芸人プロレスごっこ王18アジア・オセアニア

種類 ショート
担当 牛山ひろかず
芸能 フリー
獣人 フリー
難度 やや易
報酬 0.7万円
参加人数 8人
サポート 0人
期間 07/04〜07/06

●本文

 プロレスごっこ──それは、素人によるプロレスの真似事でしかないが、ここにはそれを魅せる域にまで昇華した番組があった。
 基本レスラーに扮する芸人が、様々な物や者を相手にプロレスをしているかのように見せて笑いを誘う。ただそれだけのことなのだが、小モノを使ったボケをベースとする、一人芝居に一発芸、リアクション芸にヨゴレと、お笑いの基本要素の散りばめられた、芸人のワンダーランドなのである。
 もはやプロレスどころか、本来の意味でのプロレスごっこからも遠くなっているが、それはそれなのである。

 TOMITVのある会議室に、芸人プロレスごっこ王選手権のスタッフが集められていた。そこへプロレスごっこの一番えらい人が姿を現す。
「諸君、随分と久方ぶりだが充電はできたかね? 当然、できなかったよな? うむ、できなくて当然だ。そう、ずっと考えていたのだから。プロレスごっこの品格とは何か? 美しいプロレスごっこを実現するにはどうすればいいのか? と」
 えらい人が意味不明のコトを口走り、スタッフがポカーンとする図式は、間が空こうが一向に変わりなかった。
「えらい人は、ずっと考えていた。諸君の退職金や年金の受取人をえらい人にすれば、少しは美しいプロレスごっこになるのではないか? と。そこで、今日はこの書類に判を‥‥」
「せめて、えらい人のモノじゃなくて、番組制作費にするくらいに‥‥ぐぼはっ!」
 随分と譲歩した言い方のつもりだったが、そこはさっくり鉄パイプで制裁を受けるスタッフ。
「生命保険の受取人をえらい人名義にしなかっただけ、ありがたいと思え!」
 確かに、いつタマを殺られるかとスタジオの隅でガタガタ震える準備などしたくもないので、えらい人の言い分にも一理ある。あくまでも、命があるだけマシというレベルでしかないが。
「まあいい。というわけで、おまえらの美しいプロレスごっこを見せてくれ!」
「サー、イエッサー!」
 とりあえず判を押さずに済んだスタッフが、力強く返答する。
 こうして、第二期芸人プロレスごっこ王選手権ランキング戦の18戦目、通算にして71戦目がスタートするのであった。

参考例:
・軟体レスラーvsボストンバッグ:身体の柔らかい芸人が、固め技という設定でボストンバッグの中に入っていき、ファスナーを内から閉めたところで、レフェリーストップ、ボストンバッグの勝ち。

注意:
・美しい国日本にあるTOMITV内スタジオで収録を行います。
・『美しいプロレスごっこ』をテーマに試合をしなくてはなりません。美的センスは人によって大きく異なりますので、あくまでも主観の『美しいプロレスごっこ』で構いません。
・ポイントはプロレスごっこの一番えらい人の独断と偏見によってのみ与えられます。すばらしい、おもしろい、えろい、えらい人に媚びる、視聴率が取れる等、一切関係ありません。
・ランキングによる2代目プロレスごっこ王の決定の時は、7月末くらいかも?(遅れることはあっても、早まることはないのです)
・とりあえず現在はポイントのインフレにはなってませんが、最終的には一発逆転のバラエティのノリになるので、そういうのに怒らない人募集です。
・プロレスごっこは安全第一です。あなたのその死亡、怪我、流血によって、本当に美しいプロレスごっこになるのでしょうか? なるのなら、仕方がないですね。

ランキング(第17回分まで)
 1位 百鬼レイ(fa4361) 25pt
 2位 白海龍(fa4120) 21pt
 3位 伊藤達朗(fa5367) 20pt
 4位 DarkUnicorn(fa3622) 16pt
 5位 パトリシア(fa3800) 14pt

過去の放送のスケジュール(最近5回分)
・第13回 05月09日 08:00〜 東京都文京区
・第14回 05月14日 07:00〜 山下公園
・第15回 05月17日 07:00〜 横浜中華街
・第16回 05月20日 07:00〜 東京都新宿区
・第17回 05月23日 07:00〜 東京都港区

