昭和の番長列伝アジア・オセアニア
種類 |
ショート
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担当 |
牛山ひろかず
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芸能 |
フリー
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獣人 |
フリー
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難度 |
普通
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報酬 |
0.8万円
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参加人数 |
8人
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サポート |
0人
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期間 |
04/29〜05/01
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●本文
TOMITVのスタッフルーム。その中の自称スポーツイベント便乗チームで、二人の男がボンヤリと会話をしていた。
「みどりの日がスライド登板になって、今年から今日は昭和の日となったわけだが‥‥分かるな?」
「ええ、昭和末期の甲子園を沸かせた番長ですね!」
「そのとおり!」
現在の番長があんな状態では、もはや過去の栄光に目を向けるしかないと、遠い目をして失われた何かを必死に見ようとする先輩と後輩。だが無論、そのままでは見えるわけもない。だから、彼らは番長シリーズを創るのだ。
「幸い、前日に『リフォームで番長』という番組で援護射撃をしてくれることとなった。ここはもう、本塁突入をして肉離れを起こすしかない!」
「せめて、タックルでキャッチャーを粉砕したいですよね‥‥」
なんだかよく分からないが、先輩と後輩がガッチリと握手する。
「で、一番の問題は何をやるかなんだが‥‥」
「たまには、何も決めずに丸投げというのはどうでしょう? どうせ休日なんだし、朝っぱらから見てる人なんて少ないですよ。こんなときこそ、冒険ですよ!」
「冒険か‥‥そんな時代もあったな。よし、やっちゃうか!」
こうして、一切何も考えずにノープランで立ち向かう、まさに番長的な番長リスペクト企画の第13弾がスタートするのであった。
『タイトルしか決まってませんが何か? 編』
ルール
・全員が番長とかに扮して、タイトルから想像できる何かをします。
・番長的だと本人さえ思っていれば、どんなコトをしても構いません。
・収録か生か、スタジオかロケか、そういったものもすべて自由です。
・全番長結束するもよし、全番長が孤高をたもつもよし、すべて自由です。
・撮りたいものは、おもしろ番長映像です。何をするのか分かりませんが、とにかく一番イカレた番長が優勝となり、賞金10万円が授与されます。
・その他細かいルールは特にありません。が、番長でも法は守る必要がありますし、スタッフ番長がルールブックです。
過去の放送スケジュール(最近5回分)
・【PSF】番長だらけ野球 9月19日 07:00〜
・番長のストーブリーグ 10月21日 7:00〜
・番長の自主トレ 2月08日 7:00〜
・番長のバレンタインデー 2月14日 8:00〜
・番長のリハビリ 4月15日 7:00〜
●リプレイ本文
何をやるか分からないまま、番長たちは所沢に集結していた。番長に理由などなくていい。ただ、獅子の侠気を見せつけるのみである。
というわけで、それすらもよく分かっていない二人、竜華(fa1294)とマリアーノ・ファリアス(fa2539)からの入場である。
学ランに外套をまとって大正ロマン風味に決めておきながら、ステッキの変わりにバットを持ったマリアーノ。対する竜華は長ランにリーゼント、バットには釘を刺し、背中には『3』の刺繍が入っているところが、強烈に昭和を主張している。
平成生まれと、昭和の時分にはまだ母国にいた二人である。偏った知識で微妙に間違っている感があるのも、むしろそれがウリだろう。
が、それ以上にワケが分からないのが、マリアーノが竜華を肩車して出てきたことである。
