走れ、人間ども11アジア・オセアニア

種類 ショート
担当 牛山ひろかず
芸能 フリー
獣人 フリー
難度 やや易
報酬 0.7万円
参加人数 8人
サポート 0人
期間 02/18〜02/20

●本文

 TOMITVのスタッフルーム。その中の、自称スポーツイベント便乗チームに、一人の男が駆け込んできた。なぜ毎回駆け込んでくるのかといえば、『走れ、人間ども』だからである。
「これまで引っ張ってきた馬が引退や休養する中、ドバイへ向けての砂の王者決定戦が行われるわけですが‥‥我々もドバイロケを目指すんでしたよね?」
「そうだ。馬の方とは違って、渡航費等全部自腹でならヤる気満々だぞ!」
 オイルマネーとか一切関係ない便乗チームで、景気のいい話が聞こえるハズがなかった。が、そこは気力でカバーというのが精神論大国の人々である。
「じゃあ、海外ロケへと向けて、壮行レースといきますか!」
 もっとも、番組制作費でついに海外ロケに行ける後輩は鼻息が荒い。
 こうして、今回はダートコースを使用する競馬場疾走企画がスタートすることとなった。

使用コース・ハンデ
・競馬場のダート1,600mコースを使用。
・コース形態等は、府中にある某競馬場にすべて準じます。
・基本的なハンデは、斤量(重さ、走りにくさ)によるハンデが中心となります(同じような走り方の場合)。
・コースが1,600mというだけで、距離にも激しくハンデがつきます。

事前に用意される物
・大抵のものは用意されます。番組用意のものでなく、持ち込みでももちろん構いません。
・実況は用意されません。(ハンデ代わりに)自分で実況しながら走ることも可能です。走らずに実況・解説だけでの参加も可能です。

ルール
・法に触れない限りは、何を使っても構いません。たとえば自動車の場合、私有地内なので免許はなくても問題ありません。
・獣化は、視聴者に気づかれない限りにおいて、いくらでも使って構いません。ただし、その分ハンデが重くなります。
・優勝賞金2万円。敢闘賞10万円。勝利よりも目立つ、ウケる方重視となっています。
・その他細かいルールは、俺がルールブックだ! とスタッフが申しております。

過去の放送のスケジュール(最近5回分)
・【AoS】泳げ、人間くん 8月01日 07:00〜
・【PSF】走れ、人間ども 9月15日 07:00〜
・走れ、人間ども8 10月02日 07:00〜
・走れ、人間ども9 12月09日 07:00〜
・走れ、人間ども10 12月24日 15:00〜

●今回の参加者

 fa0422 志羽翔流(18歳・♂・猫)
 fa0640 湯ノ花 ゆくる(14歳・♀・蝙蝠)
 fa0761 夏姫・シュトラウス(16歳・♀・虎)
 fa1790 タケシ本郷(40歳・♂・虎)
 fa2671 ミゲール・イグレシアス(23歳・♂・熊)
 fa4956 神楽(17歳・♀・豹)
 fa5082 鷹飼・源八朗(19歳・♂・鷹)
 fa5442 瑛椰 翼(17歳・♂・犬)

