。早くもキケンな状態に突入しているようだ。
「う‥‥ああ‥‥」
 ずっと固まっていた河辺野だが、ようやく言葉を搾り出すことに成功した。
「これが‥‥これがッ! この気持ちこそが、まさに頼朝と対立した牛若丸、まさに弁慶の立ち往生ですよ!」
 よく分からないたとえを持ち出し、今の心情を吐露する河辺野。哀れんだサトルが、そっとその肩に手を置く。
「この牛若丸も真っ青です! 今すぐ鞍馬山に参りましょう!」
 だが、河辺野は突然跳ね起きると、サトルの手を振り払って飛び出していってしまった。
 といっても、逃げ出したわけではない。こんな店は自分の夢見ていた幕府とは違うと、自らスカウト活動に出かけただけの話である。
「‥‥サトルくん、大人の社交場は人生の縮図です。だから、これを見てこうなっちゃいけないという、反面教師な教育番組なんだよね?」
『そうだよ? 気づいてなかったのか? プロレスごっこは、子どもたちにそういう警鐘を鳴らすため、いつも登校前の時間に放映されているんだぞ!』
 こんな大人にならないよう気をつけよう‥‥1周年目にして、その思いを強くしたサトルとヨシュアであった。