体格的にはマリアーノが上の方がいいのだが、プロレスごっこ王番長としての体力を見せつけたいのか? そんなわけがない。単に女性を密着して担ぎたいお年ごろなだけである。
「これが、昭和の父親像ってものなのね? って、あんまり視界が高くなってない気が‥‥」
「‥‥え? 気のせいじゃナイ?」
明らかに気のせいではないのだが、セピア色な写真の時代の平均身長とはこんなもんだとごまかすマリアーノ。もっとも、マリアーノにまだ成長途上だという心のゆとりがあるからこそ言えることだが。
というわけで、小柄さを活かして無意味にちょこまかと走り回るマリアーノ。振り落とされないように竜華のチョークスリーパーがガシっと決まっていて、むしろマリアーノの方が落ちそうになっていたが、それも気のせいということでスルーである。
「長ラン? ハマっ子たるもの、洋ランだろーが!」
その様子をブルペンから見ていた琥竜(fa2850)が、ペッとつばを吐き捨てた。
洋ランにドカン、リーゼントをベースに、ピンク×シルバーの竜虎スカジャンに白のスラックス。足下は先トンガリの白のエナメルで、トドメに三角サングラス。外見のみならず、大変暑苦しい格好である。
「え? 竜虎じゃ名古屋と兵庫だろ? だから、スカジャンだべ? え? スカジャンは横須賀だろ? スカ線こと横須賀線だって、横浜駅通ってるじゃん! え? 線路的には大船から先だろ? 鉄っちゃんか!」
誰と会話しているのか分からないが、延々と受け答えをつづけていく琥竜。
「っつーか? やることぉ? 決まってねーのぉ? お偉いさんたちよぉ?」
琥竜は話をそらして、ごまかすのみである。周囲にごまかす相手がいなくとも。
いや、実は一人いたのである。当の琥竜さえ気づいていなかったが、白海龍(fa4120)がいたのだ。
「あ、ちぃましぇん! ホサないで! ここでお仕事を取り上げられたら、ママンに『めっ☆』って言われちゃう〜」
だが、琥竜はさりげなくマザコンをアピールしつつ、白海龍以外の見えない誰かとの会話に忙しい。
「よく分からないけど‥‥行けーッ!」
「はーイ!」
グラウンドでは、相変わらず竜華を肩車したマリアーノが、命令に従って走り回っていた。それこそが、昭和の番長だと信じて。マリアーノも酸欠状態で判断力が落ちており、ただただ従うのみである。
「‥‥とりあえずアレですネ、『昭和の番長』とイエバ『土手で殴り合って友情が芽生える』だと、日本の友人から聞きマシタ」
そして、白海龍もまた、己の昭和の番長道を行こうとしていた。
「他の番長を土手で闇討ちシマース。おーともーだちー、ワショーイ! リンパがパチパチパンチで血祭りワショーイ! ブルペンは土が豊富なので、ここを土手と言っても問題ありマセーン!」
「番長に似合うのは‥‥ぐはっ!」
白海龍がブルペンに飛び出してくると、琥竜に振り向くヒマさえ与えずに、殴り倒した。
「さあ、クタクタになったトコロで土手に二人仰向けに寝転がり、笑いあって親友になるのデス‥‥って、もう寝てしまってマース!」
無論、琥竜は失神KOである。白海龍が声をかけても、まったく反応がない。
「ハァハァ‥‥」
そんなブルペンでの惨劇はさておき、グラウンドでは走り疲れたマリアーノが、白海龍が琥竜に望んでいたような見事な大の字になっていた。
マリアーノは荒い息をして、胸を上下させている。疲れているのもあったが、明らかに酸素が欠乏していて、打たれすぎと同じような症状になっていただけの話である。
だが、変にハイになった高揚感は、すぐに泡と消えた。こんなときにだけ昭和のバブルかよと思うマリアーノだったが、タケシ本郷(fa1790)が入ってきたからだ。
「番長ルールブックの中のルールブック、大番長のタケシ本郷とは、自分のことじゃあ!」
いきなり、本郷がやってくると、電話帳を素手で引き裂いてみせる。おかげで、竜華もマリアーノすらもポカーンであるが、どうも電話帳がルールブックという体のようだ。
だが、本郷はまったく気にすることなく、『かみゅ』と書かれたシールの貼ってあるボトルからウーロン茶をひたすらグビグビとあおっている。
「君たちレベルの番長につき合っていると、こちらのレベルも下がる。不快だ、さらば」
そして、唐突に去っていこうとする本郷。だが、それが果たされることはなかった。
ガチャーン! いきなり、背後から後頭部を一升瓶で殴られたのである。見れば、すでに完全に出来上がっている姫川ミュウ(fa5412)の姿があった。
「東京湾上に出現した番長な学園の大吟醸が発売されてしばらく経つんで、純米大吟醸を飲んでみましたが何か?」
「‥‥いえ、何もないですよ?」
酔っ払いには関わらない方がいいと、本郷が触らぬ神に祟りなしを決め込むが、向こうから触れてくるものは止められない。