●リプレイ本文

 あいにくの雨となった今回の走れ。砂地のダートコースで行われるため、ドロドロの馬場コンディションである。まだ、都庁からビッグサイトまでのマラソンをした方が、舗装されている分マシというものである。
 というわけだからかどうかは分からないが、その都庁からスタートを切ろうとしている者がいた。6枠6番のミゲール・イグレシアス(fa2671)である。
「むぁいど、おおきに! ミゲールやねん、よろしゅうに」
 挨拶したところで、応える者はない。マラソンを翌朝に控えているならともかく、そもそも収録日と放映当日が違うので、マラソン関係者もいない孤独な戦いである。
 そんなミゲールはといえば、競馬ともマラソンとも関係なく、空手着姿である。
「まさに新たなはじまり、ニュービギニングや!」
 色々な意味で夜明けは遠そうだったが、ある種山ごもり的イカレた発想なので、空手着でいいんじゃないでしょうか? と、投げやりな気持ちにさせてくれる。
「眠い、余りにも‥‥眠い‥‥」
 そこへ、7枠7番の瑛椰翼(fa5442)が姿を現す。こちらはパジャマ姿にマクラを抱え、眠い目をこするという、いかにも就寝直前に引っ張ってこられましたといういでたちである。
「眠すぎて、脳が働いてくれないぞー?」
 瑛椰がスターターというわけではない。サイコロの出目で走り方その他を決める俺様ルールのせいで、単に出目が悪くてここに来てしまったというだけだ。
 パーン! 一足先に、たった二人のマラソンがスタートする。本物のマラソンコースとは違い、こちらが目指すは府中である。
 が、瑛椰は走り出さない。別に眠くてボーっとしているわけではない。瑛椰のすべてを決めるのはサイコロの出目。なので、スタートに当たってもサイコロを振るだけの話である。
「何が出るかな‥‥えい‥‥車で先に給水所へ先回り‥‥と。じゃ、そーゆーコトで!」
 急に元気になった瑛椰が、嬉々としてロケバスに乗り込む。
「裏切り者ーッ!」
 ミゲールの悲痛な叫びがビルの間にこだまするが、ロケバスは先導すらせずに走り去ってしまう。
 それでも、ミゲールは走りつづけるしかなかった。競馬場でのスタート時刻までに到達しないと、一番の見せ場が勝手にはじまってしまうのである。駅伝における、タスキが間に合わずに繰り上げ発走のような悲劇が起こってしまうのだ。
 と、そんなマラソン組の方はスタートの状況だけ映して後はザックリカット。あっという間に昼間になって、競馬場での収録スタートである。
『うむ、ヨゴレとなってパワーアップしたこのタケシ・本郷・ザ・グレートが、貴様らをまとめて実況解説してやるぜ!』
 パドック前の実況席では、タケシ本郷(fa1790)が競馬新聞を丸めてパンパン叩きながら、実況を開始していた。
 実況というよりは、まさに予想屋のそれである。ましてや、両耳にはさんだ赤えんぴつは、もはやツノであった。
「小僧‥‥うわーっ! 本郷がまたできもしないことをーッ!! あーっ、ツノが増えてるぞーッ! って言われてしまうぞ!」
 ホワイトタイガーマスクとなった夏姫・シュトラウス(fa0761)が放送席まで飛び込んできたかと思うと、勝手な野次だけ入れてまたパドックの周回に悠然と戻っていく。
『‥‥なんだ? まあいい。では、順に紹介していくぞ。1枠1番は神楽(fa4956)だ!』
「‥‥これも鍛錬だと思えば、楽なモノよね」
 神楽は夏姫の入れ込み具合などまったく気にせず、鉛入りのベストに鉛入りのリストバンド、アンクルバンドを身につけて、黙々と周回している。
『コイツは来ないな。牝人で体重の増減が+10kgなんて、買えねーだろ‥‥ん?』
 そのまま周回を重ねるだけに見えた神楽だったが、急に方向転換すると、本郷の前までやって来る。
 バキッ! 鉛入りリストバンドで重みの増した神楽の鉄拳が、本郷の顔面にクリーンヒットしていた。
「これも鍛錬だと思えば、聞き流せ‥‥なかったわ」
 神楽は般若の形相でそうとだけ言い残し、また元の淡々とした表情に戻ってパドック周回を再開する。
『フッ‥‥プロレスラーはよけない! 受け切るのみ‥‥って、今は予想屋だったな。でだ、2枠2番は志羽翔流(fa0422)、ローラーブレードでの参戦だが‥‥ただでさえダートコースだっていうのに、この雨! 切って問題なし!』
