第4回プロレスごっこ王アジア・オセアニア
種類 |
ショート
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担当 |
牛山ひろかず
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芸能 |
フリー
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獣人 |
フリー
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難度 |
やや易
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報酬 |
0.5万円
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参加人数 |
8人
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サポート |
0人
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期間 |
03/16〜03/18
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●本文
プロレスごっこ──それは、素人によるプロレスの真似事でしかないが、ここにはそれを魅せる域にまで昇華した番組があった。基本レスラーに扮する芸人が、様々な物や者を相手にプロレスをしているかのように見せて笑いを誘う。ただそれだけのことなのだが、小物を使ったボケをベースとする、モノマネあり、一発芸ありの、お笑いの基本要素の散りばめられた、芸人のワンダーランドなのである。
「あー、この2の6乗の第64回からはじめて、2の3乗の8ずつ回数増やしていく方法ウザいなぁ!」
「何を今さらの極致ですが‥‥」
これまでの第64回、72回、80回という過去三度の放送タイトルに文句をつけるD。ADとしては、こんな相槌しか打つことができない。
「もう毎回若手主体で新しい血をガンガン入れていくことにしたんだし、次は第4回でいいんじゃね?」
「そうですね、4は死に通ずで、若手にとっても縁起がよいですし‥‥」
「よし! じゃ、早速若手を募集だ!」
参考例:
・軟体レスラーvsボストンバッグ:身体の柔らかい芸人が、固め技という設定でボストンバッグの中に入っていき、ファスナーを内から閉めたところで、レフェリーストップ、ボストンバッグの勝ち。
注意:
・プロレスごっこは安全第一です。怪我はもちろん、ちょっと血が出ただけでもNGです。
過去の放送スケジュール:
・第1回 2月16日 07:00〜 (第64回として放送)
・第2回 2月28日 23:30〜 (第72回として放送)
・第3回 3月10日 18:00〜 (第80回として放送)
●リプレイ本文
『さて、ついにはじまりました。第88回‥‥もとい第4回プロレスごっこ王選手権決勝! 前々回の解説より、今回再び実況に戻ってのサトル・エンフィールド(fa2824)がお送りします!』
決勝など存在しないのは言うまでもないが、そんなことはお構いなしに、サトルは無人の観客席に向けてマイクを向ける。
『さあ、早くも会場は燃え尽きるほどヒートアップ! 聞いてください、この割れんばかりの大絶叫を。あまりの大音声に、自分で言っている言葉を聞き取ることすらできません!』
歓声を少したりとも拾うことは無論なかったが、これは何を言うか分からないゼというサトルの無言のアピールであろうか?
『手馴れた感じのレフェリーは、この道一筋わずか2戦目、海風礼二郎(fa2396)です。今回は相方ベクサー・マカンダル(fa0824)の試合を捌かなければならないということで、WBCバリの身内びいきのジャッジに期待したいところです!』
ごっこにレフェリングも何もないのだが、これが今回のサトルの実況の方向性のようなので、一々気にしていたら身がもたない。
『観客が足を踏み鳴らし、会場全体が震えるぞハートの中、第一試合の大太郎(fa3144)選手がすでにリング上で達磨大師のごとく座禅を組んでいます!』