●今回の参加者

 fa1032 羽曳野ハツ子(26歳・♀・パンダ)
 fa2132 あずさ&お兄さん(14歳・♂・ハムスター)
 fa2824 サトル・エンフィールド(12歳・♂・狐)
 fa3072 草壁 蛍(25歳・♀・狐)
 fa3577 ヨシュア・ルーン(14歳・♂・小鳥)
 fa4287 帯刀橘(8歳・♂・蝙蝠)
 fa4361 百鬼 レイ(16歳・♂・蛇)
 fa5367 伊藤達朗(34歳・♂・犬)

●リプレイ本文

『みなさん、おひさしぶりです。シャブ中のようにヨダレを垂れ流しながら、心待ちにしてくれてましたか? その期待に応えて、プロレスごっこは帰ってきました。しかも、清く正しく美しく生まれ変わ‥‥ん?』
 軽快に実況をはじめたサトル・エンフィールド(fa2824)だったが、自分で言っていて何かがおかしいコトに気づく。そう、美しいプロレスごっこにふさわしくない人物の存在に。そしておそろしいことに、その人物には自分と同じ血が流れているのだということに。
『ふー、やれやれだぜ‥‥さーて、解説のヨシュアく〜ん? 今回は美しいプロレスごっこというコトだけど、何か言い残すことはあるかな? 今、プロレスごっこで一番邪魔なのは貴様だッ‥‥ん?』
 ブローパイプを握り締め、隣に座っているヨシュア・ルーン(fa3577)に狙いを定めようとしたサトルだったが、イスはあれども肝心のヨシュア本人が見当たらない。
「美しいプロレスごっこ‥‥とてもじゃないけど、ナンセンス」
 美しい国という言葉と同じで、美しいプロレスごっこを額面どおりに受け取ってはいけないということで、ヨシュアは設営段階ですでにキケンを察知し、リングを挟んで反対側に解説専用の放送席を設けていたのである。
「美しくないサトルくんの考えなんか、お見通しだよ‥‥うわっ!」
 余裕をぶっこいてチッチッと指を振ってみせるヨシュアだったが、その目にサトルが向かってくるのが飛び込んでくる。しかも、試合開始前だというのをいいことに、ドドドと効果音つきでリングを突っ切ってだ。
「ええーと、ブローパイプに素早く突っ込んで暴発させる詰めものは‥‥と‥‥」
 泥縄的にあたふたと机の上をひっくり返すヨシュアだったが、もはや間に合いそうにない。
「暴れヒツジよー!」
『‥‥え? のわーっ!』
 そのままヨシュアへ一直線かに思われたサトルだったが、女性の声がして思わず振り返ってしまう。いや、振り返ろうとした。したのだが、次の瞬間には、すでにサトルの身体はキレイな放物線を描いて宙を舞っていた。
「さすがは美しいプロレスごっこ! 僕のピンチも華麗に回避‥‥のわっ!」
 実況のサトルが吹き飛んだので、ここぞとばかりに実況を乗っ取ろうとしたヨシュアだったが、こちらも別の暴れヒツジに吹き飛ばされていた。
『う、うぅ‥‥』
 だが、サトルにはヨシュアの末路は関係ない。もはや、サトルの命は風前の灯だったのだから。サトルのかすむ目に、ヒツジをなだめる羽曳野ハツ子(fa1032)の姿が映ったが、それもなんだというのだろうか?
『こ、このまま死んでしまうのか‥‥』
 サトルの力なく伸ばされた手が、宙をつかむ。そこへ、そっと手が差し伸べられた。降臨したのは、救いの女神か、あるいは死神か?
『‥‥あ、あずささん‥‥』
 サトルの前に立っていたのはあずさ&お兄さん(fa2132)のあずさ、すなわち女神であった。
 サトルが降臨したあずさによろよろと手を伸ばすが、女神はその手をとることはない。