 耳だけで満足できず、鼻からも赤えんぴつを垂らしながら、力説する本郷。
 パドックでこそ、志羽は軽快に滑っている。だが、これが本番では巨大リュックサックも背負うというのだから、取捨のむずかしいところだ。
『つづく3枠3番は、鷹飼源八朗(fa5082)。志羽がローラーブレードなら、鷹飼はジャンピングシューズだッ! ローラーブレードよりはマシなのかね?』
「子どもたちに夢と希望を与えられるよう、がんばりますっ! みんな! ヒーローの雄姿、その目に焼き付けてくれ!」
 カメラに映っていることに気づいた鷹飼が、さわやかに歯を光らせる鷹飼。着込んだ真紅のヒーロースーツが、雨に濡れて重くくすんだ赤になっていたが、そんなことは気にしない。
『ヒーロースーツ着用だが‥‥ああ、あれか? 打たれすぎの脳に衝撃を与えないためのジャンピングシューズ‥‥コイツも消しだな!』
 鷹飼もあっさり切って捨てる本郷。今のところ、全部消しである。
『そして4枠4番、夏姫・シュトラウスだ。ホワイトタイガーマスクだけあって、白組の大玉を転がすという彼女。不敵で不遜な自信が空回りする恐れから対抗までとしたが、逆転も十分ありえる!』
 泥はねも気にしない白のタキシード姿の夏姫だけあって、本郷が対抗に推奨である。
『本命が来たーッ! ハンデ+100mも問題なしッ! 5枠5番は湯ノ花ゆくる(fa0640)だ! 神に一番近い女、それがゆくる嬢だ。まあ、メロンパンの神にあれだけ愛されている女はそうはいないハズ。いたら教えてくれ!』
 よく分からない理由で、本命に推奨される湯ノ花。肝心の湯ノ花は、耕運機に乗ってゆったりと揺られている。
「幸運を‥‥運んでくると‥‥いわれている‥‥マシーンですから‥‥これで‥‥1位は‥‥間違いないです。‥‥幸運機に‥‥乗って‥‥走ります‥‥」
 ダジャレで大丈夫かという気もしないでもないが、こんな時期に田植えをする者にとっては、本日は恵みの雨である。これこそ、幸運といえるのではないか?
『6枠6番のミゲールと7枠7番の瑛椰はパドックにいなくて論外だから、◎ゆくる嬢の○夏姫嬢、4−5の裏表で鉄板だな!』
 本郷のパドック予想が終わったところで、本馬場入場とかダルいコトはやらず、さっくりスタートである。たとえ、まだミゲールと瑛椰が到着していなくても、冷徹にスタートなのである。
 芝からの発走となる1,600mスタート地点に、走る神楽、ローラーブレードの志羽、ジャンピングシューズの鷹飼、大玉転がしの夏姫の4人が並んでいる。
 そして、それよりも100m後方の1,700m地点、第1、2コーナー中間点には幸運な耕運機に乗った湯ノ花が控えている。
『競人最終戦争、一斉にスタート! 各人、揃いました。外枠ミゲールと瑛椰は大きく出遅れ‥‥ってレベルじゃないだろ!』
 さらに数十km後方というか、すでにとっくにスタートを切っている都庁出発組のミゲールと瑛椰だが、今どの辺まで来ているかはナゾのままである。
「うおっ!」
「のわっ!」
 スタートと同時に、スリッピーな濡れた芝が、容赦なく志羽と鷹飼を襲う。それでも、その度に立ち上がって、走りつづける二人。おかげで、鷹飼が不屈のヒーローと自分に酔ってしまっている。
 しかし先頭は、白い大玉を転がす夏姫。やはり、金剛力増は伊達ではないのである。
 そして、飛ばす前3人をよそに、淡々とペースを刻む神楽。
 そのままダートコースに突入。どういう原理かはナゾであるが、ローラーブレードの志羽のペースが一気に上がる。
「 俺は大道芸人〜 日本一の男〜
  どんな芸でもやりこなす〜
  水芸傘芸なんでもござれ〜♪ 」
 先頭でカメラを独り占めした途端、歌いはじめる志羽。しかも、背負っていたリュックから赤いボールを5個取り出すと、ジャグリングまではじめてしまう始末。
『リミッターさえ外しすぎなければ、誰もが一着を狙えると思っていたが‥‥早速、志羽が外してしまったーッ!』
 だが、それでも志羽のペースは落ちない。これだけは、さすがは大道芸人と褒めてもよいところであろう。それ以外の部分で、大きな誤算があったことを除けば。
 その誤算とは何か? 白の大玉を転がしていた、夏姫の存在である。紅白は常に戦うものと身体に染み込ませてある彼女は、前方を行く赤玉に激しく闘争心をかき立てられていた。それはもう、闘牛並みに。