繰り返しになるが、中の人などいないように、観客などいない。
『この大太郎選手、哲学と戦うということで、その対戦相手からして哲学な感じがします。どちらかと言うと、紙一重を通り越してヤバイ人にしか見えませんが、いつの世もエッジを突っ走り過ぎると理解されないもの!』
何を言われようとも、座禅中に動ずるなど言語道断。大太郎はピクリともせず、哲学とは何かを得ようと脳内で戦っている。もちろん、視聴者にその戦いの凄まじさが伝わることは、ない。
『試合が長引きそうなので、このまま問答無用で次の試合がはじまります! 河辺野一(fa0892)選手が自転車に挑む一戦、珍しく武闘系になりそうな予感ッ!』
「相手は心を持たぬ、冷酷無比なる鋼鉄の騎兵ッ! まさに不足なしッ!」
河辺野が気合いを入れながら、何やら相手セコンドを挑発する。
『セコンドの空気入れをしきりに気にしているようです! 気にするなら、大太郎選手を気にしろという気がしますが、もう対戦相手のことしか見えないっ!』
「ファイッ!」
レフェリー海風の合図で、第二試合がはじまる。第一試合の際には、開始も終了も合図はなかったが、試合にはそれぞれ勝手な流儀があるもの、深追いはすまい。
『いきなり、アイアンクローっ! 単にブレーキを握っているだけだが、とにかくアイアンクローっ! あーっと、さらには固め技だーっ! 単に鍵をかけただけだが、とにかく固め技ーっ!』
そして、おもむろに河辺野がサドルに座ると、その後ろに海風が座る。
『これはイケナイっ! 2人乗りは反則だぁ! しかし、道路交通法違反はレフェリーの領分ではないとばかりに、やりたい放題ッ!』
海風が降りて、鍵も外すと、自転車を担いでコーナーポスト最上段に上る河辺野。
「タイガードライバー、いっちゃうぞ!」
『自転車相手だと、パワーボムもタイガードライバーも違いが分からないッ! 一応、ハンドルの部分の持ち方が、リバースフルネルソンをイメージしてらしいが‥‥イッったぁ、雪崩式タイガードライバー91! これは危険過ぎるぅ!』
当然のごとく、自転車は大破である。
『チェーンが外れた! チェーンデスマッチとなってしまうのかッ!』
「哲学とは忍耐なり‥‥」
ここで、今まで一言も発することのなかった大太郎が、ついに動いた。が、足を組み直し、正座に変えただけだった。
『動じないぞ、大太郎! 忍耐とは、周りの喧騒に対してではなく、足の痺れに対してだった! スゴイぞ、大太郎! 何の役にも立ってはいないが』
大太郎はリングに残して、入れ替わりキャラクタープリントのTシャツにブルージーンズ、デイパックを背負った弥生飛鳥(fa3124)が入ってくる。
『弥生選手によります、A系女vs合体ロボ超合金。A系女といっても腐女子のことではなく、ステレオタイプとしてのアキバ系男子の女性版ということのようです』
「よろしくお願いします」
弥生は包装紙に包まれた箱を取り出すと、それに向かって正座する。といっても、別に大太郎に対抗してではない。超合金に礼をするためである。
『なんとも礼儀正しいッ! 意味はなくとも一礼から、まさにワビサビの心、大和撫子の嗜みであります!』
まずは包装紙をキレイに剥がそうとする弥生だったが、うまくいかずに結局破り捨てるハメに。
『早くもイラついております、弥生選手。この後、落ち着いて変形を重ねていくことができるのかっ!?』
案の定、よく分からない物体へと変形していく超合金。
「どうして!? 私の言う事、聞けないっていうの!?」
怒りのあまり、投げつけようとするが、そこで思いとどまってギブアップを宣言する。
がっくりとうなだれる弥生の肩が、ポンポンと叩かれる。見れば、そっと取扱説明書を差し出す海風がいた。
『ナイスアシストです、海風。やはり、玩具のことはお子ちゃまレフェリーの方が分かっております‥‥さあ、どんどんいきましょう。つづいては、あずさ&お兄さん(fa2132)のお兄さんvsマスコット人形なのですが‥‥長年愛されてきたこのプロレスごっこ王選手権、イメージが悪くなるとマスコット人形の使用をどの企業も断ってきたため、ただのダミー人形が使われることとなりました。いやー、愛されている番組は、やはり一味違います!』