「美しいって、何をもって美しいって言うんだろう? それは、人それぞれ。でも、本当の美しさっていうのは、見た目じゃないと思うんだよね。かといって、見た目に実は自信のある人が言うとイヤミに聞こえるし‥‥『そうよね、当然のように美しいアタシが言うとイヤミになっちゃうわね』‥‥って、お兄さんは黙ってて! とにかく、それでも写真には写らない美しさを求めて、誰よりも温かくいたいもの。だから、かわいそうなヨゴレのみなさんに、やさしく愛の手を差し伸べます‥‥『合いの手じゃなくて?』‥‥そうそう、東にいつもどおりに実況にいじられる解説がいれば、かばうような顔をして一緒になっていじり倒して‥‥って、すでに実況の方がいじられずして倒れているッ!?」
 どうもあずさは救いの女神ではなかったらしく、ただただお兄さんと『美』について語っているようで、その実ひたすら脱線していくのみである。
 一方、ヨシュアの方はより一層悲惨で、女神っぽいものすら降臨していなかった。群がるは男のみである。
「ハイ、ドーモ★ 強く気高く美しくをモットーに、ヨゴレの頂点を目指してしまっている俳優の百鬼レイ(fa4361)でーす‥‥ってやるハズが、先に頂点に立たれてしまいましたよ?」
 ヒツジをなだめながら、這いつくばるヨシュアに悔しげな視線を送る百鬼。どうやら、百鬼の思い描くヨゴレの頂点に立つ姿は、このような姿を指すらしい。
「まいど、伊藤達朗(fa5367)や。あんじょう頼みまっせ‥‥って、『美しい=清潔』やのに、ゴミまいたの誰や!?」
 そこへ、昔ながらの掃除のおばさんの格好をした伊藤がやってくると、ヨシュアをゴミと決めつける。
「自分でーす。すみませーん。おばちゃん、悪いけど後よろしくね〜」
 そうとだけ言い残し、ヒツジと共にリングに上がっていってしまう百鬼。そこには、羽曳野がやはりヒツジと共に待ち構えている。
「まったく、きょうびの子は行儀が悪いなぁ。こないな大きなゴミを‥‥大きすぎて、ちりとりに入らへんやないか。そや、モップで洗い流しまひょ‥‥」
 そんな戦場に出向く人々とは関係なく、伊藤がタメ息を吐いてモップを取り出す。
「う、うぅ‥‥」
 しっかりと水に浸し、よく絞らずにそのままヨシュアの顔をゴシゴシと洗う伊藤。ヨシュアがうめくが、まったく気にしない。
「このヨゴレは頑固やなぁ。デッキブラシにしまひょか!」
 伊藤が洗剤とデッキブラシを取り出しにかかる。ついにヨシュアにトドメを指すのか? というところへ、あずさ&お兄さんがやって来てしまう。
「倒れている実況を1人見かけたら、他に倒れている解説が50人はいるって聞いて、駆けつけてきたよっ!」
「ひいっ!」
 伊藤が悲鳴を上げる。美しさに敏感に反応する伊藤は、突然現れたお兄さんのアップに耐えられなかったのだ。
 だから、ヨシュアのようにモップやブラシのような通常の清掃ではなく、社会の掃除的な消毒部隊セットを取り出してしまった。すなわち、火炎放射器である。
「あぶないっ!」
 ゴーッ! 炎に包まれるお兄さんは一切無視して、ヨシュアへと駆け寄るあずさ。
「大変! このままじゃ、火が燃え移っちゃう‥‥どうしたら!? そうだ! このハサミで服を切って、燃えるものをなくせばいいんだ‥‥よね? うん、今は非常事態。愛で人命を救うんだよ!」
 伊藤の火炎放射器は執拗にお兄さんを狙っていて、ヨシュアにはまったく炎が届いていなかったが、勝手な理屈を作ってヨシュアの服を下着までビリビリに切り裂いてしまうあずさ。
 一方そのころ、リング上では羽曳野と百鬼がにらみ合っていた。
「あなたもそうなのかしら?」
「おたくもそうみたいですね?」
 二人の言葉は、ヒツジが2匹いることを指していた。そのせいで大惨事になっていたが、今はじめて互いのヒツジの存在を知ったかのようである。
「では、私からいくわよ。美という字の語源は『羊+大』、つまり大きくて形の良いヒツジから来ているコトは誰もが知るところよね? 周王朝時代の人々は、ヒツジをもっとも大切な家畜と考えていたためよ。だから、暴れ大ヒツジと戦い、そしてそれに勝つことで美をも超越することを証明するわ!」
 ビシっと百鬼を指差して宣言する羽曳野。だが、百鬼は不敵な笑みを浮かべるだけだった。