「‥‥ぐはっ!」
「小僧、勝つのは白組だ‥‥って、消えたな?」
 一気にスピードを上げた夏姫の視界から、赤玉もろとも志羽の姿が消えていた。
『あーっと、審議の青ランプが灯ったーッ!』
 志羽は白い大玉に巻き込まれて、ほぼ同化していたのだ。
「うっ、俺もヒーローといえばレッドと、赤いスーツなんだが‥‥越すに越されぬシュトラウスだな‥‥」
 ドロドロのダートコースにも慣れてきた鷹飼だったが、夏姫の後ろにピタリとつけたまま、追い抜くことがどうしてもできずにいた。
「くっ、ヒーローが二の足を踏んでいいのか? 負けると分かっている戦いにも、果敢に挑んでこそ‥‥ぐはっ!」
「‥‥ジャマ!」
 ドシャーッ! 鷹飼が吹き飛んだ。神楽の何気ない裏拳一発で、鷹飼はバランスを崩して転倒してしまったのである。
 志羽を巻き込んで重くなった大玉にペースの落ちた夏姫、その夏姫を追い抜けずにいる鷹飼。それに、精密機械のようなペースを刻んでいた神楽が追いついてしまったというわけだ。
 快調に第3コーナーに突入する神楽。いつの間に夏姫を抜いたのか? それは、夏姫がコーナーを曲がろうともしないからである。
 ドカッ! 外埒を突き破り、そのまま芝コースへ侵入する夏姫。だが、さらには芝コースの外埒をも突き破って、出て行ってしまう。
 そう、大玉転がしとは世を忍ぶ仮の姿。本当は某塾名物の直進行軍なので、コーナリングなど許されないのである。
 もはや、ゴールするには地球を1周する以外に道はない。海? それを根性で超えるからこそ、この競技の意義があるのである。できないけど。
 こうして、志羽の巻き添えという尊い犠牲を払いつつ、夏姫の直進行軍はつづいていく。が、無論コースアウトで失格なのは言うまでもない。
 一方、競馬場内最後方の湯ノ花である。前の争いには一切絡んできていないが、何をしているというのか?
 それは無論、耕運機に乗っているのだから田植えである。
「‥‥これで‥‥来年は‥‥おいしい‥‥メロンパンの木が‥‥生えてきます♪」
 そう言う湯ノ花ではあるが、メロンパンの木の苗を植えるという暴挙には出ていない。メロンパンの木が存在しないと分かるほどにはリアリストである。
 だから、メロンの種とパンの木の種を植えているのである。パンの木という時点で十分メルヒェンだというのはさておき。
「緑‥‥豊かな‥‥大地に‥‥再生です‥‥豊作です‥‥くじらです‥‥zzz‥‥」
 そして、無意味にレース前は寝ないというハンデを己に課していたため、結局居眠り運転である。すでにメロンパンの夢の世界へ旅立ってしまっている。
『くっ‥‥メロンパンの神に愛されすぎだろ!』
 はやくも勝人投票権券の紙吹雪を舞わせる本郷。本命の脚は完全に止まり、対抗に至ってはコースアウトである。
 こうして、精密機械のままペースを刻み切った神楽が1位入線。転倒が多すぎた鷹飼がなんとか2位入線となった。
『‥‥えーっと、ずっと待つしかないのか?』
 それでも、湯ノ花は夢の国に行ったきりだし、ミゲールと瑛椰が入ってくる気配はない。
 それからどれくらい経ったころであろうか。放映上は編集で一瞬のコトとはいえ、ようやくミゲールと瑛椰が並走して入ってくる。
「世界選手権は‥‥わいの‥‥ものや‥‥」
 息も絶え絶えで、ミゲールが3位入線である。というか、瑛椰と同時ではないのか?
 瑛椰はゴール前で最後のサイコロ振りが待っていたのである。
「出たのは‥‥ドバイ!? 自腹でなんか行きたくねえ。むしろ、逝きたくねえ。でも、イッちゃった‥‥ぐふっ!」
 ようやく最後にゴールに飛び込んだ瑛椰が、そのまま用意してあった布団に飛び込む。もはや、何を口走っているのかも把握できていない。
  1着 1 神楽
  2着 3 鷹飼源八朗
  3着 6 ミゲール・イグレシアス
  4着 7 瑛椰翼
  中止 2 志羽翔流(白玉になる)
  失格 4 夏姫・シュトラウス(コースアウト)
  失格 5 湯ノ花ゆくる(タイムオーバー)
 結局、以上のようにすんなりと確定し、優勝した神楽には賞金2万円が贈られた。
 また、ドバイ前哨戦どころか世界選手権代表選考レースにしてしまおうとした心意気を買われ、ミゲールに敢闘賞10万円が贈られた。