「お酒の飲み方が‥‥違うでしょ!」
「いや、ウーロン茶で‥‥ぐぼはっ!」
さすがに言い返す本郷だったが、今度はビール瓶で姫川に殴られる。先程の一升瓶同様、一応蝋細工ではあったが、それゆえにフルスイングで粉々である。
「正しい大人のお酒の飲み方といったら、昭和日本の伝統芸、ワカメ酒でしょ! そう、アレをワカメが潮流にたなびく様に見立てた‥‥って、放送できないでしょ!」
本郷は何も言っていないのに、今度はバーボンの瓶で殴る姫川。粉々になった蝋がその度に服の隙間に入ってきて大変気持ち悪いところだが、本郷はこれで打たれすぎになれるとハァハァしてしまっている。
だが、自業自得とはいえ、姫川こそその蝋の被害に遭っていた。
「ザラザラというか、チクチクというか‥‥」
姫川はサラシの上から長ラン、ボンタンに下駄、頭には学帽という番長定番の装備であったが、そのきつく巻かれたサラシをほどいてしまう。おかげで、長ランの隙間から胸の谷間がチラリとのぞく、ちょっとしたフェチ映像になってしまった。
「俺は‥‥俺にできる仕事をやるだけだ‥‥」
ここまでずっとカメラマンの皮をかぶっておとなしくしていた鶸檜皮(fa2614)が、ここに来て本性を現す。飛び込んでくると、なめ回すように撮影を開始する。
「では、兄弟の杯を‥‥」
姫川がそう力強く宣言すると、本郷に一升瓶を渡す。
しきりに中身をかけ合うように促す姫川だったが、単に酔った頭で襲名式と祝勝会の区別がつかないだけである。
そして、姫川は撮影会どころではなくなっていた。ただでさえ泥酔していたところへ、このビールかけが効いてきたのである。
「金粉ショーの皮膚呼吸じゃないけれど、アルコールの皮膚吸収も‥‥結構キツいのね‥‥ガクッ」
そういえば、お酒の飲めないコナンなメジャーリーガーが、ビールかけだけでダウンしてたこともあったっけと頭を過ぎるが、それも一瞬のことである。酔いつぶれてしまったのだから。
「それはいけないヨ! マリスが舌でなめ取ってあげるヨ!」
呆然と見ているだけのマリアーノだったが、ようやく我に返って食いついてくる。
「未成年の飲酒禁止!」
スコーン! 竜華が手にしていたバットで、マリアーノの頭をフルスイングした。マリアーノが宙を舞った瞬間である。
そのあまりに見事な放物線に、忘れていた何かを思い出してしまう鶸。
「そうだ‥‥俺は‥‥俺にできる仕事をやるだけ。俺は‥‥スラッガーを求めていたんだ‥‥」
カメラを大切にしまいながら、なにやらピッチングマシンを運び込ませる鶸。
それは、番長シリーズと同じスポーツイベント便乗チームのムチャキングの方でかつて使われていた、火薬で飛ばす物騒なシロモノであった。
「さあ、俺の目の前で‥‥そのスイングを見せてくれ!」
誰も事態が飲み込めないうちに、鶸が300km/hの剛速球の乱射を開始する。あっという間に、阿鼻叫喚の地獄絵図の完成である。
「グハッ!」
頭をさすりながらなんとか起き上がったマリアーノだが、真っ先にエジキとなってしまう。
「ごふっ! がはっ! ぐごはっ!」
つづいて、本郷にいたっては全身にボコボコに食らう。というか、鶸が意図的に男ばかりを狙っている気がしなくもない。
「ええと‥‥打てばいいのね?」
姫川は完全に酔いつぶれて寝てしまっていたので、もはや立っているのは竜華ただ一人である。
が、打ち返せるハズもない。こうなったら密着してスイングの個人レッスンをと、鶸が無防備に竜華のところに向かったのがいけなかった。
「あぶない!」
「え!?」
鶸の後頭部にボールが発射され、思わず竜華が声を上げてしまう。
鶸は反射的に振り返り、バットを振ってしまう。そして、見事にボールに当たってしまった。
それも、バットこそ粉々にされてしまっていたが、ボールは前に飛んでいたのだ。
「そうか‥‥俺にしかできない仕事って‥‥コレだったのか‥‥」
こうして、鶸が番長的メジャー移籍ということで、10万円を獲得した。但し、移籍金に8割ほどを持っていかれ、本人には2万円しか行かなかったという。どういうシステムなのかはナゾであるが。
そして、再びブルペンに映像が戻る。そこには、ようやく気づいた琥竜の姿があった。
「よかったナ‥‥ワハハハ!」
「ん、ママン? 違う、ママンじゃない!」
白海龍の腕を振りほどく琥竜。だが、白海龍の必死の人工呼吸があったからだと、琥竜は気づいていた。
「‥‥お前‥‥やるじゃねえか‥‥」
「ああ‥‥お前もな‥‥」
セリフこそ白海龍の期待どおりのものであるが、確実に友情ではない何かが芽生えていたとか、いないとか。