「自分は、若干解釈が異なりますね。『美』と言う字が『大』きな『羊』であることは否定しませんがね。さて、みなさん。『美しい』とは果たしていかなるものなのでしょうか? 綺麗に着飾った、いわゆる気品あふれる端正な顔立ちな人々? それともすぐれた芸術品や美術品? 否! 断じて否!! 自分が思い描く真に美しいものとは、『額に汗をかき、ベソをかき、色んなものにヨゴレながら、カッコ悪くても生きる!』ということなのです! つまり、『大きなヒツジにまたがり、激しくロデオをしながら額や手に汗をかきまくり、ベソかく勢いでたくさんのヨゴレとともに生きていく』ということこそ、真に美しいということなのです!!」
「な、なんだってー!?」
 ガーン! 百鬼の反撃を受け、ショックを受ける羽曳野。
「くっ‥‥しかし、私はここで引き下がるわけにはいかないのよ! 中国でもっとも大切な動物がヒツジだというのを覆さねば‥‥中国ナンバーワンラブリーアニマルはパンダで決まっていることを証明せねば‥‥ねーうしとらうーたつみーうまぱんださるとりいぬいーの時代を今こそ築かねばならないのよ! そう、ヒツジに勝ってこそ、はじめてパンダはナンバーワンを名乗れるのよ」」
「な、なんだってー!?」
 ガーン! 今度は百鬼が、よく分からない使命感に燃える羽曳野に圧倒される。
「ナンバーワンが本当に美しいのかな? 干支に入れなくても、やさしく愛の手を差し伸べられるオンリーワンでいいんじゃないかな?」
 そこへ、返事のない屍となったサトルとヨシュアを放ってやって来たあずさが割って入る。無論、合いの手を入れるだけなので、言うことを言ったらそのまま去っていく。
「そうです、ヨゴレは美に選ばれた人間なのですよ! この夏の自分の目標はGoing My Way! つまり、G−がんばってヒツジに、M−またがって揺られて、W−ウェスタ〜ン! ですよ!」
 何がウェスタンかといえば、それすなわちヒツジロデオである。百鬼が己のヒツジにまたがり、次の瞬間には汗や涙やヨダレをまき散らすでなく、脳漿をまき散らかすかの勢いで頭から転落していた。
「ふっ‥‥自分のコトは気にしないでください。おたくには、パンダをナンバーワンにするって野望があるんでしょう? だったら、振り返らずに‥‥ヒツジロデオを!」
「わ、分かったわ。ホントはヒツジと相撲をするつもりだったんだけど、よく分からない勢いに流されて、ロデオをすることにするわ!」
 親指をビッと突きたてていた百鬼だったが、羽曳野がヒツジにまたがったのを確認すると同時に、その手もガクリと崩れ落ちた。
 羽曳野にアツい思いを託し、百鬼は逝った‥‥わけではない。
 むしろ、百鬼は笑っていた。安らかな死に顔以前に死んでないし、振り落とされて頭を打っておかしくなったわけでもない。
 ならばなぜか? 単に、羽曳野の胸が揺れる様を見てニヤけているだけである。
 最低Cカップ以上でないとまったく反応できないというオッパイ星人の百鬼だが、逆にそれ以上ならばカッチカチになれるのであり、羽曳野の言うまでもなくカッチカチ組に分類される。
 こうして百鬼が一人パラダイスを堪能しているところへ、花道にえらい人が現れる。
「I’m えらい人ーッ! 今回も独断と偏見で、ポイントによるランキングがつくゼ!」
 1位 あずさ&お兄さん 7
 2位 伊藤達朗 3
 3位 羽曳野ハツ子 1
「目指せ、プロレスごっこ王! 以上だ!」
 そして、再びリングに映像が切り替わると、そこには、散々に踏みつけられた百鬼の姿があった。映ってこそいないが、羽曳野もリングサイドへ転落して犬神家状態になってしまっている。
「なんや、結局全員分掃除かいな‥‥まあ、こびりついたヨゴレは、簡単には落ちへんからなぁ‥‥」
 伊藤がボヤく中、そのままフェードアウトしていくのであった。