あずさが黒子の衣装で完全武装し、女子プロレスラー風コスチュームのお兄さん人形を動かしながら登場する。
『しかし、この大きさの差はいかんともしがたい! お兄さん、一方的に攻め込まれます‥‥おーっと、お兄さんの髪の毛が逆立って、突然光りはじめたッ! 静かなる怒りがそうさせたか、まさにスーパーお兄さんです!』
仕込まれた電飾が、お兄さんを金色にライトアップする。
が、過剰な電飾が熱を持ち、とうとう発火してしまう。
『なんということだ! スーパーお兄さんから、燃えるお兄さんになってしまったぁ!』
あずさは、慌ててリング下へとお兄さんの消火活動に降りていく。
『お兄さんの安否が気づかわれますが、そんな小さなことは気にせず、ダミー人形、仁王立ち! 無敵です。倒せる勇者はいないのか‥‥おや、ベクサー選手がヘルメットとハリセンを持って入ってきました』
だが、リングに上がろうとするベクサーを、海風が止めた。
「ダメだよ、ベクちゃん‥‥」
「凶器なんて持ってない」
「ダメだってば」
ベクサーのハリセンを凶器認定し、頑なに拒む海風。
『レフェリー海風、今までレフェリングらしいレフェリングをしていなかったのに、相方に対しては必要以上に手厳しいッ!』
が、ベクサーがポケットからチョコレートを出したことにより、状況は一変する。
「確かに、ハリセンは身体の一部だよね」
「分かればよろしい」
『あっさり折れたーッ! こうなった以上、ベク卵など産まないように期待するしか、もはやありませんッ!』
ベクサーがヘルメットをダミー人形にかぶせる。ヘルメットに『一意専心』と書いてあるのが意味不明であるが、これまで同様気にしてはいけない。
『さあ、ベクサー選手、大きくスイングして‥‥ジャストミート! 不沈艦ダミー人形、ついに倒れる〜っ!』
しかし、ベクサーはどこか納得のいかない表情である。と、何かを閃いたのか、突然ダミー人形からヘルメットを剥ぎ取ると、海風にかぶせてしまう。簡単には外せないように、アゴ紐をきつく締めて。
「ちょ、ベクちゃん‥‥」
叩く殴るのハリセン雨あられ。
『さあ、ベクサー選手、海風レフェリーをロープに振った! 返ってくるところを、ジャストミート! これが、4人なのにトリオのごとき伝統芸の味だぁ!』
だが、ついに海風から反則が告げられるベクサー。
「ヘルメットだってタダじゃないのよ!」
一意専心同様、意味不明の捨てゼリフを残して、ベクサーは去っていく。
『早くも最後の試合となりました。若宮久屋(fa2599)選手が、王者手羽先に挑みます』
とはいえ、完成品の手羽先が出てくるわけではない。油の煮えたぎる鍋と、生の手羽先が運ばれてくる。さすがに鶏を絞めて捌くところからはやらないが。
『熱湯でも限界なのに、煮えたぎった油はシャレにならなーいッ!』
早速、料理に取りかかる若宮。
「哲学とは忍耐なり‥‥」
油が飛び散るが、大太郎は気にしない。いや、忍耐云々言っている時点で、多少は気にしているわけだが。
『大太郎選手、耐えるッ! それ以前に、まだいたのかと思わせるあたり、無の境地にでも達していたのでしょうか!?』
そんな中、手羽先がきれいに揚がって戦闘準備完了である。
『これは‥‥若宮選手、普通にいくのでしょうか? いや、違います。ハバネロパウダーを振りかけます。やはり王者の手羽先選手、まさにタイラントです』
顔を紅潮させて苦しみながらも、なんとか完食する若宮。だが、手羽先もこれで終わるわけにはいかない。
『手羽先選手、このまま負けてしまうのか!? あーっと、出ました。デスソースです。若宮選手の口の中は、燃え尽きるほどヒート! しかし、震えるどころか、若宮選手は大悶絶です!』
数滴垂らしただけで悶絶できるデスソースを、あろうことか一瓶丸々かけてしまった若宮。その苦しみは、地獄どころの騒ぎではない。
そのときだった。大太郎が突然立ち上がったのは。
「目覚めた。哲学に目覚めましたぞ! 哲学とは‥‥」
『大太郎選手が何やら言ってますが、ここで放送終了の時間がやってきてしまいました。ごきげんよう、さようなら!』
大太郎が哲学にどう目覚めたのか、それが明かされることはなかった。